ライス「お兄……? いやお姉……? 」   作:おもちゃ箱

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 クレヨンしんちゃんに出てくる様なオカマをライスと絡めたかった。
 オカマ×少女の友情もの流行れ。


第一話 誰かさんは凄くせっかち

 出会いは極々単純、とは言い難く。

 トレセン学園にて各ウマ娘が自分の実力をアピールする絶好の機会である選抜レース。

 ライスシャワーと現トレーナーはそこで出会った。

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 ライスの順位は惜しくも二着。

 スタミナ不足による最後の伸びが及ばず、あと一歩及ばなかった結果だった。

 

 悔しさに顔を歪ませる。

 走るだけでも楽しいウマ娘の本能だが、それでもやはり負けてしまうのは苦しかった。

 

 「ンブゥラボォ!! アナタッ! 美しいワッ!! 」

 

 やけに癖のある声がターフを駆け巡った。

 野太い癖に澄んでいて、芯が通ってハリがある。

 その声は明らかにライスに差し向けられたもので、ハッキリとした賞賛がライスの胸に沁み渡った。

 

 「あ、ありがとうございま……」

 

 この場にいてウマ娘に話しかけてくるという事は、つまりはこの声の主もトレーナーなのだろう。

 きっと自分の走りを見てスカウトに来てくれたのだと喜ぶ。

 ライスは期待に胸を膨らませ、汗を垂らした顔を声の聞こえた方へ向ける。

 

 瞬間。彼女は可愛らしい目を見開いた。

 

 自分の目の前に立っていたのは筋骨隆々の大男。

 身につけたスーツが張り裂けそうなほどに自己主張する胸筋。

 袖が破れんばかりの上腕二頭筋、三頭筋、三角筋。

 角張った大腿四頭筋は四つに分かれていた。

 

 それだけならばまだ理解の範疇であろう。

 トレセン学園は謂わばスポーツの専門学校。トレーナー自身も鍛え上げられた人間も数多く、これほどの筋肉とまではいかないが、見た目がゴツいトレーナーは他にも存在する。

 

 ライスの視線を一番引いたのは、件の人物の頭部にあった。

 まず彼の髪型はツインテールだった。『ツインテール』だった。

 肩ほどまでにかかった髪を二つに縛り、ご丁寧にシュシュまでつけている有様。

 そして意外と可愛らしいシュシュなのがアンバランスさを極めている。

 眉毛は綺麗に整えられ、薄めのアイシャドウに濃く赤い口紅。

 それが四角くイカつい男の顔面に施されていた。

 

 「美しい!! 美しいワ! アナタ、お名前は? 」

 「ひゃいぃ! ラ、ライスシャワーです……! 」

 「あんら! ライスシャワー!! 『祝福』だなんていい名前じゃない!! ま・す・ま・す! 気に入っちゃったわぁん!! 」

 

 濃い。

 兎に角キャラが濃いのである。

 レース後の疲れた身体にこれは堪える。

 ライスは目の前の景色が遠くなっていく感覚に苛まれ……

 

 「アラ? アララララ! 大変っ!! 」

 

 その場に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 「ん……んぅ……こ、こは……」

 

 目が覚めると学園の天井が視界に入り、隣を見ると窓からから夕陽が差し込んでいる。

 

 ────ああそうか。あの後気絶して……

 

 頭痛のする様な情報量の多さに頭を抱えつつ、ライスが寝ていたベッドから身体を起き上がらせる。

 するとその先には……

 

 「お は よ う」

 「ひぃいいいい!! 」

 

 例のあの大男が腕を組んでライスを見ていた。

 思わず悲鳴をあげてしまうライスだが、それも数瞬の間で、目眩を起こしたのか直ぐに頭を抱えてしまう。

 

 「あ……」

 「まだ無理しないの。今日は全力を出してきたものねぇ……」

 

 慈しむ様な視線をライスに向ける大男。

 その視線は彼女の事を慮ったものであり、別に悪人では無いのだとライスも悟る。

 

 「ご、ごめんなさい。ちょっとビックリしちゃって……」

 「気にしなくて良いのよ。アタシも興奮しすぎちゃったわ」

 

 そう言いながらスポーツドリンクを差し出してくる大男。

 ライスはそれを受け取りちびりと口に含む。

 その様子を優しげに見つめた男は口を開いた。

 

 「自己紹介がまだだったわね。

 アタシの名前は『窯口 薫(かまぐち かおる)』。この学園でトレーナーをやらせて貰ってるわ。よろしくねライスちゃん」

 「は、はい! よろしくお願いします……」

 

 自分の名前を伝える窯口だったが、彼はすぐさまそれを否定する様に次に進んだ。

 

 「とは言っても、『薫トレーナー』〜だとか。『窯口トレーナー』〜とかはあまり呼んで欲しくは無いわね」

 「ええ!? じゃあなんて呼べば良いんですか!? 」

 「『ローズ』と呼んでちょうだい……」

 「……………………」

 

 流石の優しく健気なウマ娘で将来定評が出来る彼女であっても、ここは暫く絶句してしまった。

 窯口が無駄に低く色気のある声で『ローズ』だなんて言うものだから、彼女はウマ娘生で初めてドン引きというものを経験してしまった。

 

 それが過ちだった。

 

 「アタシ、貴方を担当ウマ娘に迎えたいの」

 「…………」

 「丁度ここに担当ウマ娘とトレーナーの関係を結ぶ契約書があって、あとはアナタがサインするだけの状態よ」

 「…………」

 「ここにサイン……してくれないかしら」

 

 上の空のため無言の状態で自分の名前を書き記すライスシャワー。

 

 「あんらぁ!! ありがとうライスちゃん!! これからどうぞよろしくね!! 」

 「…………」

 「理事長〜! 書類の受理をお願いしますぅ〜」

 「……………………はっ!? なんか大事な事を決めてしまった気が!? 」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 「安心ッ!! 窯口トレーナーは優秀なトレーナーであり、きっとライス君の為になるだろう!! 」

 「そ、それでもぉ……」

 

 翌朝。ライスはトレセン学園理事長に直談判していた。

 

 曰く、この契約は自分の精神状況が不安定な時にされたものであり、了承したつもりは無い。

 曰く、半分騙すように契約した彼を信用する事は中々出来ない。

 

 至極真っ当な主張である。

 

 「納得ッ!! 確かにその様なスカウトの仕方では互いの信頼状況に悪い影響がある事は確かだ!! 」

 「で、ですよね!! だから……」

 

 理事長はいつものように元気ハツラツで応える。

 

 「しかし、私個人としては君と窯口トレーナーのタッグは是非とも応援したい!!

 提案ッ!! よって、ライスシャワー君と窯口トレーナーの契約は一時的な『お試し期間』にしてはどうだろうかと私は考える!! 」

 「お、『お試し期間』? 」

 「肯定ッ!! 二週間は窯口トレーナーとトレーニングを行い、その期間を過ぎて互いの相性が悪いと判断出来る場合は私の権限を持ってこの契約を破棄する事とする!!

 もちろん、この提案は窯口トレーナーにも直ぐに伝えよう」

 

 どうやら、この理事長が契約を今現在で破棄する事は無さそうである。

 ライスは内心で溜息を吐きながら、泣く泣くその提案を飲むしか無かったのだった。

 

 これは、無辜の民衆に『悪役』と呼ばれる少女と『妖怪』と呼ばれたトレーナーが。

 少女は『英雄』に、そしてトレーナーは『英雄の師』と呼ばれるまでの物語。

 出会いはどうやら、最悪な様だけれど。

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