もしも冨岡義勇が嫌われる理由を知っていたら。   作:聖獅

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 蛇柱・伊黒小芭内が住む、道場も兼ねた屋敷。

 

 その道場には隊士達が至る所に四方八方迷路のように木で縛りつけられている。

理由は、怒らせた罪(甘露寺蜜璃と話した罪)、覚えない罪、手間を取らせる罪・・・などなど。伊黒の訓練は、その哀れな隊士達の間を縫って、木刀を振るい彼に当てなくてはならない。

 

 不死川実弥との訓練の前に炭次郎達はこの難関である伊黒との訓練を終えなくてはならず、とはいえ炭次郎は数日間で終えた後・・・まだ終わりでは無かった。

 今度は罪など無くとも木に縛られ他の隊士の1人が合格するまで付き合わされた。・・・時折わざと伊黒に叩かれた事もあったが。

 そんな理不尽な面を覗かせる伊黒だが、同じ理不尽さでは引けを取らない不死川実弥が訪ねて来て、別室の茶室に招いた。そこは彼が頼んで造らせたものである。

 

 茶室は俗世とは掛け離れた空間の意味もある。

 

 伊黒は彼の忌わしき自分の一族に、自身が生まれた事自体に嫌悪感を抱いていた。一族が自分を鬼に生贄に差しだそうとした事、それを恐れ、命からがら自分が逃げ出した事で一族のほとんどが皆殺しになった事・・・

 あの時どうすれば良かったのか?彼らとともに鬼に立ち向かえば良かったのか?いや、自分を生贄に出そうとした一族だ、自分が逃げた事で逆上した鬼に殺されても自業自得だ・・・そう、自分には責任などない・・・いや、だが本当にそうなのか・・・?良心と罪悪感、一族と自分が和解した上で鬼を倒せた最良の選択肢は無かったのか?という葛藤で日々を生き続けている。

 

 そんな自分でも鬼に苦しめられている人を助けた時と、隊士達に八つ当たりしている時と、甘露寺と談笑している時が唯一その重圧を忘れられる。

 鬼を全て始末したら、その時は自害を考えてはいるが、その事は誰にも明かしてはいない。

 

 この茶室に居る時は厳かな心持・・・伊黒が精神統一、思索、分析を巡らす時にも役だっている。

 とはいえ、この間道場に縛られている隊士達はそのままである。

 

 伊黒達、柱は当然多忙であり、今は隊士達に稽古も付ける余裕があるとはいえ、そこまで暇では無い。こうして此処来るのはそれなりに理由があるのだろうと察し、開放体正座・・・両脚を開いた彼らしい正座をしている実弥に先程点てた茶を差し出した。

 

 薄暗い部屋内に静かに鉄瓶から湯気が立ち上り、彼がそれを飲み干すまで静寂な時が流れる。

 

「・・・不死川、お前ともあろう者が情けない・・・」

 

「・・・・・ぐっ」

 

 彼の耳にも入っている、冨岡と最近揉めている事。それにより隊士たちへの稽古が疎かになっている危惧(実弥の稽古は伊黒以上に地獄なので隊士達は密かに稽古を中断させてくれる冨岡への信頼度が増している・・・とはいえ、冨岡を取り逃して帰って来た時の彼の稽古は苛烈を極める)

 

「ふぅ・・・まったく、冨岡如きに些細な事で腹を立てるな、あのような柱としての責任を自覚しているか怪しい奴と俺達は違う。お前の好物を細工されたからどうだというのだ?これから上弦の鬼や無惨といった今までとはまるで違う鬼が相手だ。皆が団結しなくては勝てぬ・・・我を忘れ、冷静さを欠けば全滅だぞ。奴のように和を乱す者などほおっておけ」

 

 隊士達に対してとは打って変わって、言葉はともかく威厳のある父のような佇まいで説得されると不死川も黙って項垂れるしかない。

 

 その時、茶室の戸を叩く一人・・・一匹の、諸事伝達の鎹カラスだと察し、傍の実弥が戸を開けてやる。

 

「む?甘露寺の所の・・・文か・・・」

 

 そのカラスの足についている結ばれている紙を解き、中の文章を読む。

 

『ぜんりゃく  いぐろさまにおかれ、ひびつづがなくごたこうにてぞんじそうろう。かじつ、とみおかさまがせったくにおこしになられ・・・』

 

 漢字を書くのは苦手な為、間違わないように全て平仮名で書かれている。彼女の書いた内容を気持ちも読み解き、口語にすると・・・

 

『伊黒さん元気―?元気ですよね?あたしも元気です!でねでね?実はこないだ冨岡さんがうちに遊びに来たのー、きゃーどうしたんだろ?と思ってきいてみたの。それでね、炭次郎君からあたしの訓練内容聞いて、見学したいって・・・もうーはずかしーー!でね?そのやりかたではかなり時間がかかって、出来ない隊士もいるから、こういう風にやるんだって教えてくれたの・・・そしたら全部の子達が出来るようになったの、冨岡さん凄いわ―、あたし尊敬しちゃう!手取り足取り教えてくれてとっても親切だったわ、あたし考えるの苦手だからどうしても力に頼っちゃう・・・だから』

 

 全てを読み終えない内に伊黒はその手紙を畳に叩きつけた。本当は破り捨てたかったが、甘露寺の手紙だったので出来なかった。

 

 

「おのれとみおかぁあああああ・・・・・」

 

 立ち上がった伊黒からは憤怒の不動明王を想起させる気迫がみちみちていて、

実弥を驚かす。

 

「お・・・おお・・・?」

 

「何を愚図愚図している、不死川!追うぞ!あいつを・・・冨岡を血祭りにしてやる・・・絶対に許さん!」

 

「お・・・おう・・・も、もちろんだ・・・」

 

 実弥は、妻と子を殴った自身のロクデナシな父親の事を少しだけ思い出した。

 

 

 蟲柱、胡蝶しのぶの耳にも冨岡の話は入って来ている。ただでさえ、彼の行動には心を痛めているのに更に私の心痛を増やさないで欲しい・・・。

 姉の仇は是が非でも討ちたい・・・なのに、彼は・・・。

 

 自身への毒の投与の手が鈍る・・・、こうでもしないと上弦の鬼には勝てない・・・自分の身を犠牲にするぐらいで無ければ倒せる相手ではない・・・。

 




 2022/2/6
僕の住んでいる地区が豪雪でエライこっちゃになっていまして、家の前だけでなく、公道も少し除雪しました。ママさんダンプ(何故ママさんという名称が?)でまだ未熟ですが丹田力で押すものの地面の氷で滑って・・・渋々腕力にも頼って押していった次第です。
 気象予報士の人も言ってましたが、温暖化で大雪になっていると。水蒸気が暑さで膨張し、上空で冷やされて・・・。足りない頭でマシな事しようと思う次第です。原発も放射能汚染だけでなくCO2排出なので反対です。

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