オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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魔導国軍

/Magic Kingdom Regular forces

 

 

 

 

 

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 スレイン法国上層部が震撼の上に激震を重ねていた頃。

 

「ふあああ…………」

 

 かの国に事実上の宣戦布告を行ったアインズ・ウール・ゴウン魔導王その人は、スパリゾート・ナザリックで、その骨身に蓄積した疲労を癒していた。

 至高の四十一人が一人・ベルリバーがブルー・プラネットと協力して製作したアマゾン風呂一帯。

 そこにお湯のかわりに満ちる蒼玉の粘体(サファイア・スライム)は、いまではすっかり慣れたようにアンデッドの肉体の洗浄任務に貢献してくれていた。

 

「……ああ、いつもご苦労だ、三吉くん」

 

 一時は彼の仕事・業務内容を嫉妬し、ソリュシャンと問題を起こしたこともあったが、それも過去のこと。

 そう、過去。

 

「…………」

 

 過去のことを水に流し、シャルティアを洗脳したアイテムを有していた国──スレイン法国の連中を(ゆる)すべきか。

 慈悲深いアインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下であれば、それも一考の余地はあっただろう。

 しかし、今回の件に関しては、アインズの個人的な感情や心象も、無視できない要素がある。

 この世界に転移した直後。

 外の世界を調査していた折に発見したカルネ村──虐殺されたエンリとネムの両親や、村人たちの光景。

 正義の宗教国家ヅラをかましておいて、やっていることは同族である人間の選別作業──ムカっ腹のひとつも立つのが人情というものだろう。

 おまけに、連中はズーラーノーンと地下で繋がり、“盟主”と呼ばれるアンデッドのもと、諸国に害をなしていた事実まで浮かび上がった。帝国の邪神教団や闇金機構などの運営にもたずさわっていた。いまは王国の“八本指”のごとく、その幹部や構成員らはすべてナザリックへの忠誠を誓わせたが、まだ、首領たる盟主を掌握できていない。

 奴の扱うオリジナルの死霊系魔法の類は、今後のアインズ・ウール・ゴウンにとって有用となることは、まず間違いない。学べるものならば学んでおきたいし、それが無理ならば盟主を恭順、あるいは拿捕(だほ)することで、クレマンティーヌたちのようなアンデッドへの転生魔法の有効活用術が発揮できる。

 それを考えれば、スレイン法国は一両日中にも征服し、この手に実権を握りたいところでは、ある。

 

(だが、不安要素もある、か)

 

 元漆黒聖典たるクレマンティーヌからの情報によれば、法国の中でも最精鋭部隊が存在しているとのこと。

 とくに、隊長の「第一席次」は“神人”と呼ばれる希少な人類であり、その強さの次元はクレマンティーヌを凌駕して、あまりある。

 さらに、“その上”──「番外席次」と呼ばれるアンチクショーメ(クレマンティーヌ談)については、その強さの次元は測り知れない。少なくともクレマンティーヌ以上の第一席次を、一方的に敗北させるほどの次元の強さだときけば、その戦闘強者ぶりは相当なものだろう。

 

(法国が“傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)”なる世界級(ワールド)アイテムを使用し、アルベドを襲い洗脳する可能性もあろうが、アルベドには“真なる無(ギンヌンガガップ)”がある。最悪の事態などはあり得ないだろうが……)

 

 やはり自分が直接乗り込むべきだったかという後悔と未練の念が、アインズの存在しない脳内でわだかまる。

 

(いいや。アルベドの我儘、もとい提案で作った“最強チーム”も送り込んだんだ。副官として、パンドラズ・アクターのやつまで付いている。そう不安がる必要もあるまい)

 

 現在、使節団は魔導国と法国の中間に位置する都市に留まり、神官長らの応答を(一応)待っている。

 アインズは湯舟からあがり、三吉くんの丁寧かつ的確なバスタオル捌きで骨身に滴る水分を拭いおとす。

 いつもの装備に身を包み、スパリゾート・ナザリックを後にしたアインズが向かった先は、自分の執務室ではない。

 ギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)をナザリックに留まるセバスに預け、(とも)を務める一般メイドと共に転移した先は、エ・ランテルから南西方面に広がっていたカッツェ平野──その中央部。

 

「おお。これは、アインズ様!」

 

 建物の中で指揮指導に当たっていたデミウルゴスや魔将たちに跪かれ歓迎を受ける。

 アインズがわざわざ転移でここへ来た、主たる理由──

 

「『造営』の方はどこまで進んだ?」

 

 応じるデミウルゴスは喜色満面に頷いて図面を広げてみせた。

 

「『都市計画』の基盤は順調そのものにございます。かの沈黙都市を参考にされたアインズ様のご慧眼に間違いはなかったかと」

 

 中心に建造中の王城から放射状にのびる国道。〈永続光(コンティニュアル・ライト)〉の街灯。市街の主要地に点在する巨大市場予定地。人々や亜人が暮らすのに適した様々な規格の集合住宅。建設予定の冒険者育成用ダンジョンの地下迷宮ピラミッド。さらに、外縁部となる隔壁にも、魔法都市としての防備は万全整えられている。

 アインズ・ウール・ゴウン魔導王が支配下におく下級兵──アンデッドの骸骨(スケルトン)だけで万単位が、この都市造営に従事させられていた。

 

 アンデッドが跋扈(ばっこ)する呪われた地──などという俗称も過去のもの。

 

 今やカッツェ平野全域は魔導国の管轄下にあり、そこで生産される現地産のアンデッド(アインズが生み出すそれよりは遥かに劣る)も取り入れている。戦闘メイド(プレアデス)の一人・ルプスレギナを派遣した際の沈黙都市の平定事業が功を奏した上、クレマンティーヌやカジットのような特殊な中位個体についても、問題なく支配できている。さらには幽霊船の船長なども、魔導国のシモベと化して早幾月。アインズの“アンデッド支配”と“強化”の特殊技術(スキル)は現地のアンデッドを完全に掌握することが可能であったことで、これほど精強な軍を仕立てることができた。

 さらに、国境警備にも死の騎士(デス・ナイト)を隊長とし、エルダーリッチを補佐・連絡役とする警備兵部隊が随所におかれるようになり、スレイン法国からの逆侵攻への備えも万全ときている。

 

「問題は……なさそうだな」

「無論かと」

 

 微笑むデミウルゴスだが、アインズはまだ何か見落としがないか熟考を続ける。

 アインズはズーラーノーンの“ゴーレム使い”あらため“ゴーレム工房責任者”に命じ、彼が得意とする小動物類に化けるゴーレムを大量生産させることで、警備体制の強化にもつなげていた。ゆくゆくは“箱型”や“板状”のゴーレムを設計──要するに携帯端末や生活必需品として国民一人一人が保有し、簡単な連絡手段や防衛機能──時と場合によっては犯罪者の監視や探知装置としての機能を付随させることを将来の計画としている。

 

(まぁ、それも今は計画段階。

 完成するには『最低でも二十年はいるでしょうな』とトオムにいわれてるし……とりあえず当面の間は、私のアンデッド警邏兵だけでも充分、いや、充分以上)

 

 何も問題はない。

 無論、敵性国家と化して久しいスレイン法国も、その事実はよく理解していた。

 自分たちが対峙している相手が、どれほど強大な“軍”へと変貌・変革を遂げているのかを肌身で感じては、いない。

 首脳部は確実に気づいているだろう(気づいていなかったらさすがに無能に過ぎる)が、法国の民はそこまで魔導国の現状を知りえない。なにしろアンデッドが導く魔王の国だ。その実態を知ろうだなんて度胸のあるものは多くないし、なにより、法国と往来している希少な商人の類は、すべて出入国時に厳重なチェックが入っている。そして、入国時の用件が「魔導国の調査と見聞」であるものは、魔法によって一発でバレる。

 

(ま、バレた人間も生かして帰してやってるし、思う存分あわてふためいてもらえば好都合)

 

 場合によりけりだが、法国は魔導国に(くみ)するものとそうでないものとで内部分裂を生じ、内乱は必至である。

 しかしアインズの狙いはあくまで、シャルティアを洗脳したアイテムであり、現スレイン法国の首脳陣、そしてズーラーノーンの盟主だ。

 法国の民すべてを皆殺しにしようという話では、断じてない。

 

(だが。必ず報いは受けさせる)

 

 建造途中の王城の内部で、アインズは静かに決意をかためていた。

 

「それで“侵攻軍”の方は?」

 

 デミウルゴスは委細承知とばかりに魔将の一人へと命じ〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉をもってこさせた。

 アインズは鏡の画面を窺い見る。

 

「ふむ、上々だな」

 

 そこに映るのは、不死の軍勢。

 

 骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)骸骨騎兵(スケルトン・ライダー)骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)骸骨兵士(スケルトン・ソルジャー)は勿論のこと、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)魂喰らい(ソウルイーター)死の騎士(デスナイト)など、この地では伝説や御伽噺の中に住まう凶悪なアンデッドで編成された数万からなる軍勢が、魔導国の旗を掲げ、整然と南下していた。

 

 目的はただ一つ。

 たった一つの国を(ほろ)ぼすために。

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

「こちらにいましたか」

「……あら、なんの用?」

 

 神官長会議からの退室を許された第一席次は、いつもの場所──五柱の神の装備が眠る絶対聖域の守護役を務める番外席次と対面する、

 

「今日、ルビクキューは?」

「さすがに飽きたからね」

 

 二面そろえることすら難しい番外席次は、十字槍にも似た戦鎌(ウォーサイズ)を壁にではなく己の肩に立てかけ、気のない瞳で漆黒聖典のまとめ役たる男を見やる。

 まだ十代にも見える幼い外見。左右で違う髪色と同様の、色違いの瞳に射すくめられかけ、第一席次は呼吸を整える。

 番外席次は三日月のような笑みで(わら)う。

 

「それに、外は今ずいぶんと騒がしいみたいだし?」

「──魔導国が宣戦布告してきましたからね。さらに……」

「さらに?」

「エイヴァーシャーの森に派兵していた火滅聖典が、……全滅したとの報せが」

「へえ」

 

 彼女の反応は空気を観察するよりも空虚すぎた。

 

「んじゃあ、エルフとの戦争はどうなったの?」

 

 第一席次は、彼女が己の髪の下に隠した耳を意識しかけて、なんとか自制した。

 

「詳細は解りません。ですが、エルフの王都は陥落寸前であったはずですので」

「対局としてはうちの勝ちになるわけ? エルフ王とかいうのの生死は?」

「不明、とのこと」

「一番肝心なとこじゃん、なにしてんのウチの諜報員はさ?」

 

 まぁ、エルフの王(そっち)のことなどどうでもいいと、番外席次は話を戻す。

 

「んでさ。うちに宣戦布告した、魔統王」

「魔導王です」

「どーでもいーわよ、名前なんて。そっちの方はどうするか、神官長たちは腹を決めたの?」

 

 しかも期限は五日しかないときている。

 当然、要求は不当なものであり、会議は「受け入れることはできない」という意見が大勢を維持していた。かろうじて、であったが。

 いかに魔導国の王が強大であり賢智に富む人格者であろうと、絶対に、神の秘物たるアイテムを差し出すことはできない──

 相変わらず報告書に目を通さない彼女でも、今回の件は随分と愉快そうに微笑みを深めていた。鈴のように美麗な声色を転がしてならない。

 

「あははははぁ、まぁそうなるわよね。うちの最暗部だったズーラーノーンを『ブチ壊した』上に、最秘宝の『“傾城傾国”を寄こせ』とくりゃあ、神官長たちはおかんむりでしょうよ」

 

 笑い事ではないと述べそうになって、彼女の様子が常になく昂揚していることに男は疑問を懐いた。

 そして、一瞬で解答に至る。

 

「──まさか、とは思いますが……戦われるおつもりですか?」

「当然でしょ? 相手は、えーと、アインズなんとか魔刀王?」

「アインズ・ウール・ゴウン魔導王、です」

「そう。そいつ。

 ピーターのやつを──サラの育てた黒竜を殺した相手なら、だいぶ期待できそうじゃん?」

 

 ピーターとは、ズーラーノーンの「副盟主」として、自我を保つことが難しい上位アンデッドとなった盟主に代わって組織を運営管理していた、500年を生きた黒竜である。親である朽棺の竜王(エルダー・コフィン・ドラゴンロード)に「見込みがない」と巣より放擲(ほうてき)され死に瀕していた際に、500年前の盟主に救われている。

 あの吸血鬼騒動……“巨盾万壁(きょじゅんばんへき)”セドランと“神領縛鎖(しんりょうばくさ)”ボーマルシェ、そしてカイレを喪った強大に過ぎる吸血鬼(ヴァンパイア)の出現時には、ズーラーノーンの職域を超える事態であり、なにより、彼らを動員しても被害が拡大することは確定的であったため、放置一択とされたのである。彼らはあくまで「人類の敵」を演じつつ、人類の外敵たる亜人や異形を狩る集団だ。

 もしも騒ぎが最悪な方向へ傾くならば投入もやむなしであったろうが、結局、この件は英雄モモンの出現によって落着を見ている。

 しかし、第一席次は彼女の言に半ば恐慌しかけた。

 

「バカな。いくらあなたでも、そんな!」

「なに? 私じゃ負けるって思ってる?」

 

 膨大な殺気にあてられる男。

 竜や巨人とも比較にならない、圧倒的超越者(オーバーロード)の、圧。

 いかに慣れているとはいえ、それを受け止めきるのは至難の業であった。

 呼吸すら止まりかける漆黒聖典の同僚を、彼女は冷笑して(はばか)らない。

 

「随分とナメくさってくれてるじゃない? 私にボコボコにされたの、もう忘れた?」

「────────いいえ」

 

 忘れるはずがない。

 神人として、神のごとき威勢と力量に目覚めた自分こそが人類最強だと錯誤していた。増長していた。

 だが、彼女と出会い、たった数秒で“格の違い”を思い知らされた。彼女に命じられるまま馬の小便で顔を洗い、「自分はゴミだ」と思い知った。

 

「ま。とりあえず、私は下準備があるから。レエモンたちお偉方(えらがた)には適当に言っといて」

「下準備──準備って、まさか?」

 

 第一席次は彼女の異能(タレント)を思い出す。

 聖域の警護はどうするのかと詰問しても無意味であった。

 戦鎌を担いだ番外席次は、己の欲求を満たすべく動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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