オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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怒りの炎

/Flame of anger

 

 

 

 

 

 

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 時をわずかにさかのぼる。

 

 魔導国と法国の国境地帯、そこで降伏調印式の儀が執り行われるはずだった。

 だが、

 

「アインズ様のご命令! さっさと避難するでありんす!」

 

 魔導国軍はシャルティアの大号令で撤退を敢行。

 式典用装備の死の騎士(デス・ナイト)や、魔導国国旗を掲げた上位死霊(ハイレイス)、国賓となる法国首脳部を乗せるための──カッツェ平野の陣容の厚さがいかに広大かつ強大であるかを示す魂喰らい(ソウルイーター)の豪華な馬車も、すべてが無駄に終わったが、そんなことに拘泥(こうでい)していてよい状況ではない。

 シャルティアは自分の幕僚たち──吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)吸血鬼の騎士(ヴァンパイア・ナイト)らに命じて、法国首脳部の守備にあたった。

 

「い、いったい、何事だというのですか」

 

 それはこっちが最も訊きたいでありんすね──とは叫ばないシャルティア。

 とにかく、番外席次が魔導国軍を攻撃していることなどを簡単に説明し、これは法国の命令であるか問いただす。

 無論、相手にはそんな作戦命令を出した覚えがない。最高神官長とやらを拝命する100歳のジジイまで、どうしてそのような事態に発展しているのか理解できていないありさまだ。

「母の仇は討てたのだろう?」「エルフ王を殺して、安寧を取り戻したはず」などという神官長らの言葉を一切無視して、シャルティアは真紅の鎧姿で迎撃する。

 

「くっ!」

「アンタも意外とやるねえ。こっちの方を洗脳しとくべきだったかな?」

「‼ 洗脳されるのは、もう御免でありんす!」

 

 一閃されるスポイトランス。だが、体力奪略の効能は発揮されない。単純に相手の体力ゲージを削れていない証左であった。

 

「やめよ、番外席次!」

 

 闇の神官長マクシミリアンが吼えた。

 

「これ以上の狼藉(ろうぜき)は、たとえ神が許しても我らが許さん! 我等は魔導国に降った! 故に」

「だ・か・ら。

 もう“用済み”なんだよ、おまえらはさ」

 

 番外の遠距離からの一撃で、マキシミリアンの首が両断され、彼の命が潰える。半森妖精の少女は、神官長らが見たことのない狂暴かつ凶烈な嗤笑でもって、老人らを眺めやる。

 

「法国は、それなりにいい隠れ蓑だったし、強い奴を喰らうのにも使えたけどさ──魔導国に降る弱者(じゃくしゃ)になるんだったら、もう強者(わたし)にはいらねえんだよ」

「ば……馬鹿な」

「そなたは漆黒聖典の隊員として、長く任務に精励してきた。それらすべての功績と業績を、この一夜の暴走で無に帰するつもりか!?」

 

 黒白の少女は「もっちろーん♪」と軽妙すぎる笑みを浮かべて、弱者に成り下がった連中の抹殺を図る。

 

「させるかっつーの!」

 

 それを一人で防ぐシャルティア。交錯し続ける槍と鎌。数合も繰り返される死刃の遣り取り。

 コキュートスとデミウルゴスは軍の再編と撤兵のために、アウラとマーレはアルベド捜索班を率いて法国南部に、セバスはナザリック防衛のため、それぞれの任地についていた。こいつの相手はシャルティア一人でなさねばならないが、今のところは問題ない。

 

(問題なのは、奴がアルベドを連れて来ている可能性、それに!)

 

 クソ弱い敵国の人間をかばいながらの戦闘であるため、シャルティアはエインヘリヤルの使用を強行できない。一日一回だけの特殊技術(スキル)である上、使い所は慎重を期する。代わりに、シャルティアは別のスキルで番外席次の足を止めた。

 

特殊技術(スキル)血落の棺獄(ブラッドフォール・コフィン)”!」

 

 このスキルに囚われたものは、相手が善属性100であれば100回分の追加ダメージ、500の極善であれば500回分の凶悪な連続追加ダメージを加える、ある意味においてシャルティアの最終奥義ともいうべきスキル。なのだが、

 

「どんな技かと思えば……こんな棺で、私をとらえておけると思えるわけぇ?」

 

 わかり切っていたことだが、番外席次はその言動などから察するに、悪属性に傾いている。ダメージを与えることはできず、真紅の監獄はほんの数秒で内側から食い破られた。しかし、番外席次の足を止め、視界を奪うには十分すぎた。

 その間に。

 

「早く逃げなんし!」

 

 番外席次の殺戮対象は、魔導国の軍のみならず、法国軍──とくに首脳部へと集約している。すでに、軍を統べる機関長・大元帥は敗死をとげていた。首斬られた同法国人の姿に、それでも、神官長らは番外席次への説得を諦めきれない。

 

「馬鹿な──こんな、ばかな……」

「これは、何かの陰謀に違いない──」

「あの()が、私たちの命令に反するなんて……そんなこと」

 

 シャルティアは思った。こいつら、なんらかの能力──精神系のそれで、番外席次への好意や愛情を操作されている向きがある。唯一の例外は、悲嘆のまま膝を屈し、その場でうずくまる最高神官長一人ぐらいだろう。

 

(奴の異能(タレント)や魔法、マジックアイテムの可能性が──いや、そんなことどうでもいい!)

 

 とにかく、奴をこの場に釘付けにし

 

「ばあ♪」「がぅ!」「久しぶりね、シャルティア」

 

 シャルティアの右肺腑が背側中から貫かれた。

 血反吐をはかされたシャルティアが見たのは。

 

「アル、……ベド……!」

 

 戦斧の刃先で僚友を背後から強襲した、守護者統括の姿であった。

 

「クソガッ。やはり、来ていたか……あの番外席次とやらと共にっ!」

「うふふふ。私は彼女の協力者だもの。来ないわはずがないでしょ?」

 

 協力者という単語に首を傾げそうになるシャルティア。

 ……これで、チビすけ(アウラ)たちの強行偵察と探索任務は完全な空振りで終わってしまったか。

 番外席次が、国外退去・逃亡する可能性を考慮し、それに追随して南下するだろうというアインズの予測であったが……まさか、御身の慧眼でも、番外とアルベドの降伏調印式の強襲と破壊行動は読み切れなかったというのは、シャルティアにとって最悪の事態を呼んだ。

 彼女は鎧の下に大量の鮮血を零しつつ、特殊技術(スキル)鮮血の貯蔵庫(ブラッド・プール)”を発動(これは、魔導国国内の重犯罪者などを処刑した際に貯蔵したものである)。吸血鬼にとって必要な回復力の源泉を頭上にたっぷりと浮かべつつ、魔法による回復は温存する。

 そうして、

 

「いったい、何をしでかしてやがる、この筋肉ゴリラが!」

 

 傷を閉じながらシャルティアは問いただした。

 栄えあるナザリック地下大墳墓・守護者統括たるアルベドに。

 

「こんな反逆行為! アインズ様がいくらお優しいと言っても限度がありんす! 少しは」

「どうでもいいのよ、アインズ・ウール・ゴウンのことなんて」

 

 その言葉の重みは鋼の意志によって編まれたもの。シャルティアは、彼女が本気で……洗脳状態にあるとはいえ、本気でアインズ・ウール・ゴウンという尊名への敬意と賞賛を忘れた……否、持ち合わせていたことすら“ウソであった”かのように、はっきりと告げたことを知った。

 知った以上は、ナザリックを護る……アインズ・ウール・ゴウン御方を護る第一・第二・第三階層守護者は、完璧な殺意の虜となった。

 しかし、それもアインズの一言ですべてが覆る。

 

「調印式に来た法国の首脳部避難のために、今すぐ下りろ」

 

 そう命じられた上は従う以外の選択肢が存在しなかった。

 しかし、このときシャルティアは、アインズの命令を無視して、自らの命をも顧みることなく守護に徹するべきだったかもしれない。

 シャルティアが離れた直後、アインズ・ウール・ゴウンは番外席次と会敵し、ほんの数分で敗北を喫した。

 

 

 

 

 

 

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 アインズ・ウール・ゴウンが敗北を喫した。

 それ自体は、アインンズ自身の意中にはさほどの影響を残さない。敗北から学ぶことの多さを、彼は知っている。勝利することばかりしかできないものでは絶対に持ちえない価値観と判断基準を彼は独自に持ち合わせていた。

 

「っ、くそっ」

 

 それでも、今回の肉体に負った物理ダメージは、転移後に味わったものとしては究極のダメージ量であった。

 立ち上がろうとしても全身の骨という骨が砕けるか割れるか欠けるかして、無事なものを探す方が難しいときている。

 

(よわ)

 

 そう唾を吐きかけられるようとも、アインズは火の瞳を絶やさなかった。

 

「こんなクソ弱い魔法詠唱者(マジックキャスター)に、諸国はビビりちらしていたとはね……逆に感心しちゃうわ」

「ふ、褒めてくれたのかな?」

 

 体は動かなかったが、言葉は十全に発せられた。

 その反応は予想外だったとばかりに呆れ笑う番外席次。

 戦鎌を肩に担いで、割れた頭蓋骨をつまさきで嘲弄していると。

 

「それ以上の攻撃・無礼は私が許しません」

 

 アルベドが法国首脳部の撤収に尽力したシャルティアの追撃を止めて戻ってきた。ルベドの根源装置をスカート上に旋回させる漆黒の女戦士は、あくまで“協力関係を結んだ”だけの女に対する信愛などない世数で、御方を護る。

 

「アインズ・ウール・ゴウンには何の価値もないって、アンタのセリフじゃなかった?」

「それは変わりません。しかしながら、その方が私にとって、命よりも大事な御方である事実に変わりはない──この意味、わからないとは言わせないわよ」

 

 一触即発の二人であるが、アインズはその間隙を逃さなかった。

 召喚魔法で上位アンデッド三体を使役し、自分を運ぶ中位アンデッドとして死の騎士を選択……だが、

 

「そんな簡単にやらせるわけないでしょうがよ?」

 

 上位アンデッド三体が二秒半で切り刻まれ、死の騎士が体力1を残して即死せずに残れた程度。それも、死の騎士の突撃をさくりと刺し貫く番外席次。

 逆に、ここでボロボロのアインズにとどめをささない番外席次の手技には驚きを禁じえなかった。

 

「さて…………あ?」

 

 アインズは這いずっていた。

 右半身がうまく動かず、胸骨や背骨が悲鳴をあげるが、構わずに前へ。

 

「逃げられると思ってんの、アインズ・ウール・ゴウンさ~ん?」

 

 援軍は期待できない。

 召喚したモンスターは即殺されて意味がない。

 それでも、アインズは……モモンガは……鈴木悟は前を向き、進み続ける。

 

(諦めない)

 

 絶対に。

 その無様を嘲笑する番外席次、貞淑な表情で止めようとするアルベドの目の前で……

 

「「 ……あ ? 」」

 

 白金の竜鱗で出来た輝かんばかりに磨かれし鎧……竜鱗鎧(スケイルメイル)が、姿を現した。

 アインズは咄嗟に、(「たっちさん?」)を連想するが、細部がまるで違う。

 四つの武装を空中に浮かべた鎧は、一歩、また一歩を大地に刻み付ける。

 

 

 

 

 

 そして、長い沈黙の後で声を発した。

 

 

 

 

 

「……………………何故だ」

 

 

 

 

 

 誰もが答えを持っていない状況で、その鎧は“番外席次”……“絶死絶命”だけを見つめて、呟いている。

 

 

 

 

 

 

「何故、貴様が生きている」

 

 

 アインズは様子を窺い続ける。鎧の紡ぐ音声は澄明(ちょうめい)かつ闊達(かったつ)で、大樹の朝露を連想させるが、今のそれは、毒草の一滴に変じている。

 壊れた骨の体をいたわりつつ、鎧の内から反響する感情──怒りをつぶさに察知していた。

 

 

「その力、その気配、その存在──この200年、忘れたことはなかった……」

「なんのハナシ?」

 

 鎧の男は、黒白の少女に襲い掛かった。

 彼女の知らない、彼女の名を口にして──

 

 

 

 

 

 

 

 

「『“饕餮(とうてつ)”』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、“彼”は鎧のもとに現れた。“白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)”ツアインドルクス=ヴァイシオン、その偉容が。

 この世のすべてを燃やし尽くすかのような「炎」が、竜の怒りの大音声(だいおんじょう)と共に吼え吐かれていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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