オーバーロード 絶死絶命 ~199年前の墜とし仔~   作:空想病

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アルベドVS番外席次

/Albedo VS Extra seating order

 

 

 

 

 

 

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 エルフ王は、自国を捨てた。

 もともとスレイン法国に訳の分からん理由で責め立てられ攻め寄せられ、迎撃と防衛を臣下に命じたが、相手の兵站の物量、兵士の練度、戦略と戦術、マジックアイテムの差に()された。

 そのうえ、火滅聖典などという精鋭部隊まで投入してきた法国の本気ぶりはすさまじく、エルフ王国の首都は陥落したも同然であった。

 ゆえに、捨てた。

 エルフ王は特に未練も執着もなく、自国民らを放置して、王都が陥落されるのを眺めた。

 

「潮時だな」

 

 助けを求める国民は勿論、敵国の兵士も分け隔てなく殺戮し、蹂躙した。

 どいつもこいつも弱すぎた。弱すぎて殺しつくして、何人やったかも覚えていない。

 火滅聖典が橋頭保としていた都も手ずから殺しつくし、死体の山を量産しつづけた。

 途中、火滅聖典に属する女性隊員どもに命乞いされた際は、喜んで凌辱してやった。

 同族(エルフ)との間には、強者たりえるものは育てられなかった。が、あるいは“同じ人間種であれば”、その中でも精鋭に属する聖典とやらの一員であれば、我が落胤(らくいん)を強き者として育て上げられるやもしれぬという、当然の判断。どの女も驚くほど弱く思えたが、行為の後のこと──命があるかどうかなど、知ったことではなかった。運が良ければ我が種を孕み、育てることもかなうだろう。その時にはあらためて回収できるよう、わかりやすい首輪──入れ墨のごとき魔法をとりつけてやった。人間たちは野蛮なことに、エルフを奴隷とする際に耳を削ぐが、エルフ王は己の奴隷に魔法の首輪──高位の魔法〈奴隷(スレイブ)〉を与えられるのだ。その魔法効果によって、首輪をつけられたものは主人に逆らうことはできない。魔獣を〈調教(テイム)〉する、その人間版というべきだろうか。

 半裸で泣き崩れる女のうなじに、鎖のような紋様が浮かび上がるのを見て、エルフ王はかつての記憶が呼び起こされる。

 

「ふむ、思い出すな」

 

 昔。

 法国の切り札であった女を騙し、(たぶら)かし、捕らえたことを。

 当時は、「第一席次」という最強の号を与えられていたか。

 その女を本物の鎖で縛り犯して、確かに我が子を身ごもるまではいった。それは確かだ。生育状況もよかったはずだというのに、出産間近というところで、漆黒聖典に奪われてしまった。あれでは無事に生まれたかどうかも分かりはしない。

 

「楽しみだな。生まれた子が女であれば、強者であれば、我が(たね)を受けた子は、より強くなるだろうな」

 

 左右で色の違う瞳が、王の描く未来の展望に明るさを増す。

 ゆくゆくは己の子らによる精強な軍を作り上げ、世界を席巻する。

 ────かつての彼らのように。

 ────我が母たちのように。

 ────圧倒的強者として。

 エルフ王は、己が治めるべき地が火に焼かれ、荒廃の一途をたどることなど眼中になかった。助けを乞う民の声や嬰児らの悲鳴をすべて無視し、逃げ惑うエルフも人間も目に入ったものはすべて殺すか犯し尽くした。

 

 強さこそが彼のすべて。

 弱き者には何の興味もない。

 彼は、自分が産んだはずの子の国を目指す。

 

 美しい夜の帳の下。

 強さのみを渇望し、愛情などとは無縁の価値観しか持たない王は、己の欲するものを求め、スレイン法国・東部の森へ到達する。 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 一方で。

 スレイン法国の北部──魔導国と隣接する国境地帯で、アルベドたちにも、急報を知らされた。

 

「──ルプスレギナが? ンフィーレア・バレアレが?」

 

 魔導国宰相にして守護者統括たるアルベドをしても、そのような事態は意想外(いそうがい)の出来事であった。

 至高の御方であるモモンガ──アインズ・ウール・ゴウンその人が「最重要」と目していたポーション生産職人が殺され、その警護をひそかに担っていた戦闘メイド、ルプスレギナ・ベータが瀕死の重傷を負うなど、予想だにしない窮状と言える。

 現在、アルベドたち魔導国の使節団は、魔法で作られた〈要塞(フォートレス)〉に駐屯し、法国から魔導国への要求内容を飲むか否かの回答を待っている状況にあった。

 その中でも「貴賓室」に値する最上級の部屋でしどけなくソファの上で休息を取っていたアルベド。魔導国宰相は、報せをもってあらわれた今回の副官──パンドラズ・アクターの言を、一瞬だが誤報か何かではと疑った。

 しかし、カルネ領域にて行われた凶行は事実であり、ルプスレギナは治療を続け、ンフィーレアは蘇生さえままならないという、最悪の状況。

 下手人はナザリックの諜報や警邏の(あみ)をかいくぐった事実からして、間違いなく、この世界においては強者の位置にあると断定してよい。

 だが、それほどの強者が、どこに隠れ潜んでいたのやら。帝国属国化の折に時を同じくして、凄腕の暗殺者集団イジャニーヤも魔導国の幕下(ばくか)に加えたが、彼らでさえも現地の住人の中では強い程度の部類でしかない。大陸中で暗躍していたズーラーノーンも、既にアインズ・ウール・ゴウンの掌中に握られている。いまだに情報乏しき大陸の極東か。それとも噂に聞く南方の浮遊城・エリュエンティウの手のものによる仕業か。あるいは法国か。

 しかし、現在法国と魔導国の状態──戦争まで秒読み段階という状況で、先制攻撃を討ってくる可能性は低い。どうにかして交渉し、最悪、先の帝国に(なら)い「属国化」を提案してくるものと、誰もが信じて疑わなかった。いくら国民がアンデッド憎しといえども、どれほどの災禍と戦火が降りかかるかは瞭然(りょうぜん)たる事実であった。

 彼我の国力差・軍事力の差は、火を見るよりも明らかだ。

 それなのに、至高なるアインズ・ウール・ゴウン魔導王の温情ともいえる交換条件──要求を無視し、あと四日を待たずして奇襲攻撃をかますなど、アインズの火の瞳に油を注ぐような大愚である。法国による襲撃の線は薄いと、誰もが信じて疑わなかった。

 いずれせよ、副官パンドラズ・アクターを通じて、アルベドは警戒態勢の強化をアインズから命じられた。『警戒を(げん)にせよ』と。守護者統括たる女悪魔は、一も二もなく従った。

 

「わかったわ、パンドラズ・アクター。周辺警戒レベルを準戦闘態勢(レベル2)に移行します」

「承知しました。それで、アルベド様の護衛の方は?」

「私の方は今の状態で大丈夫よ。部屋の周りは甲虫の近衛兵(ロイヤルガード)たちもいるし、何より私は、栄えあるナザリック地下大墳墓の守護者統括であることを忘れないで。

 いざとなれば“真なる無(ギンヌンガガップ)”と“この娘(ルベド)”もいるし、問題はないでしょう」

 

 世界級(ワールド)アイテムを膝において彼女が撫でたのは、ナザリック最強の“個”と称される、彼女の妹──その投影装置のひとつである立方体の(かばん)であった。同じものがあと七つあるが、これを使用するのはまず「ない」と思われた。そももそ“真なる虚”自体の威力も規格外。何も憂うことなどありえなかった。

 

「それよりも、索敵範囲とその人員を増やしたいわ。アインズ様から借り受けたハンゾウや監視機能ゴーレムたちと共に、この要塞周辺の調査監視を徹底させなさい」

 

 承服の声と共にパンドラズ・アクターは立ち上がった。彼女と同等の智者である彼にしても、アルベドの護衛として残される世界級(ワールド)アイテムと最強の“個”の存在は、侵入者を圧倒してあまりある。

 つい癖のように最敬礼で四本指を額に当てる同僚の顔面は、相変わらず白い仮面に包まれていた。

 人間たちの国では三個の穴で構成されただけの顔立ちという奇特さを隠す目的もあるが、この仮面によって彼は頭部破壊などの致死性(クリティカル)ダメージから守られている。敵国に隣接した上での警戒態勢下では、はずすことは愚かと言える。

 アルベドの貴賓室を辞したパンドラズ・アクターを見送り、アルベドは一人思案にふける。

 

「──何故、ルプスレギナを重傷どまりにしたのか」

 

 言っては何だが、今回の相手の強さから察するに、戦闘メイド(プレアデス)程度の戦力など瞬殺することも可能だったろう。彼女と共に姿を隠して護衛任務を果たしていたモンスター十数体が、(ことごと)く殺され消滅しているのだ。それが何故、わざわざルプスレギナだけ“死ねない傷”をおわせる必要が?

 ルプスレギナ個人への怨恨(えんこん)でないとすれば、魔導国の主に対しての挑発行為にしかならないだろう。

 ──否。

 それこそが狙いで、わざわざ解呪不能の呪いを施したのか?

 魔導王の部下ごとき、いつでも襲って殺せるという自信と、挑戦の意図を感じ取る。

 さらにもうひとつ。

 

「──何故、このタイミングで。ンフィーレア・バレアレが襲撃され、蘇生不能にさせられるのか」

 

 アルベドの頭脳をもってしてもわからなかった。

 より正確には、判断がつきがたい、というべきか。

 彼の特異性を列挙するならば、

 

 1、魔導国のポーション生産事業に携わること。

 2、カルネ領域守護者、エンリ・バレアレの夫であること。

 3、『ありとあらゆるマジックアイテムを使用可能』という異能(タレント)持ちであること。

 

 どの項目にしても襲撃されるのにたる十分な理由だ。1と2に関しては、魔導国の国家事業にかかわる問題であるため、可能性は大と言える。とくに1に関しては、冒険者たちへのアイテム給付率が低下する事態に直結しかねない。だが、3に関してだけいえば、殺すよりも生かしておく必要がある。ちょうど、人間だったころのクレマンティーヌが、ンフィーレアに“叡者の額冠”を使わせるべく拉致し、無理やりマジックアイテムを使用する生贄の人柱としたときのように。

 

「いったい、何が起きてるのかしら?」

「アンタでもわからないの? 魔導国の宰相様ともあろうものが?」

 

 侮蔑(ぶべつ)侮辱(ぶじょく)の言を重ねる声は、突如として現れた。

 アルベドは即座に戦闘態勢を構築──ドレス姿から鎧姿に換装し、戦斧(バルディッシュ)を抜き払う。異変を察した貴賓室警護のロイヤルガードたちが雪崩込(なだれこ)もうとするが、それも、黒白の少女の一刀で細切れに裁断されてしまう顛末(てんまつ)をたどった。

 アルベドの視線の先には、いつの間にか開いた(内部から施錠されていたはずの)貴賓室の窓に腰掛ける、黒白の髪の少女。ロイヤルガードたちを瞬殺し消滅せしめた戦鎌(ウォーサイズ)は、戦士であるアルベドの目から見ても超級の一品と判じることができた。

 少女の髪に隠れた耳は細長く、左右の色違いの瞳からもれる感情からしても、ただの人間種──半森妖精(ハーフエルフ)でないことは見て取れる。

 

「貴様、何者?」

 

 状況としては、ンフィーレア殺害の状況と酷似していた。

 が、ナザリックが誇る守護者統括は冷静に、月あかりのさす窓から飛び込んできた少女を油断なく睥睨(へいげい)

 少女は愉快気に(わら)いながら、ただ、“ここ”へ来た用件だけを告げる。

 

「どこぞにいるか知らない、無敵の強さを誇る“魔導王サマとやら”と戦うには、部下を一匹一匹つぶして、“挑発する”のが手っ取り早くていいんじゃないかなぁ、と思って?」

「貴様、まさか!」

 

 アルベドは確信する。

 ルプスレギナを瀕死に追い込み、ンフィーレアを殺害した下手人──それが目の前にいる事実を(さと)る。

 しかし、()せない。

 この要塞周辺は、当然のことながら彼女の最強チームを含む魔導国の使節団で埋め尽くされている。にもかかわらず、それらを一切無視して現れた侵入者の存在というのが、はなはだ()せないのだ。暗殺者(アサシン)盗賊(ローグ)に反応する警戒網や、同職種のモンスターらに気づかれることなく、アルベドの──魔導国宰相の──ナザリック地下大墳墓の守護者統括がいる貴賓室に到達するなど、どのようなカラクリやイカサマなのか理解できない。さらに、緊急用として持たされている〈伝言(メッセージ)〉用の手鏡も機能しないというのは奇妙すぎた。まるで、少女の存在によって妨害(ジャミング)されているかのようではないか。

 否。

 原因究明(それ)よりも優先すべきは、対応と対処だ。

 少女の武装は十字槍にも似た戦鎌(ウォーサイズ)が一振り。

 身に帯びる衣服はどのような魔法効果があるのかは知らぬが、用心に越したことはな

 

「っ!?」

 

 いきなり斬りかかられた。

 人間であれば容易に頭頂から股下まで割断していた一撃である。

 アルベドはLv.100戦士の反射速度で(かわ)(のが)れることができたが、あまりの事態の変転ぶりに言葉を失う。

 ──強い。

 ナザリック外の存在で、そのような感慨を覚える自分が、とにかく腹立たしい。

 

「へえ。意外と強いね、アンタ?」

 

 黒白の少女はおもしろいオモチャを見つけた子供のようにケタケタと笑う。

 その侮玩(ぶがん)する態度が(しゃく)(さわ)った。「なにがおかしい」と叫びたい衝動を抑えて、アルベドは反撃を試みる。

 戦斧による一閃。

 あやまたず少女の首を切断する軌跡を描く斧刃を、少女は戦鎌で受け止めない。

 

「ば、ばかな」

 

 アルベドが瞠目(どうもく)するのも無理はない。

 一撃必殺の威力を込めた戦斧は、凶悪に(わら)う少女の可憐な左手──“人差し指一本”で止められている。

 ありえない。彼女が同じ強さ──Lv.100であると仮定しても、その戦闘能力・肉体強度は、アルベドの理解と常識を超えていた。いや、アルベドは全力ではない。悪魔状態に変身した本気の状態であれば、あるいは。

 

(いや、もっと確実な手段を!)

 

 守護者統括は迷わなかった。

 アルベドは切り札を使わざるを得ないと確信。彼女に与えられた世界級(ワールド)アイテム“真なる無”。それを用いて、完膚(かんぷ)なきまでに相手を破壊破砕する以外の処方を、女悪魔は見いだせなかった。

 しかし、それも一手分、遅い。

 

「へえ? アンタのそれ凄そうだね──だったら」

 

 番外席次は己の衣服を早着替えの効果で別のものとする。アルベドは愕然と眼を見開いた。

 それは、竜の黄金の刺繡が眩しく輝く、白銀の旗袍(チャイナドレス)──今回の魔導国の侵攻理由となったアイテムの概要情報と酷似していた。

 使うものには一定の制限・条件があるアイテムであるが、今の彼女──番外席次には、とある青年から奪った『ありとあらゆるマジックアイテムを使用可能』という“異能”があった。

 

「“傾城傾国(けいせいけいこく)”──発動」

 

 ──ゾワリ。

 その言葉を聞いた瞬間、アルベドの意識が真っ白に漂白されかける。

 

「うっ、あっ!」

 

 白く、白く、塗りつぶされていく、女悪魔の心。

 アインズから賜った、精神支配をも完全無効化する高級装備も用をなさない。これは精神操作──この至近距離でそう気づけたのは、彼女には同格と呼べるアイテムが手中にあったから。

 アルベドは即座に気づく。これが、今回の戦争の主因──シャルティアを支配しかけた力──アインズに悲嘆と激憤を与え、何者かに精神支配されかけた守護者を御方自らの手で殺す事態に追い込んだ、最強の洗脳力──

 

「む、だ、よ、!」

 

 守護者統括は精神が白濁しつつある中で、抵抗を続けた。

 アインズの言う通り、世界級(ワールド)アイテム保有者は世界級(ワールド)アイテムの効果を受け付けないという話は(まこと)であった。──そのはずだった。

 

「私は、ナザリック、地下、大墳墓、守護者、統、括、アルベド!」

 

 誇り高く一歩を踏みしめ、“真なる虚”を逆に発動し返そうと構えるアルベド。

 そんな彼女の様子を見ても、番外席次は飄然(ひょうぜん)としていた。

 

「あ~、意外と(ねば)るね。じゃあ、ちょっと揺さぶって(・・・・・)みようか」

 

 意味不明な言葉を告げる敵の少女に対し、アルベドは無力だった。

 

「『あなたの主人は、だぁれ?』」

「 そ れ は ── アインズ・ウール・ゴウン、魔導、王 !」

 

 漂白されかける意識の中で、懸命に抵抗するアルベド。

 魂を振り絞るような叫びであったが、黒白の少女は「嘘ばっかり」と見透かしたような白黒の瞳で女悪魔の宣言を嗤笑(ししょう)する。

 

「『あなたが仕えるべき、本当の主は、いったい誰?』」

「 ── ……  そ  れ  は  ?」

 

 意識が遠のくのを感じる。

 彼女の質疑に、アルベドは応えきれない。

 それを見て取った黒白の少女──番外席次は、禁断の言葉を口にする。

 

 

「『あなたが──“愛している”のは、いったい、だぁれ?』」

 

 

 まるで祝福の聖歌(せいか)のように、弔鐘(ちょうしょう)の音色のように、女悪魔の脳内で反響し残響し続ける、精神操作の波状攻撃。

 アルベドは両膝を屈し虚空を眺めた。震える瞳は小刻みに揺れ、(ほそ)(たお)やかな指先は黒髪を()いて、ついで乱暴にかきむしられる。守護者たる自分を汚し犯そうとする力、それに抵抗しようという気概が、一挙に一瞬に遠のいた。

 

 

「『……そう。かわいそうに、あなた自身、本当の主に仕えられなかったのね?』」

 

 

 憐憫なのか嘲笑なのか慰撫なのか、それすらも判然としない、甘く蠱惑的な少女の音色(ねいろ)

 だが、その言葉は心地よくアルベドの脳内を揺さぶり続け、彼女のあるべき姿──思考──思想──欲望を昇華、増幅させる。

 

 

「『さぁ、教えて? あなたが、本当に仕えるべきは? 心の底から本当に、愛している(・・・・・)のは?』」

 

 

『誰だ』という精神操作の問答に、アルベドの意識は、完全に奪略された。

 自分の手中にあるアイテム──己の創造主からの賜りものさえも、もはや、アルベドにとっては害悪──“ゴミ”でしかない。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 悪魔の咆哮(ほうこう)が轟いた。

 アルベドは世界級(ワールド)アイテム“真なる無”を、貴賓室の屋根が破砕するほどの力を込めて投擲(ほうてき)し、自分を包み込む支配力──“愛”を肯定する「世界の力」を、完全に受け入れた。 

 

 受け入れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 要塞の外で副官として任務を遂行していたパンドラズ・アクターは、微かな異変を察した。

 戦闘の気配。

 この、魔導国使節団の中心ともいえる要塞、魔法でつくりあげた建造物の中で、確かに戦闘が繰り広げげられている。

 アルベドに〈伝言(メッセイージ)〉を飛ばしたが、何者かの妨害(ジャミング)で届くことはない。

 

「まさか」

 

 パンドラズ・アクターは急ぎ要塞へと戻る。ハンゾウたち護衛を大量にしたがえて。

 その時、轟音が要塞全体を揺らした。アルベドが己の手中にあった世界級(ワールド)アイテムを放擲した際の暴力の音圧であったとは露とも知らぬパンドラズ・アクター。彼は、とかく貴賓室を目指した。周囲で警護に当たっていたロイヤルガードがいないのを確認。

 

「失礼、アルベド様!」

 

 ノックもなにもない礼儀に欠けた突撃であったが、確かにそこは戦場と化していた。

 より厳密には、戦場の跡であった。

 破砕された屋根。転がる調度品。鎧姿で直立する、ナザリック地下大墳墓の守護者統括。

 いったい何があったのか(たず)ねる直前、背後につきしたがってきたハンゾウたちモンスターの群れが斬殺もとい惨殺された。

 パンドラズ・アクターも攻撃を加えられていたが、幸い、身に着けていた純白の仮面によって致死には至らなかった。

 たたらを踏んで室内に飛び込む上位(グレーター)二重の影(ドッペルゲンガー)を、黒白の少女は好奇の視線で追うのみ。

 

「くっ。一体、何も────の?」

 

 少女へ対する誰何(すいか)の声は、黄色い軍服の背後から刺し入れられた戦斧の刃で遮られた。アインズから、否、モモンガからいただいた軍服が、中央から赤黒く染まり血を滴らせる。

 黒い口の穴から吐血するパンドラズ・アクターは、自分を背後から刺し貫くアルベドの様子を見て愕然となる。

 

「なっ、にを──アルベ──ド」

 

 完全装備のアルベドの表情は、兜のうちに隠れ(うかが)い知れない。

 だが、その声音にこもる愛情と憎悪は、まぎれもなく本物であった。

 最強チームの副官として、かの方より貸し与えていただいたナザリックの同胞を、守護者統括は快い心地で斧の一刀を浴びせまくる。

 

「ごめんなさいね、パンドラズ・アクター。私は、あの御方のために──」

 

 ──オマエを殺す。

 

「させはしない!」

 

 パンドラズ・アクターは、アルベドの刃から強引に逃れた。

 彼の、二重の影としての変身能力が発揮されて、彼の輪郭と全容が、揺らぐ。

 しかし、ナザリック最高の智者として名高い彼でさえ、この状況は混沌の極みにあった。

 どう対処すればよいか、どの姿となって迎撃すべきか、数瞬以上も迷うパンドラズ・アクター。彼の背後から戦鎌を振るって舌なめずりする黒白の少女が狙い、前方のアルベドが漆黒の戦斧を振るって猛追してくる──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十五分も続いた戦闘の後。

 

 パンドラズ・アクターの抵抗もむなしく、アルベドと番外席次によって、完全に殺害された。

 

 そして、

 

「それじゃあ──“いただく”ね」

 

 殺されたパンドラズ・アクターの心臓もまた、番外席次の胃の腑へとおさめられた。腹八分目にも届かないという様子で下腹部をおさえる少女は、ひとつ頷いた。

 

「うん。それなりにおいしかったわ。んじゃあ、行こうか」

 

 その様子を黙して見過ごしていたアルベドは、番外席次に促されるまま、彼女と共に要塞を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『オーバーロード4巻に関する作者雑感』より抜粋(法国の人々)

 書籍オリジナルのキャラ。
 もう一人の、そしてこの世界のオーバーロード登場。
 彼女がいると5柱の装備があって、彼女がいないと4柱の装備がある。どんぐらい強いかはその内にわかると思います。でも大陸10指(同じタレントは1つとして数える)に入る最強タレント持ちなので……。
 しかし神人は3人と言ってよかったんだろうか? それとも2人という方が正解なんだろうか? 難しいなぁ。

 ──抜粋終了──

 番外席次によって、次々と脱落していくナザリック勢。
 彼女の正体や、いかに?
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