3
二年ほど前の記憶。入団してから三年目の秋。実家に帰省しているときの話だ。
ありがたいことに何年たとうが、さらさの帰宅のたびに浅草のみんなはどんちゃん騒ぎを開いてくれる。その日も普段と変わらない集まりだった。違う点があるとすれば、暁也に用事があって来られないということくらい。それをのぞけばいつも通りの楽しい酒宴だった。
さらさの耳に車夫の翔ちゃんの嘆き声が聞こえてきた。
「かあ~~~~、さらさんとこに、りっくん取られちまった」
「なんの話ですか?」
「ドラフトよ」
さらさの疑問に答えたのは、蕎麦屋の娘のケーコだった。彼女は翔の妻であり、さらさのバレエの師匠でもあった。
「ドラフトってプロ野球のですか?」
「そうそう。野球選手の就活。この前のドラフトでさ、こいつの推しの野球選手が、関西のチームに行っちゃったのよ。それでへこんじゃってるのよね」
「その人すごい選手だったんですか?」
「どうなんだろう? わたしも名前しか知らないのよね。で、どうなの、翔?」
「え~、いっつも俺が言ってるじゃん。センスの塊だって。大学野球じゃ敵なしだったんだよ。いくつも新しい記録を塗り替えて、何度もチームを優勝に導いて、あーなのに、なんで関西なんだよ。神奈川出身なんだから、せめて関東の球団に入ってくれればいいのによ~」
「だってさ」
「はあ。そのかたは大学生のかたなんですね。ドラフトって、初々しい坊主頭の高校生が詰襟姿の学生服に身を包みながら、がちがちに緊張しているイメージが強かったもので」
「いつの時代の話よ」
「りっくんは遅咲きの努力家でさ。大学のリーグ戦で頭角をあらわしたんだけど、初めて生で試合見たとき感じたんだ、こいつは将来はあの偉大なお兄ちゃんよりも凄い選手になるってな」
「翔、それはさすがに言い過ぎじゃないの? お兄ちゃんって元メジャーリーガーで相当凄かったんでしょ?」
「たしかにお兄ちゃんの記録は抜けないかもしれないけれど、俺としてはりっくんの方がプレイスタイルが好きなんだよな」
「へえ~、そのりっくんってかたのご家族もすごい野球選手だったんですね」
「ツジカイト。一世を風靡した野球選手。テレビとかで見たことあるでしょ? 金髪でチャラい。見た目通りの肉食男子」
「あ、思い出しました! 女子アナさんやモデルさんなどを相手に浮名を流してた方ですね」
「そうそう。でも弟くんはテレビで見た感じ、全然そんな感じじゃなかったわね」
「りっくんは草食系なんだよ! 線が細くて、ちょっと暁也に似てるところとかが、庇護欲そそって、なんか可愛いんだよなあ」
「はぁッ? 何目線なのそれ? 引くんだけど?」
「え、ケーコ⁉」
「いやいや全然似てねえっすよ、暁也なんかとは。あいつなんて年々性格キツくなってきて、煌三郎兄さんが二人になったみたいで…ってああ、思い出したら気分悪くなった」
今度は違う男性が間に入ってくる。暁也と同門で年上の歌舞伎役者の丈之介だった。
「丈之介、あんた暁也いないのにいっつもいるわね?」
「姉さん、それ毎回言いますよね? もう俺何年も来てるんですけど⁉ いい加減へこみますよ⁉」
うまい具合に話が逸れ、これ幸いとばかり翔ちゃんが親指を立てて、丈之介に感謝のアイコンタクトを送り、丈之助も同じテンションで返していた。さらさもケーコも面倒くさいので、いちいちつっこまない。
「まあ、だからさ、さらさにはさあ、たまたまでいいんだけど、たまたまな。神戸でりっくんに会ったとき、サインもらってきて欲しいなあ~とか思ってるんだけど、どう?」
「いや、無理でしょ」
「無理っすね」
ケーコと丈之介が同時にツッコミをいれる。
「え~可能性はゼロじゃないじゃん。ばったり街で会うかもしれないじゃん。なあ?」
期待のこもった熱い視線がさらさへと注がれる。
「え? あ、はい、サインですね。もし会ったならもらっときますよ。…会ったなら」
「おお、サンキューさらさ!」
酒の席だからと、適当に話を合わせる。だから、後になって、わざわざ検索してどんな顔をしているのか調べようなんて思ってもいなかったし、するつもりもなかった。
その一日は、さらさにとって暁也がいない分、少し物足りなさがあったけれど、普段と変わらない楽しい集いでしかなかった。
4
さらに昔のこと。
そろそろ紅華音楽学校の卒業が目前まで迫ってきた頃の思い出。
歌劇団に入団したばかりの新人は、簡単なプロフィールを雑誌に公開することになっていた。紅華ではお約束のイベントで、みな互いのプロフィールの内容をどう書くかで盛り上がっている。
そんな中、たまたま彩子と薫の会話がさらさの耳に飛び込んできた。
「薫って高校野球が好きだったの?」
「ん? んん、ま、まあね」
口元に苦笑いを浮かべ、見るからに動揺を隠せていなかった。
「薫が野球を観てるところなんて見たことなかったから、びっくりしちゃった」
「まあ、スマホとかでちょこちょこね」
「薫って神奈川出身よね? 神奈川って全国でも高校野球のレベル高いって、聞いたことあるんだけど、薫の学校も強かったの?」
「えっ? あ、う~ん、うちの高校はたぶん万年地区予選二回戦負けかな? でも、南校っていう近くに別の強豪校があってね、そこは一昨年甲子園に行ったのよ。県予選の決勝でね、途中までは負けてたんだけど、九回の裏になんと逆転サヨナラホームランが飛び出したの! それでなんと20年ぶりの甲子園出場!」
自分の出身校でもないのに誇らしげに語る薫の姿が、妙に可愛らしく映った。普段つっけんどんな印象が強いせいで余計にそう思える。親戚の子を見るような、彩子の生暖かい眼差しに気づいて、薫は握りこぶしをとくと、恥ずかしそうに両手を後ろへと隠していった。
「甲子園は一回戦で負けちゃったみたいなんだけどね…」
「うん。薫ちゃんが本当に高校野球が好きだってことはよくわかったよ」
「あはは…そう、かな? そんなふうに言われると、なんか恥ずかしいかも」
「私の中学にもね、高校野球が好きな子がいたの。その子はさ実家がこっちのほうらしいから、毎年夏は帰省を早めて、わざわざ開幕から甲子園を観に行ってるんだって。凄いよね、あんなに暑いのに、自分の学校でもないのに」
「うん。あっでも、なんかわかるかも」
「そうなの?」
「うん、私たちに似てるっていうか、甲子園って人生で三回しかないじゃん。たった三回。私は四回目もあったけど、時間制限がある中で今この瞬間のためにがんばるところとか、すっごくひたむきで、勇気がもらえて、だから、きっと好きなんだ」
「…と思う」と最後は恥ずかしそうに、小声で薫がつぶやいた。
「さらさ知ってましたよ!」
辛抱たまらんとばかりに、とうとうさらさが割り込んできた。突然の闖入者に二人は呆気にとられている。
「はあっ~、またあんたはいきなり何を言い出すのよ」
「さらさちゃん、一人称がまた…」
「星野さんが野球好きだということを、さら…いえわたしはすでに知っていたのです!」
えっへんと胸を張る。
「なぜならば去年、ひとりで野球中継観ているところを、ばっちり目撃してしまったんですよ~」
「ちょ!?」
「へえ、そうなんだ」
「あれ? でも、あれって高校野球でしたっけ? なんだか違ったような…って、なんですか星野さん!? 近いです、近いですよー⁉」
眉間にしわを作った薫がぐいぐい迫ってきていた。
「なによ、野球好きが、野球中継観てたら、なんか変なの、おかしいの。ねえ?」
凄みながら威嚇をしてくる薫に、さらさは壁際まで追い詰められてしまっていた。
「い、いえ、そういうわけじゃなくて、さらさはただ…」
「ただなによ?」
「さらさちゃん、主語主語!」
「え? あっ、はい、すみません? だから、さら、いえ私は…」
そんなこんなでうやむやになり、薫からの圧が怖かったことしか、さらさの記憶には残っていなかった。
5
本科生になってすぐの、六月のことだった。
休日の寮の談話室に行くと、星野薫がつまらなさそうな顔をして、ひとりでテレビを観ていた。
珍しいこともあるものだと、さらさは声をかけることにした。本当にただの好奇心だったので、その後の薫のリアクションに違和感を覚えたものだ。
「何を観ているんですか? 野球ですか? 星野さんって野球好きだったんですね? 知らなかったです! どこのチームが好きなんですか?」
「ちょ、さら⁉ …別に、なんとなく暇だったから観ていただけ」
最初は少し動揺している様子だったが、すぐに平静を取り戻したようで、あごを反り上げいつもの無愛想な口調になる。
「でも、これってプロ野球の試合じゃないですよね? なんだか見たことないユニフォームや名前です。高校…でもないみたいですし。ああ、大学野球ですか。なんだか珍しいですね」
さらさとしては、単純に疑問を口にしただけだったのだが、薫としては完全に凍り付いてしまった。今薫が観ているのはプロ野球の試合ではなく、大学野球の試合。普通ならばテレビ中継などほとんど行われないが、大学野球のリーグ優勝がかかっている一戦だったため特別に放送されていた。
つまり放送されていることも珍しければ、休日にわざわざそんなマニアックなものを観ていることも珍しい。「野球マニアさんだったんですね」なんて言いながら、髪の毛を犬のしっぽみたいに震わせながら近寄ってくるさらさを、うっとうしそうに薫は手で追い払っていった。
『さあ、このチャンスで打順は偉大な兄を持つ二年生の辻。去年はベンチ入りもしていませんでしたが、今大会は大活躍ですね』
『そうですね、この一年無理せず大事に育てたことが、逆に功を奏した形になりましたね。高校時代とはもはや別人ですよ』
薫の肩がビクッと反応した。
「どうしましたか?」
「別に。ちょっと空調が寒かっただけ」
「そうですか? さらさにはちょうど良いですが?」
「そんなことより、口調!」
「へ?」
「あんたまた、一人称戻ってるわよ? そんなんじゃ後輩に示しがつかないじゃない。また舐められるんだから、気をつけなさいよ」
「あっ、はい」
するとテレビから快音が鳴り響いてきた。
『打ったぁッ!走者一掃のツーベースヒット! これで一気に二点追加です』
『この一打は大きいですね。これで今大会の辻のMVPも見えてきましたよ』
「うわ、すごいですね…って、あれ?」
いつの間にか席を退室しようとする薫を、さらさが呼び止める。
「いいんですか? テレビ、今いいところだったんじゃないんですか?」
「別に。なんとなく暇だったから観てただけなんだから。そう、さっき言ったでしょ? それに、ちょっと寒いからここ」
薫は振り返ることなく、さらさに背中を向けたまま答えた。寒そうに両手で自らの肘を抱きしめ、猫背気味に肩をかすかに震わせている。そのまま黙って去っていく薫の後ろ姿を、さらさは不思議そうに見送った。
「あれは寒いというよりも、むしろ…」
大好きなおやつを前に、「いらない」と意地を張る、子どものそれに思えて仕方がなかった。だからこそ、余計に不思議だった。何が薫をそうさせているのか、そのときのさらさにはまったく見当もつかなかったのだから。
6
『伝えたい人がいるので
この夏だけ貼らせて下さい
あの時の君へ
僕は今も野球をやっています
ありがとう』
ああ、ようやく思い出した。
始まりはここ。
きっかけは、さらさ自身だったのだ。
渡辺さらさは常に探していた。新しい刺激を。歌舞伎を忘れるための劇薬を。それは紅華という次の夢が見つかった後も、さらさの中で趣味という形で残っていた。暇を見つけてはスマホ片手に、何か目新しいものを探す。他愛のないポエム。奇抜な写真。奇をてらった動画。浮かんではすぐに沈み消え、また新しい刺激があらわれる、その繰り返し。
だから、そのありふれた画像も、本当ならば情報の海の中、もくずとなって消えていくだけの定めであった。
紅華音楽学校に入学してから、最初の夏が終わろうとしているとき、ひとつのツイートがさらさの目に留まった。
二枚の写真の画像だった。
バス停と、そこに掲示された一枚の張り紙。
単なるメッセージと呼ぶには、それはあまりに狙いすぎていた。意図して書いたにしては、あまりに稚拙な内容。けれど、そうばっさり切り捨てるには少しもったいないほどには、不思議な魅力を宿していた。
富士山を望むことができる海岸沿いのバス停という絶好のロケーションと、わざわざ手書きというアナログな手法で、あんなストレートに青臭い文章を書くだなんて。一部の人間にとってご褒美といっていい内容。オタクを自任するさらさの乙女心にもびんびんに突き刺さってきた。
もちろん画像をアップロードした人間と、実際に文章を書いた人間は別だろう。ウケを狙った自作自演に今まで何度も騙されてきたので、今回のこれは絶対に自演なんかじゃないと直感が告げていた。
では、なぜこの文章を書いた人物は、読んでもらえるかどうかわからない、張り紙なんていう旧時代的な方法を選んだのだろうか?
さらさは妄想する。それこそオタクの専売特許だ。
野球をやっているから、おそらく男性。
それもたぶん十代。
言葉づかいはしっかりしているから中高校生くらいか?
いや張り紙という手段を使っているのは、スマホを持っていない子どもという可能性もある。
そしたら、小学校の高学年あたりか。
なるほどなるほど。
では、こんな感じだろうか?
『地元の少年野球のクラブチームに所属していた少年は、チームの誰よりも技術的には未熟だった。けれど、周りからは下手くそと馬鹿にされながらも、野球が好きで毎日一生懸命練習していた。
そんなある日、少年は盲腸になり手術することになる。
入院中は練習ができない。このままでは、もっと下手くそになってしまうと落ち込んでしまい、野球そのものを辞めてしまおうかと考えてしまう少年。
そんなとき、病院で一人の少女に出会う。
同い年くらいの可愛い、肌がとても白い少女。彼女は少年よりも前から入院していた。思わず自分の悩みを口にすると、彼女は言った。
「選ぶことができるだけ、うらやましい。良いご身分ね」と。
聞いた瞬間、最初は怒りで頭がいっぱいになった。しかし、次の彼女の言葉を聞いて、少年は何も言えなくなった。
「何かやりたくても、わたしは始めることもできないもの」
少女はずっと入院していた。学校なんてほとんど行ったこともないと。
ある晩、少女がめずらしく深刻そうな表情を浮かべていた。
「死にたくない」
それは少年が初めて聞いた、少女の本音であった。
次の日、少女の退院が決まった。でも、それは実際にはただの転院で、今の病院では少女を治すことができないから、少しでも手術が可能な病院に移るということ。
そしてここから舞台は慌ただしく場面展開を始める。
なぜか自動車やタクシーを使わずに、わざわざバスで行こうとする少女。しかも、家族はおらず一人で海と富士山が見えるバス停に立っている。少年はこっそりと病院を抜け出して、バス停へと向かう。もちろんバスの方が少年よりわずかに先に到着するのだ。
乗り込もうとする少女と、息も切れ切れな少年の視線とが、交差する。少女はただ微笑むだけ。少年は何も言えずに立ち尽くし、声を掛けることも手を振ることもできず、ただ黙って見送ることしかできなかった。
ひと夏のほろ苦い思い出。
退院後、少年は野球を続けることを選んだ。どれだけ馬鹿にされようとも努力をやめなかった。そして、じょじょに彼の技術は向上し、チーム内でも注目されるようになった。
すべてあの少女のおかげだと思った。けれど、少年は少女の連絡先なんて知らなかった。それでも、ありがとうと言いたかった。だから、少年は夜中にこっそりとバス停へ行き、あの文章を貼った。わらをもすがる気持ちで、少女に少しでも届くように祈りながら…』
「ああ、最高です~♪」頭の中で喝采が鳴り響いていく。さらさとしては、一刻も早くこの感動を誰かと共有しなければならないという義務感に駆られていた。
犠牲者に星野薫を選んだのはただの偶然だ。決して意図したものではない。たまたま近くにいたから。その程度のことだった。後は、自己紹介のとき実家が神奈川だと言っていたような気がしたから。要は運が悪かっただけ。
「ロマンティックですよねー♡」などとつぶやいているさらさの頭の中を、もしも直接薫がのぞくことができたのならば、きっと赤面ぐらいではすまなかったことだろう。
最初話し掛けたときはいかにも不機嫌そうな薫だったが、さらさの差し出したスマホの画像を見ると、途端に態度が軟化していった。普段の薫をよく知る者であれば、様子がおかしいことに気づきそうなものだが、あいにくそのときのさらさは妄想で忙しく、そこまで気が回らなかった。
「ところで、星野さんはこのバス停知っていますか?」
「へっ? ま、まあね、地元だし。あ、でも、ちょっと私の生活圏からは少し離れているから、基本使わないっていうか…でも、去年の夏は、おばあちゃまの病院に通うために何回か利用したこともあるっていうかなんというか」
「病院って、入院してたんですか、おばあちゃん? 大丈夫だったんですか?」
「ああ、うん、大丈夫よ。たいしたことなかったから。ありがとう」
「はい、良かったです! あっ、ということは、このバス停に行ったことがあるんですよね。張り紙はありましたか?」
「な、ないに決まってるでしょ! だってこれ今年なんでしょ? 行ったのは去年の話よ」
「う~、残念です。どんな人が張って、誰に宛てたものなのか、気になります~」
「っていうか、私SNSなんて見ないし、今さらこんなの反則よ…」
頬を膨らませてふてくされているさらさの横で、薫は頬を赤く染め何やら小声でごにょごにょ言っていた。なんとなく聞こえてはいたけれど、別段気にもとめなかった。
7
「そんなことって、本当にあるんですかね…」
ようやく口を開いたかと思いきや、また何かを考えてるような素振りを見せ黙りこくってしまった。すると今度は勢いよく立ち上がる。何事かと不思議そうに首を傾げていると、さらさが視線を送ってくる。その眼差しには何かを確信した、力強い輝きがあった。子どものころ、歌舞伎の舞台で見せた、あの横顔と同じものだった。
「暁也くんにお願いがあるんです。可愛い彼女から彼氏への大事な、大事なお願いです」
真剣でありながら、少し茶化すような物言い。こういうときのさらさは良くも悪くも問題しか引き起こさないということを、長年の経験から暁也は知っていた。
「もしかしたら、さらさの勘違い。単なる思い込みかもしれません。もしそうだったら、暁也くんは少し恥ずかしい目にあってしまうかもしれないんですが、暁也くんならうまく誤魔化せると信じていますし、たぶん合ってると思うんで、大丈夫ですよね!」
「なにが⁉」
「さらさは知ってたんです。たぶん、さらさだけなんです。他の人じゃ気づけない。だって、知らないんですもん。わかりっこありません。神様がさらさに気づいてと言ってくれたんです」
「ごめん、全然話が見えない。どういうこと?」
「つまりは、暁也くんにすべて掛かってるということです。期待していますよ?」
さらさが笑う。先ほどまでの空元気とは違う。普段通りの快活な姿。何がどうなっているのかわからなかったけれど、暁也もとりあえず微笑んでおいた。どんな目に合うのか、内心では冷や汗をかきながら。