ヒーローとかヴィランとか知らんが、仕事なんでね 作:みみっちい小悪党
「そういえば、お前さん『ヴィラン連合』の幹部になったんだって?」
「はぁ?」
ヴィラン連合ゥ? 何その名前、クソダサの極みじゃん。
「いや仮にも自分が所属してる組織の名前をダサいとか言ってやるなよ」
スパー、とタバコをふかして苦笑するブローカー。
所属してるも何も全く身に覚えがない。
「ってかそもそもヴィラン連合ってなんだよ」
「この前の雄英高校襲撃事件、オールマイト相手に死柄木のヤツが堂々と名乗ってたって話だぜ」
「……あいつネーミングセンスねえのな」
どうせならもうちょっとカッコイイ名前付けりゃいいのに。俺は何も思いつかないけど。
ま、分かりやすいのは及第点かな。
「あん? おい待て、なんで俺がそこの幹部だっつう話になってるんだ?」
「は?」
何言ってんだこいつ、とばかりの目はやめろ腹立つ。
「雄英高校襲撃に合わせて人員補充、作戦立案、ついでに各方面への根回しと完璧な事後処理。これだけやってる奴が外部のやつだって誰が思うよ?」
「いやそりゃ仕事で……え、何もう広まっちゃってる感じ?」
「あの“何でも屋”が特定勢力に肩入れしてるって話題だぜ」
「まぁじぃかぁ……」
くそぉ。道理で最近依頼がめっきりこなくなったと思ったよ。
態々金稼ぎにブローカーのとこ来たら、依頼じゃなくて原因が判明するとか最悪だ。
「先生に文句言ってやる……」
「ってな訳でさ、仕事くれよ先生」
『君もまた唐突だねぇ、ワタリ』
あ、黒霧この前のめちゃウマジュースちょうだい。
「なんでまたここに来てるんだお前。仕事して来いよ」
「その仕事がテメェらのせいで無くなってるからここ来てんだよ」
「ハァ?」
ああ、と黒霧がジュースを出しながら納得がいったように頷く。
ちゅー。このジュースやっぱうめぇわ。パチパチしてんのと見た目が黒くて目に優しいのがお気に入り。
「以前の襲撃で、“何でも屋”ワタリがヴィラン連合についたと話題になりましたからね」
「……なるほど。特定の組織に着いたから依頼は受けて貰えないって思われたわけだ」
「その通りだよ迷惑野郎共め。だから仕事寄越せ」
『それならちょうどいい仕事があるよ、ワタリ』
お、マジ? はよはよ先生、俺の気が変わる前にはよ。
『1週間後、雄英高校で体育祭があるのは知っているかな?』
「おい待て先生、また雄英高校かよ? なんだってアソコばっか狙うんだあんたら。なんか恨みでもあるのか?」
『僕の宿敵が教師としてあそこに務めているからね』
…………ごめん誰だっけ黒霧教えて。……あー、あのヒョロガリか。この前見た時はガチムチになってたけど。
「はーん。まあいいや」
ちゅー。で、何すりゃいいの。
『簡単だよ。君には雄英高校の体育祭を、直にその目で見てきて欲しいんだ』
「あん? それだけか?」
『もちろんただ観光してきてくれとは言わないさ。ヒーローの卵たちの実力を確かめ、あわよくばこちらに引き込めそうな子を探してきて欲しい』
「ああなるほど、先生らしいや」
嫌な事考える人だよほんと、と呆れ混じりにジュースを呷る。
やっぱうめぇ。
「なあ黒霧、これなんて飲み物?」
「コーラですね」
「へー、変わった名前だな」
「……コイツマジで言ってんのか?」
なんだよ死柄木、その目は。
こんちゃー。あ、こんちゃこんちゃー。
どもー、六本木のヒーロー事務所でスカウトやってる者でーす。
「どうぞ、お通りください」
いつも通り白紙の手帳を見せてお邪魔しマース。
「うっわ広っ。金かけてんなあ」
ざっと見た感じ東京ドームくらいはあるな。最近アソコ潰れたけど。頑なに『個性』禁止のお遊戯なんてやってるから人が離れてくんだよ。時代の流れを考えなきゃね。
「……ズルズル。ん、この焼きそばうめぇ」
しかしこの馬鹿みたいに多い人混みの中からヴィラン候補を見つけろだァ? 先生もめんどくさい事頼んでくるもんだよホント。
「ま、観戦しながらぼちぼちか探しますかね」
「アイツ、良いじゃん」
洗脳とかいうヴィラン向きの『個性』持ちながらヒーロー目指してんのは理解出来んけど、いい感じに腐ってるのが見て取れた。
生徒に交じってレース走ってて気づいたけど、レース最後の三つ巴の時を見た時のあの目。『個性』にばりばりコンプレックス持ってるのがよくわかる目をしてたし。
モニターだと分かんなかっただろうから、やっぱ直前で参加する方向に変えたのは正解だったな。
「案ずるより産むが易し、っていうし、とりあえず会いに行ってみるかね」
レースの結果は50位だったけど、収穫は上々だ。
「……なんで参加してんだ、あの馬鹿」
「……なんででしょうね」
「やあ少年。これ、おひとつどう?」
その女性は如何にも怪しく、そして
「……それなんですか、先生?」
「これは……あー……(考えてなかったな)……そう! 緊張がほぐれる飴だよ!」
「飴? どうみたってタブレット菓子ですけど」
「アメダヨ!」
さあさあどうぞ! と勢いよく口の中に放り込まれる。
それを反射的に吐き出そうとして、理性がそれを押さえ込んで一息のうちに飲み込んだ。何故だかそうしなければいけない気がした。
「うんうん、いい顔になった。ドクターから受けてた依頼も達成したし、あとは楽しく観戦させてもらうぜ」
僅かな反響を残して言葉が溶け消える。
「……あれ? 何やってたんだ、俺? ……なんか、苦い?」
後に残ったのは、微かに残る薬の苦味だけだった。
「うわ、ドクターの作った薬、効きすぎ……?」
対象が複数人になっただけじゃなくて声が聞こえたら強制的に催眠されるとか、それ最早兵器じゃんヤバすぎ。
危うく俺も乗っ取られるとこだったわ。同じ精神系の『個性』だったから弾けたけど。他にも何人か弾けてるヒーローがいなかったら、今頃会場全体が廃人の巣窟になってたかもしんない。
「さて、ドクターの薬はクリア。ヴィラン候補は……まあ、先生とかジャリボーイ辺りはあの爆発ヘアーにご執心しそうだなあ」
アイツ、絶対ヒーロー側の人間だと思うんですけど。信念強固すぎて形変わんないタイプ。
「薬はにじゅうまる。ヴィラン候補は404。これでいいでしょ」
んじゃ帰るか。
「あ、マウントレディさーん、サインくださーい」
メル〇リで転売するんでー。
Q.6
お薬の効能は?
A.6
ドクター曰く、ちょっと前に回収した薬弄った個性ブースト剤だってさ。個性強化の効能がどうのと言ってたが覚えてないわ。