オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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今回は短め。
少しだけ十三英雄の情報も出ますが以下略。


リグリット・ベルスー・カウラウ

/Rigrit Bers Caurau

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 アインズは、もう一人との訣別(けつべつ)の時を迎えようとしていた。

 

「リグリットッ」

 

 見事に更地と化し、生命の息吹を感じられない荒漠とした大地に変換された、法国の首都・神都、もとい、都市型拠点ロスヴァイセ。

 その地で命を閉じようとしているものが、一人いた。

 

「リグリット!」

 

 しっかりしろと叫びながら、竜の掌と空っぽの鎧で、彼女の倒れ伏す姿を支える白金の竜王・ツアー。

 

「なに……少し、ふらついただけじゃわい」

「リグリット……」

 

 アインズ達が見る間に、彼女の衣装は真っ赤に染まっていくのがわかる。

 見かねたアインズが赤色ポーションを取り出して飲ませてみても、リグリットには効果が出ないようだ。

 

「何故?」

 

 答えはリグリット自身が知っていた。

 

「儂の身体が、すでに限界を迎えてしまった──とうの昔に、死んでいたも同然じゃから、じゃろうな」

 

 精神系魔法と信仰系魔法の合わせ技で老化を止め寿命を延ばしていた老婆は結論付けた。

 その場に腰を落とし、ゆっくりと横になるリグリット。

 

「アインズ、ウール、ゴウン、魔導、王──儂の頼み、聞いてもらえるか?」

「ツアーではなく、俺にか?」

「この旧法国の地が正式に、魔導国の領土と化した以上はな」

 

 リグリットは笑って喀血(かっけつ)した。

 どうやら、重要な血管が切れてしまったらしい。

 それでも、リグリットは亡き友との約束を果たすべく遺言の言葉を紡ぎ続ける。

 

「あー……儂の死体は、法国南東部の端にでも埋めておくれ……あのあたりが、儂の出生地でな……「死者使い」の儂にそのような権利は無かろうが、できれば故郷に、骨を埋めたい」

 

「ナザリック地下大墳墓で治療を受けてはどうだ」という提案を、アインズは存在しない喉に飲み込んだ。

 わかったと頷く魔導王に対し、リグリットは自分のボックスを探る。

 

「あと、この巻物(スクロール)を、サラから」

「これは?」

「死に瀕した特定対象の人間を、そのままアンデッドへと変えて隷属させる──上位(グレーター)ゾンビとか──そういう魔法が込められとるらしい。あやつの開発したオリジナル魔法じゃ。名は確か〈|不死者になることへの洗礼《バプティズム・トゥ・ビカミング・ザ・アンデッド》〉──奴は略して〈不死者洗礼(バプティズム・ザ・アンデッド)〉とか言うとったよ」

 

 なるほどとアインズは思った。

 この魔法を研究、習得、あるいは量産することができれば、現在アインズのシモベと化しているクレマンティーヌたちと同じようなシモベを練成することができるだろう。長年、サラがズーラーノーン盟主としてやってきたように。

 

「いらぬのであれば、焼いて捨ててしまってもよいが」

「いいや──ありがたく使わせてもらう。ありがとう」

 

 巻物をボックスの重要項目・最前列に置くアインズ。

 

「ツアー、そこにおるか」

 

 アインズと代わるように、白金の竜王と純銀の鎧が両膝をついて、長年の戦友の視界内に。しかし、リグリットは毒づいた。

 

「もう目も見えんくなってきたわい」

「無茶をしすぎだといっただろうに」

 

 緒戦からここまで戦い通しだったリグリット。

 彼女は今も健在の仲間たちへ──そして、アダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”たちへの(ことづけ)(のこ)した。

 

「これで、思い残すことは……あったかのう?」

 

 いずれにせよ、サラと共に冥府の扉でも開けに行こうと放言する老婆は、最後の力を振り絞って、白銀の冷たい鎧の掌を握る。

 

「……ツアー」

「なんだい、リグリット?」

「……約束、してくれるか?」

 

 かつてと同じ遣り取りだった。

 

 

 十三英雄の仲間たちと焚火を囲み、共に旅をしていた時の光景──薪の爆ぜる音からみんなで肩を組んで歌ったバカ騒ぎの声まで、鮮烈に思い出される。

 その直後の光景も。

 リーダー・リクと恋人である彼女が寄り添って眠り、小猫の教皇の小さくも温かな体を抱いたキーノが、二人の傍で寝息を立てる。エルフの女王とドワーフの工王が酒杯を豪快に打ち鳴らして馬鹿騒ぎを続けるのを尻目に、剣士ジュウゾウと、彼に長年連れ添ってきた聖魔術師サクヤと巫女のティースが、同じ毛布をかぶって川の字を描いていた。人に近い姿故に迫害され放逐された緑の肌のゴブリン王子が火の番をしつつ装具や木剣を検めている。同じ理由で仲間に加わった女オーガの劣等種と三つ頸の蛇が、仲良さそうに魔獣肉の丸焼きの食事を続けていた。酒が入って舟をこぐ暗黒騎士の隣に魔法剣姫のお嬢様が素知らぬ顔で移動し、満足そうに微笑んで、一心に焚火を眺めていた。

 そして、

 当時は少女と呼べる年齢だった──未熟な「死者使い」は、酒臭い息で、やおら「白銀」の鎧の彼に、こう、言ったのだ。

 

 

『この旅が終わったら、私と二人で、一緒に暮らさないか?』

 

 

 彼の正体も、空洞の鎧も知らなかった頃の、バカな申し出。

 それでも、ツアーは言ってくれた。

 

「『たとえ離れていても、僕らは共にいるとも』」

 

 当時はからかっているのかと憤然たる思いで頬を膨らませ、涙すら零したのも懐かしい。

 当時を思い出し、リグリットは力なく笑った。

 

「……ふふ、ふはは……ああ、そうじゃ……な」

 

 神竜との敗戦後。

 荒れ果てた諸国を復興させるべく、ツアーが大陸の東へ旅立ち、リグリットが法国の問題を片付けた後に大陸南東へと、それぞれ旅立った。

 彼と彼女は共にいることはできなかったが、同じ目的のために、旅を、続けられた。

 

「…………」

 

 アインズには、二人の絆の深さと長さはわからない。守護者一同も空気を読んで押し黙ったままでいてくれている。

 わからないながらも──自分と仲間たちくらいの関係であるのであれば、その間に割って入るのは無粋というもの。

 二人は“最期”のやりとりを交わす。

 

「ツアー……サラから受け取った、メルクリウスの、羽靴(はねぐつ)、「風の秘宝」は、そなたに託す」

(うけたまわ)ろう」

 

 白銀の鎧が羽靴を丁重に受け取ると、魔導王アインズに確かめるように視線を送った……アインズもさすがに故人となりゆく者の遺志を尊重する意を込めて、ひとつ頷く。

 最後の心残りもなくなった。

 リグリットは安心したように瞼を落として手を組んだ。

 

「リグリット……ッ」

「────────」

 

 ツアーからの呼びかけにも、応じられない。

 少し眠いだけじゃという言葉も聞こえない。

 

「リグリット…………」

 

 こうして、十三英雄が一人である女傑──元・法国の最高神官長にして、漆黒聖典・第二席次にも属していた老兵──「死者使い」──リグリット・ベルスー・カウラウは、息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リグリット・ベルスー・カウラウ、死亡。



残り、あと4話
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