ライス「お兄……? いやお姉……? 」   作:おもちゃ箱

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アニメとは別時空だけど、アニメに限りなく近い世界観です。
今回出てくる『彼』は、便宜上こう呼ばせて頂きました。


第三話 このカマは高性能足り得るか?

 「じゃ。早速トレーニングしていきましょうか! ライスちゃん! 」

 

 手のひらを二つ重ね、頬の横に添えて話す窯口。

 腰をくねくねと曲げながら話すその姿は余りにも不気味で、滑稽だった。

 

 ライスは窯口のその様子に口元を引き攣らせながらも元気良く返事をする。

 

 「は、はい! トレーナーさん! 」

 「うーん! イイ返事(へ・ん・じ)! 早速ターフに行きましょうか」

 

 そんなこんなでやってきたトレセン学園のターフ。

 長さ凡そ二千と二百。緑色に視界全てが美しく染まり上がり、瑞々しい芝の香りが鼻腔をくすぐった。

 この場に来た全てのウマ娘も、そのトレーナーも。皆一様に感嘆の溜息を禁じ得ない。

 ライスも同様に、自身の胸の高鳴りを抑えられないでいた。

 

 「流石の中央。やっぱり綺麗なターフよねぇ……」

 「はい……」

 

 うっとりと景色を眺める窯口とライスの二人。

 暫くぼうっとしているが、そうもして居られないと窯口が手を叩いた。

 

 「さぁ! まずは準備運動をした後に、ライスちゃんには一回このターフを好きなように走って貰おうかしら」

 「は、はい! わかりました!! 」

 「ストレッチはしっかりね? 少しでも違和感があるなら、直ぐに申し出る事! 」

 

 窯口の言葉に頷き、ライスは身体をほぐしていく。

 ────ほぐしていくのだが…………

 

 「ええとぉ……ライスちゃん? 」

 「なん、です、か、っ! 」

 「身体……硬すぎじゃない? 」

 「はうっ!? 」

 

 ぎくりと身体をこわばらせるライスシャワー。

 彼女は所謂、長座体前屈の体制をとっているのだが。

 はっきり言ってしまえば腰が殆ど曲がって居なかった。

 それはもう。ギシリ、ギシリと効果音が付いているかのように身体をほぐす彼女の姿は、見ていてとても痛々しかった。

 

 「うーん……体操はこの辺にして今から軽く走って貰おうと思ったけど……

 決めた! 後十五分ストレッチを続けましょう」

 「えぇ!? もう大丈夫ですよぉ……」

 「甘い!! 少しの油断が一生の怪我に繋がるの! ウマ娘なら特にね。

 二度と走れない身体にはなりたくないでしょう? 」

 「うぅ……はい」

 

 落ち込んだのか耳を折りたたむライス。

 しかし窯口の言う事は最もであり、彼女は素直に言う事を聞いた。

 

 「力任せに身体を折り曲げちゃダメよ! ゆっくり息を吐いていくの」

 「ふぅ〜! 」

 「身体をリラックスさせてぇ〜ふぅ〜」

 「ふぅ〜……」

 「よし良いわよ! ストレッチはこれでおしまい!

 次は身体を温める為にそこの階段を三往復! 出来る? 」

 「はい! やります! 」

 

 このトレーナー。見た目は奇抜だが、やる事は地道で説得力があった。

 ウマ娘に無理をさせず、その娘にあったトレーニングとその配分を決める。

 見た目のスパルタ感とは真逆のトレーニング術である。

 

 「終わりました! トレーナーさん! 」

 「良し! じゃあ早速走って貰いましょうかね」

 「このターフを一周ですか? 」

 「そう。好きなように、自由に走っちゃってぇん! 」

 

 腕を振るジェスチャーを加えて、窯口はライスに指示する。

 

 好きなように走れ、とは文字通りの意味だろう。

 ライスはスタート位置に着き、トレーナーからの合図を待った。

 

 窯口は右手にタブレットを構え、ホイッスルを口に咥える。

 

 「それじゃあいくわよぉ! よーい……」

 

 ────笛の音がライスの聴覚を駆け巡る。

 

 研ぎ澄まされた神経が確かに笛の音を捉え、一瞬の狂いも無く彼女の足を動かした。

 身体の熱は走れば走る程に上がっていき、それを冷まそうと向かい風を求めてスピードは上がっていく。

 視界はただ前だけを向いて、流れていく景色は全て過去になる。

 

 ──楽しい……楽しい!! 

 

 満たされる本能。渇望するスピード。

 今この場に於いて彼女の世界は彼女以外を全て取り除く。

 

 向かい風が心地良い、踏み締める芝の感触が気持ちいい、過ぎ去る世界が美しい。

 唯一不満なのが、早く走れば走る程、終わりの時が近づく事だった。

 

 (やっぱり。良い走りっぷりよねぇ……)

 

 ライスの走る姿を見て、窯口は感心したように笑みを深める。

 心底楽しそうに走るライスシャワー。

 ウマ娘としての本能の赴くままにがむしゃらに、貪りつくように走る彼女は、見る人を魅了して病まない。

 とあるウマ娘ならば、『私もああやって楽しく走りたい』と。

 とある人間であれば、『なんて楽しそうなんだ。応援したい』と。

 願望に直接語りかけて来るような走りが、彼女の魅力だ。

 

 「はいお疲れさま! 」

 「はぁ……どう、でした? 」

 「良い走りっぷりだったわよぉ! まあ、詳しい事はこの後。

 ミーティングするから、息を整える程度にジョギングしてきなさい! 」

 「わか、り、ました……はぁ、はぁ」

 

 息を切らし、それでも笑顔を浮かべながら窯口に返事をするライス。

 窯口はそれを笑顔で出迎えると、彼女にクールダウンを促した。

 

 景色は夕暮れの茜色に染まり、一日の終わりを示唆しているのであった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 時刻は午後六時。

 トレーナー室に戻ったライスと窯口は、今後の課題について話した。

 

 「そうねえ。まず、走り方については問題なさそうね。

 強いて言うなら腕の振り方が甘い事くらい。脚質についても、アナタの希望に応じて後々その走り方についても指導していくつもりよ」

 「は、はい! 」

 

 思いの外、好感触。

 ライスは褒められた事に多少照れる。

 

 「ただ、ここからが重要なのだけれど……」

 「…………はい」

 

 窯口がゴツい顔を更に重くしてライスに語りかける。

 本人がそう言うように、ここからが本題なのだろうとライスは察する。

 生唾を呑み込み、緊張が身体を包み込む。

 

 「ライスちゃん。身体硬すぎじゃない? 」

 「はうっ」

 

 痛いところを突かれた。

 

 「確かに、生まれつきって言うのはあるかもしれないけれど。かといって初めて見たわよ。腰が一ミリしか曲がっていない柔軟体操」

 「うぅ……」

 

 萎縮したように身体を縮めるライスシャワー。

 耳も垂れ下がり、明らかに落ち込んでいるように見える。

 

 「ああごめんなさいね。責めている訳じゃないのよ。

 ただね、あの状態がずっと続くと、怪我の心配があるのよ」

 「はい……」

 「これからの練習。最低でもお試し期間が終わるまでだけれど……最初の柔軟体操は通常よりも長く、ゆっくりと行っていくから。苦手かもしれないけれどそのつもりでお願いね」

 「わかりました! 」

 「うん! 怪我無く走って楽しくレース! 良いわね、忘れるんじゃ無いわよ! 」

 「はいっ! 」

 

 そんなこんなでミーティングも終了し、その場で解散となった。

 ライスはシャワーを浴びた後、寮の自室に帰宅。

 ゼンノロブロイと談笑をして就寝する訳だったが。

 

 その日、窯口には来客があった。

 

 「あら。こんな時間まで玄関で待っててくれるだなんて、情熱的じゃない……」

 「気色悪いこと言わないでくれよ窯口……まぁ良いわ」

 「それより、こんな新人トレーナー捕まえて。話って一体なんなの? …………『沖野ちゃん』」

 

 そこには、窯口とは違い。複数のウマ娘のトレーニングを受け持ち、『チームスピカ』を作り上げた『沖野トレーナー』の姿があった。

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