オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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、
※法国・神都の情報やメルクリウスのなんたらなどの秘宝……世界級(ワールド)アイテムやその効果は、二次創作の空想です。
 あしからず。



サラ・ルーファウス・───

/Sara Rufus ------

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

「超位魔法──失墜する天空(フォールンダウン)」

 

 課金アイテムを使用して即発したはずの超位魔法であったはずだが、その対象に据えられた相手は、

 

「逃げるなああああああああ、アインンズ・ウールゥウウ・ゴウンンンンンン!

 

 無傷。

 言い訳をするつもりはないが、これは逃げているのではない。

 これは戦略的撤退であり、戦場を再設定しているに過ぎない。

 そう説明したところで無駄であろう黒白の少女──否、もはや黒部分しか残っていない異形のバケモノは、龍の三本指を心臓と背中、そして白かった瞳部分の三ヵ所から三つ生やし、龍の巨大な尾を首根から生やすという狂態ぶりで、アインズ一行を追う。

 魔法もスキルも通じない──というより、それすらも饕餮(アレ)は吸収し、己の体力や魔力回復に使用流用している感がある。

 とすれば、もはや逃げるしかない。

 サラの立てた作戦通り、法国は神都を目指す以外に、ない。

 飛空したまま国境を越え、周辺を世界級(ワールド)アイテムで武装した守護者らによって守られるアインズ。

 黒龍の分離体──鱗から生えてきた小型のモンスターがゲタゲタ嗤いながら口を開き、乱杭歯を剥き出しにして襲い掛かるのを、マーレの“強欲と無欲”が払い落とし、コキュートスの“幾億の刃”が切り捨てる。アウラは“山河社稷図”で、デミウルゴスは“ヒュギエイアの杯”を振るって防御に徹するが、どちらも本来の使い方からは程遠い。

 

「雑魚どもがアアアアああああああああああ!」

 

 そう言って、シャルティアが先のアルベド戦でも使用した“真なる無(ギンヌンガガプ)”による広範囲破壊をくわえることで、雑魚の群れは一度消滅を余儀なくされるが、

 

「クソ、きりがない!」

 

 竜の鱗から分離してきた小型モンスターたちだ。

 本体である黒龍をどうにかせねば、焼け石に水にしかならない。

 

「アインズ様、いっそのこともう二、三度、番外に死を賜ってみてはいかがでございましょう!」

 

 そう提言してくれるデミウルゴスであったが、

 

「残念ながら、俺の世界級(ワールド)アイテムには、あのスキルと同じように、冷却時間(リキャスト・タイム)が必須でな」

「ということは」

「そう……“死の樹(クリフォト)”は連続で使用できないデメリットがある」

 

 完全死を与える“あらゆる生ある者の目指すところは死である(The goal of all life is death)”──アインズだけの特異なスキルは100時間にも及ぶ長時間の冷却時間を要する。それと同じことが“死の樹”には要求されるのだ。

 その冷却時間は10時間──およそ半日──

 さらに言えば、とてもではないが、他の能力をためしている余裕も猶予もない。通常時の赤色で備わっている能力で、あの暴虐の権化を止められるとは、とても思えない。

 

「竜特攻の効果は、どうやら期待できない。今の奴は龍であって龍でなく、人であって人でもない」

 

 非常に曖昧な状態故に、どの能力も使い物にならないらしい。

 

「では、このまま?」

「ああ。できる限り迎撃しつつ、サラの言う通り、法国の聖域──否」

 

 魔導国と法国の国境地帯を超えた。

 

「“ギルド拠点に奴を封じる”」

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 戦闘前のこと。

 

「ここが、ギルド拠点?」

「正確には、神都そのものがギルド拠点──というべきかしらね」

 

 サラは明朗に告げる。

 

「本来の都市名はロスヴァイセ──白き戦乙女とか、そんな意味だって、彼から聞いてるけど」

「都市型拠点ロスヴァイセ、か」

 

 アインズが知る都市型ギルド拠点の中でもとりわけ有名なのは、剣の戦乙女シュルヴェルトラウテが支配する、商業ギルドの拠点だ。

 ユグドラシルでも四大商業ギルドに数えられるギルド:ノー・オータム、彼女らが居を構えた「剣の都」の壮麗さ典雅さ広大さは、確かに、神都のそれと近似している。若干、こちらの方が白い建造物が目立ち、神殿の数も多い印象を受けた。

 サラは作戦の概要を説明する。

 

「番外席次“絶死絶命”の命を二回、つまり魂二個分を回収。その後(のち)、私が「風の秘宝」こと、世界級(ワールド)の転移魔法アイテム“メルクリウスの羽靴”で、ここへと連行し、ギルド拠点を閉じる──つまり」

「幽閉する、と」

「それぐらいしか、今は対処法が思いつかない」

「だが、そうすると神都は──このロスヴァイセは」

「この地上から消滅する」

 

 あっけらかんと言ってしまう法国の影の盟主。

 ズーラーノーンを率い、法国首脳部の相談役としても一役買っていた女アンデッドは、冷厳に冷酷に、世界を護る方法を採択する。

 

「このまま番外席次を野放しにしておくことはできない。これまで法国の存在として認められていた彼女だけど、彼女は法国の神官長らを殺し、結果的に北軍まで壊滅させた──その責任は取らせなければならない。私自身、法国の一人の民として──彼女の育ての親の一人として──この法国自体を、滅ぼしてでも」

 

 責任は取らせる。

 その覚悟のほどに、全員が納得を得た。

 さらに、サラは封印の効果で、ナザリックで治療継続中のルプスレギナへの影響力もなくなることを確約してくれる。すべての問題が一挙に解決される手段が、番外席次の「封印」であったのだ。

 

「というわけで、サトルくんとツアー、リグリットにあずかっておいてもらいたいものがあるの」

 

 彼女がとり出したのは──正確には、魔法の棚に陳列されていたそれは、「四つの秘宝」「四柱の世界級(ワールド)アイテム」のうちの、三つ。

 

「サトルくんにはお詫びもかねて「水の秘宝」“傾城傾国(けいせいけいこく)”を──ツアーくんには「火の秘宝」“アグニの蓮華(れんげ)”を──リグリットには「土の秘宝」“世界狼の監獄島(リングヴィ)”を、それぞれ預けておきます」

 

 サトルは純銀純白の袍(ほう)を、ツアーは赤い蓮華の花を、リグリットは島の模型を、それぞれ受け取る。

 三者はそれぞれが持つ効果を教えられ驚嘆しつつ、今回の戦いに使えるものかどうか慎重に吟味(ぎんみ)する。

 

「リグリットのは特に強力よ。何しろ、世界狼──北欧(ホクオー)神話最大最強のフェンリル狼を閉じ込めた島の名前を冠されるアイテム。使い方がハマれば」

「相手を世界の終焉まで閉じ込めておける、と──ふむ」

「あと、リグリットに預けておきたい巻物(もの)があるんだけど」

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 アインズはリグリットの状態を見る。

 ツアーの(決して効果的かつ得意とは言えない)治癒を受けて、かろうじて意識と武威を保っている。世界級(ワールド)アイテムを装備していることに違いはないが、その効力を発揮する頃には──

 

「アインズ様?」

「なんでもない」

 

 隣を飛行するマーレに、彼は首を振ってみせた。

 アインズはボックスの重要項目に位置している世界級(ワールド)アイテム“傾城傾国”が使えないものか(無論守護者の誰か適合者・アウラに貸与することを)思案するが、さすがに、あの状態の相手を──ワールドエネミーを支配する能力など、望みようがないと理解する。

 アインズは共に飛行する白竜へ問うた。

 

「ツアー。おまえが渡された“アグニの蓮華”は」

「ああ。僕の炎をより強くしてくれることだろうね──けれど、いま使えば、強くなり過ぎた炎が、アインズ達や神都そのものを巻き込む可能性が高い。調節や試運転なしで使うには」

「危険すぎるか」

 

 こちらは全員世界級(ワールド)アイテムを装備あるいは所持しているが、それでも、ワールドエネミーの執拗さと攻撃性能は尋常ではない。

 理性というものが欠けているとしか思えなかった。

 

「目標──神都までの距離は?」

「あと5キロ圏内であります!」 

 

 マーレの杖に相乗りするアウラの的確な眼が、神都を数キロ先に視認。その間にも、饕餮(とうてつ)化した絶死絶命との死闘は続く。雑魚による盾すら劫略し吸収していく相手に対し、召喚系スキルは慎重を期して使わねばならない。アウラは魔獣軍を呼び寄せられず、デミウルゴスも配下の魔将たちを、ナザリックに残さざるを得なかった。それほどの相手が、後背から、黒い龍の部位を各所から伸ばして襲撃してくる。

 

「……サラ」

「んー?」

 

 鱗の小モンスターを片付けつつ、アインズはサラの策が本当に成功するのか、その目算がどの程度のものか尋ねた。

 本当に、あの暴虐と破壊の黒龍が、ギルド拠点ひとつの封印で片付けられるのか、疑問を覚えた。

 

「確かに、そう不安になるのも当然よね──というわけで、リグリット」

「……なんじゃい」

「悪いけど、さっき預けた世界級(ワールド)アイテム」

「おうおう、もう返せと申すか……ケチ臭い女じゃのう」

 

 そう笑いつつ、老婆は懐から「土の秘宝」と称される島の模型を取り出した。

 それと交換するように、「風の秘宝」“メルクリウスの羽靴”──世界のどこへでも、何の事前情報なく到達できる──ギルド拠点の防御対策も世界級(ワールド)の防御以下なら貫通可能な、最高位(ワールドクラス)の転移魔法アイテムを、リグリットに押し付ける。

 

「奴を終焉まで封じておける措置、確かに受け取ったわ。「百棺護手」」

「サラよ……その二つ名は恥ずかしいから、別のにしてくれんかのう?」

 

 かつての遣り取りを思い出して、吐息だけで微笑するアンデッドの女王。

 鋳固められた漆黒の相貌に手を添えていた女アンデッドは、元最高神官長にして第二席次であった老婆に感謝を告げる。

 

「ありがとう。あなたがいてくれたから、法国は200年も寿命を延ばした」

「あー、やめやめ。まるで、最期の別れの儀のような真似は」

「そうね。でも感謝してる。この世界を護ってくれて」

「ふん……こちらこそ、じゃ」

 

 白竜の掌の上で行われたやりとりに、アインズはこんな時だというのに見入ってしまう。

 

「……最後、か」

 

 サラのやろうとしていることは、大いなる自殺行為だ。

 ギルド拠点を封じる上、相手を閉じ込めておくのに使用されるマスターソースの位置……さらには、世界級(ワールド)アイテムを使用し続ける……それはつまるところ……

 アインズは話題を転換するように聞き出した。

 

「そういえば、サラ。君にはルーファウスのほかに“姓名”があると聞いたが」

「ああ。私の彼──旦那さまの方のやつね」

 

 サラの彼にして旦那というのは、闇の神にして死の神・スルシャーナのこと。

 

「私の本当の名前は──サラ・ルーファウス・“駿河(スルガ)”」

「するが?」

 

 駿河さん駿河さんと仲間たちに呼ばれていた──それを聞いた法国の民が発音したのが、スルガさん様、スルガシャン様……それが“スルシャーナ”の始まりとなったのを思い出し、固定された漆黒の無貌で微笑するサラ。

 

「神都到達しました!」

 

 アウラの声が気持ちよく響く。

 眼下には白い、無人の都が広がった。

 最高神官長らによる移民活動を終え、人っ子ひとりいなくなった法国の聖域──大神殿の入り口に、サラは真っ先に突入。

 

「一度中に入って! 奴を可能な限り奥へ誘い込んで!」

 

 漆黒の竜腕と竜尾の生えた人型のバケモノと共に、大量の鱗状モンスターが殺到。

 

「うざったい!」

 

 アインズが〈即死(デス)〉の魔法を唱えても、雑魚たちは我関せずといったありさまだ。もう耐性を備え始めているのか。

 そちらにかまうことなく、サラはパイプオルガン席に座り、ギルドのマスターソースを解放……ギルド拠点『封鎖・閉鎖』の項目に、数秒でたどりつく。やはり、マスターソースで確認出来る限り、神殿と神都ロスヴァイスは、無人!

 

 

「よしッ、全員退去!」

 

 

 聖域を侵食する饕餮化した絶死絶命とサラを残して、アインズとツアー、守護者たちは外へ避難。

 振り返るリグリットを最後に、天頂部から順に聖域の窓や扉が完全に閉じられていく。警報音が鳴り響き、赤い点滅灯が不吉な予兆を嫌になるほど告げてくれた。

 そして、敵たちに取り残された絶死絶命は、必死に理性を働かせ、これが罠であることを理解した──が、遅きに失した。

 リグリットの棺に残されていた死体──四号、五号、六号、七号が総動員されて黒龍の腕と尾を封じ、アインズ・ウール・ゴウンやナザリックの守護者のスキルと魔法──ツアーの四武器による打擲(ちょうちゃく)を浴びながら、サラの召喚した上位アンデッドが主人を護りつつ、サラ・ルーファウス・スルガの取り出す世界級(ワールド)アイテムの射程内にとめおかれる。

 土の秘宝、もとい島の模型が輝きを発する。

 

 

「世界級(ワールド)アイテム“世界狼の監獄島(リングヴィ)”、起動」

 

 

 これを起動する時、サラは思った。

 憐れみはあった。

 哀しみもあった。

 それでも自分は、スルシャーナ第一の従者は、番外席次“絶死絶命”を、ギルド内にとどめおくのに最適なアイテムを、使用。

 このアイテムの効果は、対象となったものを、その場にとどめおくことに終始する「完全封印」に特化している。

 最後に、アインズは女アンデッドが手を振る姿を目撃した。

 

 

 さよなら サトルくん

 

 

 そう言われたと直感した。

 アインズが大きな頷きを返した瞬間、聖域の窓は完全に封鎖された。

 内部から「ココカラ出せええええええ」という少女の叫喚が響き渡るが、世界級(ワールド)アイテムの効果がそれを完全に阻む。

 

 

 北欧神話に曰(いわ)く。神々の奸計(かんけい)で、何者も破壊すること能(あた)わぬグレイプニル糸(いと)の縛(ばく)についた世界狼フェンリルが封じられた場所──その島の名を冠する世界級(ワールド)アイテムの効果は、法国神都が消滅──ギルド拠点たる都市が封鎖されていくのに合わせ、効果を最大限に増大。このアイテムの最大使用条件のひとつが、ギルド拠点一個の封鎖にあることは、サラ以外の誰も知らない。

 

 

「総員退避!」

 

 

 アインズの号令が旧法国の空を満たした。守護者各位やツアーたちともに、夕暮れの落ちかける都市の上空を舞う。空の果てが藍色に染まり、月が輝きだす頃。

 ロスヴァイセの都が次々と消滅を余儀なくされていく。

 

「ギルド拠点の封鎖……」

 

 アインズはすべてを目に焼き付ける。

 聖域も、神殿も、政府庁舎や軍官施設、小さな民家の類(たぐい)に至るまで何もかもが高速で解体され、その偉容を過去のものにする。

 饕餮(とうてつ)の小モンスターたちが、その解体工事──ギルド拠点封印の効果に巻き込まれ、次々と圧殺(あっさつ)・轢殺(れきさつ)され、消滅していく。

 新手は出てこない。

 本体たる饕餮──絶死絶命が、聖域の中に封じ込められているのだ。

 アインズは、消滅していく都市の光景を火の瞳に焼きつけながら、一人の勇敢な女性の名を口にする。

 

 

「……サラ・ルーファウス・スルガ」

 

 

 もう二度と会うことは叶うまい。

 聖域の中で絶死絶命に殺されるだろう。

 貪り喰われる心配はない星幽界(アストラル)体なのは救いのひとつと言っていい──

 そう自分を慰(なぐさ)めることしか、アインズにはできなかった。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

「さて」

 

 大仕事を終えたサラは、奴に食われ力を増強させないよう上位アンデッドたちを消し、パイプオルガンを演奏しながら、背後に死の気配を感じ続ける。

 あの娘の影が、さらに膨れ上がり、龍の腕だけで六本──龍の尾の長さだけで五十メートルを優に超え、肩から腰にかけては龍の牙列がびっしりと生え揃っていた。しかも、絶死絶命は罠の首謀者を正確に理解し、憎悪の声を吐き落とす。

 

「覚悟は、できてるンだろうナぁ?」

「ええ────そりゃあ、もちろん」

 

 オルガンを巧みに演奏しながら、サラは答える。

 演奏曲は無論、彼の十八番(おはこ)──“主よ、御許(みもと)に近づかん”。

 寂しい旋律と荘厳(そうごん)な調べが見事にマッチし、彼女自身の鎮魂歌を奏でてくれる。

 サラは宣(のたま)い続ける。

 

「あなたを一人にさせるのは忍びないし……何より私は、貴女の育ての親の一人……ここで、共に果てるのも惜しくは」

 

 ないといいかけて、竜腕六本の殺到によって星幽界(アストラル)体の身体を貫かれる。

 パイプオルガンも諸共破壊され、濁音を吐き出していた。

 

「げ、ぁ…………カ、ナ、エッ」

 

 最後の最後に、自分が育てた仔の名前をつぶやくサラ。

 

「ばぁかガ」

 

 漆黒の眼球がアンデッドの残骸を睨(ね)めつける。

 嘲弄(ちょうろう)する絶死絶命は、黒龍の牙を剥いて宣言する。

 

 

 

 

 

「──私は、こノままでは、終ワらナい──」

 

 

 

 

 ワールドエネミーと人の中間のような存在になり果てながら、この地に封じられた“絶死絶命”は、サラの五体をズタボロになるまで抉(えぐ)り引き裂き捩じり斬った。

 

「ぁぁ……」

 

 ボロ雑巾よりもあっけなく破壊され、意識が遠のくのを感じるサラ。

 存在しない心臓が、命脈を断たれた衝撃と悪寒に震える。

 

(やっぱり、私は、地獄逝き、──ね……)

 

 薄れていく意識の中で、600年間の走馬灯を見る。

 幸せだった時代。戦乱をおさめた時代──

 不幸だった時代。自らが戦乱を起こした時代──

 すべては法国を、ひいては人類を護るべく、行ったことだった。

 だが、それらすべてのことが正しかったと呼べるのか、どうか。

 

(自信ないな)

 

 いや。

 きっと自分は間違ったこともしてきただろう。

 人類を護るという名目で、人類の大国を滅ぼしたこともある彼女だ。

 

(私には荷が勝ちすぎだよ、駿河(スルガ)さん……あなた……)

 

 後悔と懺悔にまみれながら、サラは彼との出会いを思い起こす。

 人を護るべく戦っていた自分を救ってくれた、十字槍にも似た戦鎌。

 あの当時は、アンデッドという化け物への警戒と恐怖しかなかったのに。

 

〈今では自分が、アンデッドの最高位とは〉

 

 それ故の苦労もあるにはあったが、

 

(最後に、役目を遂げられて、本当に良かった)

 

 サトルが、魔導王アインズのオーラがなければ、サラは通常の思考と行動力をそなえることは不可能であった。彼を連れて来てくれたツアーとリグリットには感謝してもしきれない。

 

(ああ、そうか)

 

 茫漠とした意識の中、実感する。

 

(これが“死”か──)

 

 アンデッドとしての死が訪れようという、その瀬戸際であった。

 

 

 

 

『おかえり、サラ』

 

 

 

 

 誰かの声をきいた気がした。とても、とても懐かしい声だ。

 もう二度と、聞くことはないと思っていた、覚悟していた。

 サラは黒いヴェールの落ちた、貌(かお)のない顔(かお)をあげかける。

 元通りになったパイプオルガンを演奏する、骸骨姿の伴侶が目に映った。

 

 

「あ……あなた……?」

『うん。がんばったんね、サラ』

「うん……わたし、が ん ば っ た……よ──スルガ」

 

 

 サラはそれ以上、言葉を紡げなくなった。

 表情の存在しない上位アンデッドの唇が、微笑みの形に結ばれる。

 星幽界(アストラル)体としての彼女の存在は、完全に、完膚なきまでに、この世界から消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




“絶死絶命”、封印による終戦。



旧・ズーラーノーン、盟主。
スルシャーナ第一の従者。
“最上位死霊女王”
サラ・ルーファウス・スルガ、死亡。





完結まで、あと5話
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