オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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第一章 ──── 侵攻
侵攻準備


/Invasion preparations

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

「魔導国からの、使いがっ?!」

 

 神都で知らせを受けた神官長たちは、まさに戦々恐々といったありさまであった。

 漆黒聖典・第五席次「一人師団」クアイエッセ・ハゼイア・クインティアなどは、その報告が偽装や欺瞞の類であることを神に祈ったが、使者は間違いなく魔導国から法国へのものであった。

 

「どうする、クアちゃん。ていうか、どうなると思う?」

 

 異様に大きなトンガリ帽子をかぶった同胞たる女性──下着姿だが、これも“神”からの贈り物たる装備品を着込んだ第十一席次が不安げにたずねる。

 

「千里ちゃんは相変わらず引きこもってるし、そんなヤベーの魔導国って?」

「……正直、わかりません」

 

 が。

 

「神官長たちの対立、意見の分裂は避けられないでしょうね」

 

 クアイエッセは漆黒聖典メンバーの休憩室(隣は鍛錬室)で思案にふける。

 使者の詳細は明らかではないが、アンデッドの起こした隣国からの使いなど、門前払いしたいというのが正直なところだ。

 しかし、彼我の実力差を考えれば、受け入れぬというのは愚策でしかない。使者は必ず、神都にいる神官長ら法国の枢軸と面会を果たすだろう。

 

 

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国。

 

 

 バハルス帝国の平和的属国化を皮切りに、悪魔率いる亜人連合に屈しかけたローブル聖王国に人道支援を送り、先のリ・エスティーゼ王国内乱──というよりも、ズーラーノーンが引き起こした混乱“死の大螺旋未遂事件”によって壊滅した都市への援助などを惜しまぬ様子は、まさに賢智と慈愛の国家と目して然るべきだろう────魔導国の国主が、アンデッドのモンスターでなければ!

 

 結局、様々な裏工作や情報戦を重ねはしたものの、スレイン法国に切れるカードは少ない。

 叡者の額冠を装備する土の巫女姫を使った覗き見〈次元の目〉も不発のうえ、爆死。奴と謁見を果たしたという帝国皇帝との情報交換を目的とした闘技場での密談は、魔導王に完全に露見し(バレ)ていた。一部の情報だが、魔導王は最上級の天使を護衛につけていたという報告まで届いている始末である。

 

 魔導王が、法国の奉じる神の再臨か否か──これは、第一の使者である“あの方”の反応を見るに、まずありえない。

 あのお方に仕える番外席次は退屈そうに、五柱の神の遺物が眠る倉庫番の役を果たしている。

 

 懸念事項はまだある。

 竜王国がビーストマンの国の侵攻に対抗しきれず、援軍を寄こしてほしい、とのこと。

 毎年のことながら、真にして偽りの竜王──あの女王の苦労がしのばれるものの、今回は元漆黒聖典の隊員たち・先達たちの投入で、事態の鎮静化を図る算段である。多少、国の守りは手薄になるが、同じ人間の国である以上、助力を送らないわけにはいかないのだ。

 

 喫緊の問題としては、南に隣接するエイヴァーシャーの森──エルフ王との戦い・三日月湖近辺の王都陥落は間近というところ。

 投入された火滅聖典の働きは素晴らしく、森妖精の雑兵など相手にもならない。捕虜にした森妖精の女たちとへの待遇という問題はあるが、法国では奴隷制が生きているため、よいことにはならないだろうと、クアイエッセは胸を痛める。

 

「……あいつが消えたのも、魔導王に何か関係があるのか」

 

 独語するクアイエッセであるが、対話する位置にいる第十一席次は応じない。

 元第九席次たる妹は今いずこにいるのか、兄たる彼は何も知らない。

 

 

 

 

 

 

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 神官長たちの緊急会議は紛糾という言葉では言い表せない、ほとんど怒号と暴言の交換場でしかなかった。

 

「あの時にああしておけば」

「あれがそもそもの間違いであった」

「はじめから、あの魔導王に恭順しておけば」

「今からでも属国化の申し出を」

「正気か貴様は!」

「神の国たるをなんと心得る!」

「狂ってるのはそちらの方ではないか!」

「このままでは間違いなく、我が国は滅亡するのだぞ!」

 

 ベレニス・ナグア・サンティニもジネディーヌ・デラン・グェルフィも、ドミニク・イーレ・パルトゥーシュもレイモン・ザーグ・ローランサンも、イヴォン・ジャスナ・ドラクロワもマクシミリアン・オレイオ・ラギエも、これまでの交友など感じさせぬほどに混沌としていた。土の神官長レイモンは元漆黒聖典である上に、六色聖典をまとめるトップを張る四十代の男であるが、彼ですらも冷静とは無縁であった。

 そんな彼の様子を、エンヘラ・リード・ガヒー補佐官は忸怩(じくじ)たる思いで見つめていた。いざというときはフールーダ・パラダインの魔法ですら防御しうる実力を買われたエンヘラであるが、それも魔導王を相手にしてはどこまでもつか。

 

 ついに、あの魔導国が、本格的に法国に目を付けた。

 なにより、直接的な使いを出し、その先ぶれはアンデッド──法国に対する配慮も何もあったものではない。

 死の騎兵(デス・キャヴァリエ)の葬列に囲われ、見たこともなく巨大で夥しい瘴気をくゆらせる謎のモンスターが引く馬車──ソウルイーターよりも数段上のアンデッドモンスターに運ばれてやってきたのは、魔導国の宰相位にあって、守護者者統括という地位にあるときく超絶の美女──アルベドそのひとであった。彼女のそばには、黄色い軍服に純白の仮面をつけた副官と思しきものがおり──よく見れば、そいつの長い指は四本しかない。

 

 土の神殿──巫女姫爆死の一件から再建を果たしたそこでおこなわれた会談は、どう考えても常軌を逸していた。

 一同代表するレイモンが、蒼白な表情でたずねる。

 

「いま、なんとおっしゃられたのか?」

 

 会談に用意された飲み物には一切口をつけることなく、黄色い軍服の副官やアンデッドの兵卒二十を背後に控えたアルベドは傲然と、あるいは嫣然と微笑んで告げる。

 

「そちらの国にあるワールドアイテム“傾城傾国(ケイセケコゥク)”を渡しなさい。これが、アインズ様がご提示した第一の条件」

 

 第二の条件をアルベドは二本目の指でつきつける。

 

「スレイン法国の枢軸はすべて、我が魔導国の管理下に置くこと──貴様らが有しているズーラーノーンおよび漆黒聖典などの武装組織は、すべて解体いたします」

「そ、そんなバカな話があるものか!」

 

 卓を叩くレイモンの激昂ぶりに、アルベドはほくそ笑んだ。

 

「まぁ。これは“友好使節”というよりも“降伏勧告”というところでしょうね」女悪魔は超然と(わら)う。「ただ、五日以内に以上二つの要求が実行されない場合、アインズ・ウール・ゴウン魔導国は、いつでもスレイン法国に侵攻・戦争状態に移行するものであることを、ご理解ください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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