オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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法国の民の行く末は?
漆黒聖典の動向や、いかに?


人類最期の地 リ・エスティーゼ

/Place by the human end

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔導国──エ・ランテルにて。

 神都からの避難・退去を半ば強制的に実行させられた法国の民が押し寄せてきているが、街は彼らを受け入れて余りある発展ぶりを遂げていた。警邏アンデッドや亜人の入国審査官などには瞠目するものが多かったが、すべて噂や風聞で聞き知っていた情報であった。

 かつては三重の防御壁に囲われていた都市が六重の壁を築き、人間と亜人のすみわけが見事になされている。スラム地区とも称すべき貧民窟は潰され、そこで生活していた者たちにも十分な住居と給金、そして魔導国への奉仕活動が義務付けられ、アンデッド農法の補助活動や、ドワーフたちへの給仕人などといった仕事にありつくことができているのだ。

 本来の墓場も整理解体され、後の農耕都市の基礎となるプランテーションなどの実験施設に変貌し、そこにあった死体の大半はアインズのアンデッド作成に使用し、一部は「未来に行う実験」のため死化粧を施し、宝物殿に安置されている。

 

 そんな大都市化したエ・ランテルの一隅で、法国の民を導いてきた最高神官長が、生を終えた。

 立ち会った侍医によって、老衰死であることが公表された。

 

 宗派の慣例に従い、次の最高神官長は生き残った火の神官長ベレニス・ナグア・サンティニが就任し、その補佐として光の神官長イヴォン・ジャスナ・ドラクロワが選任された。

 

 二人の神官長らの言葉に従い、多くの法国の民が魔導国での移住生活、その苦難を乗り越えることを神々に誓約したが、1500万を数える民の中には、一部例外も発生した。

 

 そもそも亜人種や異形種への差別意識が根強い国民性であるため、アンデッドが王として立つ国に住みたくないというものは、ひたすら南下して砂漠のオアシスを目指すか、バハルス帝国を越えて都市国家連合などに逃れるか、それぞれの選択を()いられた。が、それらの道はいずれも危険と隣り合わせの旅路。

 馬車などを有しているものたちを筆頭に、民族移動は南へ東へ北へ離散。魔導国の勢力圏と見做された帝国や聖王国に頼ることはできないと考えたものが大半であった。竜王らが治める評議国も論外。ビーストマンの国に隣接する竜王国も、安全とは言い難いのが現状だ。近隣諸国で唯一、魔導国と戦争を仕掛けたリ・エスティーゼ王国に向かうものが、最も魔導国への反感を持ちつつ、頼ることができる国と目されたのは、皮肉というほかない──それでも、王国の第三王女は快く難民たちに門戸を開き、荒れた王国領内の復興に尽力してもらう見返りとして、物資と土地を分け与えてくれるという噂が流れれば、自然と行列の長さは王国へと向けられた。まるで大量の蜜を見つけた蟻のごとく。

 ──その国が秘密裏に、とある姫君によって売国済みだとも知らずに、法国の民の幾分かは、人類最期の地を目指す。

 

 

 

 

 

「あちゃあ、車輪がいかれちまった」

 

 エ・ランテルへ向かう街道の端で、こんな時間にどうしようお父さんという我が子に対し、父親は心配ない。明日には直すからと微笑みかけるが、馬車に積載された家財道具の山を考えると、とても難しい。ここで放棄していくことも視野に入れなければと考えるが、乳飲み子を連れた女房の不安げな様子もみると、とてもそんな気にはなれなかった。

 

「今日はここで野営しよう。皆でうまいものでも食えば、いい考えも浮かぶはずだ!」

「うん、お父さん!」

 

 すると、そんな一家を見かねたように、一人の女性が近づき、ボロボロに壊れた車輪に手を触れ、こう唱える。

 

「〈修復(リペア)〉」

 

 黒いローブに大きな三角帽子の女性が詠唱したものは、壊れたものを直す簡単な魔法のひとつであった。彼女は自分を呼ぶ金髪の青年のもとへ駆けていく。

 

「あ、ありがとうございます! なんと御礼、を──?」

「あれ、お姉さん? お姉さん、いなくなっちゃった?」

 

 お礼に水筒を分けてあげようとしていた子供が残念そうに眉を落とす。

 

「きっと、俺らと同じ、移住先に迷ってる神官様か、何かだろう」

 

 忽然(こつぜん)と姿を消した女性と男性の姿を方々(ほうぼう)に探すが、まるで見当たらない。

 白昼夢でも見せられたような気分の四人家族であったが、新品同然に直った馬車のありさまは、夢ではありえなかった。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

「最高神官長様が、先ほど、身罷られた」

「──そうか」

「──どうか、光と闇の神の加護があらんことを」

 

 100歳を超える大往生であった。

 その報告を仲間らに伝えた青年は、「せめて老衰死であることを喜ぶべきか」迷った。

 彼の袖を掴む同僚の女性・第十一席次が不安げな瞳で嘆願する。

 

「お願いだよ、クアちゃん──私たちと一緒に、魔導国に行こう?」

「いや、しかし……」

 

 クアイエッセ・ハゼイア・クインティアは、夜半の街道上で〈永続光〉のランプを片手に、仲間らと協議を重ねていた。

 スレイン法国が魔導国に併呑され、南都と西都が整備と称され更地となり、母国が“沈黙領域”と名を変えさせられ、余人の立ち入りを禁じられた上は、その魔導国に頼る道を選ぶというのは、力ある者として、元漆黒聖典として正しい振る舞いであろうか。

 否。

 断じて否。

 

「このうえは、リ・エスティーゼ王国を頼みの綱として、魔導国に抗する人類勢力圏の根拠地とするほかありません」

 

 クアイエッセは本気で、王国を人類最期の地と定めるつもりでいた。無論、彼の仲間たる聖典メンバーの多くも。

 しかし、例外は存在するもので、第七席次「占星千里」と第十一席次の二人は、魔導国に屈する道を(えら)んでいた。

 臆病者(おくびょうもの)(そし)る者はいない。

 当然と言えば当然の選択でもある。

 あの魔導国に、自分たちの生国を更地に還すほどの力を持つ王侯に盾突こうなど、正気の沙汰ではない。現に、多くの一般人・法国の民は難民として、魔導国の門をくぐり、配給の列に並び、難民申請──魔導国入国の列を築いていた。

 クアイエッセには我慢ならなかった。

 自分たちの行いは正しかったはずという正義の心が、埋め火のように心臓の底でくすぶるのを感じる。

 しかし、そんなクアイエッセを、仲間たちの多くは残留させるつもりで語り掛ける。

 

「俺たちに遠慮する必要はないんだぞ、クインティアの英雄、我等が「一人師団」よ」

「我等は、今や人類最期の地──()(どころ)となった、リ・エスティーゼ王国に希望の道を見出すのみ。その気概は理解できような?」

 

 そう言ったのは、エルフ王都の戦いで命を落とし、蘇生された第十席次と第十二席次。

 

「我等は全員、護国(ごこく)の士とは、なれはせなんだが」

「人類守護という大命(たいめい)は、まだ続いているはずです」

「ま。だからといって、漆黒の全員がリ・エスティーゼ王国に(つど)うっていうのも、あれだろ? 王国が、陰で魔導国と繋がっているとも限らねえしな?」

 

 同じく蘇生され生命力が減じながらも、常の様子で語る第三、第四、第二席次がいう言葉の意味を、クアイエッセは悪意に満ちた思考で変換する。

 

「私では、役者不足と?」

「いやいや。第二の先輩(パイセン)は、そうは言ってないっすよ」

 

 第六席次が、第五席次の後輩たる聖騎士が、白銀の大剣を背負って言う。

 

「ただ。俺らになんかあった時の逃げ場所が、魔導国にあった方がいいんじゃないかって話に、なりませんっすか?」

「それならば──」

 

 と言いかけて、後ろの二人を見やる。

 彼女たちだけで、魔導国に橋頭保(きょうとうほ)を築くというのは至難の業だ。

 一方は占星術を極めた未来予知、一方は第六位階まで開花した魔法詠唱者。

 そして、複数人を護るうえで、「一人師団」たる第五席次の能力は、有用かつ有効ときている。

 仲間たちからの説得を受け入れたクアイエッセは諦めたように頭を振った。

 

「わかりました」

 

 かの王国には、ガゼフ戦士長を鍛えたヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファン老や、戦士長と(くつわ)を並べ戦ったブレイン・アングラウス氏などが残っている。

 さらにアダマンタイト級冒険者“朱の雫”や“蒼の薔薇”も期待できる戦力であり、探せば他にも、人類守護の志を持つ同士に巡り合えるかもしれない。第三王女の専属騎士などは、いまだ噂の端にもそこまでの強者とはみなされていなかった。

 

 第一席次は死亡──もとい聖者殺しの槍(ロンギヌス)の効果による存在抹消のため蘇生不能。

 残る漆黒聖典のうち、第二、第三、第四、第六、第十、第十二席次の六人が王国へ。第五席次、第七席次、第十一席次が魔導国への道を進む。

 

 この決定が、六人と三人の運命を確定的に決定づけることになることを、彼らはまだ知らない──否、第七席次だけは、全員魔導国へ逃げるよう提言してくれたのだが、それでも、六人の漆黒聖典は、リ・エスティーゼ王国を目指すしか、他に処方がなかった。

 

「では」

「達者でな」

「はい、そちらこそ」

 

 第十と第十二席次に手を振って、第五席次(クアイエッセ)たちは別れを告げる。

 クアイエッセ・ハゼイア・クインティアは荷物を背負い、二人の女性(なかま)を連れて、魔導国入りを果たした。

 

 

 

 

 

 

 

「チッ。つまんねえの」

 

 その様子を特殊なアイテムを使い木陰で覗き見ていたクレマンティーヌは、寂しげに、だが確固たる足取りで二人の女性に囲まれて魔導国の仲間入りする兄の背中を見届けつつ、彼らの動向を伝えるべく、彼女の主人のもとへ駆け出し、闇の中へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

「うふふふ、法国の働きアリたちが、この国に(あつ)まっているわー」

 

 すべては計画通り。

 順調そのものである。

 エ・ランテルを通過し、王国の領土を踏み荒らす法国の難民を、第三王女・ラナーは受け入れた──魔導国から受け賜った物資を援助されているとも知らず、法国の民はラナー王女の慈悲に心から感謝している。愚鈍愚昧の極みである。

 

「アルベド様の反逆という事態には、さすがに肝が冷えましたが」

 

 それでも、ラナーの役割は変わらない。

 これで、人類守護などという大言壮語(たいげんそうご)に踊らされてきた法国民の中で、強硬に狂騒に魔導国へ反抗的なものは、リ・エスティーゼ王国に参集する運びとなった。

 あとは、魔導国に反抗する不穏分子が、蜂起(ほうき)するのを待つだけ。

 それでようやく、ラナーの最後の務めが完遂される。

 

「ああ、楽しみね~、愉しみだわ~、うふふ!」

 

 思わず柔らかなソファの上で寝転がる姫君。

 これで、ラナーの願いはかなえられる。

 リ・エスティーゼ王国を売り払い、魔導国に対して不穏不遜な輩を徹底的に集合させた後に、すべてを刈り取り収奪する。まるで秋の麦の穂のように。

 ラナーは、渡されている小箱に口づけし自涜(じとく)にふけりながら、自分の最後の役割をきっちりこなすべく、営々と準備を整え続ける。

 国王の死について。

 国宝の隠し場所について。

 レイザーエッジの譲渡計画案について。

 そして、自分(ラナー)子犬(クライム)の悪魔化に必要な、生贄の皿は満ちていく。

 

「はぁ、──もう少しよ、クライム」

 

 あなたのすべてが、私のものになる日は、そう遠くはないと信じてやまない第三王女。

 父と兄の代わりに政務と公務に勤しみながら、とある反逆者──男爵位にある大馬鹿者の死刑執行書類にサインするラナー。

 彼女は、着々と準備を整えていた、はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか、あんなことになるなどとは、ラナーでも、そしてアルベドでも予想だにしない事態であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ナーベの逢瀬・第一話では、レイザーエッジは無事に宝物殿に収められております。
では、ラナーの計画に、何が……?



ともあれ、完結まで、あと2話
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