ヒーローとかヴィランとか知らんが、仕事なんでね   作:みみっちい小悪党

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1話 完璧仕事人ワタリ

 世の中は不公平だ。

 『個性』なんてものが世の中にひしめき合うようになってから、不安定な天秤の上に成り立っていた社会はあっけなく崩れた。

 

 例えば、パチンコや競馬、他の賭け事なんて、『個性』があればイカサマし放題なもんだから、当たり前のように消えていった。

 その代わりと言っちゃなんだか、『個性』を活かした職業なんかは馬鹿みたいに増えた。

 その最たるものが――

 

「ヒーロー、ねぇ」

 

 ワーワー、キャーキャー。

 コンビニ強盗、とかいうショッボイ悪事を働いた『小悪党(ヴィラン)』を捕まえたヒーローが歓声を浴びている。

 なんでも最近若い層を中心に人気が出てきた新人(ニューフェイス)だとかで、騒いでいる連中は制服を着たガキ共がほとんどだった。

 

「ごくろーなこったよ、まったく」

 

 ぷぅ、とフーセンガムを膨らませながら口の中で悪態をつく。

 こちとら『個性』のお陰で苦労してるってのに、その内容がちょっと違っただけでこの差だ。

 

「はーあー、まったくやってらんねぇよなあー」

 

 やってらんないが、仕事はとっとと済ませてしまいたい。

 そんな訳で俺は人垣の間をするりするりと抜けながら、コンビニに近づいていく。

 

「君、ここは関係者以外立ち入り――」

 

 キープアウトと書かれたテープラインを越えようとしたところで警察官が声をかけてきたので、俺は『何も書かれていない手帳』を目の前にかざした。

 

「あ、どもー。僕ぁ警視庁捜査一課の田中です。これ手帳ね」

「――ハッ。これは失礼しました! どうぞ中へ」

「あざーす」

 

 チョロいもんだぜ、と心の中だけで呟いて遠慮なく中へ歩みを進めたる。

 

「お邪魔しまぁす」

 

 ただのコンビニ強盗だったのもあって、鑑識なんかも撤収済みらしい。中は人っ子一人居やしなった。

 

「もぉくてきの物はぁっと」

 

 散らばった商品や証拠撮影用の番号札を蹴飛ばしながら中を物色する。

 目的の物は数分もせずに見つかった。

 

「おーあったあった、コレコレ」

 

 ひょいとつまみあげたのは、一見ただの錠菓のケース。

 その実、1つ食べればかのナンバーワンヒーローに匹敵する力を得られる――と触れ込みのヤバい薬だ。

 

「ま、それがホントかはわかんないがねぇ」

 

 とりあえずこれで目的は達した。こんな所に用なんてもうない。

 そんな訳でとっととずらかることにした。

 

「あ、君。すまない、ここで何かあったのかな?」

 

 のだが、コンビニを出たところでヒョロヒョロガリガリの目がめちゃくちゃ窪んだオッサンに声をかけられた。

 なんだコイツ、病人かなんかか? と思うが、まあ適当にあしらえばすぐ関わりもなくなるので、とりあえず適当に答えてしまおうと思った。

 

「ただのコンビニ強盗ですよ。ヴィランはヒーローに捕まって、それで終わりです」

「そうか……。それなら良かった」

 

 ありがとう、と一言残しておっさんは去っていった。

 なんだったんだあのオッサン。ヒーローのファンか?

 

「……ま、いいや。とりあえずこれ渡しに行くか」

 

 

 

 

「ほい、ドクター。例のブツ」

「ほっ、とっとっとと……! これ、ワタリ! 貴重な研究材料なんじゃから大事に扱わんか!」

 

 ぽいーと投げたケースを慌てて受け止め、白衣を着たジジイがギャーギャー文句を言ってくる。

 

「俺が頼まれたのはソレの回収だけだ。丁重に扱えってんなら、それも内容に含めとけよ、ドクター」

 

 ぐぬぬ、とドクターはしばらく唸っていたが、直ぐにケースを持って部屋の奥に引っ込んで行った。

 そんだけ大事な研究材料らしい。

 

「いつもすまないね、ワタリ」

「あん? なんだ『先生』、起きてたのか」

 

 部屋の中央。ドン引きするくらいのパイプが集まる中心に、黒いスーツを着て趣味の悪いマスクを着けたオッサンが話しかけてきた。

 何時もなら寝てる時間だったもんで、意外に思って言葉を返すと先生はクツクツと笑い出す。

 

「いやあ、何時もなら大人しく寝てるんだが、先程面白いものを見てね」

「面白いもの? 先生が珍しく目を覚ますほどのか?」

「あの薬を回収する時、痩せぼそった男に会っただろう??」

 

 痩せぼそった男……と言われて、あのヒョロガリを思い出す。

 

「ああ、それが?」

「彼こそが僕の『宿敵』なのさ」

 

 宿敵?

 先生の宿敵ってーと……あれ、なんだっけ。前に聞いた気がするけど。

 

「悪い先生、前にも聞いた気がするけど忘れた」

「くふふ、相変わらず忘れっぽい子だね。君は」

「先生ほどじゃないさ」

 

 あんたよく興が乗って当初の目的忘れるじゃん、と言うとまた先生はクツクツと笑った。

 

「まあ君が覚えないとなると、彼は君にとってその程度の男なのだろうね」

「ふーん……まあどうでもいいけどさ。先生、次の仕事はあるか? 無いようなら今日は帰るけど」

「ああ、すまないね。忘れていたよ。君の言う通り、僕はどうにも忘れっぽいようだ」

 

 そう言うと、先生はこれを見てくれとタブレットを差し出してきた。

 

「なになに……っておいおい、正気かよ先生」

「ああ、いたって正気だよ」

 

 渡されたタブレットには簡単な仕事の内容が書かれていた。

 日程、目的、報酬、それから『雄英高校』の見取り図。

 

「天下の雄英高校に潜入して、それでやることが『授業の日程を盗む』だけ? 今どきの配信者でさえもうちょっとマシな企画立てるぜ」

「ハハハ、残念ながら私は配信者ではなくてね。それで、受けてくれるのかい? ……ああ、それとも」

 

 ツ、とマスク越しに先生と視線が交差した気がした。まあ先生の目は潰れてるから、感覚だけど。

 

「君には難しい仕事だったかな?」

「ハッ。誰に物言ってやがるよ先生」

 

 挑発するような声音に、俺も挑発的な笑みを返してタブレットを突き返した。

 

「俺は絶対に断らない完璧仕事人、ワタリ様だぜ?」

 

 

 




Q.1
 名前の語源はなんですか?

A.1
 世渡り上手のワタリ様だ。語源は3秒前に考えた。
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