ネオキョウトのビル群は不遜である。国際警察同盟のビルから街中へ車を滑らせてゆく明智十兵衛は、景色の頭上にせり上がっていく銀の塔を見ながらそう思う。昔は貴人の多く住むこの街に、彼らの住まいよりも高い建物を建造するなど思いもよらなかったものだ。昔はもっとこう、目に見えないものへの遠慮や畏れる気持ちが人々にあった。今の人々に足らぬもの、というより忘れてしまったもの・・・。十兵衛は考えたところでどうしようもないことをぐずぐずと考え、勝手に陰鬱になる。ただでさえ同盟支部であの火吹き蔵六と話さなければならなかったのだ。才能は認めざるを得ないが、あの一切オブラートに包まない切って捨てるような物言いが十兵衛は嫌いだった。人間はマシンではない、感情があるのだからそういった部分にもきちんと配慮すべきだと、彼と会うたびにそう思う。
十兵衛がハンドルを切ろうとした瞬間、遠くに見えるビル群のひとつが火を噴いた。それに続くように周りのビルからも爆発が起こる。
「真戦組の攻撃!?同盟の支部があるこのネオキョウトで!?」
車を停めた十兵衛はとっさに通信機を取る。ここからだと同盟支部に繋がるだろう、蔵六殿が出るだろうか・・・。
逡巡は一瞬、しかし無辜の民への想いが十兵衛にボタンを押させた。
「ネオキョウト支部応答せよ!こちら明智十兵衛、ネオキョウトが真戦組の攻撃を受けている!至急兵を向けられたし!」
すでに遠く悲鳴が聞こえる。黒い格好をした真戦組の戦闘員がどこからか出てきて銃を撃つ様子が見えた。十兵衛は通信機の返事も待たずに車を降り跳躍一閃、得物の火縄銃を頭上で振り回しその銃床で戦闘員を吹っ飛ばした。戦闘員が一斉に群がってくる。
「何奴!」
「正道の十兵衛がお前達の悪事を見逃すはずはなかろう!」
「銃一丁で俺達に敵うとでも思ったか!死ねい!」
戦闘員の持つマシンガンが一斉に発射され十兵衛を粉々にするかと思われたが、それよりも先に火縄銃の弾丸がひとりの戦闘員のマシンガンの銃身に当たるのが早かった。マシンガンは狙いを大きく逸れ、仲間達数人を蜂の巣にした。
「俺の火砲の心得は折り紙付きだ。俺の身体に穴を開けたければ雑賀党でも呼ぶがいい」
「こなくそ!エキスパートとはいえ不死身ではあるまい、一斉にかかれい!」
八方から飛びかかる戦闘員を十兵衛は火縄銃と太刀を華麗に使いこなし倒していくが、どこから沸いてくるのか戦闘員は次から次へと数を増し襲いかかる。マシンガンの雨を避けながらこれは一時退却すべきかと十兵衛が思案していたが、その戦闘員の波の一角が地面の爆発によってにわかに崩れた。
土煙の向こうに、鉄鞭をびょうびょうと振り回す影。
「おお、法専坊!」
「十兵衛殿、無事ですか!」
スーツ姿で坊主頭の男、法専坊信照。目鼻立ちが整った精悍な若者だ。人当たりもよく、十兵衛はこの男を気に入っていた。
法専坊は懐から出した護符をばら撒くと、素早く印を切ると、空を舞う護符は全て法専坊になった。分身達が次々に戦闘員を蹴散らしていく。
「十兵衛殿、ここは私が押さえます!行ってください!」
「頼んだ!」
十兵衛はビル壁を蹴って飛び上がった。
国際警察同盟ネオキョウト支部のビルからはネオキョウトを襲う真戦組の様子がよく見える。村田蔵六はそれを扇子で顔をばたばたあおぎながら見ていた。顔は丸顔、眉は太く目はかっと見開いており、暑がりなのもあって「火吹きダルマ」という陰口をたたかれるくらいだった。
「蔵六先生!蔵六先生!」
呼ばれているのに気がつくまで随分かかった。振り返るとせわしない様子で荷物を抱えた男がひとり。
「蔵六先生、この支部は危険です!敵が目と鼻の先まで来ています!撤収しますよ!」
「藤孝君、それは不要だ。見たまえ」
目の前のガラス壁は外の爆発でビリビリと震えている。蔵六はその向こうの景色を扇子で指す。
「爆発は派手だが区域の占拠はまばらで散発的だ。戦闘員の動きもにぶい。あれは囮だよ」
「だからなおさらここはヤバいでしょう!敵の狙いはここですよ!」
「いや、敵の狙いは別だよ。もっとも敵は君の言うとおりに考えて欲しいのだから、そのうちウチに一発ミサイルでも放り込んでくるかもしれないが」
言い切らないうちにどーん、と大きな音と共にビルが大きく揺れた。
「ほら」
「ほらじゃないでしょ!」
蔵六は涼しい顔で目下の戦いを眺めている。もっとも暑がりなので汗をぬぐいながらではあるが。
細川藤孝は諦めて荷物を下ろし、蔵六の視線の先を見る。ちょうどビル街の中を十兵衛が走ってくのが見えた。
「時期的にも戦力的にもいつもの示威的な攻撃じゃない、狙いは恐らく比叡山だ」
「・・・・・・!そうか、ブリキトース砲の鍵か!」
「防衛戦力をそっちに向けた方がいいが、まあ十兵衛君が向かっているから問題ないでしょう」
見ると、確かに十兵衛は同名支部にではなく比叡山に向かっている。藤孝は息をのんだ。
「(流石十兵衛、渦中にありながらそこまで見切るとは)」
「藤孝君、ちょっと真戦組の様子を見てきたいから供をしてくれたまえ」
「は!?」
「あとはどうせ十兵衛君が何とかするだろう。やることも無いから敵情視察をする」
くるくると身支度を済ませ、とっとと出て行こうとする蔵六を藤孝は慌てて追いかける。とっさに懐に手を突っ込んで、胃薬がまだあったか確認した。
十兵衛は街を飛ぶように駆けながら、小型通信機で藤孝からの通信を聞いていた。
「やはり比叡山か!」
『こちらで防衛戦力の手配は済ませた!指揮は任せる!』
「承知した!」
『なあ、十兵衛』
通信機の先で疲れたような、泣きそうな声が響く。
『どうして俺はいつもこう、面倒な役ばかりなんだ?十兵衛、頼むから代わってくれ!』
「俺はどうも蔵六殿とはそりが合わんのだ、長く付き合っていたらその内蔵六殿の住まいに火をかけかねん。それに蔵六殿のもとで働けるのはお前ぐらいなものだと、うえもそう判断したんだろう。信頼されているのさ」
『そいつはどうもありがたいことだ!』
やけくそ気味に通信が終了する。
十兵衛の眼前にそびえるのは比叡山、その管轄は国際警察同盟に帰する。
比叡山の中腹あたりに、巨大な人型が見えた。
「あれは・・・真戦組の巨大ロボットか!出遅れたか!」
巨大ロボットはその大きな腕で木々をなぎ倒し、山の中枢である延暦寺を目指してゆっくりと歩みを進めていたが、延暦寺の目の前まで来るとその口を大きく開けた。中から大量の鷹型小型ロボットが飛び出してくる。十兵衛は驚愕した。
「まずい!あれは・・・ヨリヨシ!あのロボットは真戦組十傑集の駆る巨大ロボット、トキ・ヨリヨシだ!」