オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~ 作:空想病
/Crime and Punishment , Pledge of the World
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アインズ・ウール・ゴウンは勝利を収めた。
番外席次“絶死絶命”は封じられた。
スレイン法国とサラ、リグリットという犠牲のもとに。
だが、これですべてが終わったと、全員が楽観することはあり得なかった。
《私は、こノままでは、終ワらナい》
その宣告の不穏さを、その場にいた全員が聞いていた。
不吉な変貌を遂げていき、ついにはアインズの
「おそらくむこう100年は封じられるはずだが、相手は
ツアーの提言に従い、アインズはせっかく手に入れたスレイン法国の領地をすべて“沈黙領域”──何人の侵入も許さぬ監視エリアと定めるに至った。
監視役を務めるのは、ナザリック最高戦力のひとつだが、今回はルベド戦での使用に限定された〈
そして、
「アルベド」
アインズ・ウール・ゴウンは、気絶中の
彼女の身に着けていた
能力を発揮することなくバラバラに砕け散った鎧はナザリック第九階層の鍛冶工房で再生・復元することはできるが、相応の出費は覚悟せねばならない。
それでも、守護者一人分の死よりは、はるかに安上がりだが。
しかしながら、シャルティアの命じた命令──「アルベドを殺すな。殺さずに無力化せよ」──は、何もそのような
「アルベド」
純白のドレスもズタボロになりながら、ペストーニャの回復魔法をかけられたアルベドは、ほとんど一糸しか纏わぬような
それでも、漆黒の女悪魔は欲望の火を落とし、貞淑に両の手をついて
さながら許しを乞うかのごとく。だが実際は──
「アインズ様……どう、か──どうか、ご命じください」
自害せよと。
アインズは応えた。
「それは、ならぬ」と。
守護者らの疑念に満ちた声が飛ぶ。
アインズは断固たる口調で言い添えた。
「此度の一件で、アルベドを害すること・殺すことは絶対に許さない。この私、アインズ・ウール・ゴウンの名に懸けて」
力と意志に満ちた声だった。
アルベドは涙を落とし、嘆きの底に留置される。
「何故ですか──私がこのまま死ねば、御身の財貨に影響を与えるとはいえ、私の犯した、罪の重さ、此度の反逆行為の罪状は計り知れません──どうか、私に、罰を、お与えください」
ついには子どものように泣き出してしまうアルベド。
まるで小さな子が親に叱責されたような泣き声と涙を落とし、しゃくりあげながら自分の今回犯した大罪に、立ち上がることすらままならない。
垂れていた
アインズは溜息を落とし宣言する。
「アルベド、お前の罪は認めよう……だが、それは我が罪も同然だ」
「アインズ様?」
彼がなにをいっているのか理解しかねる守護者一同。
「今回の責任は、アルベドに過ぎた重責を担わせ、最強チームなどと称させたチーム構成を認め、そして、アルベドの設定をイジった、この“俺”に、すべて起因するもの」
裁定を下す者として、アインズは、迷う。
普通の人間であれば。とっくの昔にすべての責任を放棄して逃げ出すような──現に、彼は一度逃げ出し、ナザリックを捨ててはいる状況──で、しかし彼は断罪する。
下さねばならない。為政者として、裁定者として、彼らの最高支配者として、ふさわしい罰を、アルベドに。
「しかしながら、今回の混乱によって、アルベドが
「はい」
「よって、アルベドの地位“守護者統括”という地位を、ナザリック最高支配者の権限によって、剥奪」
「……はい」
おそらく彼女陣も予想していたことであったのだろう、アインズとしては、仲間たちの決めた役職を変更することに抵抗を感じずにはいられなかった。だが、そうした。
続くアインズが次に告げた言葉は、アルベドでも予測不可能であった。
「しかしながら、アルベドの能力はナザリックと魔導国の発展に必要不可欠である事実に変わりない──アルベドには宰相位から新たに、“魔導国大宰相”へと正式に就任させる」
「…………え?」
「と同時に、各守護者たちへの褒賞恩給として、魔導国での新たな地位を約束する。まず、此度の戦いで見事な戦巧者ぶりを発揮してくれたシャルティア・ブラッドフォールンには、“魔導国大元帥”の称号を」
褒賞を授受されたシャルティアはその場で跪いた。
それ以外の守護者にも“大総監”“大導師”“大将軍”“大参謀”などの称号が次々と授与されていく。
それだけの功績をなしたものへの信賞としては、まずまずの新称号授与と言えた。
しかし、必罰を求めていたアルベドは
無論、アインズは罰を用意していた。
「アルベド、おまえが今回の一件を『忘れたい』気持ちはわかる」
アルベドは自分の真意がどこにあるのか、御身に見抜かれた事実を悟る。
「しかし、アルベド。私は今回のおまえの行ったことを、すべてなかったことにするつもりは、断じてない」
「そ、そんな、こと」
死んだNPCの記憶は、シャルティア反逆の件で判明したように、ナザリックを出た後の記憶を亡失する。
その事実実例に則せば、ここでアルベドを殺せば、アルベドの記憶はナザリックを出立する……法国への降伏使節団代表として出発した時のものまで戻される。
アルベドはそれに賭けようとしていた──自分の罪をすべて清算するための死ではなく、自分が気付かされた“モモンガがモモンガではない”という最悪の記憶を、抹消する手段として。
だが、それをアインズ・ウール・ゴウンはさせなかった。
させないために、シャルティアにアルベドを任せ、気絶させたまま放置した。
「アルベド」
自分の本来の目的──記憶の忘失すらも許さなかった至高の御身は、あらためて告げる。
「私はおまえたちすべてを、愛している」
アルベドは至高の御方と呼ばれるべき男を見た。
「だから──お前を殺すことは、私にはできない」
それが、アインズの本音であり本性であった。
仲間たちの遺児ということは無論のこと、ナザリックを共に守護する仲間であること、一人ひとりの個性に惹かれていることを、赤裸々に告白する。
そのうえで、アインズは裸同然で震えるアルベドを抱き寄せた。
「すまなかった、アルベド……私が、あんな設定を与えてしまったばかりに……おまえを暴走させる
その言葉には、魔導王としての虚飾は一切なかった。
ただ、愛するものを傷つけたことを恐れ慄く男の心情しか、見えはしなかった。
「ア、アインズ様」
「うん」
彼が頷いてくれる……たったそれだけのことが愛おしくて、アルベドは彼の漆黒のローブの背中を掴む。
「モモンガ様」
「……うん」
アルベドは
「鈴木、悟、様」
「……うん」
アルベドは思った。
心の底から、“彼”を愛おしい──と。
愛おしいと思える自分がいることが嬉しくて、しゃくりあげながら泣き続けてしまう。
「わ、わた、私、は、──あなたさま、を──、愛しても、いいのでしょうか?」
「……うん。もちろんだ」
そこが限界だった。
アルベドは骨の身を力強く引き寄せるでもなく、ローブを掴む腕にスキルを溢れさせるでもなく、迷子が求め欲していたものと巡り会えたような泣き声をあげて、大いに泣きぬれる。
守護者たちもその様にもらい泣きをうかべかけながら、アルベドが泣き止むまで、二人の姿を夜天の下にて、見守り続けた。
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「今回は、大変世話になってしまった、ツアー……いや、“
泣き疲れたアルベドが寝入ったまま、アインズが膝枕したままの姿で、魔導王は白い竜と対談を持つ。
「まったくもって、此度の戦いは予想外のことが起きすぎた」
「確かに。──我が戦友の一人まで、逝ってしまうとは、な」
ツアーは、血の跡がかすかに残る鎧を掌に抱きしめながら、亡き戦友を偲ぶ。
「後悔、しているか」
「後悔?」
アインズに問われたことをツアーなりに吟味し、「いいや」と断言する。
「仲間を喪うという事態も、初めてということではない──200年前の戦いではもちろんのこと、世界の盟約が結ばれた時にも、多くの血が流れた」
「そうか……すごいな、ツアーは」
対照的に、アインズは後悔に染まり果てた暗澹たる口調で宣う。
「私は後悔してばかりだよ──あのときこうしていれば──このときああしていれば──」
数え上げればキリがない。
「アインズ」ツアーは強い口調で諭した。「王たらんとして生きる以上は、ゲームのようにリセットが利くわけではない。決断には時間を要するし、時には血を流すこともあるだろう。敵の血で。味方の血で。あるいは己自身の血で、玉座を真っ赤に染め上げるものさ。覚えておくといい」
アインズは顎を引いて「ああ」とだけ答えた。
いつかはツアーのように、己の後悔にもなれる日が来るのだるう。
アンデッドの特性による鎮静化とは別の領域で、アインズは自己の判断を決する時が来る──今回の番外席次“絶死絶命”戦でも、それは嫌となるほど痛感した。
「ところでアインズ」
「なんだ、ツアー?」
すっかり呼び捨てが定着した両者は、ひとつの盟約について協議した。
世界を護るための盟約に、魔導国の王が、ナザリック地下大墳墓が加わるのは、そう遠い話ではない──
代わりに、魔導国・大宰相へ就任。
完結まで、あと3話