オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

3 / 38
国境地帯

/Border region

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 魔導国宰相アルベド率いる魔導国の使節団は、事実上の“降伏勧告”を告げた後、早々に法国の神官長らを置き去りにして立ち去ってしまった。

 なんとしてでも交渉の席をもうけようとしたが、一切が拒絶された。

 

「たかが人間ごときが、この私に意見しようなどと──」

 

 黄金の瞳に宿っていた膨大な殺意と蔑如。

 アルベドは言った。「要求が受け入れられない場合は、五日後に戦争状態に突入する」と。

 だが、法国からしてみれば面食らう内容であったことも事実である。神の遺物たる最秘宝のひとつを譲渡し、法国の枢軸部と武装解除要求──いくらなんでも横暴を通り越していた。

 しかし、要求をのまない・受諾しない場合はどうなるか。考えるだに恐ろしい。

 あれほどの兵団──死の騎兵や上位アンデッドの群れだけでも、法国の各都市は崩壊し、殲滅を余儀なくされるだろう。

 示威行為としては十分すぎるほどの効果を発揮した。何も知らされてなかった法国の国民たちは家々に閉じこもり、通りを行脚(あんぎゃ)するモンスターの群れに、石を投げようとも思えなかった。誰もが六大神が一人たるスルシャーナ──闇の神の守護を祈った、あるいは光の神たるアーラ・アルフに対しても。

 

 しかし、噂はあった。

 法国の隣──エ・ランテルやカッツェ平野を統治するアンデッドの王──アインズ・ウール・ゴウン魔導王。

 

 バハルス帝国の平和的属国化にはじまり、ヤルダバオト撃退によるローブル聖王国の救済、内部崩壊の憂き目にあっているリ・エスティーゼ王国への援助など、君主が生命を嫌い疎むアンデッドとはおもえないほどの賢智を重ねていた。

 そして、あの荒廃したカッツェ平野をいかなる目的でか整備・造営していた気配──疲労しないアンデッドを利用した開墾と開拓、地ならしが日夜間断なく行われていた。大規模な範囲を開拓可能な巨人や、資材を広域・高速で飛翔・運搬できる(ドラゴン)を支配下においていることも強みの一つだ。アンデッド退治目的の冒険者やワーカーが(たむろ)していた平野北部の自由都市ヴァディスなどとは規模が比較にならない。霧を纏う幽霊船や、平野奥深くにある要塞まで魔導国の管理下に属し、ひとつの事業を展開していた──それは“都市化”だ。一年後には完成予定の魔法都市、その基礎部分の構築は十二分に行われていた。

 着々と自国領土を拡充拡張していく魔導国が、スレイン法国を放置しておく理由は薄いと、誰もが思った。

 スレイン法国は人口1500万人。神都を有し、住民基本台帳などを有するなど、諸国にはありえないような制度が点在していた。

 なかでも、六大神信仰──他の諸外国が四大神信仰を主とするというのにもかかわらず、この国では光と闇という、上位神が存在を許されている宗教国家だ。その歴史は600年という長きにわたり、諸外国が分裂や崩壊、内乱や征服、あるいは消滅や生誕を繰り返す中で、スレイン法国は歴史の中に燦燦と存在を確立させてきていた。

 

 しかし、いまはどうだろう。

 

 アルベドたち魔導国の使節団──否、「死の先触れ」に触れた神官長たちや政府長官らは混乱の極みに達した。

 とにかく再度の交渉を試みようと提案するもの。最秘宝の譲渡を許すもの許さないもの。神の奇跡に縋ろうと、半ば諦めるものまでいる始末だ。

 せめて一月ほどの猶予があれば、魔導国の陣容調査を本格させ、徹底抗戦に挑めたかもしれない。法国と戦争状態にあるエルフ王と講和し、戦線が二つに分裂する愚を回避することもできただろう。

 だが、アンデッドの王が示した期限は“五日”。

 人同士の争いに即したそれではなく、ある意味において明らかにアンデッドモンスターらしい即応性であり、法国という存在が生存することを許さないという酷烈な感情の暴露とも言えた。

「これまで見逃してやっただけ感謝してほしいくらいだ」などという魔導王の声まで聞こえてきそうである。

 

 だが、疑問は残った。

 なぜ、このタイミングで、アインズ・ウール・ゴウン魔導王は、スレイン法国に対し宣戦布告するのか。

 

 まず、法国首脳部にとっては周知の事実だが、彼らが秘密裏に協同協調関係にあった秘密結社──ズーラーノーンを壊滅させられた一件が大きい。

 アンデッドモンスターを使役し、諸国に害をなすことで有名であった組織が、実のところ自分たち法国と地下茎で結ばれていた事実を知るものは圧倒的に少ない。無論、法国の民でさえ知りえなかった情報であったが、魔導国の王はそれを知った。

 ズーラーノーンの十二高弟──闇の神殿の奥のパイプオルガン席で座り続ける、漆黒の“御方”──ズーラーノーンの盟主の座にある強力なアンデッドである彼女と闇の魔法で結ばれていた最高幹部たちを失い、大陸東部に隠された拠点──無間の闇に包まれた“死の城”まで破壊・奪略された。幸いだったことは、あの城には直接法国首脳部に繋がる物的証拠は何もなかったこと。だが、それだけだ。十二高弟が押さえられた上は、あの、元・闇の巫女姫たる“吸血姫”シモーヌも、ただではすまないだろう。自ら進んで情報を吐き出すとも思えなかったが、法国には大きな失点がまだあった。

 クレマンティーヌとカジットが魔導王の支配下に置かれていたこと──その事実を知りえなかったことは、法国にとって最大の失策であった。彼らをズーラーノーンに起用した理由としては、人格面の問題から漆黒聖典第九席次「疾風走破」の席を追われた女戦士と、母親の蘇生のために信仰を捨てた魔法詠唱者は、むしろ秘密結社の幹部として働かせた方が、何かと有用に扱えるという当然の判断であった。だが、クレマンティーヌは本気で逃亡を図った。〈叡者の額冠〉を巫女姫から盗みだすという最大の禁忌を犯し、風花聖典が追う事態にまで発展した。

 そして、そんな法国の判断・企図は、見事に瓦解を果たした。

 とある銅級(カッパー)冒険者との戦いで死亡し、盟主の魔法によってアンデッドとして転生を果たした二人であったが、その支配権を魔導王アインズ・ウール・ゴウンは握るに至った。

 そして、彼女たちの口から法国とズーラーノーンの癒着を知悉(ちしつ)しつつ、魔導国はとくにアクションを起こさなかった。ひとつは、クレマンティーヌたちの支配状況が完全であるかテストする目的と、ズーラーノーンの他の最高幹部らから同等同質の情報を吸い出せるまで判断を留保したのである、深慮遠謀をいく(とされている)魔導王は、ついに法国を壊滅させる挙に討って出たのである。

 

 クレマンティーヌやカジット、シモーヌやトオムらからの証言によって、「法国には強力無比な精神支配のアイテム“傾城傾国”が存在する」という確証を得た。

 アインズは永久に忘れない。

 第一・第二・第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールンを殺さざるを得なかった、あの事件を。

 あの忌々しい事態──失態については、今でもアインズの、アンデッドの平静となるはずの精神状況を、怒りの埋め火で炙り続けている。

 これで、ようやくアインズ・ウール・ゴウンは、あの一件に片をつけることができる。

 法国が喜んで条件をのむのであれば、それも良し。

 さもなくば、どうなるか──法国の民の運命は──

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 エイヴァーシャーの森、火滅聖典が拠点化した森妖精(エルフ)の樹木の都──その住居のひとつで、その知らせは届いた。

 

「魔導国が攻めて来るやも、だと!」

 

 彼は即座にマジックアイテムの制服を着込んだ。私室として使っている旧都市長の寝室で、知らせを受けた火滅聖典隊長は、慌てた様子でズボンに足を通す。寝台で鎖に繋がれ、すすり泣くエルフの娘──この樹木の都を拝領していた女弓兵への興味を失い、届けられた本国からの報に信じられないという形相で応じた。

 作戦室で隊長補佐は疑問を呈する。

 

「大丈夫でしょうか、本国は?」

「大丈夫ですむ話であるものか!」

 

 隊長はすぐさま地図を広げ、補佐らを叱咤するような口調で言い放つ。

 

「せっかくここまで奴等エルフを追いつめることができたというのに────ここで戦線が二つになることがあっては、いかに本国と言えど、もつものか!」

 

 彼は宣伝しつつ、広げられた軍略地図を眺める。魔導国と法国の国境地帯に数個ほどの駒がおかれた。

 

「北から魔導国の軍勢が来るとなれば、南で戦線を築く我らと挟み撃ちということになる、いや。魔導国と(えにし)をもつ王国や聖王国の方面からも魔導国の軍が攻めてくるとなれば」

 

 軍略どころの話ではない。

 戦線は三つ四つに構築され、国の守護は成り立たなくなる。

 ──法国が滅ぶ。

 そんな不吉な予感を打ち払うように、火滅聖典の隊長は頭を振って喚いた。

 

「王都近郊にはすでに陣地が作成されていたな?」

「はい。橋頭保(きょうとうほ)は確保済みです」

「ここから、エルフ王の都までの距離は!?」

「半日ほどですが、……隊長」

 

 まさかという思いの補佐役に、隊長たる男は断言する。

 

「今夜中にもエルフ王の都を陥落させる」

 

 いかに暗殺、ゲリラ戦、カウンターテロを得意とする火滅聖典でも、強行軍の感は否めない。森である以上、モンスターの襲来や、敵の奇襲や罠を警戒する必要もある。

 だが、ほかに処方がなかった。

 火滅聖典は法国守護の要である。

 このままこの森に拘泥していては、魔導国からの攻撃に耐えられる道理がない。ニグン・グリッド・ルーイン率いる陽光聖典は一年前に全滅している。他の聖典で護国の人柱たれるのは、最精鋭であるところの漆黒聖典ぐらいだろう。

 とにかく速度が命だ。

 

「動ける各部隊に伝令! 他の領域や捕虜は置き捨て、三日月湖のエルフ王都を急襲する! 今夜中にも決着をつけるぞ! なお、王討伐後は即座に転身し」

「いやいや。その必要はないぞ」

「え?」

「何?」

「おまえたちが滅ぼそうとしている都は、私が、既に、この手で殺戮(ころ)してきた。ゆえに安心するがいいぞ」

 

 開いていた丸窓に腰掛ける優雅で美麗な男の風情は、あまりにも奇妙であった。

 純白の弓と矢籠を背負った男。突き出した細長い耳に様子からして、エルフであることは疑いない。とくに左右で色の違う瞳というのが印象的だ。……伝え聞く身体的特徴の一致に、少しばかり隊長は「影武者か何か」やもと自制した。

 

「貴様、何者だ」

 

 詰問すると共に、マジックアイテムのグローブ〈炎上網(ファイヤーネット)〉を射出するボウガンを補佐役らと共に構える。

 

「この国の王だが?」

 

 エルフ王──誰かがそう確認したように呟くよりも早くボウガンがエルフ王へ向けて一斉に射出され、

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 その場にいた火滅聖典全員の“首”が、弓矢の一撃ではじけ飛んでいた。 

 

 

 

「さて、では、いくとしようか」

 

 

 

 我が子を取り返すという大義名分のもと、エルフ王は逆撃を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。