もしも冨岡義勇が嫌われる理由を知っていたら。   作:聖獅

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炭次郎の大正こそこそうわさ話

「煉獄さんはある時、お金持の人と芸者さんに会ってその人達を感動させたそうですよ」


夜、高級料亭で一しきり楽しんだ男とその連れが玄関先で何やら話している。

「暗くてお靴がわからないわ」

「どうだ明るくなつたろ」

そう言って彼は財布から出した、100円札(現代価値約20万円)を燃やして辺りを明るくする。

そこに、

「うむ!何をしている!」

「なんだ君は??変わつた髪だが・・・異人か?」

「おやまあ?そのお召し物、もしや警官さん?」

「そんな事はどうでもいい!そのような大金を無駄に使うとは不甲斐無し、それでどれだけの飢えた人達を救えるか!富める者は貧しき者を守る義務がある。冷めきった君達のその心を燃やしてやろう」

その後・・・

「暗くてお靴が見えなくても、心を燃やして僅かな光で希望を見つけるわ!」

「そうだ!真の価値はもつている金額の多さでは無く、如何に世の中が生き生きとなる金の使い方をするかだ!儂も元々は貧しい村の出だった」

「はっはっは!」




 時透無一郎が彼の道場で、隊士達に稽古を付けていた。

 

「皆全然駄目だね、僕より年上なのにその程度なの?悔しかったら一本取ってみなよ」

 

 彼は経験では無い類稀な才能で、それなりに死線を潜り抜け且つ背丈も年も上の隊士達を叱りつける。

 彼らも相手は上官の柱とはいえ、内心気分の良いものではない。自身の尊厳を傷つけながらも鬼を倒す為という大義の為には自身のそれを押し殺し、強くなる為に精進する。

 そんな時、道場の換気の為に開けられた窓から静かに冨岡義勇が侵入してくる。

 

 その場の一同が驚く前に次の瞬間、

 

ドゴン!

 

 轟音と共に不死川実弥が木刀一突きで道場の板壁に穴を開けた後、鉄山靠の要領で自分の大きさ程の穴を更に広げ破壊する。

 

 二人の登場に隊士達は驚愕し、無一郎は呆れて不動になる。

 

「冨岡ぁああ!!てめぇ、今度はわさび入れやがって、今日と言う今日はぜってぇゆるさねぇ、命日にしてやるぞおお、覚悟しやがれ!」

 

「心外だ・・・新たな味への挑戦だ・・・スイカにも塩をふるだろう?あれと同じだ」

 

「・・・ああ?中身全部わさびにしやがる馬鹿野郎が何処に居やがる!!」

 

「・・・・・・」

 

「何とか言いやがれ!!」

 

「加減を間違えた」

 

「・・・死にやがれぇええ!!!」

 

 

 風の呼吸 玖の型 韋駄天台風

 

 実弥は道場天井まで一瞬で跳躍し、冨岡に向けて無数の大小の様々な螺旋、竜巻の如き斬撃、更にそこからかまいたちを派生させ、空気を切り裂き、真剣程の斬れ味は鋭く無くとも当たれば怪我では済まない。

 

 ・・・やれやれ、頭に血が上って周りへの被害も気にしていないな・・・その事を一瞬の内に思考した後、

 

 水の呼吸 拾壱の型 凪 大海

 

 震え上がっている隊士達を後ろにし、通常の凪よりも広範囲・・・伊黒の柔軟性や伊之助の関節外しを応用する等で可動域を広げ、刹那の速さで木刀を広範囲に振るいそれらの攻撃を迎撃する。

 

 離れた場所でそれまで関心を示さなかったが無一郎が瞠目している。その余りの速さの斬撃に。

 

 だがそれでも、全てを迎撃しきれず道場内周辺に傷が付く。

 

「・・・お前達、怪我は無いか?」

 

「と・・・冨岡さん・・・」

 

 隊士達は今の実弥の技をまともに喰らえば、半殺しにはなるだろうと自覚し、半泣き状態になっていた。

 

 技を出し、着地した実弥は忌々しげに言い放つ。

 

「・・・面白れぇ、本来の柱稽古になってきたじゃねぇか・・・?お前ら!冨岡の影に隠れやがって、それで鬼を斬れんのか?ああ?」

 

 

 隊士達は彼の気迫に心底震え上がり、謝り倒す。

 

「冨岡!楽しくなってきたな?俺達との違いをもっと見せてみろ、今度は手加減しねぇぞ!」

 

「いや、今のは本気だっただろ?・・・あと用事を思い出した・・・さらばだ」

 

 そう言い捨てて、入って来た窓とは逆側から逃走する。

 

 実弥も再び逆側の板壁をぶち壊し、追跡を再開する。

 

 隊士達の誰ともなしに言う。

 

「あの人達・・・出入り口あるの知らないのかな・・・」

 

「・・・何しているの皆?呑気な事言ってないで、空いた穴塞いでよ。今日はそれが終わらない限り誰も帰さないよ。」

 

 無一郎の無慈悲な言葉により、彼らの悲痛な叫びを冨岡は聞こえた気がした。

 

 

 

 

 炭次郎や伊之助、善逸といった身体能力に優れた者達ならある程度のコツを掴むか、遮二無二していれば無意識により良い解を自分達で見つけ出して成長していく。だが、世の中そういう人間ばかりでは無い。

 

 過酷な環境で無意識に、より良い生き延びる身体の動かし方を見つけた天才、元忍び、宇髄天元。彼は先の上弦の鬼との闘いで片目片腕を失い、前線での闘いから退き、隊士達への指導に当たっていた。

 

 竹刀片手に罵声が飛ぶに飛ぶ。

 

「遅い遅い!お前らナメクジかよ!走るなんざ単純な事も出来ないのか!?上弦の鬼に勝てると本気で思っているのか、これで!?なぁおい!」

 

 苦しさで倒れた隊士を竹刀で叩き、しごきぬく。

 

 そんな彼らに呆れて、

 

「たくっ、どうしようもねぇな。質が悪い!」

 

 炭次郎達のように彼に匹敵する才能を持っていれば、気も合って来るが全員がそうではない。

 

「まぁ、そう言ってやるな。宇髄のようにはいかない」

 

 冨岡が彼の後ろで両膝に両手を添えてしゃがみながら話しかけた。

 

「・・・!?どわあ!冨岡、お前いたのか!?・・・やるな。俺相手に気配を悟らせねェとはな・・・、・・・俺の背後とるなんざ派手な事しやがる割には、地味な座り方してんじゃねえよ!」

 

「そんな事よりも、並みの隊士達相手に、宇髄と同じやり方をしても仕方が無い」

 

「んん!?じゃあ、お前が俺の代わりにしごくのか?」

 

「いや、俺は忙しい!」

 

「ふざけんな!!」

 

 一問答した後、冨岡は走るのにも技術が居る事、宇髄は無意識に行っている事、筋肉をただ酷使しただけでは余り成長せず、適度に休みその上で酷使し、また適度に休みを繰り返した方が成長する事。1人1人には個人差があり、休む時間の長さを変えた方が良い等助言した。時には毎日練習した方が伸びる者もいるが、それは千差万別だとも告げた。

 

「はぁ~・・・お優しいこって・・・んな1人に合わせてばっかりだぁ、日が暮れるぞ。ある程度までは考慮するが、限界があるぞ」

 

「これだけ大勢いるからな、やむを得ないが・・・元忍びのあんたに言わせたら、今のあんたのやり方でも、お優しい事だろうな」

 

「・・・・・・・」

 

僅かに空気が揺れる。

 

「お前・・・俺らの事調べたのか?」

 

「この大正の世でも、過酷な修行を課す忍びが居ると聞いた・・・最も表に出ないだけで似たような事をしている奴らも実は居るがな。忍びの目的が何かだ、過酷な訓練をする事が目的なのか、鬼を倒し1人でも多く生き延びる事が目的か、どれかだ。お前達の一族は政府に取り行って、俺達が子供の頃起きた露助(ロシア人への蔑称)との闘いには重宝されなかったのか?・・・それに今年も幾つもの国を巻き込んだ大戦さが起きている、俺達の国もまさか・・・まったく、鬼との闘いだけでも大変だと言うのにな・・・もしかしたら忍びの出番があるかもな、諜報部隊として・・・」

 

 冨岡は露助という表現が蔑称とは認識していない、周りでそう言っていたので、それが普通の表現だと思っている。

 

 彼ら鬼殺隊の屋台骨であり、御館様こと産屋敷耀哉は政府の有力者に金銭的な面で支援している・・・その事で本来は非公認の武装集団、鬼殺隊・・・公にはされていない彼らの存在の黙認、本来であれば政府管轄の軍隊でもない武装集団は警戒されても仕方がない・・・時には隊士達の日輪刀による帯刀などが見つかった場合も最終的には警察上層部で黙認にするように政府を通じ、圧力を掛けている。

 そして、これだけの実力を持つ隊士達の徴兵制も見逃されている。

 

 産屋敷耀哉は権力者・・・政府に一定の距離を置いており、我が子のように思う隊士達を人間同士の戦争に極力巻き込みたくないと口には出さないが考えている。

 彼ら産屋敷家は代々先見の明が有り、商売繁盛している・・・ただ、その利益の中には戦争特需も含まれている・・・。

 鬼を倒す為とはいえ、清い面だけでは無い産屋敷のその一面を知る者は、家族の一部の者と諜報で盗み得た冨岡義勇のみである。

 

「お前、今日はいつになく喋るなぁ・・・どうした?」

 

 宇髄は話をはぐらかそうとする。

 

「そうか・・・お前の親か祖父たちは慶応の時、幕軍(徳川方)の味方をした・・・だから、今の政府から良く思われていない・・・それで、かなり無理のある訓練もして必死に雇って貰おうとしたのか・・・哀れだな。・・・未だに政府は幕軍の事を良く思っていないからな」

 

 冨岡の推測に宇髄は肯定の言葉は言わなかったが・・・、

 

「だー!俺が生まれる前の話しなんざしらねぇよ!じじいが薩長か徳川か・・・しらねぇよ・・・けっ、昔の事なんざ忘れたぜ」

 

 彼はそれを肯定の意味で捉えた。

 

「たくっ・・・人の痛い所、ずけずけ突きやがって、だから嫌われんだぞお前」

 

「・・・お互い様だ、忍びのあの過酷な任務には、元々身分の低い者、罪人や捕虜がその任に就いたと俺は聞いている」(※あくまで一説です)

 

 嫌われていると言われ、反射的に少し頭に来た冨岡は、違う反論・・・宇髄本人ではなく一族そのものへの反論をしてしまっている。

 

 それを聞き、宇髄は少し驚いた。何故自分達がこんな過酷な訓練をしなくてはならなかったのか・・・その出発点が判ると多少納得した。

 ああ、だからかと。俺が並みの隊士達よりも図抜けているのは元々、そういう過酷な境遇だった先人達の血反吐吐く苦労の末に手に入れた身体のおかげなんだと・・・

 そう思うと、ほんの僅かだけあの冷酷無比な・・・自分の息子達に殺し合いをさせるような父親に本当に僅かだけ、自身にも受け継がれた才能と身体には感謝した。

 

「はぁ~なるほどな、もともとそんな感じだから人で無い扱いを受けたと・・・そんな人で無しな事して、任務の為には平気で無関係な奴を殺したりもしたわけか・・・、ははは・・・冨岡、お互い様なんかじゃねぇ、あいつらにとっちゃ俺の方がよっぽど嫌われているだろうな・・・」

 

 敢えてあいつ等とは誰か言及せず冨岡もまた聞かなかったが、宇髄はその後彼に、俺達柱の中では、俺はお前よりは嫌われていないと追撃した。

 

 一しきり話が横に逸れた後、再び訓練の話に戻した。

 

「まぁ・・・そうだよな・・・ちっ、俺がこんなザマになって、少しばかりイライラしてたかもな・・・」

 

 そう言って宇髄は自身の片手で失った目の窪に触れる。

 

「・・・宇髄、あんたは本当はそれでもまだいる上弦と闘うつもりだっただろう」

 

「・・・・・・いいや、もうこの状態じゃ足手纏いになるからだ」

 

「嘘だな、忍びなら両手両足無くそうが噛みつくなり、闘う。妻が三人もいて、怖くなったな?」

 

 一瞬、宇髄は杭に打たれた顔になった。自分独り死ぬのは別に構わない。あの時、上弦の鬼の毒にやられ、その窮地を炭次郎の妹、鬼の襧豆子に救われなければ、今この場におらず・・・あの瀕死の状態だった自分の周りで忍びらしくもなく、情に流され泣き叫んだ妻達・・・表面に出すか出さないかの違いで3人共号泣していた・・・。 

 自分はもうそんな妻達の泣き顔は見たくない、そう思うと弱気になってしまった・・・。その辺りを冨岡に見透かされ・・・

 

「・・・ははは、ははは・・・。冨岡、お前普段何考えってか判らない所があったが、意外に助平なんだな。見直したぞ」

 

そう言って茶化す。

 

「俺は助平ではない」

 

 彼はムキになって反論したのか、それとも同じく茶化して言っただけなのか表情からは判別しずらく・・・

 

「まぁ良い、お前も妻の一人や二人持てば・・・胡蝶や甘露寺を・・・いや、何でも無い」

 

 人としては同情出来るが、鬼殺隊には自分の恋人や人生の伴侶を殺されて入隊した者もいる、自身が甘いというのも宇髄自身弁えている。

 だが、冨岡は生まれが人間らしからぬ環境の宇髄が、鬼殺隊士としては甘くても人間らしい生き方に幾らかでも歩めたのであれば、それは黙認されても良い・・・他の柱達も何となくそう思っているだろうと感じた。

 

 宇髄は改めて尋ねた。

 

「なぁ、お前暇なら一緒にそこでへばってやがる隊士達に稽古つけてくれるか?」

 

「すまないが、俺はこう見えても脛に傷持つ凶状持ちでな、一所(ひとつどころ)に落ち着けん。では御免」

 

 冨岡はそう言って歩き去る。

 てちてち、と謎の音を立てながら。

 

 その後ろ姿に、宇髄は呟く。

 

「いや凶状持ち・・・?古・・・渋い事言うなぁ、お前。ははは、冗談も言うようになったん・・・ん?」

 

 血相変えてこちらに向かってくる不死川を確認する。

 

「てんめぇ、此処にいやがったか!今度はからし入れやがって、ぜってぇ許さねぇ!てめぇのせいで俺の稽古が進まねぇだろうが!往生して潔く死にやがれええええ!!!」

 

 冨岡は脱兎の如く走りだす、宇髄の前を不死川が走り去り、土煙を巻き起こす。

 

「げほげほ・・・いやぁ~若きは良いものだな~・・・おい、お前ら今の柱達の走り見ただろ!十分休憩は取れたな!とっとと走りやがれ!」

 

 再び宇髄の威勢の良い罵声・・・叱咤が飛ぶが、彼は冨岡達よりも2歳年上である。

 

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