ヒーローとかヴィランとか知らんが、仕事なんでね 作:みみっちい小悪党
「んー、お前は要らない。お前も、お前も、ひとつ飛ばしてお前も」
ピ、ピ、ピピピ、と指を指してい度に、文句を言いながら突っかかって来ようとした小悪党が黒霧の個性でボッシュートされていく。
「ちょっと楽しいなこれ。全員落としていい?」
「おいワタリ、俺の分も残しとけ」
「死柄木弔、ワタリ、真面目にやってください」
うぇーい、と適当に返事を返して選別を続けていく。ブローカーの野郎、こっちで選別するって言った手前文句言ってこないと思って数だけ寄越しやがったな。質が低すぎるわ。
「んー……まあこんなもんか。正直質が低すぎて話にならんが、数居ないと計画に支障出るからな」
「やっと終わりましたか……」
「ざっと200人は居たのが、今じゃ半分も居ねぇな」
廃材の上に腰を下ろした死柄木が言う通り、俺が手ずから勧誘したヤツらを除けば、追加人員は100人もいなかった。
「まあ、まあまあまあ。いざとなれば脳無突っ込ませればオールマイト以外なら余裕で吹っ飛ばせるでしょ」
何ならコイツら捨て駒だから特に助けてやる義理ないし、余裕で見捨てるからな。
「これで準備は終わりですね。死柄木、いつでも行けますよ」
「…………よし」
死柄木がのっそりと腰を上げた。アイアンクローしてる手形の隙間から見える顔は歪な笑顔の形に歪んでいる。
相変わらず気持ち悪いな、コイツ。
「行くぞ」
短い宣言と共に、黒霧のワープゲートが開かれる。
「はーい、全員突撃ぃー。ワープしたら所定の場所で獲物が降ってくるまで待機ねー」
ゴーサインを出してやると勢いよくヴィラン共がモヤモヤに突っ込んで行く。いやあ、気持ち悪い。
「んじゃ黒霧、俺は指定した場所によろしく」
「了解しました。どうぞ」
全員が突っ込んで行った後、俺だけ個別に開いてもらったゲートに足を踏み入れる。
モヤを抜けるとあら不思議、屋内にそびえ立つでっかい山の頂上だ。
「よいしょっと」
背負っていたカバンを降ろして、レジャーシートを取り出してパパっと敷く。それから朝ごはん用に買ってきたアンパンと牛乳、双眼鏡、トランシーバー、後は暇つぶし用のゲーム機を取り出したら準備完了だ。
「さーて、それじゃあストラテジーゲームの始まりだ」
アンパン片手に、ウキウキ気分で俺は双眼鏡を覗いた。
「あ、馬鹿そんな事したら……あぁー、やられちゃった」
ダメだアイツら、俺の事舐め腐って指示全く聞かねえや。やっぱり事前に上下関係だけでも教えこんどくんだったわ。
次からはもうちょっと調教しとこうかな。
「あー、あー。こちらワタリィ、そちらどういう状況ですかどうぞー」
とりあえず火災ゾーンは壊滅したので、山岳ゾーンに双眼鏡を向けつつ通信を飛ばしてみる。
『……お前がリーダーか』
「あ、やべ」
フゥ! アイツら秒殺されてんじゃん笑える!
『お前ら、何が目的だ。どっから入って――』
「ところでさ、こういう時ってたまに無線機の故障で関係ない場所と繋がったりするよね」
『……何を言って』
「いやあ困った困った、無線機で遊んでたらよく分かんないのと繋がっちゃってさあ」
『……そうか。
「りょー」
おーばー。
「ふぅ、危ない危ない」
俺の個性が無ければ即身バレだったぜ☆
「いやてか、マジで何処も彼処も秒殺されてんなあ。唯一善戦してる電波妨害組もそろそろやられそうだし」
メインはどんな感じだろ、と双眼鏡を向けてみる。
お、教師っぽいやつ一人ボロボロにしてんじゃん! あれなんか見た事あんなあの教師……まあいいや忘れた。
あ、と、はぁ……んー、なんかイマイチぱっとしなさそう。ってか状況把握するだけなら連絡した方が早いや。
「ヘイヨー死柄木、進捗はどうだい?」
『……最悪だよ。黒霧が生徒を一人逃がした、それも足の早そうなやつをな』
「うぇ、まじぃ? 詰みじゃんそれ」
『ああホントだよクソ……クソ、クソが』
「んー……じゃ俺は撤収の準備するんで後はよろー」
何かそろそろ死柄木がブチギレそうだったので、とりあえずレジャーシートとかの後片付けを始めることにした。
帰るまでが遠足ってね。
「……あ、アンパン食べるの忘れてた。今のうちに食べちゃお」
俺がレジャーシートに座り直して、アンパンの袋に手をかけた瞬間。
馬鹿でかい破砕音と共に、入口の扉が派手に吹き飛ばされた。
「うおっ、なになに」
慌てて双眼鏡を向けると、何やら筋肉モリモリマッチョマンの変態の姿が。何あれ一人だけ作画違くない?
アレが今回のターゲットか。名前忘れたけど。確か先生の宿敵だとか何とか。どうでもいいから忘れたけど。
「ま、兎にも角にもボーナスステージ突入って訳だ。頑張れよー、ジャリボーイ」
一先ずは大人しく見守ることにして、俺はアンパンを一口頬張った。
「撤収しますよ、ワタリ」
「おん? もう終わった?」
最初らへんは双眼鏡で観察してたけど、登場人物が増えていく度に目で追うの面倒くさくなってきたとこら辺で見るのをやめた。
ちょっと前に天井ぶち破って脳無が吹っ飛んでったのは見えたけど。
「ええ、我々の完敗です」
「そりゃあまあそうだろうねえ、こっちは事前準備ちょっとしか出来てなかったし」
「……ええ、そうですね」
あらら、随分と苦々しい声だ。こりゃ死柄木が面倒臭い事になってる時の黒霧だな。俺は詳しいんだ。
「んじゃ、俺はちょっとやる事あるから別行動で。先帰ってて」
「よろしいのですか?」
「よろしいも何も、先生から聞いてない? ある程度の事後処理も仕事の内だよ」
「そう、でしたか。では、あとはよろしくお願いします」
モヤごと消えていく黒霧に手を振り、荷物をしまったカバンを背負い直す。
さあて、こっからが俺の腕の見せどころだ。
「塚内警部! 脳無と思われる存在を確保しました!」
「――ご苦労。様子はどうだ?」
ヴィランと戦闘を行なった生徒たちから事情聴取を行っている途中、部下から上がってきた報告を聞く為、一旦生徒たちの元を離れた塚内。
脳無が確保された場所に向かいながら部下に聞くと、彼は少し不安そうな声音になって続けた。
「それがその、呼び掛けにも応答せず……何と言うか放心状態のようで」
「……なるほど」
生徒たちとオールマイトの証言によれば、脳無という怪人は『調整された存在』らしい。
もしかすると特定の人物の命令しか聞かない用に『調整されている』のかもしれない。
「……アレが」
「ええ。怪人『脳無』です」
脳無という名の通り、脳みそが丸出しになった異様な姿の巨体は、見るに堪えない醜さがあった。
対ヴィラン用の拘束具でガッチリと固定されているというのに、いつ動きだしても不思議がないように思える。
「よし。脳無は特別措置として拘留所を経由せずに、直接――」
「あ、ちょっとよろしいですかー?」
ぞわり、と背筋が泡立つ感覚が塚内を襲う。
勢いよく振り向いたその先には、ニマニマと笑顔をうかべる女性の姿があった。
「き、みは……!」
「おや、見知った背中だと思えば塚内警部じゃないですか。その節はお世話になりました」
「あ、ああ……」
ニマニマ。
何故だ。彼女を自分は知っている。知っているはずなのに、知らないと感じてしまう自分がいた。
「ところで、そちらの……(なんだっけ)あ、そう脳無。そちら、科捜研のラボで預かることになりましたので、後はこちらで処理しますね」
「――そう、か。では頼むよ」
「かしこまっ!」
そういうと、彼女は脳無の拘束具に繋げられた鎖でグイグイと引きずるようにして、脳無を回収して行った。
「――さて、では我々は事情聴取を続けるとしようか」
それを見送った塚内は、最初に感じた違和感も何もかもを忘れ、生徒たちの事情聴取へと戻って行った。
「いやコイツクッソ重いんだけどマジさぁ俺の命令も聞くようにしとけよ……ッ!!」
一方、ワタリはズリズリと脳無を引き摺りながらひたすらに文句を言い続けていた。
Q.5
脳無はその後どうしましたか?
A.5
黒霧呼んで運んでもらった。最初っからこうすれば良かったのにね、馬鹿だね俺。