東横桃子さんの誕生日なので投稿します。
……今回も本当にすいません。揺杏さんの話の続きではありません。
本当に申し訳ありません。私を取り巻く状況がさらに悪化してしまい切り上げて投稿します。
この場を借りてお礼を申し上げます。
お気に入り登録や評価、感想ありがとうございます。
皆様の評価や感想などは執筆活動の励みになっています。
改めてお礼申し上げます。
長野県某所にある家、その居間にて二人の男女が座っている。
二人はテーブルに並べられた雑誌を見ながら悩ましげな顔を浮かべている。
「「う~ん……」」
開かれているページを指さしては悩み、違うページを開いては指さして悩む。そうして数分二人は座っているソファーにもたれこんで悩ましげにため息をつく。
「これだけ魅力的な物があると迷うな~」
「そうっすね~」
そう言って二人……須賀京太郎と東横桃子は再びため息をついた。
二人が何を悩んでいるのか、テーブルに並べてある雑誌の見出しを見れば一目瞭然だ。
『日本全国うまいもん100選』『お取り寄せグルメベストセレクション』etc.……
そう二人はどれを食べる或いは取り寄せるのか迷っているのだ。そんなことで? と思うかもしれないが学生の身分である二人には自由に使えるお金が限られているからこそ重大な問題なのだ。
と、言っても京太郎は家がそれなりに裕福だし、桃子も親から普通の高校生よりも多めのお小遣いをもらっているので二人とも金銭は余裕がある。しかし、お金があるからと言って毎日美味しい物を堪能するのは、何か違うなと二人は思っている。
なにより、二人はこうしてあーだこーだ言いながら限られた予算で選ぶ過程を楽しんでいるのだ。
「今回は魚にしようかな~と思ったんだけどな~。見れば見るほど魅力的なのがたくさんあって迷うな~」
「すき焼き……ハンバーグ……海鮮丼……海鮮しゃぶしゃぶ……ケーキ……アイス……うう~どれもこれも美味しっそうっす……」
二人はソファーに沈み込みながらあれがいいと言えばこれがいいと言い、それも良いなと言えばそっちもいいと言う。
そうして話し合いながら二つまで候補を絞ったところで京太郎がふいに並べられていた雑誌を見ながらボソッと口を開いた
「それにしても……この世で一番美味いものってなんだろうな……」
「ふえっ?」
京太郎本人としてもほぼ無意識に出ていたようで桃子が反応したことに驚いた様子だった。そしてそのまま自分が感じた疑問を説明しだした。
「ああ、ほら、こうやって定期的に食べに行ったり取り寄せたりしてきただろ? はずれもあったけど大体は美味しかったよな」
「そうっすね」
「人それぞれ好みがあるからこれが一番って決められないけど、ある程度までは絞れるんじゃないかってなんとなく思ったんだよ」
「ん~つまり100人いればだいたい90人がぐらい美味しいって答える料理ってことっすか?」
「そうそう、米が炊き上がるまで時間まで余裕があるから考えてみないか?」
「おもしろそうっすね」
そう応じた桃子は先ほどの質問の答えを考えるために腕を組みながら目を閉じる。
おもちを強調されている姿に少し目を奪われつつ京太郎も考える姿勢を取る。
(う~ん……。難しい問題っすね)
今はなんの気兼ねなく食を楽しんでいるが、元々は自分の特殊な体質を受け止めてくれる人を探す名目で始めたこと。つまり最初は味とかは二の次だった。
食材や作ってくれた人への感謝などはしていたがどこか心がここにあらず……要は感動したことはなかった。
(いや、先輩たちや京さんと一緒に食べるようになってからは違うっすね)
店員さんに気づかれなくても一緒に食べる人がいるだけで自分の舌がまるで鮮やかに色づいたように感じた。味の感想を言い合うことの楽しさ。相手が食べている時の音でさえ自分の中の孤独を吹き飛ばす音色だった。……!
(もしかすればこれがこの難題の答えのヒントになるかもしれないっす)
緊張して味がわからないという表現があるように食べる状況によってその当人の味に対する感じ方は違うはずだ。例えば初めて会う人や目上の人との食事の時だ。そんな状況で正確に味を感じられるだろうか。……よほど図太い人じゃなければ大なり小なり影響はあるだろう。
(じゃあ逆に美味しくなる状況は?)
気持ちが落ち着いている、要はリラックスした状況だろう。ならその状況にどうやってなる?
……家にいるとき?
(ああ、だからよくこの手の話題でお袋の味が一番になるっすね……)
あれは大体の人がリラックスしながら食べるものだ。だから印象に残るし、また食べたくもなる。味付けもその人にあったものだ。ならお袋の味がこの世で一番美味い料理だろうか?
(う~ん……ありきたりといえばありきたりっすけど……安牌っすね)
けどもう少し突き詰められるような気がしてならない。もう少し私自身の経験、いや原点から何か得られるものはないだろうか。私は一緒に食べる人がいるときが一番美味しく感じた。それが先輩たち……それに京さんがそれに当たる。私は元々人を求めて食べ歩いていた。
…
……
…………!
(簡単な話だったすね。お袋の味も突き詰めればそういうことっすね)
隣で考えている人を見る。どうやら彼もほぼ同時に思いついたよう目が合う。私は笑みを浮かべながら同じ結論だったら嬉しいなと願う。
(この世で一番美味いものは……)
(あ~、美味いもの、美味いものか~)
生まれて十数年、語れるほど食べてきたわけじゃないがそれでもいくつか候補は挙げられる。海鮮、肉、デザート……。思い出せばよだれが自然と出てくる。しかし……太鼓判を押せるものはない。
この世で一番美味いもの……この条件が難点だ。俺自身は健啖家でよほどのものじゃなければ何でも美味しく食べられるが、そうじゃない人ももちろん存在するだろう。海鮮や肉の臭みや食感が嫌いな人、野菜や果物の青臭さや甘さが苦手な人……いくらでも挙げられる。
ならば、この店の○○というような固有のものじゃなく、概念的なものを挙げればいいのだろうか? 例えば……採れたての野菜とか、釣りたての魚みたいな。
(困ったな……。簡単に出てくると思ったんだが……難敵だな。それに俺から話題を振ったんだからちゃんとひねり出さないとモモに悪いしな……。う~ん……)
そっと横目でモモを見ればさっきと同じおもちが強調されている姿勢で考えている。改めて見てもすごいな……っと変な方向に考えが行ってしまった。反省、反省。
採れたて……釣りたて……新鮮……刺身……美味い……食べたい……腹減った……今日のアレが楽しみ……! いかん、いかん。また思考が逸れてしまった。さっきまで雑誌とかで吟味していたからか腹の虫もメシはまだかまだかと訴えかけてきているな。まあこれも食事の醍醐味だから……ん?
(これか? これで行けるか…………いやこれは違うな)
さすがに空腹の時に食べるものは卑怯だろう。レギュレーション違反だ。
(う~あ~……腹が減ってきたな。……だめだ考えがまとまらなくなってきた、もう……単純に行くか?)
俺自身の俺はもともと食べるのが好きだったのがモモと知り合ってからもっと好きになった。モモと2人で何を食べるか考えて、一緒に食う。その動作の一つ一つが楽しかった。だから俺が考えるこの世で一番美味いものだからこれでいいだろう。
しかし、この答えをそのまま口にするのは少し……いやかなり恥ずかしいな。すこしオブラートに包んで答えよう。
モモの方を見て目線が合う。どうやらモモも決めたようだな。だったら……
(この世で一番美味いものは……)
2人の目線が絡み合う。どうやら結論に到達したようだ。
「じゃあ2人同時に言おうか」
「いいっすよ」
2人はどこか緊張した顔つきで向き合う。息を思いっきり吸いながら2人は同時に口を開く。
「「大切な人と一緒に食べるもの(っす)」」
「「………………」」
「「……っふ、ふふ」」
その答えを聞いた2人は少し顔を赤らめながらクスクスと笑い合う。
「いや~京さんも同じ考えで嬉しいっすよ」
「そうだな」
「その大切な人って誰っすか~?」
「あ~っと……」
どうやら恥ずかしくなってきたのか京太郎の顔がさらに赤くなる。それを見ていた桃子はさらに質問していく。
「私は先輩たちや京さんっすね」
「…………」
「先輩たちはこんなめんどくさい体質の私を受け入れくれたっす。京さんは初めてできた異性の友達で、私を常に見ていてくれて……」
「おおっと! もうこんな時間だ!! そろそろメシにするか!!!」
話を断ち切って京太郎は顔を赤くしながらいそいそと台所に向かっていった。そんな京太郎の後をニヤニヤしながら桃子がついて行く。
「素直じゃないっすね~」
そう言った桃子の顔もさっきよりも赤くなっていた。どうやら自爆覚悟でからかっていたようだった。
そんな気の置けない関係の2人の美食探求はまだまだ続くようだ。