オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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 ちょっとミスったので、お詫びに早めに投稿
念話結合(テレパシック・ボンド)〉はD&D参考の魔法です。『御嫡子誕生物語』でも少し出てきます。


199年前の墜とし仔 -3

/A deserted child 199 years before -3

 

 

 

 

 

 

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 周辺諸国は混乱と混沌の極みにあった。

 

 リ・エスティーゼ王国では、怯えたラナーを彼の騎士が支えるように抱きしめる。

 バハルス帝国では、皇帝が魔導国との通信を試みるが、応答など返ってこなかった。

 ローブル聖王国では、魔導王教の開祖たる少女が、懸命に魔導王の無事を祈り続けた。

 

 竜王国でも、都市国家連合でも、評議国でも、その天変地異の煩雑さは確認されていた。

 万雷が轟音を響かせ、酸性の濃霧が曇天を濃く彩り、神の炎もかくやという爆発の衝撃波が大気を震撼させる。

 おまけに、巨大な岩塊上に規則的に展開された大小の球形から放たれる光柱の景色ときては、もはや大地が天上へとのぼっていく様としか形容できない。

 

 この世の終わりを、幾万回は想起させて当然の異常事態の、その下で。

 

 番外席次の心臓に、第一席次の古くみすぼらしい槍の一撃が突き入れられた。

 

 

 

 

 

 

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「ギィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああ────ッ!!!!?」

 

 いかにワールドエネミーの血を引いていようと、世界級(ワールド)アイテムの威力は防ぎきれない。たとえ一つの魂を回収することしかできないにしても、その効果は完全だ。それを証明するように絶叫する番外席次は、闇雲に体をひねりまわし、その余波を受ける形で槍を手放していたリグリットが蹴り飛ばされる。

 

「貴様きさまキサマ貴様きさまキサマ、貴様ああああッ! よくも! よくも、その槍で、私を!!」

 

 狂瀾(きょうらん)と化する番外席次に対し、第一席次は静かに微笑んだ。

 隻腕になりながらも、彼の全能力を覚醒させた一撃──神の血の覚醒者たる神人と称して(たが)わぬ槍撃であった。

 それも当然。この槍は第一席次たる彼の手に長くあったもの──彼以外の誰にも、彼以上の速度で振るえる道理など、ない。

 

「くそが、こんなことなら、貴様も喰らっておけば!」

 

 今更なことを口にする黒白の少女に、青磁色の髪の青年はにこやかに溜息を吐く。

 

「……ようやく、僕を見てくれましたね」

 

 そして、彼女の心臓の鼓動を穂先に感じるまま、彼女の身体に身を寄せ────

 

「!」

 

 愕然と目を瞠る番外席次に、口づけを落とした。

 体の端から、第一席次の身体が薄れていく前に。

 

「ぇ…………おまえ、いったい…………?」

「やはり。気づいておられなかったようで」

 

 青年、もとい、少年は、屈託なく微笑(わら)う。

 自分が見てきた女性(ひと)に対して。

 自分の最期の務めを果たせた喜びなどではなく、自分の一撃(くちづけ)に彼女が驚愕したのを確認できたからでもない。

 

 

 

 

 

「僕は、あなたを、あなただけを──愛しています」

 

 

 

 

 

 そう告げることができた喜びに、彼は心の底から満足する。

 初めて会った、9年前からずっと、という言葉は、彼の唇は紡げなかった。

 漆黒聖典「第一席次」は消滅した──彼の振るったみすぼらしい槍……聖者殺しの槍(ロンギヌス)だけを残して。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 190年分の強さを持った私に、少年は少ない力と技で幾度となく挑んできた。

 

 そのたびに技が研磨され、腕が錬磨されたのを感じたが、やはり私が食するには値しなかった。

 

 そうこうしている内に、彼は漆黒聖典「第一席次」──我が同輩となり(おお)せ、喰うことはできなくなった。

 

 それでも、彼は「稽古に付き合ってほしい」という名目で、私に挑み続けた。

 

 何故なのかはわからなかった。興味すら持たなかった。

 

 ただ、彼がこのような戯言(ざれごと)をほざくのを聞いた。

 

「あなたに見てほしいのです。強くなった、僕を」

 

 そのとき私の中で何が起きたのかはわからない。

 

 ただ、

 

 こんなにも弱い少年が……こんなにも(こころよ)い青年が……私を見ている。

 

 

 

 

 

 黒白の髪を不気味(ぶきみ)がらず、白黒の瞳を奇異(きい)眼差(まなざ)しで見ず、森妖精(エルフ)の特徴たる長耳を侮蔑(ぶべつ)侮辱(ぶじょく)せず、この捕食力(チカラ)に物怖じすらしない、まっすぐな、男の()

 

 

 

 

 

 ──喰っておけばよかった。

 

 ──喰ってしまえばよかった。

 

 そうすれば、おまえはきっと……永遠に……私のものだったのに! 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 第一席次を喪った戦場で、番外席次は悲嘆の咆哮を放つ。

 そうして彼女の魂から、ひとつの命が分離・剥奪される。

 このタイミングを待っていた。

 番外席次が、一時的にでも、戦闘不能に陥る瞬間が──

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 それを確認したのは、第十階層・玉座の間に詰めるユリ・アルファであった。

 

「パンドラズ・アクター様の項目、復活を確認!」

 

 これで、彼の魂はナザリックに戻された。

 戦闘メイドや一般メイドたちが快哉をあげる。なかでも、ナーベラル・ガンマの喜びの涙は、普段の彼女からは想像もつかないほどであった。

 残るはンフィーレア・バレアレ──「すべてのマジックアイテムを使用可能にする異能」、これを剥奪することで、サラの最後の手段が発動できる。

 

「サトルくん、いける?!」

 

 戦場全体を監視していた──透明な星幽界(アストラル)体となって見守っていたサラに、ルベドの一撃を防御してもらい、アインズ・ウール・ゴウンは大声で告げる。

 

「どうにか算段は付いた。しかし、今の俺の集中力では、使えて4体までだ! 十個の星の指揮を執りながら、それ以上の数を使役するのは!」

「じゃあ残り四つは?」

 

 太陽(ティファレト)(イエソド)火星(ゲプラー)水星(ホド)木星(ケセド)金星(ネツァク)土星(ビナー)天王星(コクマー)海王星(ケテル)地球(マルクト)の指揮を行いつつ、「最強の個」たるルベドを相手取るアインズ。他の誰にもやりおおせることは不可能だった作業を完遂するために、まだ、戦力は揃っていない。

 ちなみに、上位アンデッドたるサラもアンデッド作成スキルは持ち合わせているが、彼女こそ番外席次討滅の要。今は少しでも力を温存させねば。

 

「せめて〈伝言(メッセージ)〉が阻害されていなければ」

 

 戦場にいる守護者四人と連絡を取る手段がないものか、否、そんな都合の良いものなど、今の自分には……そう思った矢先のこと。

 

『おいおい。私を忘れてもらっては困るぞ、アインズ殿』

 

 アインズは、己の懐を探った。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 意識を失っていたらしいマーレ。

 気づけば彼は小さな身を横たわらせながら、自分を治療するナザリックの神官、一般メイドの長たる犬頭のメイド長を見上げていた。

 

「わわぁ、ぺ、ペストーニャさん?」

「ご無事で何よりです、マーレさま」

 

 腑分痕(ふわけあと)が頭頂部をはしるメイド長に対し、マーレは率直な感謝を告げる。 

 

「あ、ありがとうございま、あ、でも、その、ルプスレギナさんの方は?」

「アインズ様の傘下に降ったクスト・スゥ殿が担当しております、ご安心のほどを」

 

 信仰系魔法軍の指揮と教導を任された、黒い人狼の姿を思い出すマーレ。

 ペストーニャは他にもナザリックの治療班を引き連れ、アウラ、コキュートス、デミウルゴスの回復に馳せ参じた次第。

 さらに、メイド長は言い添える。

 

「アインズ様の密命にて、こちらをお届けに」

「この“板”は?」

 

 それはアインズ──否、鈴木悟がいた現実世界の“スマホ”に近い携帯端末の形をしていた。

 ペストーニャの説明が続く。

 

「旧ズーラーノーン幹部──ゴーレム工房にて工房主任を就任されましたトオム氏による試作品です。端末タイプの魔法発生ゴーレム。〈伝言(メッセージ)〉ではなく〈念話結合(テレパシック・ボンド)〉専用に特化した魔法端末のようなものとうかがっております」

「〈念話結合(テレパシック・ボンド)〉専用?」

 

伝言(メッセージ)〉は本来、遠方にいるプレイヤー同士がやりとりをするための魔法であり、戦闘に使うものとは言えない。

 戦闘に使う上で有用なのは〈念話結合(テレパシック・ボンド)〉──相手と心を繋げ、意思疎通を図れる魔法の方であろう。

 こちらであれば声を出すことなく相手との連携が確立でき、尚且つ音声に過敏なモンスターにも(さと)られることもない。ただし。欠点として、自分が思ってしまうことが相手に筒抜けになる魔法とこちらの世界ではなっているので、そこは、使用上注意が必要になる。

 

「本来であれば、他の魔法機能を付加する予定とのことですが──今は時間がありません。これでアインズ様と連絡を!」

 

 闇妖精は一も二もなく頷き、板状ゴーレムの通話ボタンならぬ念話(テレパス)ボタンを押した。

 

『守護者各位に伝達!』

 

 耳元で怒鳴り散らす声。

 だが、それはナザリックを捨てながらも戻ってきてくれた、マーレたちの最高支配者のそれであった。

 同じようにアウラが感涙し、コキュートスが忘我の吐息を吐き、デミウルゴスが御身から授かる命令に心が翼でも生えたように舞いあがる。

 アインズは続けざまに心の中で叫んだ。

 

『回復早々に悪いが、全員、ルベドの起動装置の停止作業に向かえ! 下四つはアウラ、マーレ、コキュートス、デミウルゴスに任せる!』

 

 戦場で、ペストーニャによる完全回復魔法を受けた四者は、その場で跪きたい衝動を抑え、四方に散ることができる。

 このために、この事態を想定して、アインズはトオムを仲間に引き込み、ゴーレム工房の長たる要職に就けたのか。

 

『ルベドの髪をよく観察しろ! 彼女を投影している機材! それのある方角がだいたい分かる!』

 

 彗星の尾のように揺らめくルベドの髪。それを観察検証すれば、箱の位置は特定される。彼女の創造主たるタブラ・スマラグディナから聞いていた、非常時用の手段だ。

 アルベドが相も変わらぬ暴走状態でシャルティアとやりあっている横で、アインズもすでに目当てのものを発見し、中位アンデッド四体を上空四つの投影機に向かわせている。

 距離にして十数キロ圏内。

 御身の命令を実行する守護者四人。

 神速で駆けるアウラ、高速の杖に乗るマーレ、刀を構えるコキュートス、翼を広げたデミウルゴスも、“それ”を発見。

 

 ──もしも、ルベドの指揮権を、敵性存在に奪われた時の対処法、または指揮権を持つものがいなくなった時の対処法。

 

 ルベドは人型に投影された暴力装置であり、分類としてはフィールドエフェクトの類に位置する。

 そのエフェクト発生器官が、アルベドが法国へと携行していった、八つの紅い立方体──

 

『スイッチを切れ!』

 

 アインズの号令一下。

 アウラが一つ目のボタンを押し込み、マーレの二つ目がそのあとに続く。

 コキュートスの飛ぶ斬撃が、デミウルゴスの魔法の矢が、それぞれ三つ目と四つ目のボタンを操作する。

 そして、アインズの召喚した中位アンデッド・エルダーリッチ四体も。

 瞬間、ルベドは動きを完全に止める。

 

 

 

〈……強制停止プログラム、受信しました ── Rubedo(ルベド)は、完全停止いたします〉

 

 

 

 赤い少女は、その痕跡や残滓すら残すことなく、消滅した。

 紅い八つの箱だけを、戦場に残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




漆黒聖典「第一席次」──存在抹消の末、死亡。



ナザリック“最強の個”ルベド──完全停止。



残るは、アルベドと、番外席次“絶死絶命”のみ。





あと10話で終幕予定

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