ライス「お兄……? いやお姉……? 」   作:おもちゃ箱

6 / 6
バイクに乗る代わりにウマ娘が走りながら遊戯王をする。
ライディングデュエルならぬランニングデュエルの妄想をしながらトリシューラを楽しんでいたら遅れましたすいません。
このアイデア誰か使って書いてくれてもいいのよ。

タキオンはタキオンドラゴン使って欲しいし、キングはキングデッキ使って欲しい。


第六話 叫び

 模擬レース。当日。

 

 沖野率いるチームスピカ。そして窯口とライスシャワーはレースを行うターフ前で向かいあっていた。

 

 「今日はよろしくお願いしますわ。ライスシャワーさん」

 「……はい! よろしくお願いします! マックイーンさん」

 

 差し伸べられた右手を、ライスが握る。

 両者共にやる気は十分。彼女たちのその様子に、トレーナー二人は満足げに笑みを深めるのだった。

 

 「うし、じゃあ挨拶はこれぐらいで各自準備運動に入ろう! 窯口も、それで大丈夫だな? 」

 「異論は無いわ。さ、ライスちゃん。身体をしっかりほぐすわよぉ〜」

 

 窯口と沖野はマックイーンとライスにそう促し、彼女たちもそれに従って各自で準備運動を始める。

 今回はスピカの面々も手伝ってくれるようで、ライスの後ろにはダイワスカーレットが付いて彼女の背中を押していた。

 

 「しっかし。今日はいい天気だなあ」

 「ええ、絶好のレース日和ね」

 

 本日は見事な晴天。

 雲一つなく、若草の香りが鼻腔を擽り、澄んだ空気が胸を落ち着かせる。

 バ場は良好。向かい風も無い完全な無風状態。

 二人の実力を完全に出し切れる最高の状況であり。逆に言えば、二人の実力差がハッキリとわかる残酷な状態でもある。

 

 「マックイーンは強いぞ」

 「うちのライスちゃんだって」

 

 静かに対抗心を燃やす幼馴染両名。

 互いの愛バが最高であると信じているトレーナー諸君は、やはり事この話題となっては譲れないものがあるのだろう。

 相手への最大のリスペクトを持って、尚担当の勝利を確信している。

 トレーナーとは、そういう人種なのだ。

 

 「準備運動。終わりましたわ」

 「こっちも、終わりました! 」

 

 マックイーンは至って冷静に、ライスはそんなマックイーンにチラチラと視線を向けながらそう彼らに報告する。

 沖野はマックイーンの様子に満足気だが、しかし窯口はチラチラと視線をずらすライスの姿を見て、微かに不安を抱いた。

 

 しかしここで不安を感じては仕方がない。

 温まった身体が冷めないうちにトレーナー達は彼女らをスタート位置につけ、スピカのゴールドシップがスタートのホイッスルを咥えた。

 

 「マックちゃーん! 音を聞き逃しちゃダメよぉ〜ん」

 「早くしてくださいまし!? 」

 「あはは……」

 

 ゴールドシップがマックイーンを茶化す場面が見受けられたものの、漸く真面目になった彼女がスタートの声を上げる。

 

 「よぉーい…………」

 

 ────鳴り響くホイッスル。

 

 澄んだ空気を伝って響いた甲高いそれは、二人のウマ耳に収まる。

 

 反射的に動き出した彼女たちの脚は、見事ターフの土を蹴り上げた。

 

 「よし! 」

 「スタートダッシュは良好。良いわよライスちゃん……! 」

 

 沖野と窯口はスタートダッシュの成功に手応えを感じ、笑みを浮かべる。

 

 「いいぞーマックイーン!! 」

 「二人とも頑張ってくださーい!! 」

 

 応援の声も相まり、出だしの雰囲気は良い物となった。

 

 さて、第一コーナー。

 両者の差は大体一馬身ほど。マックイーンが先行し、ライスがその様子を見るように背後に着く形となった。

 二人の差が広がる事はなく、お互いまだ様子見の段階なのだろう。

 

 (上手く張り付かれてはいますが……この程度、なんてことありませんわ! )

 (マ、マックイーンさん……! 速い! まだ着いていけてるけど、ここから差し切れるかな……)

 

 第二コーナーを曲がって最初の直線。

 マックイーンのスタミナはまだ余裕があるが、ライスは彼女を意識しすぎるあまり、自身のスタミナ管理が疎かになってしまう。

 彼女の息は少しずつ荒くなり始め、マックイーンもそんなライスの状態に気付きつつあった。

 それは勿論、窯口も同じである。

 

 (拙いわね。ライスちゃん、自分を見失っちゃってる……)

 

 焦るライスシャワーを見て、窯口の脳裏にはとある言葉が浮かんでいた。

 

 (『兎は亀を見ていた。亀はゴールを見ていた』……か。

 メジロのお婆さまは、素晴らしい格言をお持ちみたいね……)

 

 マックイーンは今、ゴールを見据えて第四コーナーを曲がり最後の直線へ入る。

 ライスもそれに追随する形となるが、息は先ほどよりも荒く、苦しいものとなっていた。目線は勿論、マックイーンの後ろ姿から離れない。

 

 (ここで……決める……!! )

 (……っ!? そんなっ!? )

 

 マックイーンの脚が更に力強くターフを蹴る。

 誇り高きメジロの芦毛が一陣の風となって直線を駆け抜け、ライスはそれに追い付けない。

 見る見るうちに広がる差。ライスの視界から遠ざかるマックイーンの背中は酷く残酷で、苦しいものだった。

 

 (いやだ……いやだ……いやだ……! )

 

 前を走られるのが嫌だ。

 自分より速い事が嫌だ。

 

 走っているのに楽しくない。

 差が開くのに比例して、胸が締め付けられるように痛くなる。

 辛い。悲しい。

 

 ────悔しい。

 

 そのまま、ライスは何も出来る事はなく。

 

 模擬レースはメジロマックイーンの勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 夜の中庭。三女神像があるこの中庭には、何故かは知らないが一つの切り株があり、その中は空洞となっている。

 何か叫びたいことがあればこの空洞に向かって叫ぶ。という、ある種トレセン学園のパワースポット的な立ち位置のこの切り株だが。

 そんな切り株の目の前に、ライスシャワーは立っていた。

 

 「すぅ〜……………………」

 

 息を吸い込む。それはもう、ウマ娘としての肺活量を最大限。いや、それ以上に利用して息を吸い込む。

 

 瞬間。ライスシャワーは切り株に手をつき、思い切り空洞に頭を突っ込んで叫んだ。

 

 「くっっっっっっっっっっっっそおおおおおおおおおおおおお!! 」

 

 声が枯れそうだ。自分の声が反響してうるさい。

 しかし、そのどれでもない理由で涙が溢れる。

 

 今までは競争で負けても悔しい事は悔しかったが、それでもここまで胸が張り裂けそうな程では無かった。

 ただ走るだけで楽しかったのに。周囲の娘なんて、関係なかったのに。

 

 今では、たった一人。前を走られただけで我慢がならない。

 

 悔しい。ただ、ただ悔しい。

 純粋な悔しさが身を包み、彼女は叫ばずにはいられなかった。

 

 「わからないけど……勝ちたかったああああああああああ!! 」

 

 抑えられない感情。ライスシャワーにとって初めての経験だ。

 

 「ライスちゃん……」

 「ト、トレーナーさん……!? 」

 

 急に声をかけられたライスが身を驚かせて後ろを振り向くと、そこには窯口の姿があった。

 

 みっともない姿を見られてしまった。

 ライスは涙を袖で乱暴に拭い、目を赤くして窯口を見やる。

 

 しかし、窯口はそんなライスを尻目に、自分もまた切り株に頭を突っ込んだ。

 

 「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 」

 

 地鳴りを思わせる轟音が、切り株の内部を駆け巡る。

 あまりの轟音にライスは尻もちをつくが、窯口はお構いなしだ。

 

 「ライスが勝てなかったのは『私』の責任だっっっ!!

 私の指導が足りず……私の慢心で……あの娘に悔しい思いをさせてしまった……!!

 私にもっと力があればあああああああああああああ!! 」

 「ふぇ……ふぇええ!? 」

 

 涙で化粧が崩れるのも関係なく。なんなら素の一人称が出て来ていたとしても、窯口は叫んでいた。

 ライスはそんな窯口の様子をみて唖然とする。

 負けたのは自分の実力不足の筈なのに、窯口はそれを自分の責だと悔いてくれている。

 自分と同じ悔しさを、共有してくれている。

 その事実がどうしても、彼女にとっては嬉しかった。

 

 「ライスちゃん! 」

 「ひゃ! ひゃいい!? 」

 

 窯口は地面に胡座を描き、尻もちをついたライスに視線を合わせる。

 そして連動するように、頭を勢いよく下げた。

 

 「こんな結果になってしまったけど……この通り!!

 アタシと正式に契約を、結んでくれないかしら……!! 」

 

 地面に額を擦りつけそうな勢いで、いや最早着いてしまっている状態の窯口を見て、ライスは口を開く。

 

 「やめて。トレーナーさん」

 「っ……」

 

 やはりダメか……

 

 窯口が無念に目を食いしばるが……?

 

 「頭を下げなくても、こっちがお願いしたいくらいなんだから」

 

 窯口が見上げれば、ライスは月明かりを背に、涙で腫らした目で優しく笑っていた。

 

 「ライスちゃん……!! 」

 「こちらこそ。私の指導、お願いします。『ローズねえさま』」

 「ローズ……ねえさま……っっ!? 」

 

 瞬間、窯口の脳裏によぎった、存在しない記憶。

 は、さておき。

 

 ライスシャワーは照れたように笑いながら言う。

 

 「ライスの事をしっかり考えてくれて、一緒に気持ちを共有してくれて……きっと、ライスにお姉さまがいたらこんな感じなんだろうなって。

 だからローズねえさま。だめ、かな? 」

 「滅相もない!? 嬉しい!! 嬉しいワ!! ライスちゃん!! 」

 「きゃ!? ちょっとローズねえさま!? 」

 

 窯口は高笑いを上げながらライスを肩車し、周囲を駆け巡る。

 喜びのままに、笑い続ける。

 

 ライスもそれに釣られるように笑って、それはそれは酷く楽し気な様子だ。

 

 これは、ここから始まるストーリー。

 彼女たちの果てしないウイニングロードの始まりだったのだ。

 

 尚、この後たづなさんに見つかって死ぬほど叱られたのは言うまでもない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。