「ほら!早くしなさい!」
「弾薬箱は二つ持つ!二つよ!!」
黒森峰学園艦の戦車格納庫に逸見エリカの怒声が響く。
1ヶ月後の対戦が決まり早々に準備が始まっているのだ。
整備自体は整備班の仕事だが、弾薬や燃料の搭載は彼女達の仕事だ。
安全規則により一回戦終了ごと全ての弾薬と燃料を降ろすため
対戦となれば再び全ての弾薬燃料を搭載しなくてはならない。
砲弾80発、機関銃弾6000発を背より高い戦車に運びあげる作業は本戦より重労働とも言える…
「ふ…副隊長…」
88ミリ砲弾を抱えた隊員が今にも座り込みそうな顔で
MG34機関銃の弾薬箱を車上に上げているエリカを呼び止めた。
「なに?」
作業を止められたエリカは不満げに彼女を見た。
「私、思うんですけど…機関銃弾って必要あります?」
声が聞こえていた範囲の全員が手を止めてしまった。
中戦車以上の車両には通常、副武装として3丁の機関銃が装備されているのだが
戦車道中にそれらが火を吹いた事は無い。
主砲同軸機銃は砲弾の命中地点を探る為に使う事もあろうが
蝿の目すら射貫くと言われる黒森峰戦車道部に必要な行動ではない。
つまり、300発の7.92ミリ弾が収まるクソ重い弾薬箱を20箱も
ただ毎回、積んでは降ろすを繰り返しているだけなのである。
「ほ、砲弾も毎回ほとんど使いませんよね…?」
黒森峰は撃てば必中、半矢などあり得ない。
ほとんどの車両は1発か2発を使う程度…
つまり、彼女は砲弾数発あれば事足りるのではないか?
とエリカに具申した訳だ。
砲弾80発から数発になれば準備は格段に楽になる。
話を聞いていた他の者達も「おぉ!」っと声を上げた。
エリカはニッコリ微笑むと隊員の肩に手を置いた。
「そう、ならアナタはオヤツ抜きで」
「へ…?」
突然のオヤツ抜きに隊員は唖然としている。
使わない砲弾を降ろす事で燃費だって変わるのだ。
合理的な判断だと褒められると思っていたのだが…
「人が生きて行くだけなら日々の食事で事足りるわ」
「そんなぁ…」
隊員は半泣きでエリカを見るが彼女の冷徹な表情は変わらない。
「さぁ!手を止めない!15時までには終わらせるわよ!!」
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「終わったわね…」
時計は19時を指している…隊員達が帰ってから4時間が過ぎた様だ。
1人、全車両の最終確認を終えたエリカは
乗車ティーガー2の前部装甲に着いた汚れをボロ布で拭き取る。
全車両異常無し…報告すべき件無し…
彼女はチェックシートの束を抱え隊長室のドアをノックした。
「失礼します」
「ご苦労だったな…」
黒森峰隊長、西住マホが彼女を出迎えた。
ピリピリとした空気をエリカは頬に感じる。
マホが不満げだとか、そういう訳でも無いのだが…
「ティーガー2両、パンター8両、準備完了しました。」
「うん…」
マホはチェックシートに目を通すとバインダーに綴じた。
「あ、ちょっと待ってくれ!」
敬礼し早々に退室しようとしているエリカをマホが呼び止めた。
「用事が無いなら、たまには話さないか?」