須賀京太郎断片集   作:星の風

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清澄高校
宮永咲はわからない


宮永咲はわからない。

隣にいる男、須賀京太郎との関係が。

高久田くんが、「咲ちゃんはいい嫁さんだなァ」と囃し立ててきたときに「中学で同じクラスなだけですから」と否定した。

しかし、周囲からは彼こと京ちゃんとの関係は幼なじみのようだと見られている。

なぜ幼なじみなのだろうか。

幼なじみとは読んで字の如く幼い頃からの付き合いのことを指している。

某小学生探偵の漫画でも幼稚園からの付き合いを幼なじみと称している。

なぜ中学2年生からの付き合いの京ちゃんとの関係を周囲は幼なじみと見なしているのだろうか。

宮永咲はわからない。

 

宮永咲はわからない。

隣にいる男、須賀京太郎が妄想しているのが不愉快になるのが。

京ちゃんがおもち(彼が胸部のことをこう称していた、彼曰く奈良にいる同好の士の例え方らしい)のことが好きなのは知っている。

自分のおもちは和ちゃんと比べるとほんの少し小さいことは関係ないはずだ。

彼が家庭的な女の子が好きなことも無関係なはずだ。

そのためにひそかに料理のレパートリーを増やしていることも無関係のはずだ。

しかし、今も京ちゃんの緩んだ顔を見ていると胸がムカムカしてしまうのはなぜだろう。

宮永咲はわからない。

 

宮永咲はわからない。

隣にいる男、須賀京太郎に対して口が悪くなってしまうのが。

京ちゃんだって頑張っているのは知っている。

優希ちゃんのためにいつの間にかタコスの腕を上げていることも。

それに伴って自分の料理の腕に密かに危機を感じていることは関係ない。

宮永咲はわからない。

 

宮永咲はわからない。

好きという感情が。

かつて地方大会の決勝で「麻雀って楽しいよね」と発言したが、麻雀自体はあまり好きではない。

今でも麻雀はお姉ちゃんと話せるかもしれない手段としての面が大きい。

本を読むことはどうなのだろうか。

本を読み始めると続きが気になり気がつくと熱中してしまう。

しかし、この感情は好奇心と呼ばれるものではないだろうか。

和ちゃんたちとの関係はどうなのだろうか。

和ちゃんたちとは一緒に全国大会の勝利を目指すチームメイトにして、友達だと思う。

和ちゃんたちのことを思うと心が温かくなる。

これが好きという感情なのだろうか。

お姉ちゃんたちとの関係はどうなのだろうか。

お姉ちゃんとは仲直りをして昔みたいに一緒に過ごしたい。

おとーさんやおかーさんとも家族麻雀を抜きに昔みたいに一緒に過ごしたい。

お姉ちゃんたちのことを思うと胸が温かくなる。

これが好きという感情なのだろうか。

京ちゃんとの関係はどうなのだろうか。

京ちゃんとは中学2年生からの付き合いで、家に肉じゃがなどを持っていったりレディースランチを頼まれたりする関係だ。

他にもいろいろなことをしたが今は関係がないことだ。

京ちゃんのことを思うと胸がモヤモヤする気がする。

これが好きという感情なのだろうか。

宮永咲はわからない。

 

宮永咲はわからない。

これからのことが。

“来年の事を言うと鬼が笑う”と言うことわざがあるが心の中で考えることは大丈夫なはずだ。

もし全国大会が終わってお姉ちゃんと仲直りをしたらその後はどうなのだろうか。

仲直りをしたら麻雀を続ける意味はほとんどなくなるのではないか。

そうなったら私はどうするだろうか。

そのまま麻雀を続けるだろうか、それともまたやめてしまうだろうか。

やめてしまえば和ちゃんたちとのつながりは多少薄くなるだろうがそのまま友達として接してくれると思う……多分。

京ちゃんとの関係はそのまま変わらないだろう。

そしてそのまま山も谷もなく過ごしていくだろう、そんな気がする。

もし麻雀を続ければどうなるだろう?

来年は2年生になって後輩ができるだろう、そこでまた全国を目指すだろうか。

京ちゃんも来年は選手として一緒に行きたいな。

そのまた次の年はマホちゃんたちが後輩になるだろうか。

そこでまた全国を目指すだろう。そのときは京ちゃんと一緒に個人全国一位になりたいな。

卒業したらどうなるだろう?

衣ちゃんたちを倒してここまで来ているのだからそれなりに注目されているかもしれない。

大学の推薦やプロへの誘いが来るだろうか。

もし大学に行くならどんな大学に行くだろうか。

麻雀が強い大学に推薦で行ってそこでも全国を目指して活躍するだろうか。

それともほどほどに活躍をしてキャンパスライフとやらを楽しむだろうか。

そのときは京ちゃんが一緒にいたらいいな、今からでも一緒に勉強しようかな。

もしプロに行ったらどうなるだろうか。

プロともなるとおかーさんよりも強い人がいるだろうな。

その中で私はどこまで行けるだろうか、トップランカーとまでは行けなさそうだけれど中堅ぐらいになれればいいな。

そうしたら収入も安定するから京ちゃんをマネージャーとして雇うのもいいな。

私はよく道に迷うから京ちゃんがいれば全国を回っても安心だな。

あ、けれどもプロになると婚期が遠くなるジンクスがあるからどうだろう。

おかーさんは活躍した時期が短いから大丈夫だったけれど、バリバリに活躍して小鍛治プロらみたくいじられるだろうか。

それはいやだな。

けれどこれからどうなるかわからないから自分の得意分野で稼げるうちに稼いで安心したほうがいいかな。

京ちゃんはいいな、家がわりとお金持ちでカピバラもペットにできるぐらいだからそういう心配はあまりなさそう。

私も養ってと言えば養ってくれるかな。

けれどそうなったら私の立場はカピちゃんと同じになるな。

それはイヤだな。

なんでイヤだろう?

宮永咲はわからない。

 

宮永咲はわからない。

隣を歩いている男がおもちに対して語っていることが不愉快なのが。

今の時代様々な要因でセクハラは直接触らない限りは寛容になっている。

そのためおもちに関して熱心に語っても周りはなあなあで済まされるのに。

私は心のどこかで不愉快に思っている。

何度もいうが私のおもちは和ちゃんや福路さんよりかは多少薄いがあるはずだ。

なのに京ちゃんは私のおもちに関して話題に挙げない。

つないでいる手を抱き寄せておもちにくっつけていつもアピールしているのに。

それを京ちゃんは「寒いのか」「俺の使っているマフラーを使うか」と言って意にも介していない。

なぜここまでムキになるのか自分でもわからないが話題に挙げさせられなければ私の負けのような気がする。

そのため、本屋に行って本を探しているときにそれとなくおもちを大きくする雑誌を確認して家で試しているのに私の体は中学からあまり変わっていない。

京ちゃんにも協力してもらっているのにあまりにも変化がなさ過ぎる。

お姉ちゃんも似たようなものだから遺伝子からそうなのだろうか。

いいやお姉ちゃんの所の淡ちゃんだって全国大会が始まったときはそこそこだったのに今では胸にボールを入れたのですか?と言われるくらいに変わったからまだまだチャンスはあるはず。

また京ちゃんに協力してもらって頑張らなきゃ。

けれど今は隣を歩いている男に対するこのモヤモヤをどうにかするのが先決だ。

宮永咲はわからない。

 

宮永咲はわからない。

目の前の男が言っていることが。

 

「咲やっぱ俺才能ないのかな」

 

京ちゃんがあのときから頑張っていることは知っている。

必死に頑張っている京ちゃんに対して手加減をすることは京ちゃんに対して失礼だからいつも本気で相手をしている。

そのためいつもハコかその手前まで行ってしまうのはしょうがないことだ。

京ちゃんが不要牌を引き寄せやすい事も知ってる。

それも含めて私は京ちゃんの潜在能力を信用している。

だからこそ1年生の長野選抜の個人戦のとき負けて戻ってきたのが信じられなかったのだ。

あれからみんな空いた時間にできるだけ練習に付き合ってここまで来たのだ。

全国大会の後に広がった交友関係を使ってネットで練習もした。

私もできる限り教えられる事を増やせるように勉強をしてきた。

だからこそここまでの京ちゃんの頑張りを知っている。

それでも長野4位という結果は変わらない。

私は京ちゃんの頑張りを知っている。

いや私たちは京ちゃんの頑張りを知っている。

もし足りないものがあるとしたらそれは私の責任だ。

私の頑張りが足りなかったのだ。

けれど今は京ちゃんをなだめよう。

宮永咲はわからない

 

宮永咲はわからない

隣を歩いている男の言葉が。

 

「俺麻雀をやめようかな」

 

私はその言葉を聞いたとき「そっか」としか言えなかった。

あれから私はさらに勉強をした。

今では和ちゃんと牌効率について話し込めるくらいに。

京ちゃんは今では私たちで麻雀すれば3位になれる事が多くなってきた。

けれどあれから麻雀をしているとき時折苦しそうな表情することがあった。

そして全国2位、私は全国3位になったとき京ちゃんは笑って褒めてけれどそれでもどこか虚ろな感じがした。

私は京ちゃんにいつも助けてもらっていた。

だからその恩返しにひたむきに頑張っていたけれどそれが京ちゃんの重しになっていたのかな。

京ちゃんは優しいからきっとここまでしてもらって結果を出せない自分が恥ずかしいと思っているのだろう。

本当に京ちゃんのバカ。

みんな京ちゃんを助けているのは義務とか義理じゃなくて、助けてくれたから恩返しをしているだけなのに。

もう少しで京ちゃんは全国に跳べる羽を手に入れられるのに、山に咲く一輪の花を見つけられる羽が手に入れられるのに。

だから私はいつぞやのように京ちゃんの腕を私のおもちに引き寄せた。

京ちゃんは「咲?」といっている。

だから私はこう言った。

 

「京ちゃんのバカ」

「京ちゃんはいろいろと考えすぎ」

「みんな京ちゃんが好きだから手助けをしていたんだよ」

 

そういったとき私は初めて“好き”を理解したのかもしれない。

その前にこの恵まれているのに気付いていないこの男をどうにかするのが重要だ。

 

「京ちゃんこのまま私の家に行かない?」

 

今日は両親が家にいない代わりにお姉ちゃんが家にいるはずだ、衣ちゃんも呼ぼう。

 

「今日は家に泊まっていかない?」

 

私はいつもの調子で言った。

宮永咲はわからない。

 

宮永咲はわからない。

目の前の男が言っていることが。

 

「咲、俺行けるかな」

 

京ちゃんはバカだなあ。

今じゃみんなで打っても1位になることがあるのに。

全国のみんなとネットで打っても1位になることがあるのに。

目の前の京ちゃんは不安そうにしている。

きっと去年のことが心に残っているのだろう。

あれから京ちゃんはいろいろあった。

それでもここまでたどり着いたのだ。

自信を持てばいいのに、けど京ちゃんらしいや。

こんなときどうすればいいかな。

そうだ、前に見たような気がする本の“おまじない”をしてみよう。

そう思い立って私は京ちゃんにさらに近づいて“おまじない”をした。

京ちゃんは一瞬驚いた顔をした後、あのときと同じような笑顔をした。

けれど虚ろな気配は全くしなかった。

 

「咲はいつも通りだな」

 

京ちゃんはこう言った後、背中に羽が生えたように先ほどまでの緊張など一切感じさせない足取りで決勝の舞台に歩いて行った。

宮永咲はわからない。

 

宮永咲はわからない。

横を歩く男の言葉が。

 

「咲はこれからどうする?」

 

私は京ちゃんが何を言っているのかわからなかった。

たしかこの一つ前に話していた言葉は、「学校の進路調査表をうけとったよな」だったはず。

その流れでのこの言葉の意味はつまり。

私の進路に関して聞いているのだろうか、京ちゃんは私がプロになることは知っているはず。

それなのになぜこのような言葉を聞いてくるのだろう。

私は素直に聞き返した。

 

「あー、言葉が足りなかったなプロになってこれからどうするって聞きたかったんだよ。」

 

私は納得し、「京ちゃんはどうする?」と聞き返した。

 

「俺も大学やプロに誘われているんだよな1年生の時には考えられなかったな。」

「俺は家も余裕があるから大学でもプロでもどっちでもなー」

「だから参考までにプロになる咲の意見を聞きたかったんだ。」

 

私は考えた。

1年生の時に似たようなことを想像したはずだ。

そのときはただなんとなく京ちゃんをマネージャーにしようかなと考えていたはず。

けど今は京ちゃんもプロへの道が開かれている。

どうしようか。

京ちゃんと一緒にプロに入って男女のトップを目指すのもいいな。

それとも大学に入った京ちゃんをプロで待ち構えて壁になるのもいいかも。

どちらも魅力的だな。

でも大学に入っておもちにうつつを抜かすのはいやだな。

それならプロも変わりないか、プロも私に劣るけどおもちもちの魅力的な人が多いからな。

おもちにうつつを抜かす京ちゃんはいやだな。

けどマネージャーにして私たちが授けた羽を無意味にするのはイヤだな。

考えがまとまらないので京ちゃんに思ったことをそのまま伝えた。

 

「そっか」

 

京ちゃんはそう言って少し思索にふけっていながら歩いている。

私は無言で京ちゃんの腕におもちを押しつけながら歩いている。

木枯らしが吹くなか無言で歩く時間が続き、ある程度時間がたった後京ちゃんは口を開いた。

 

「決めた、プロになる。」

「プロになって咲と一緒に上を目指す。」

 

その言葉を聞いた瞬間、私の胸に温かいものが広がった感覚がした。

 

「けどどうやって一緒に上を目指そうか、男女で別れているから絶えず咲と一緒にいられないからなー。」

 

京ちゃんの言っていることが理解できなかった。

 

「なんで一緒にいられないの?これまでもこれからも一緒にいるでしょ?」

「変な京ちゃん」

 

京ちゃんは一瞬驚いた顔をしたけどすぐにいつもの顔に戻り口を開いた。

 

「そうだな、今後もよろしく咲。」

 

その言葉を聞いて私は満足した。

宮永咲はわからない

 

宮永咲はわからない

今の状況が。

今、自分はプロに入ると同時に京ちゃんと一緒に雑誌のインタビューを受けることになった。

そのインタビューの内容が“プロ入りと同時に結婚、人生を天和であがった幸せカップル”という頭の悪い内容だ。

確かに高校個人男女1位がプロ入りと同時に結婚なら話題になるだろう。

けれどここまでことが大きくなるのは予想外だ。

なぜここまで大きくなるのだろうか。

私はただ一緒に上を目指すなら結婚すればある程度融通が利くと京ちゃんに言われて婚姻届にサインをしただけだ。

私の感覚は中学2年生からの関係の延長でしかないと考えていた。

ただ名字が変わったりするだけの感覚だ。

なぜ周囲はここまで騒ぎ立てるのだろうか。

おかーさんはおおげさに喜ぶし、お姉ちゃんは先を越されたとショックを受けているし。

けどおとーさんや和ちゃんたちはあまり反応しなかったな。

今、隣では京ちゃんがインタビューに答えている。

次は私だろうな、あまり話すのは得意じゃないけど京ちゃんのために頑張らないと。

ああ、憂鬱だな。

家に帰って私の手料理で夕飯を済ませて、京ちゃんと一緒に麻雀を打ちたいな。

ああ、今日は京ちゃんの料理の番だっけ。

その後はいつもの日課を済ませてから明日の準備をして京ちゃんの腕に抱きついて寝るだろうな。

でも、私の左手の薬指に輝く指輪の感覚は嫌いじゃないな。

宮永咲はわからない。

 

宮永咲はわからない。

家族関係が複雑怪奇だった宮永咲にはわからない。

その結果、人間関係の距離感、特に異性との距離感がバグってしまった宮永咲にはわからない。

中学2年生からの付き合いの須賀京太郎との関係が幼なじみになぜ見られていたのか。

須賀京太郎というそれなりにいい物件がなぜ高校3年生まで誰とも付き合っていなかったのか。

なぜ須賀京太郎はすんなりと宮永咲と結婚したのか。

宮永咲はわからない。

 

宮永咲がわかることはただ一つ。

これまでもこれからも京ちゃんは隣に居続けることだ。

 




周囲の人々(ようやく結婚したのか)
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