須賀京太郎断片集   作:星の風

14 / 37

ももたんイェイ~
東横桃子さんの誕生日なので投稿します。

……本当にすいません。揺杏さんの話の続きではありません。
あちらは重めの話として執筆しているのでメンタルと進行具合が比例してしまい少しずつ進めている状況です。今しばらくお待ちください。

今回の話ですが前回のリベンジとして制作していましたが、あれこれ入れると際限なくなってしまって話が長くなりすぎてしまったので少なめにしました。一応今回の料理のモチーフはあります。

そしてこの場を借りてお礼を申し上げます。
お気に入り登録や評価、感想ありがとうございます。
皆様の評価や感想などは執筆活動の励みになっています。
改めてお礼申し上げます。


東横桃子との美食巡り

 ジュージューと鉄板の上で肉が焼かれている。それを俺はジッと見つめている。こうしていると自分が狩りをしている気分になる。焼きが甘ければ生焼け、焼きすぎれば焦げてしまう。最適なタイミングは肉の種類や部位ごとに異なる。これはハラミだからすぐに焦げる心配はないが両面をしっかり中心で焼いてから脇に置いてじっくりと火を通す。

 

 ……ここだ! 素早く鉄板から肉を引き上げ、店特製のタレを付けて口に運ぶ。ハフッハフッと口の中で冷ましながら肉を味わう。サクリと歯で噛み切れる柔らかい食感にジワッと肉汁が出てくる。そこに甘辛い濃いめのタレの味がガツンと来る。まさに米が進む味だ。俺は片手に持った茶碗から米を掻き込んだ。

 

 チラッと正面を見る。俺と同じように肉を焼くのに集中しているモモの姿がある。髪を後ろにまとめてポニーテールにしている。普段とは違う髪型に、にじみ出ている汗がなんとも言えない色気がある。普段の俺なら目を奪われるが、今は焼き肉だ。時間差で肉を鉄板に置いたから次々と焼き上がっていく。しかしこれだけ味が濃いと次第に飽きてくる、そこでサラダやキムチ、水で口の中をリセットをする。そしてまた肉と米を味わう。

 

 ……気がつくと注文していた皿は空になっていた。

 

「あ~、モモどうする?」

「う~ん……一気に食べ過ぎたからここは一旦クールダウンしないっすか?」

 

 モモの提案に乗る形で俺はパラパラとメニューを捲ると冷麺の写真が目に入った。冷麺か……。ベターだけど外れはないし、よく見ればハーフもあるからちょうどいいか。

 

「じゃあ、この冷麺にするか? ハーフにしてそれを分け合えばちょうどいいんじゃないか?」

「いいっすね。そのぐらいの量がちょうど良いっす」

「ついでに網交換もしてもらうか」

 

 店員に注文してからモモの方を見ると、モモは楽しそうにメニューを見ていた。注文した料理が届くまでいつものようにモモを見て時間を潰すことにしよう。そうやってモモを眺めているといつものように聞いてきた。

 

「いつも疑問に思うんっすけど私を見ていて楽しいっすか?」

「楽しいぞ。モモは見ていて飽きないからな」

 

 そう返すとモモは顔を赤くしながら持っていたメニューで俺をパシパシ叩いてきた。明らかな照れ隠しなので甘んじて受け入れておく。

 

「失礼します。網交換しますー」

 

 そうこうしていると店員さんが交換用の網を持ってきた。モモも落ち着いたのか再びメニューを開いて楽しげに眺めている。手際よく交換してくれた店員さんにお礼を述べて先ほどのやりとりを振り返る。

 

 実際モモを見ている理由は見ていて飽きないのも理由の一つだが他にも理由がある。モモは今でこそ普通にしているが、食べ歩きを一緒にし始めたときはどこかおびえた表情を見せていた。本人も気付かないものだったが咲によって鍛えられた俺の目はごまかせなかった。そしてどうしてそんな表情を見せたのか理由もすぐに思い至った。

 

 モモは極端に影が薄い体質だ。人に気付かれない苦痛は俺には理解することはできないだろう。モモの学校の先輩に見つけられたことでモモは初めて家族以外の人と深く関わった。そうしてかけがえのない絆を手に入れて満足していたところに自分を見つけられる人であろう存在……すなわち俺が現れた。

 

 自分を見つけられるであろう人を見つけてモモはきっと心の底から喜んだのだろう。しかし、もしもそれが様々な要因で生じたまぐれのような物だったとしたら……。モモはそんなもしもが一番恐ろしいと無意識に感じているのだろう。それがあの表情だ。

 

 だから、一緒にいるときはできる限りモモを見るようにした。そうしていると、次第におびえた表情をすることはなくなりそれに比例して距離感も近くなっていった。

 

 とまあ、こんな理由で俺はモモを見るようになった。それをモモに伝えることはないし、これから先も伝えることはないだろう。

 

「お待たせしましたー。ご注文のお品です」

 

 コトンと冷麺がテーブルに置かれた音で俺は思考の海から引き戻された。解決した問題を気にするよりも今は冷麺だ。俺は一緒に頼んでいた小ぶりの器に手際よく麺やスープ、具を取り分けていく。そうして取り分けた物をモモの前に置いて改めて冷麺に向き合う。コシのありそうな麺、その上に鎮座する卵、スープに浮かぶ肉やキュウリにリンゴ、散らされたゴマ。なんともうまそうだ。

 

 まずは麺から行くか。ズルズルと音を立てながらすすっていく。冷麺特有のコシを歯で感じながらまとわりついてきたスープの味を楽しむ。やはりこのコシと何杯でも行けるのどごしの良さは良いな。キュウリやリンゴのシャキシャキ感もたまらない。思わずお替わりを頼みたくなるが主役は肉だからグッと堪えよう。そんなことを考えながら食べているとあっという間に器は空になってしまった。モモの方を見るとモモも完食していた。

 

「美味しかったな」

「そうっすね」

「そろそろ肉に戻るか」

「あっ、その前に私はこれを注文したいっす」

 

 モモが注文したいものを確認してから、何を注文するか考える。せっかく網を交換したのだから少し特別なものが良いな。……お、これが良いな。俺はモモに確認をしてからモモが選んだものと一緒に注文した。

 

「お待たせしましたー。ご注文のお品です」

 

 テーブルには先にモモが頼んだものが来た。モモが頼んだのは温玉ネギ塩ご飯だった。米の上には海苔とネギが散らされていて中央には温泉卵が盛り付けられている。米の白、海苔の黒、ネギの緑、そして卵の黄色。色取りの美しさがそのまま味の期待値に直結する。思わずそのまま掻っ込みたくなるが……これはきっと肉との相性が最高だろうから抑えないと……。

 

 欲求と闘っていると店員さんが来てテーブルに小さい壺とはさみが置かれた。そう壺だ。俺は壺漬けカルビを注文した。何というかなんとも言えない魅力がこの壺漬けの三文字に詰められている。

 

 俺はトングを手に取って壺の中にある分厚い肉を取り出し網に乗せる。網の中央に分厚いカルビが鎮座している光景は一層食欲がそそられる。その光景を目で楽しんでから壺に入っていた野菜を網の空いたスペースに乗せていく。そうして肉の表面に焼き色がついたら日繰り返して焼けてない部分を焼いていく作業を繰り返していき全ての面に焼き色がついたことを確認したら、片手で肉を持ちはさみで切り分けていく。切り分けた肉を軽く焼いたら完成だ。モモと均等になるように取り分けていき、温玉ネギ塩ご飯の卵を崩してからその上にタレをつけた自分の肉を乗せて……っと完成だ。おお、肉が乗ることで白、黒、緑、黄色に茶色が合わさってさらに美味しそうになった。

 

「いただきます」

 

 改めていろいろなものへの感謝も込めて手を合わせ、俺は米と肉に箸をのばした。

 

**********

 

 チラリと正面を見ると本当に幸せそうに食べている顔があった。美味しいものを食べると人は笑顔になるというのは本当なんだなとしみじみと思う。

 

 私は彼と同じように温玉ネギ塩ご飯の黄身を潰して彼が取り分けてくれた肉を乗せて食べる。口に入れて味わった瞬間、私は彼があんなに緩んだ表情になった理由が理解できた。漬けられていたことにより先ほど食べたカルビよりも味や柔らかさがさらに良くなっていて、さらに分厚い肉塊のまま焼いていたことで肉汁もより豊富に閉じ込められている。ここまで濃い味なら食べ続けると飽きが来るかもしれない。しかしそこに温玉ネギ塩ご飯が加わることでその状況は一変する。

 海苔の風味や黄身のまろやかさ、ネギのシャキシャキ感が後味を良くしてくれる。本当に最高だ。比喩でもなく無限に食べられそうだ。

 

 思う存分味わってからまたチラリと正面を見る。先ほどと変わらない顔がそこにはある。普段なら私の視線に気付いて話しかけてくるが今は没頭しているようで気付いてないようだ。話しているのも楽しいがこうやって見ているのも良い。

 

 こうしていると改めて自分が彼にゾッコンだということを自覚する。関係を壊したくないから想いを告げていないが、たまに私の中の本能がもうゴールインしても良いよねとささやきかけてくるが理性がそれを抑えている。

 ……まあ私が本気で迫れば一気にゲームセットまで持って行ける自信はある。こうやって趣味に付き合う過程で彼の両親にも会う機会があり、体質のせいで苦労したが信頼を勝ち取ったし。彼の家に行った際に時間を掛けてこっそりと調べた結果、私の体型は彼の好みドストライクなのも把握している。実際、腕に胸を思いっきりくっつけた際ほんの少し顔を緩めたのも確認したから確定だ。

 

 まあそれは置いといてもう一度彼の顔を確認する。やはり先ほどと変わらない表情だ。見る人が見ればだらしない表情だと言うかもしれないが、私はこの表情が一番好きだ。

 最初に会った時は幼さも感じられたが、ここ最近は少年から大人になってきたように思う。そんな彼が私の目の前で子供のように表情を緩ませている。私のことを心から信頼しているように感じるから私はこの表情が一番好きだ。

 

「モモ?」

 

 しまった凝視しすぎたようだ、彼がこちらの視線に気付いてしまった。

 

「どうかしたっすか? 京さん?」

「いや、さっきから俺の顔をジッと見ているからどうかしたのかと思って」

 

 どうしようさすがにそのまま理由を話すのは……。そんな私の目にあるものが写った。これだ! これとさっきのやりとりを組み合わせて……

 

「さっき、京さんに見つめられていたからそのお返しっす」

「俺の顔を見ても面白くないぞ。それに肉も冷めるぞ」

「面白いっすよ。特に右頬に着いているネギが特に」

「え!」

 

 彼が右頬に手を触れた瞬間ネギの存在に気付いたようでほんのりと顔を赤くしている。私はそれをニヤニヤとした笑みで見つめる。……なんとか乗り越えたようだ。しかし彼が言ったことも事実なのでいそいそと肉とご飯を食べ進める。

 

 それにしてもこの組み合わせは最高だ。箸が止まらなくなる。気付くとあっという間に肉とご飯を食べ終わってしまった。こうなってしまうと悩んでしまう。先ほどは無限に食べられると思ったが、実際には胃の容量という抗えない現実が存在している。他のものに挑戦するかもう一度この組み合わせを味わうか。……ここは彼の意見を聞こう。

 

「京さん、次はどうするっすか?」

「あ~、今の組み合わせにもう一度挑戦するかしないか迷うな~」

 

 彼も同じように悩んでいることに喜びを感じるが、今は食を優先しよう。彼の結論もまだ出そうにないようなので手元のメニューをパラパラと開いて再び考える。うわ~わさびバターご飯か~。さっきまでは気にならなかったけど温玉ネギ塩ご飯を食べた今なら見方が変わるな~。えっ、寿司専用ご飯!? 海苔の上にわさびの乗ったシャリ型に固められているご飯の写真が目に入る。この上に焼いた肉を乗せて食べるようだ。なんとも心が惹かれるな~。おおっとこっちはタレか~。さっぱりおろしタレもとろ~り温玉ダレもいいな~。……ダメだ誘惑が多すぎて決めきれない。どうしようか……。

 

「あ~どうするかな~」

 

 聞こえてきた声に反応して彼の方を見ると私と同じように悩んでいるようだった。普段の彼なら今頃はある程度決めているのに珍しいことだ。それだけ先ほどの組み合わせの衝撃が凄かったのだろう。私も同意しかない。

 

 ………………

 

「「よし決めた(っす)!」」

 

 声がハモる。同じタイミングで決めた事実にまた喜びを感じる。

 

「モモも決めたのか」

「そうっすね、いつもは京さんが先に決めていることが多かったっすけど今回は同時ッすね」

「そうだな、じゃあせっかく同時に決まったなら同時に発表するか?」

「いいっすね。せーのでいくっす」

「じゃあ……」

「「せーのっ」」

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 店から出る。火照った体に外気が染み渡る。今回のお店は当たりだった。味が濃いめだったがそれがご飯に良く合う。また来てもいいなと思う。

 

 隣を見ると彼も満ち足りた表情で私と同じ考えなのが読み取れた。

 

「これからどうする?」

 

 彼の言葉に私は考える。考えて思ったことを口にする。

 

「歩きながら良さそうなスイーツを探したいっす」

「じゃあ歩くか」

 

 彼はそう言いながら手を差し出す。その手を私は握りながらなんとなく思う。

 きっと彼はこの手を離さないんだろうな……と。

 

 京さん……好きっす。

 

 自分の想いを改めて確認しながら、手のぬくもりを楽しみつつ歩く。

 きっと、彼と行く場所ならどこでも楽しめる確信を持ちながら。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。