オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~ 作:空想病
/A deserted child 199 years before -2
◆
戦いだけの日々だった。
戦い
育ての親たる最高神官長や第一席次は、私を戦場に送り続けた。
亜人種の集落を襲い、士長の心臓を喰らった。
異形種の村落を襲い、族長の心臓を喰らった。
様々な心臓が脈を打っていた──それをすべて、私は喰らっていった。
特殊な力を持つマジックアイテム──その中でも神の秘宝に匹敵すると称されるアイテムも、私は喰らうことができた。当時の最高神官長が隠し持っていた『完全幻覚』の
私に自由などなかった。
生まれた時から、人類の守護者たりえる力を持つと信じられ、実際にそれほどの能力がそなわっていた。
けれど“私の中”には、何もなかった。
自分の意思も──意志も──遺志さえ、必要ない。
この身は不滅の肉体、不老の身体、不死の存在──
人類の敵を滅ぼし、人類の敵になりえるものを殺戮して──それで満足だと思った。
育ての親たる二人が死に果てた後も、私は番外席次として、強さのみを求め続けた。
そうすれば皆が喜んで私を称えたが、私の中は、空っぽのまま。
まるでルビクキューの中身のように──空洞のまま。
複雑に入り組んだ色の空洞──私そのものであった。
誰にも私の心は理解できない──きっと、私自身にも。
いったい何をしたかったのか。
いったい何を求めているのか。
ただこの下腹部に宿る欲求──強き者を望む心だけは、
そうして190年が経とうという時だった。
「おい、おまえ」
新たな血の覚醒者──神人の子が現れた。たったの6歳。てんでお子ちゃまだった。
「おまえ、つよいんだってな?」
そうだよと私は答えた。青磁色の髪の男の子は、誇らしげに宣言した。
「なら、俺と勝負しろ! 俺は今のところ負けなしだ! 負けた方が、一生いうことをきくんだ!」
その挑戦を、私は完膚なきまでに打ちのめしてやった。
殴られた顔が痛むから水を持ってきてと言われ、厩舎に連れて行ってやった。
そこで馬の小便で顔を洗わざるをえない少年の姿は、本当にもう、爆笑ものだった。
それ以来、少年は私の言うことをよく聞くようになった。
第一席次という大役を任じられてから、9年間も、ずっと────
・
飾り紐の端が揺れる。
怒気と殺意を大量に
「おいおいおいおい、これはどういうつもりだ?」
「私は、あなたを、とめ」
妄言を吐き散らす前に、番外の繰り出す裏拳が第一席次の胸を突き飛ばし、吹っ飛ばしていた。数メートルは吹き飛び、肋骨数本を罅割れさせる青年騎士。
「げは、ごふぁ!」
「私の邪魔だけはすんな……負けた方が言うことをきく……そういう『約束』だろう?」
「げふ、いいえ……」第一席次は立ち上がって言った。「もう、約束はなしです」
そうか、と番外席次は思った。
思いつつ、腰に刺さったリグリットの剣を引き抜き、戦鎌でバラバラの粉微塵になるまで砕いた。
「奇襲とはいえ、ようやく私に一太刀いれられたわけだ。さすがは、神人。おめでとう、少年」
「げほ、えほ……ありがとうございま」
皆まで言わせるまでもなく、掌底が第一席次の顔面に突きこまれた。
大地にめり込まされる青磁色の髪の少年は、そこで気を失いかける。
「が、あ……」
「助かったなぁ、おまえ。もしも私の母さんに一撃いれてたら、それぐらいじゃすまなかったぞ?」
そういって下腹部を撫でる番外席次。傷はたちまちのうちに癒え、流れた血までも元通りに復元される。究極の癒しの
「が、ふ──」
「この私に傷をつけたのは90年ぶりだ。ありがとう、痛みを思い出させてくれて」
だが、この程度で止まる番外席次ではない。こいつに対し、敗北など望みようがない。
彼女はさらに強さを求めているが、目の前の青年──否、少年と呼ぶべき年齢の騎士は、それでも、番外席次の手を掴んだ。
「はなさない、あなたの暴虐を止めるまで」
ゾンッという音色と共に、少年の左腕が肩から断ち切られた。
苦悶にのたうつ弱者への関心を捨て去るように、番外席次は一言。
「じゃあね」
そう告げて、番外席次はナザリック地下大墳墓を目指す。
と、忘れるところだった。
老婆に──リグリットにはとどめを刺しておくべきと判断した瞬間、彼女が見渡す範囲内にいないことをはじめて
おそらく、あの
「まぁいい。あとの問題は、サラだけだな」
だが、彼女の姿は見えない。
「まぁ、どっちでもいいや」
彼女は自分を取り巻く中位アンデッドの群れ──
・
世界移動でツアーと彼の鎧ごと移動したリグリットは、生きていた。
「──昔から、かくれんぼは得意だったからね、君は」
「かっはは。おかげで今日も生きて戻ってこれたわい」
「そうだね……」
それこそ竜の知覚力すら素通りしてしまうほどだ。異能力と呼んでもよい。
しかし、ツアーは心から謝罪する。
「すまない、リグリット。僕の鎧の力、少し過信していたようだ」
「ふははは。なぁに、気にするなぁ──手傷のひとつやふたつ、慣れっこじゃわい」
そうは言うが、リグリットの負傷は深い。
心臓を貫かれて生きているのは彼女の信仰系魔法による治癒で無理やりに傷を塞いだがため。しかし、もともとが老体。どこで血管が破れてもおかしくない上、戦闘は序盤も序盤である。
「死者使い」の老婆は立ち上がろうとしてたたらを踏んだ。それをツアーの尻尾が器用に支える。
「ちぃ……目が霞む……さすがに槍を投げるのは、無理になったのう」
「だろうね」
「
「ここにあるが──いけそうかい?」
なにせリグリットは番外席次の完全幻覚に騙された口だ。先ほどの
「ツアー。おまえさんが儂を番外席次に向けて
「君ならそういうだろうなとは思っていたが」
相変わらず無茶をする。
言う間に、リグリットは包帯で自分の腕に槍を巻き付けている。
番外の完全幻覚が通じないツアーであれば、問題なく照準し、的を射抜けるだろう。
「問題は、サラの策がハマるかどうかじゃ」
「ああ。それまでに番外席次を二回殺し、魂を回収せねばならない。ナザリックの者たちにも、頑張ってもらうしかないけど」
二人が見据える先で、中位アンデッドの騎兵軍が壊滅した。
さらに、二人は頭上を仰ぎ見る。
「あんなデカいのを従えねばならんほどの強さなのか、あの赤い少女は」
「…………今のところ、五分五分といったところかな?」
・
ツアーの見立ては正しかった。
「
アインズの組み合わせた三つの星の連なりが一つの柱として形成され、セフィロトの樹の一部を構成。
「
さらにもう一列の柱が完成。ただ闇雲に大量のプレイヤーを討滅する暴力装置に、一種の指向性が働き始める。
「
合計三つの柱に対し、ルベドが猛進。
「撃て!」
破壊音と呼ぶには圧力と震動が凄まじい世界の中を、アインズはなんとか生き延びている。
ルベドは完全近接仕様。よほどのヘマをしない限りは、あれらの連携指向性攻撃──ビーム砲で弾き追い払うことができている。
(それもあと何回、通じるのやら)
指揮権を握っているアルベドが暴走し、巨大な悪魔形態をさらしているのをチラ見しつつ、シャルティアがよくしのいでくれているのを確認。
(『アルベドは“殺すな”』という命令を与えはしたが、ええい!)
そちらに意識を割いている場合ではない。
「
指示ひとつミスるだけで死を身近に感じる。
三体の防御態勢が間に合わなければ、アインズの頭蓋は盛大に焼け飛んでいたところであった。
紅い少女は、防御壁の存在を素通りしようとしてもできない。なにせこの力はルベドも利用している“諸王の玉座”の力──
「
再びの防壁に退却していく
(──こちらも早く片付けなければ、皆が!)
彼の眼下で、中位アンデッドの騎兵軍は壊滅を余儀なくされていた。
・
「あーもー、第二陣もやられた!」
「早イ。アマリニモ早スギルダロウ」
「愚痴をこぼしてもしようがありませんよ」
「迎撃に、出、出ます!」
〈完全不可知化〉を解いた四人の守護者が、等間隔に番外席次を包囲する。
「かくれんぼはおしまい?」
気づかれていた。否。当然かもしれない。
奴はルプスレギナの〈完全不可視化〉を見破って戦闘不能にした圧倒的強者──認めがたいことだが、それが事実なのである。
「ねえ、知ってる? 私の
「へ、は、母、さん?」
「な、何の話でしょう?」
番外席次は戦鎌による戦闘に飽いたのか……それとも別の目的があるのか、片手に魔法陣を展開し始めた。
アウラをはじめ、全員が目を
「あいつまさか!」
「うううう、うそぉ!」
「あれほどの物理攻撃力を持ちながら!」
「魔法攻撃ニモ精通シテイルトイウノカ、貴様!」
嗤う番外席次は、曇天を引き連れて軽々と詠唱する。
「〈
文字通りの万雷が天空を奔り、うち数本がマーレに直撃──する前に、フロスト・ヴァージンの氷壁が、超高電圧の雷を大地に還す。その代わり、黒髪の雪女たちは命を落とした。
だがしかし、魔法攻撃はそれだけにとどまらない。
「〈
次から次へと魔法を詠唱していく番外席次。だが、それらは天候に類する系統に位置していた。
ドルイド系が得意分野なのか、あるいは母が行ったという天変地異を再現しているだけなのか。
「次が来るよ!」
アウラが叫び、守護者たちは一斉に身構える。
番外の手が、激しく大地を叩く。
「〈
大地そのものが激震する魔法。
さらに、この魔法の
この前のアルベドと同じように守護者らを地盤の底へ埋めようとする大地の震動を、マーレが同じ〈大地震〉で制する。
「なんという魔力量だ。あれだけ強力な魔法を撃って、まだ底が見えない!」
デミウルゴスが驚嘆の声をあげる。
そんな彼に向かって、まるで挑発するがごとく指を突き付け、番外席次は炎属性の信仰系魔法を詠唱。
「〈
「な、馬鹿なッ!?」
光輝が奔った。
この魔法は、カルマ値が極善の500であれば規定通りの大ダメージを与えられる魔法であるが、番外席次はそういった法則までをも無視して魔法攻撃を落としてくる。──あるいは、そういう
デミウルゴスは皆の盾となるように、巨体を前進させた。炎属性への完全耐性を有する己であれば、防げるものと信じて。
劫火と豪炎──そして十字光の衝撃が、悪魔の全身を蹂躙した。
「ぐぁああああああああああああああああ、ああ、あああああああああああああああああああああああ──ッ!」
炎獄の悪魔に炎属性はきかないはずだが、〈神炎〉の神髄は、神聖属性においても極大のダメージ量をもたらすこと。炎属性を無視できる盾としては、彼の判断は完璧に正しかった、が、神聖属性への耐性装備を抜けてくる一撃は、予想だにしない事態である。
いくら炎属性に対策や無効化を用意できていても、邪悪な悪魔を焼き払う神聖なる炎は、
「デミウルゴス!」
「デミウルゴスさん!」
炎獄の造物主が“焼き焦がされる”という異常事態であるが、マーレの回復魔法によって意識は戻った。
「が、不、覚──あまりにも不覚!」
変身した肉体の半分が炭化した炎獄の造物主は、マーレの転移術でとにかく後方に下げられた。悪魔用の特製ポーション風呂でも用意しておくべきだったと歯噛みするアウラ。
「緊急! 急いで第九階層のスパリゾートに連絡! デミウルゴス用のポーション風呂を──聞こえてるの!?」
怒鳴り散らすアウラだが、番外が傍にいるせいで〈
「お姉ちゃん、僕はとにかく回復に」
「専念できる、といいわね?」
「「!?」」
二人が防御する姿勢をせせら笑う番外席次は、マーレをかばったアウラの右腕が変形・粉砕骨折するほどの蹴りを入れた。
「ぎぃい!」
「お姉ちゃんっ!?!」
あまりの痛みに悶絶するアウラ。
自分の防御魔法が通用しないほどの相手にたいし、シャドウ・オブ・ユグドラシルを構えるマーレ。
そんな少年を味見でもしようかと舌なめずりする番外の背後に、凍河の支配者が刀を振りおろ──
「ざんねん♪」
そうとしていた分厚く硬い外骨格の腹胴部を、漆黒の
「〈
「〈
コキュートスが放った魔法よりも、より高位、かつ極寒の爪の攻撃が、蟲の悪魔の全身を凍てつかせる。
冷気に対する完全耐性を、まったく完全に無視して。
「コ、コノ、私、ガ、氷結サレテ、果テルト──ハ──」
「いえ、まだです!〈
デミウルゴス、アウラ、コキュートスの傷を塞ぎ回復させるマーレ。Lv,100である皆の体力は
「はっ、はっ、はっ、はぁっ!」
褐色の肌に
「君ってば、だいぶ、いい感じの強さだね?」
「はぁ……はぁ……はぁ……はぃ?」
杖を両手にかろうじて立ち上がるマーレは、番外席次が何を言いたいのか、本気でわからない。
「その心臓──」
もらうよと言われる刹那、
「!」
番外は瞬時に戦鎌を構え、どこかへと吹き飛んだ。
マーレが覚えていられたのは、そこまでであった。
・
これでも届かぬとは!
「残念でした! 私の反射速度と全体弱体化をなめんじゃねえぞ、くそ
ただ、惜しむらくは、今回の標的が桁違いの強さを持った
マーレの脇をかすめて、番外席次の中心を正確に狙撃した一槍は、戦鎌の刃先で防がれている。
これでは
「んじゃあ、死ね」
「ッ!」
リグリットが死を覚悟した、その時。
「いえ、死ぬのはあなたです、番外席次」
「な」
超高速で飛行もとい放擲の速度についてきた第一席次の青年は、隻腕でリグリットの腕に巻かれた槍を掴んで外し、無理やりに番外の胸に──突き刺した!
※カルマ値について補足※
現在、原作小説オーバーロードでは、「カルマ値+500の極善キャラ」は存在しません。(+キャラは、いてもセバスの+300まで)
また第十位階魔法〈神炎〉の説明文でも『習得条件さえ満たせばどの系統の魔法詠唱者も使えるが、あれはカルマ値がプラスの最大値であればダメージが規定値通りに出る。少しでもそこから下がるとダメージが減っていき、アインズの場合は第一位回以下の攻撃力しかない』としか書かれおりません。
ですが、カルマ値が極悪である《-500》のアインズやアルベドらが存在している関係上、極善の最大値は《+500》であろうと、この二次創作では設定している次第です。