オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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※注意※
“饕餮”については、『天使の澱』で出てくるワールドエネミー、という設定です。
この物語の十三英雄は作者の空想。独自設定を大いに含みますので、あしからず。


饕餮(とうてつ)

/World Enemy “TOUTETU”

 

 

 

 

 

 

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 それは、ありえざる生誕であった。

 

 

 

 

 

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 法国のみならず、世界各地に、黒塗りにされた歴史書がいくつかある。

 

 

 それは「十三英雄」──しかして、その実態、その本当の物語の結末(おわり)は、ただの悲劇譚であった。

 

 

 多くの人々に伝来されている物語、彼らの活躍は200年前。

 十三人の英雄によって、世界の擾乱(じょうらん)や危機がいくつも解決されていく、王道冒険譚。

 

 しかしながら、彼らの多くが非人間であったことを知るものは多くないし、実際の数も十三をはるかにうわまわるという。人間の国の都合で、物語は容易に書きかえられるもの。

 

 そんな十三英雄の中で有名なものを列挙するならば──

 

「トネリコの枝を振り回して幾多の竜を退治し、人間の姫を娶ったゴブリン王」

「天空を駆け続けた有翼の英雄」

三つ首竜(トライヘッド・ドラゴン)に騎乗した魔戦士」

「忠実なる十二の騎士と共に水晶の城を支配した姫君」

 

 など。

 見るもの読むものの好奇心を駆り立て、冒険への夢を溢れさせる素晴らしい物語ばかり。

 

 だが、その最後は多く語られることはない。

 もっといえば、当事者たちのほとんどが戦死するか、生き残った者もあまりにも重い「敗北」という結果だけを受け入れ、世界各地に散った。

 

 そんな歴史の闇に葬られた書物を有する法国神都──その郊外の、名もなき神殿──立ち入りを誰にも固く禁じられた墓所に封じ入れられた、饕餮(とうてつ)の封殺体。

 

 十三英雄リーダーの世界級(ワールド)アイテム“ダヴはオリーヴの葉を運ぶ”によって封じられ──結果、彼は恋人を自分のの手で殺し、そうして自死を選んだ。

 

 恋人の名は────あるけー・みぃ。リーダーと共にユグドラシルを旅した女錬金術師(アルケミスト)であり、同じギルドの仲間同士であった二人は手を繋いで(・・・)、花火降り注ぐお祭り騒ぎの超広場で──あのユグドラシル最終日を迎えた。

 

 彼女は長い銀髪のエルフという外装(ビジュアル)に、〈飛行〉可能な翼付きの軽装鎧を胸当てとする、弓矢が主武装の、まるで天使のようなエルフだった。

 そんな恰好ではあったが、エルフの矢の腕前のみならず、錬金術の極みのごとき戦闘力と防御力。機動力で仲間たちの旅を助けてくれた。ポーション製造の技術は彼女の模倣を後世の人間が行っている結果である。

 さらに、エルフの女王は、彼女を「義理の妹」と言って賞賛を惜しまず、ドワーフの工王も、彼女の生み出す高位錬金術の産物には舌を巻いたという。二人は同時に言ったものだ。

 

「リーダーにはもったいない、もったいなさすぎる」と

 

 彼らにはほかにも様々な仲間が出来た。

 

 トネリコの枝と称された木剣を持って竜殺しで活躍した、人型に近すぎたゆえ一族を追われた小鬼(ゴブリン)の劣等種たる王子。

 四本の暗黒剣を持つ、厨二気質で闇妖精の血を引く黒騎士に、彼と愁嘆場を幾度も演じた、十二騎士を従えし魔法剣姫。

 三つ首竜(トライヘッドドラゴン)と称された多頭水蛇に騎乗する、これまた人型に近すぎた女オーガの劣等種による、魔戦士。

 

 ユグドラシルから転移してきた──同じ超広場にいた世界級(ワールド)アイテム保有者──“口だけの賢者”こと牛頭の賢人ミノス──“砂漠の小天使”こと熾天使セラ──“風巨人(エアジャイアント)”とよばれた風の大精霊のハステア……

 

 

 暗黒邪道師に師事した“死者使い”リグリット。

 最終決戦の前に、自分の正体を教えた“白銀”。

 

 

 この世界を旅するうちに、二人は恋に落ち、そして将来を誓い合った。

 そんな彼女ではあったが、リーダーの子を「身ごもった」ことで前線から離れることに。

 

 

 だが、悲劇はここから始まっていた。

 

 

 彼女はとある陰謀によって、破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の手のものからとあるアイテムをもらい、愛する彼の危機を救うべく、アイテムを、起動。

 

 よって、彼女は神竜──「四凶」“饕餮(とうてつ)”の核として組み込まれ、その体は饕餮(とうてつ)の各部位に散った。顔下半分は逆鱗の位置に、右腕は左足に、左足は(たてがみ)の一部に…………彼との子を孕んだ大きな腹は、どこへいったのやら見当もつかなかった。

 

 

 

 

 

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 そして、“199年前”。

 

 とある雨の日だった。法国の名もなき神殿、誰も立ち入ることのできない神殿から、“産声があがった”。

 神殿へ立ち入った、当時の最高神官長……宗派は水であった……彼が見出したのは──出産する……肉片。

 神殿という場所柄、邪悪にも神聖にも見える光景であったが、彼にとってそれは、授かりものに等しかった。

 

 

 

 

 

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 彼の娘は、当時の第一席次であり、魔法剣姫に仕えた十二騎士の代表筆頭であり、生き残った剣姫と、剣姫が暗黒騎士と共に自由に生きるべく四本の聖剣と四本の魔剣を各地に封じた。

 そんな彼女は、エルフ王を愛していた。

 もう一度言うが、彼女はエルフ王を愛していた。

 

 父にも、主人であった魔法剣姫にも、「あれはよした方がいい」と忠告されていたが、彼女はエルフ王だけを愛してやまなかった。

 

 嫌な奴だとはわかっていた。

 プライドが無駄に高い男だった。

 女と酒にうるさい、エルフの王子であった。

 己の美貌と力量を信じてやまぬ、高慢な王族そのものだった。

 そんな彼が。

 十三英雄、リーダーの少年に(やぶ)れた事実を、涙を流して悔しがっていたのを見た。

 リーダーや母親たちの(つよ)さと(つよ)さに憧れ、純粋に修行し、稽古と鍛錬に励んでいた姿を見るにつけ、彼女の胸のときめきはやまなかった。

 

 彼に惹かれることが、どれだけ愚かしいか、彼女はわかりきっていた。

 自分は法国に仕える身であり、エルフとは当時友好関係にあったとはいえ、純粋な人間種以外との婚姻など、認められようがなかったから。

 

 だから、彼女は彼に騙される道を選んだ。呼び出されるまま彼の別宅を訪れ、そして、そのまま彼の愛の言葉を受け入れた。

 

 たとえその愛が、自分を騙すための偽りに満ちた、虚言であったとしても。

 

 彼女はエルフ王に「騙されて」ではなく、本気で彼を愛してしまったがゆえに、彼の凌辱と拘束を受け入れ、その縛鎖の(とりこ)となった。

 

 そして、漆黒聖典の同胞らが無理やりにでも救い出した最高神官長の娘(だいいちせきじ)は確かに、エルフ王の子を孕んでいた──が、母親の生育環境が良くなかったのか、生まれた子はすぐに死んでしまった。

 エルフ王も彼女の環境には気を使っているつもりでいたが、母親の肉体を鎖で拘束したままにしておいて、子に影響を与えぬという道理がない。流産して当然というものであった。

 

 そうして……彼との子が死んだ母は、壊れた。

 

 何度言い聞かせても「父たちが殺したのだ」「彼との子を不浄と見做して殺しだんだ」と暴れ泣き喚く始末。そこにいたのは、十二騎士の筆頭、漆黒聖典第一席次を女だてらにこなした戦士ではなく、ただ、子を奪われた儚くも哀れな母親にすぎなかった。

 

 彼との愛の証である子を奪われたと妄想した彼女は、人間の他の孤児らを生育する気にはならななかった。他の男を夫に持つなど、到底あり得ない。彼女は来る日も来る日もお腹をさすって、彼との子を夢想し続けた。誰もが目を覆いたくなるほど、壊れた娘……

 

 

 

 

 

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 だが、最高神官長は、名もなき神殿で生を受けた、黒白の髪と白黒の瞳──長い耳を持つハーフエルフ──しかし、間違いなく、神竜の血肉を受けた仔の存在が、娘を救ってくれると思った。

 

 帰り道の雨の中で、最高神官長はこれを「神からの恵みである」と信じて疑わなかった。

 

 彼の思惑通り、娘たる第一席次は狂喜して、その仔の母となった。黒白の髪をやさしく撫で梳き、白黒の瞳──色違いの瞳というエルフ王と同じ特徴が、ますます気に入った。「彼の子が戻ってきた」と信じて憚らなかった。

 その色は、「神竜」である“饕餮の”(くろ)と、本来の「父母」である“両親”の(しろ)……奇跡のような血のかけ合わせであったといえる。

 母たる第一席次は、その子が望むまま戦場へと連れ出し、戦いを教え、そして敵の心臓を“捕食”する様までも愛おしく想いながら育て上げた。

 

「とてもいい子です。私と彼の子は」

 

 もっとも。

 育てられた仔自体に、育ててくれた当時の第一席次たる女性への愛情や尊敬は、持ち合わせがなかった。

 

 なぜなら。

 彼女は人間でありながら人間でない(はら)から生まれた……人間種と異形種の“混合者”であったから。

 

 彼女が「純粋な人間種の女性であること」が使用条件の“傾城傾国(けいせいけいこく)”の使用条件からアブれていたのも、異形種という側面が付随していたことが、影響としては大きい。

 戦いを欲するのも、付きっきりであった母の教育の成果というより、“饕餮(とうてつ)”の持つ捕食欲求「暴食」を満たすことが第一義にあるのだ。

 そんな彼女の暴食……暴走を、当時の最高神官長?は黙して見守った、彼女自身に何にも告げず、明かさず、秘密にしたまま、当時の最高神官長は世を去った。

 そうして、

 育ての母・一号……旧・第一席次が死にたえたあとも、彼女は法国を守る戦いに参じ続けた。

 第一席次を超える力を持った最精鋭、漆黒聖典・番外席次として、その任をこなした…………

 

 

 

 

 これが、199年前の墜とし仔────この世界における完全超越者(オーバーロード)────番外席次“絶死絶命”の秘匿された生まれであった。

 

 

 

 

 

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 竜の口──喉元から(ほとばし)ったとは思えないほどの超巨大な破壊光であった。

 天と地のすべてが白い光のうちに融けて曖昧となり、遠方で起こる轟音が遠雷のごとく轟き続ける。

 それは、極限の爆発。

 超高熱波の爆風であった。

 暴音と灼熱と閃光によって生み出された衝撃波は大地を──魔導国と法国の国境地帯を吹きとばし、舞い上がっていく土砂と塵埃のキノコ雲が上空に現れる。その下にある生命など、軽く粉微塵になって死に絶えているイメージしか湧いてこない。

 

「…………す、げえ」

 

 法国の北の都は全壊しているだろう。戦争準備で市民が避難していたことは救いだが、駐屯していた法国北方方面軍は……。

 瀕死の重傷でありながら感嘆の声を零すアインズは、その破壊光の源泉となった白い竜を見やる。

 神聖な雰囲気に、猫を思わせる体のしなり、頭の先から尾の端まで全景を見渡すことができないほどの巨大さは、雄々しすぎて言葉にならない。千年の樹齢を誇る大樹にも似た雰囲気、といえば伝わりやすいかもしれない。

 

「これで、饕餮(とうてつ)を仕留められれば話は早いのだが」

「トウ、テツ?」

 

 ツアーに護られる位置にいるアインズは、その単語の意味するところを推し量れない。

 当然のこと。「四凶」“饕餮”は、ユグドラシルでは未発見のまま、サービス終了してしまったワールドエネミー。アインズが存在をかけらも知らなかったのも無理はなく、実際、同じプレイヤーであったリーダーたちも、誰一人として詳細を知らなかった。ツアーは納得して頷く。

 

「アインズ・ウール・ゴウン、魔導王殿。このような形で出逢うことになってしまい、慙愧(ざんき)に耐えない」

「……はぇ?」

「親書を送ってくれただろう?」

「あ、ああ」

 

 アインズはようやく自分の記憶の整合性を取り戻した。自国のアダマンタイト級冒険者・フォーサイトに持たせておいたものを思い出す。

 同時に、彼はツァインドルクス=ヴァイシオンの威容を見上げた。

 いきなり現れた、あの“たっち・みー”を彷彿とさせる“白銀”の鎧に助けられた直後に、その鎧がばらけるのと同時に、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)の威風堂々たる竜王の姿が転移してくるなど、予想だにしない展開でしかない。アインズはできるだけ割れ砕けた骨の身をいたわりながら、竜王への礼節をつくす。

 

「……ツァインドルクス=ヴァイシオン殿」

「ツアーと呼んで、かまわない」

「え、いや、そういうわけには」

「……今は長ったらしい名前を呼ぶ時間(ヒマ)がない」

 

 彼の竜眼の先で勧善な微笑みを浮かべ続える黒白の少女は、突如現れ、そして超高熱波を吐き出した竜王に対し、“無傷のまま”応答する。

 

「ツァインドルクス=ヴァイシオン“白金の竜王”。いつかは喰ってみたかったんだよね~♪」

 

 いつになく上機嫌な番外席次。

 ツアーの炎を至近で受けたはずの彼女は、傷ひとつ見当たらない。

 戦鎌(ウォーサイズ)を抜き払う黒白の少女は、白黒の瞳の先に、捕食対象を映して傲岸(ごうがん)(わら)う。

 とくに防御した感じでもない──身に帯びた衣服は焦げひとつ付いていないのに。

 隣に立つアルベドが、漆黒の全身鎧(ヘルメス・トリスメギストス)の特殊能力──三度まであらゆる超高威力ダメージを完全に無効化する──を使って、ツアーの炎攻撃をしのいだにもかかわらず、だ。

 ツアーは毒づいた。

 

「くそ。饕餮のバケモノが!」

 

 かつて数万の命を喰らい、数国を壊滅へと追い込んだ化け物竜──もとい“龍”。

 

「法国はどうやって、こんな盟約を破るような存在を顕現させた? 世界級(ワールド)エネミー……200年前に封じたものが、何故、人間の少女の形を……リーダーと彼女の血を混ぜた身体で‼??」

 

 悔しげに悲しげに呻くツアーの語る内容は半分も理解できないアインズだったが、アイテムボックスから自分を癒す〈大致死(グレーター・リーサル)〉をこめたアイテムを取り出し、起動。おかげで、少しは肉体の痛みからわずかながら解放される。その間に考える。

(法国は、何かしらの禁を犯している? これは利用すべきか?否か、利用できるか否か)

 

「あまり大それたことは考えない方がいい、アインズ・ウール・ゴウン」

 

 ツアーの竜眼がアインズの骨身を見下ろしていた。

 

「重要なことはただひとつ……世界の敵を滅ぼすことのみ、だ」

 

 そう言われて、嫣然(えんぜん)と微笑む番外席次と、巨大な大樹を思わせるツアーを見比べる。アインズは一言。

 

「……私の名前も長ったらしいからな、アインズと呼んでくれて構わない」

「そうか、それはありがたい、アインズ」

「それで。私としてはツアーに協力する腹積もりだが……どうやら番外席次、あの黒白の少女に、我が部下の一人を操られてしまっている」

傾城傾国(けいせいけいこく)の完全支配能力? なぜそれをあれが行使……いや、今はそういう詮索の時ではないか」

 

 ツアーは竜の巨大な四肢を大地に突き立てる戦闘態勢を構築。

 アインズも体力(H P)危険域(レッドゲージ)だが、残された潤沢な魔力(M P)で魔法を詠唱。

 ここで一矢報いてでも、アルベドの奪還だけは果たしたい。アインズは魔導国軍をカッツェ平野にすべて帰陣させる命令を〈伝言(メッセージ)〉ごしにデミウルゴスに出した後、彼が止める間もなく戦闘準備を整える。

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)災厄の黒き刃(ブラック・ブレード・オブ・ディザスター)〉!」

 

 一過性の〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉よりも格段に兇悪かつ絶大な攻撃力を誇る、悪属性の黒き刃が三枚、アインズの周囲を旋回する。

 触れるものすべてが黒い闇に烈断され、大地さえも、その刃の威力に脆く引き裂かれる。

 絶大な魔力を感じたのか、番外席次は口笛を吹いてみせた。余裕の表情。これで彼女を斃せるとは思えんが、少なくとも攻撃手段としては最高位に位置する〈災厄の黒き刃〉だ。 

 ツアーはアインズが極悪属性に位置するプレイヤーであることを看破〈かんぱ〉しつつ、自己は自己で超高熱波の再装填を終えていた……竜王の喉が赫赫(あかあか)と輝く。

 超絶の炎が再度法国北方の空と地を焼き払った。

 その超高熱波の嵐の中を、番外席次は超然と〈飛行〉する……完全火属性対策とは思えない。

 まったく別種の能力……異能(タレント)を複合させているわけでも、ない。

 

(──純粋な身体能力のみ、だと‼)

 

 異能(タレント)を感知し鑑定する魔法がある。魔導国ではそれを行うためのアイテムの製作開発にも尽力し、その試作機をアインズは密かに見つめるが、コンソールに表示されている番外席次の状態は〈飛行〉のみ。

 あの業火は、階層守護者でも何名かは成すすべもなく殺戮されるだけだろう。火に完全耐性をもつデミウルゴス、純粋な戦闘力と回復力に秀でるシャルティア、この二名が関の山か。

 だというのに。

 

(なんなんだ、あの女は⁉?)

 

 この世界に転移してから長いこと経つが、それでも、これほどの脅威を感じたことはなかった。頭蓋骨にない脳髄がしびれるほど恐怖しかけ、次の瞬間には沈静化されるほどである。

 

「シャァハッ!」

 

 炎を吹きかけてくる竜の口に飛び込みながら、番外は戦鎌を振るう。

 

「クッ!」

 

 ツアーは業火による攻撃を諦め、回避しようと鎌首を振ろうとするが。

 

「そんなデカブツで、私から逃げ切れると思ってんの?!」

 

 竜の巨体を巨大すぎる翼によって飛翔させるツアー。

 そんな彼の翼を引き裂こうとする鎌の一撃を、アインズの〈災厄の黒き刃(ブラック・ブレード・オブ・ディザスター)〉の一本が薙ぎ払う。が、番外席威の鎌の一刀を浴びた一本が、半ばで折れて使い物にならなくなる。あの戦鎌(ウォーサイズ)の能力か、少女自身の異能かは、判断がつかない。

 そこへ情け遠慮容赦なく完全装備(フルフェイス)状態のアルベドの戦斧が、アインズの頭蓋を真一文字に割断しようとするのを、ツアーの長大な爪の二本が阻む。

 両陣営は再び距離を取らざるを得なくなった。

 

「すまない」

「いや、こちらこそ」

 

 短くやりとりするアインズとツアー。

 だが、ツアーは己の最大火力を吐き出せる状態を維持していたが、法国の北方が炎の国と化しただけで、これといった成果に結びつかない。

 さりとて。鎧状態──下でバラけている竜鱗鎧(スケイルメイル)と四武器を使用しても、さしたる違いはない。むしろ、中身のない鎧を操るのに必要とする集中力は並外れて膨大だ。少なくとも、番外席次という大敵を前にして、操作して戦闘に参加させる余裕などない。せめて、ツアーが宮殿に戻り、遠隔操作に戻すか、内部にツアーの鎧操作に呼応できる人物──剣士が必要なのだ。

 

「どうする? 手はあるのか?」

「ううむ──」

 

 黒い長大な刃を回しながら、アインズはツアーに問うた、瞬間だった。

 

 

 

 

 

「なんじゃなんじゃ、えらく騒がしいのう」

 

 

 

 

 

 ツアーはその声に驚愕する。

 番外席次とアルベドも、その老婆の登場には好奇の視線を向ける。

 

 

「あーあ、儂の故郷が、法国は東も北もボロボロじゃ…………いったい、なにをしとる、ツアーよ?」

 

 

 十三英雄が一人。

 重い剣を腰にぶら下げ、幾多もの棺を宙に浮かせ現れた“死者使い”リグリット・ベルスー・カウラウが、みすぼらしい槍を構える第一席次の若者を連れて、法国と魔導国の国境地帯に姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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