オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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最終話


終章
そして、いま。


/And now.

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 アインズがすべてを語り終えると、「術師(スペルキャスター)」ことニニャは、関心しきったように頷きを繰り返した。

 

「そんなことがあったんですね」

「ああ、私の中でも、俺の中においても、史上最悪の戦いだった」

 

 結局、番外席次……“絶死絶命”の存在は、「封印する」という手段以外の有効策が見出せなかった。

 そんな自分を恥じるアインズに対し、ニニャは頭を振って応える。

 

「アインズ様たちにだって、どうしようもない敵がいる、これってよい教訓だと思うんですが?」

「ああ、私もそう思うように努めているのだが──」

 

 当時を思い出すと、いろいろと恥ずかしい想いに囚われかける。

 一時的にでもナザリックを捨て去ろうとしたことなどは、その最筆頭と言えた。

 もしも、あのとき、何もかもから目を背けて、ツアー達の教導や協力がなければ、今日(こんにち)のアインズは存在せず、ニニャの復活もかなわなかったかもしれない。

 そう思うだけで、アインズの存在しない肝が冷える思いだ。

 

「ニニャ」

「はい?」

 

 アインズは言葉を選ぼうとしたが、あきらめた。

 

「君は今、幸せか?」

 

 そう問いかける魔導王にして命の恩人、そして、自らの旦那様に対して、魔王妃ニニャは微笑みを返した。

 

「これ以上ないほど、幸せです」

 

 骨の掌に指を絡ませるニニャに、アインズがドキリと反応する。

 その様をつぶさに観察していたニニャに対抗しようと、アインズも骨の指先で彼女の温かな肌をくすぐった。

 二人して笑いあいくすぐりあい、微笑みあえる喜びにひたっていたが、ニニャが唐突に、ひとつの疑問符をアインズに投げた。

 

「そういえば、番外席次“絶死絶命”さんの本名って?」

 

 わかってませんよねと主張するニニャ。

 アインズはひとつの推論を述べることしかできなかったが、ニニャにそれを語ろうとした、ちょうどその時。

 

「セリーシア」

「ねえさん!」

 

 赤子を抱いた姉の姿を発見し、ニニャは図書館の席を立った。

 彼女の隣には、付き添うように最王妃アルベドの姿も見える。

 家事一般に一家言を持つ彼女の設定──その上、愛する殿方との未来の子のために、彼女は日々勉学を重ね、母親として未熟なメイド長の補佐を務めつつ、同輩たちにもよくよく教導を行っている。

 

「いい、シャルティア? 首が据わってきた子に対する注意点として」

「ちょ、待ちなんしアルベド! メモくらいとらせるでありんす!」

「シャルティアのいう通りだよ! ねぇ、マーレ?」

「うん、べべ、勉強に、なります!」

 

 いつの間にやら図書館に集っていたアインズの妃たち。

 その列に自然と加わる魔王妃・ニニャ──正式名セリーシア・ベイロンは、心底から屈託なく笑う。

 

「……」

 

 その笑みの朗らかさと自然さに、しばし魅入るアインズ。

 彼は図書館の司書アンデッドを呼び出し、ニニャの勉強していた学術書の山を片付けさせるが、ふと、一冊の本に目が留まり、適当なページをめくる。

 それは、簡単なことわざ辞典のようなものであり、アインズが熱い火の視線を注ぐ先には、こう筆記されていた。

 

 

 

 

「……(かなえ)軽重(けいちょう)を問う──か」

 

 

 

 

 鼎の軽重を問う──

 

 1,上位の者の権威を疑って、地位を奪おうとすること。

 2,他人の実力や権威などを疑う事。特に地位の高い人に用いられる。

 

「1も2も、かつての俺のことのようだな」

 

 大陸の覇者となり、天に、海に、地に、この世界のすべてのものに、アインズ・ウール・ゴウンの名を轟かせんと欲していた自分。

 そうして、己の実力を心の底から疑いながら、アインズ・ウール・ゴウン魔導王という王侯に対し、常に疑念を懐いていた、自分。

 アインズは、自分が築いた平和な世界の中心で、今も疑問を懐きつつ、その言葉を胸に刻んだ。

 今も自分は“鼎の軽重を問われ続けている”し、“問い続けている”。

 そのように己を律し続けることで、魔導王は今の平和を築き上げた。

 

 

 ──“俺”は果たして、王にふさわしいのだろうか?

 

 

 政務と公務の合間を縫うように、彼女たちとの時間を作りながら自問自答を繰り返すアインズもとい鈴木悟。

 さらに、心の首座に据えられたのは、沈黙領域──スレイン平野のこと。

 

 

〈……わたしはここで終わらない、か〉

 

 

 絶死絶命の吐いた怨嗟と呪詛の言の葉。

 彼女は今も牙を研いでいるのかいないのか、それすらも判然としない状況だ。ギルド拠点の封鎖に巻き込まれ、世界級(ワールド)アイテムの封印の上で、一人孤独にアインズ・ウール・ゴウンへの復讐の手練手管を100年単位で営々と用意しているとしたら?

 だからといって、こちらからわざわざ封印の蓋を開けるバカはできない。今は戦力が十分そろっているとは、言い難いのが現状だ。ナザリックの新たな婚姻制度によって、ナザリック内にも将来有望な子供たちが生まれつつある。それらがLv.100の領域へ、または、それを超える逸材に成長することを期待して、アインズ達は待つしかない。

 また。世界の揺り返しの件も考えなければ。

 100年後、こちらの世界に転移してくるLv.100プレイヤー、あるいはギルド拠点保有者たち──世界級(ワールド)アイテム所持者と、アインズと魔導国が友好関係を結ぶことが出来れば、あるいは?

 

 

「アインズ様」

 

 

 見やれば赤子(マルコ)を抱く(ツアレ)の横で、手を大きく振って呼びかける魔王妃・ニニャ……セリーシアと、慈母の微笑みを浮かべた最王妃・アルベドと主王妃・シャルティアたちが、(アインズ)を待ってくれている。

 

 アインズは図書館の司書アンデッドに辞典を預け、愛すべき彼女らのもとへ──自らが救うことができ、逆に救ってもくれた存在たちのもとへ、ゆっくりと()を刻む。

 

 もう二度と、この幸せを、この平和な世を失うまいと、心に誓いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (かなえ)とは。

 

 

 中国古代の器物の一種。土器、あるいは青銅器であり、龍山文化期に登場し、漢代まで用いられた記録がある。

 

 

 殷代、周代の青銅器の(かなえ)には通常、饕餮(とうてつ)の紋など細かい装飾が(ふた)などに対し「魔除け」として刻印されており、しばしば銘文も刻まれる。

 

 

 饕餮(とうてつ)(ふた)とする────(かなえ)

 饕餮(とうてつ)(ふた)となる────(かなえ)

 

 

 故に、彼女の名前────番外席次“絶死絶命”の名は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【終】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






『オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~』


 これにて完結となります。


 第三章からは一日一話更新の超駆け足でしたが、ついて来れましたでしょうか?


 今回のお話は、他のシリーズものをほぼほぼ繋ぐ「スレイン案件」「100年前の事件」の真相でしたが、さて、いかがだったものか。アルベドの反逆フラグ回収や、オーバーロード扱いの番外席次に関する考察、未だ登場していない漆黒聖典メンバーや、クレマン兄の動向など、いろいろとツッコミどころは残っているかもですが、これが私の見出した“半森妖精の神人”の真実(?)だったわけでして……それも2022年6月末には、どうなることやら(絶対にこうはならんやろという目)


 チラシの裏ではございますが、少しでも読者の皆様にお楽しみただけましたら幸いかと。
 そのうちパスワード付きの限定公開にするかもですが、その時は割烹などでお知らせするので、どうかよろしくお願いします。


 それでは、ここで恒例行事。


 拙作を
 お気に入り登録してくれた皆様、
 評価していただいた皆様、
 感想をのこしてくれた皆様
(三原色葉様、aramusya様、takeshiman様、L田深愚様、ユウキング様)
 ほぼ全話に誤字報告を送ってくれた────様


 まことに感謝の極み!


 ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!


 これからもどうか、(つたな)い我が身を支えてくだされば幸甚(こうじん)でございます!
 煉獄ユグドラシルも佳境を越えてきておりますので、どうかお楽しみのほどを!


 またFANBOXなどを開設しておりますので、ご支援いただける方がいれば、そちらの方もよろしくお願いいたします(一応の報告)


 それでは、また次の作品でお会いしましょう!
                       By空想病
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