ヒーローとかヴィランとか知らんが、仕事なんでね 作:みみっちい小悪党
「――誰だ、あの人」
「ああ? どうした切島」
警報が甲高く鳴り響く中、一先ず避難経路を辿っていた切島、上鳴、瀬呂の3人。
その途中、切島が玄関口から入ってきた人影を見て足を止めた。
「女の人、か……?」
「……明らかに学生じゃないよな」
「体つきはグラドル並みだな」
「そういうこと言ってんじゃないよバ上鳴」
「バ上鳴!?」
とはいえその通り、通路をキョロキョロと見回しながら歩いてくる女性は、どう見たって学生ではなかった。
うなじあたりで纏められた金髪に真っ赤な瞳。上はグレーのパーカーと白のシャツ、下は紺のホットパンツと黒いニーソ。オマケに焦げ茶のブーツを履いている。
雄英高校の教師にしては若すぎるし、生徒の親族にしたって今日はそんなイベントなんて無いはずだ。
ましてやこんな状況だ。3人は顔を見合せひとつ頷くと、女性に近づいた。
「あの、どちら様ですか?」
「おろ?」
なんてこった顔と体だけじゃなくて声も可愛い。
「おい上鳴」
「ハッ」
一瞬オチそうになった上鳴だが、瀬呂に肘でつつかれ正気を取り戻した。
「おやおや、もしかして雄英の学生さんかな?」
どう見たってそうだろ、とは思うが3人は口に出さず女性の出方を伺う。
そんな3人の様子に女性はニンマリと笑顔を浮かべ、ホットパンツの後ろポケットに手を回した。
「――ッ」
ほぼ反射的に切島が身構え、瀬呂が肘を曲げ、上鳴が1歩後ずさる。
「嫌だなあ、そんな身構えないでくださいよォ。ワタシ、タダノ、セイソウギョウシャ、アル」
そう言いながら女性が見せたのは、何も書かれていない、白紙の手帳。
「――
警戒して損した、と切島が息を吐くと同時に、瀬呂と上鳴もホッと肩を落とした。
それを見て再びニンマリと笑った女性は、手帳を仕舞いながら、それで、と話を続ける。
「実は職員室の方に挨拶に向かわなきゃなんですけどぉ、うっかり場所を聞くの忘れちゃっててぇ」
「あ、それならこの通路を真っ直ぐ行った左手にありますよ。案内しましょうか?」
「いやいやそれには及ばんよ、ありがとさん」
「あ、気をつけてくださいね!」
「ヘイヨー」
パタパタと手を振りながら通路を歩いていく女性を見送り、3人は再び避難経路を辿り始めた。
「第二関門クリア、ってね」
親切な学生さんの協力を得て、辿り着いた職員室。
失礼しまーす、と扉を開けて中に入ればなんとも見事なもぬけの殻。不用心の塊かよプゲラ。
「目的のブツはぁ、っとぉ……」
ガサゴソ、ガサゴソ。
一応指紋がつかないように手袋をしながら漁ること数分。
「お、これかな?」
クソ分厚い書類の表紙に目をとめて持ち上げる。適当にパラパラめくって見た感じ間違いなさそうだ。
「いやあ、国立の癖に管理ザルかよクソワロタ」
さて目的のブツは回収したので、後はもう1箇所だけ寄って終わりだ。
「んじゃ、お邪魔しまんた〜」
第三関門、クリア〜。
「あ、居た居た。おーい、黒霧ぃー」
第四関門をクリアして集合地点に戻ってくると、遠目に見える雄英高校を眺めていた黒霧を見つけて手を振る。
それに気づいた黒霧は目を丸くして(いや目っぽいものが見えるだけだけど)こちらを見た。
「ワタリ? もう終わったのですか?」
「もう終わっちゃったのよね、これが。プロですから」
ほい例のブツ、とカリキュラムの書かれた書類を渡す。あ、ちなみにこっちに来るまでにまたザッと目を通したから間違いないゾ。
「……確かに。流石、失敗しない“何でも屋”のワタリ。素晴らしい手際ですね」
「おろ? なんだ、黒霧の方は知ってたんじゃんか。なら死柄木の説得に手ェ貸してくれても良かったじゃんよ」
「いえ、彼は私に言われた程度で考える方ではないので」
ほーん、と相槌をうちながらスマホを取り出して時間を確認する。計画の終了予定時間まであと20分は余裕があった。
いやあ仕事が早いってのも考えもんだ。暇が出来ちゃうからね。
「黒霧さんよ、立ち話もなんだしあんたらのバーに連れてってくんない? 喉乾いたわ」
「そうですね。では、こちらへ」
「あざーす」
黒霧が広げたモヤモヤに踏み出して、ああいや忘れたことあったわ、と雄英高校を振り返る。
「ワタリ?」
戸惑った声を上げる黒霧を他所に、俺は右手の親指と人差し指で輪っかを作り、雄英高校をその輪っか越しに眺めた。
「ミッションコンプリート、ってな」
ニンマリ笑顔を浮かべつつ、俺はバックステップで黒霧のワープゲートへと飛び込んだ。
余談だが、勢いを着けすぎてワープゲートの先で椅子に座っていた死柄木に思いっきりぶつかって、二人して頭からジュースを被ることになった。
「てめぇ……ッ!」
ごめんて。
Q.3
仕事着ですか?
A.3
このパーカーのこと? これならさっき記者の群れから拝借したやつだよ。