東横桃子さんの誕生日なので投稿します。
一応生きてます。岩館さんの話も実はこっそり追記されていたりしてますので確認してみてください。
本当に申し訳ありません。
この場を借りてお礼を申し上げます。
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改めてお礼申し上げます。
追記:こっそりと更新してあります
『京さんと一緒に食べ歩きしたいっす!!』
耳元から響くはっきりとした声に虚をつかれる。
「へ?」
カピーに癒やされてたときに突然掛かってきた電話に出てこれである。
『京さんと食べ歩きがしたいっす!!!!』
「聞こえていたから二度まで言わなくて良いぞ。で、いきなりそんなこと言い出してどうしたんだ?」
『京さんは私と食べ歩きをしたくないんすか!?』
「いや、行ってもいいんだけどさ……普段の食べ歩きとどう違うんだ?」
電話の相手である東横桃子とは同じ
『聞いたっすよ清澄のおっぱいさんとバイト帰りに食べ物食べながら帰っていたこと!! ずるいっす!!』
「おっ、ゲフンゲフン……和と、食べ歩き? …………ああ、あれか」
確かに和のバイト*1帰りに先輩の好意でお土産を貰って、それを帰りがけに食べながら歩くことも食べ歩きには……一応なるか。これで彼女が言っていることは理解できた。
「あーっと、モモは俺と一緒にバイトいや……例えば学校終わりにコロッケや鯛焼き、焼き芋とか買って食べながら帰るようなことをしたいってことか」
『そうっす!!』
「え~……」
モモは極端に影が薄い体質だ。それで大分苦労してきた。
今でこそモモの通っている高校の先輩達や俺に出会ったことで救われたと言ってるが、それでもこれまで味わった孤独はなくなったわけじゃない。
だからこそ俺もモモの願いはできる限り聞くようにしてきたが……
「う~ん、別にやっても良いけど『なら!』問題があるな」
モモの弾んだ声を制するように突きつける。
「俺とモモが住んでいる地域が離れていることだ」
そもそも前提が崩壊しているのだ。俺とモモは確かに同じ趣味を共にする仲だが同じ高校に通ってない。同じ県に住んでいるが生活圏が被ってないからモモの考える“食べ歩き”はほぼ不可能だ。
モモの考える“食べ歩き”はさっきも言ったように学校終わりやバイト終わりの帰り道に並んで歩きながらコロッケや鯛焼きを食べる……青春漫画に見られるような状況なのだろう。
仮に、だ。俺の学校が終わって速攻で電車に乗るとかの手段を駆使して学校終わりのモモの元に急いで向かえばなんとか再現できるかもしれない。それはそれで問題は発生するが。
「無理に強行しようとしてもモモが求めるような“食べ歩き”にならないぞ」
『うぅ~』
俺が思うにあの場面の醍醐味は独特な空気感だと思う。気の置けない友人と緩く話しながら食べ物を時々摘まむ。それだけを抜き出すとファミレスでだべっているのと同じだが、そこに帰り道という要素が足されることであの空気が生まれる。こうなんて言えばいいか……あー、うまく説明できないな。どちらにせよ強行すればあの空気は得られないのは事実だろ。
『それでも京さんと一緒に食べ歩きたいっす…………』
……しょうがないな。全てを叶えるのは無理でもある程度までは出来るだろ、たぶん。
「だったら、モモこういうのはどうだ?」
そうして俺はモモに妥協案を提案した。
**********
ガタンガタン
揺れる振動はまるで私の心のように感じる。……ダメだ現実逃避するために詩的に表現しても今の私はきっと冷静じゃないことは変わらない。
(どうしてこうなったすか?)
こうして私が休日に電車に揺られているのはとあるワガママが原因だ。
同じ趣味を共有している異性にして好意を抱いている人が同じ高校に通っている人と一緒に帰ったという風の噂。それを聞いて私は居ても立ってもいられなかった。普段も体質でそれなりに迷惑をかけているのにさらに負担を掛ける暴挙。それでも私は止められなかった。
(それでもこれはさすがに……)
それが自分を除け者にして食を楽しんだ羨望なのか彼が盗られるかもしれない危機感からだったのか今となってはもうわからない。
それでも私のワガママの着地点は考えていたのだ。それは次に会ったときにアイスを奢ってもらうささやかなものだ。さらにその次の機会に私が彼に同じ価値のするものを奢ることによって後に引かないようにしようとも思っていた。
が、彼の提案により急展開を迎えた。
彼の家にお泊まりすることになった。
正確に言えば彼の家に泊まって、その後日が昇る前に準備をしてから朝焼けを背景に彼の高校から“食べ歩く”ことになったのだ。
(なんでっすか~~!!)
彼曰くどうあがいても夕焼けに“食べ歩く”のは無理だから、逆転の発想で朝焼けに“食べ歩く”のはいけるんじゃないかとのこと……。冷静に考えればむちゃくちゃだがこの提案に動揺していた私は受け入れてしまった。
(まあ、いくらでも後から拒否できたのにしなかった私も私っすね……)
顔が熱くなる。今の私の顔はとても見られたものじゃないだろう。今だけは私の体質に感謝してしまう。
お泊まり。こなすべきイベント全てをすっ飛ばした感はあるがこの機会を取り逃すほど私は臆病じゃない。これを許可するってことは実質両思いなのでは? もしかして今日色々と卒業してしまう!?
口には出せない妄想が沸いては消え沸いては消え、更に顔は赤くなり、目は落ち着きなくキョロキョロと動いてしまう。
そうして悶々としていた私を現実に戻したのは目的地に到達するという電車のアナウンスだった。
(平常心、平常心っす!!)
きっと駅の改札で待っているであろう彼に今の顔を見せるわけにもいかないのでホームで人目を気にせず深呼吸をして、手鏡でおかしなところが無いかを確認して気を引き締めた。
そうして見た目だけは取り繕った私は改札に向かい、そこで特徴的な金髪を見つけた。どうやら彼も同時に私を見つけてくれたようで軽く微笑んでくれる。私を見つけてくれるその姿に私は一層彼のことが好きになってしまう。高揚する気持ちを抑えつつ改札を通り抜け彼の元に向かう。
(ここまで来ればもうどうにでもなれっす!!)
どう転んでも得しかないのなら楽しむだけ楽しんでやる。私はやけくそに近い気持ちで好いている彼と何かが変わるかもしれない今日、明日を過ごす決意をした。
「おお~」
そんな決意をした私を連れ彼は家に案内してくれたが、その家を見て私は純粋に驚きの声をあげた。事前に聞いていたとはいえ改めて実物を見せられるとやはり違うものだ。テレビの物件紹介に出てくる家と言えばいいのだろうか? 他人の家に入る機会がここ最近まで全くなかった私でもわかるくらいには裕福な家ってこうなんだなと納得感のある家だった。
そして彼が鍵を開け私を家に入れてくれたが中を見て再度私は驚きの声をあげる。
「おお~」
先ほどから語彙力が消滅してしまっているが、初めて異性の家に招待されてさらにその家が裕福そうなオーラを纏っているのだからこうなってしまうのも許して欲しい。それぐらい彼の家に圧倒されていた。高そうな家具などをこれ見よがしに置いてはいないのだが気配というか空気が違うように感じる。そんな風に圧倒されていた私を現実に引き戻すように彼が呼びかける。その呼びかけに正気に戻された私は慌てて靴を脱ぎ、用意されていたスリッパを履いた。……フカフカだ。
「すごいっすね」
私の言葉に彼は“ただ大きいだけ”と答えたが、私はそう思わなかった。……さっきまでのドキドキが違うドキドキになってしまった。
「とりあえず、挨拶してくか?」
「……?」
「一応、話は通してあるけどそこらへんはちゃんと、な」
「あ!! そ、そうっすね、挨拶は大事っすね!!」
しかし、すぐに元のドキドキに戻った。これから彼の親と顔を合わせなければいけない……ん? あれ、これって、結婚の挨拶みたいな言い回し……
顔がボンッと爆発したみたいに熱くなる。ど、どうすればいいっすか!? 本当にこのままゴ-ルインしちゃうっすか!? 心の準備が!?
「ほらついたぞ」
時間は待ってくれず無情にもすぐにそれは訪れてしまう。仕切り直すにも良い言い訳も思い浮かばず、浮ついたまま対面となってしまった。
そうして気がついたら全てが終わってゲストルームでペットのカピバラを撫でていた。
彼曰く「借りてきた猫よりもしおらしかった、モモの口癖が全く出てこなかったのが珍しかった」だったそうだ。
(っ~~~~~~!!!!)
心の中で絶叫する。穴があったら入りたくなるぐらい自分の頭の中のピンク具合が恥ずかしくなる。彼が言うには問題はなかったそうだが、これから世話になるかもしれない人達にそんな態度はさすがにないだろと自分を責めたくなる。
(夕食の時に改めて挨拶し直そう)
よく世話をされているのか毛並みがとてもやわらかいカピバラに癒やされつつ、彼が戻ってくるのを待つ。彼はお菓子と飲み物を取りに行っていた。
そうしてすぐに彼はお盆を片手に帰ってきた。
「ほれ、モモが好きそうなお菓子をもってきたぞ」
「あ、ありがとうございますぅ」
「はは、まだ口癖が直ってないのか。ま、自分の家だと思ってくつろいでくれって親父達も言ってたろ? モモもそう緊張するなって」
「うう……」
少し落ち着いていた顔の熱が戻ってきた。……が、もうここまで来れば破れかぶれというか居直るしかないと気持ちが変に落ち着いてきた。
冷静になって改めて部屋を見回す。旅館の一室に来たような錯覚さえ起きるくらいにはよく手入れがされていた。そして今気付いたが端の方に雀卓もぽつんと置かれていた。
なんとなく気になった私はふらりと立ち上がりそれに近寄る。それはこの部屋で一番目立っていた。そして、近寄って目立っていた理由に気がつく。
「これって最近買ったものっすか?」
「ん? ああそうだな」
持ってきたお菓子をテーブルの上に置いた彼は私の疑問に答える。
その答えに私は納得した。この部屋にまだ馴染んでないから気になったのだ、まるで今の私のような……
「じゃあ、少しだけ一緒にいいっすか?」
ふと湧いてきたそんな想いを振り払うように彼に提案をする。彼はそんな私の提案に二つ返事でのってくれた。そこからはもどかしくそれでいて楽しい時間を過ごした。
「お!! それロン!!」
「!! ……しまったっす」
いつもの実力を三分の一も発揮できないのがかえっていい勝負になって、それでいて彼は私の捨て牌をキッチリと拾ったりするところが私には心地よかった。
「うまいっすね」
「そうだろ、俺もこれがここ最近の一番でな」
その間に摘まんだお菓子も心地よさを倍増させる。彼とは基本的に舌が合っているから彼の好みがそのまま私の好みになる。味もそうだが彼とこの幸せを共有できることが一番嬉しかった。
そうしていると次第に私の緊張もほぐれていき平常心をそれなりに取り戻していった。そこからは色々なことをした。ゲームだったり、カピーちゃんと戯れたり、スマホやカタログを見ながら食べ物談義をしたり……。そこに甘酸っぱさはなかったが自分が体質とは無縁な普通の子として過ごすことができた。
そのまま時は流れて就寝前。21時くらいだ。早朝に家を出るのなら少し遅すぎるくらいだが京さんとの会話が楽しくてずれ込んでしまった。
そして今私は備え付けられていたベッドで京さんと一緒に寝たいという誘惑と戦っていた。……さすがに不健全な意味の“寝る”じゃないと断っておく。ただ、こう、安心が欲しいというかなんというか……。心が少し寂しくなったというか……。
(私もワガママっすね)
気の置けない人と眠っているときも近くにいて欲しいなんて、ね。いくら京さんが優しくてもさすがに断るだろう。しかし、受け入れて欲しい自分がいるのもなんとも言えない。
(さすがマズいっすよね)
悩んで悩んで……誘惑をはねのけた。そうと決まればカピーちゃんと遊んでいる京さんに寝る前の挨拶をして寝よう。こうやって家に招き入れてくれるくらいには気を許しているんだからゆっくりと関係を深めよう。
ほんの少しだけ名残惜しさを感じながら挨拶をする。京さんはカピーちゃんを連れて出て行く。去り際の“おやすみ”にときめいてしまったのは秘密にしておこう。
ベッドに入るとすぐに視界が徐々に暗くなっていく。どうやら想像以上に気疲れをしていたようだった。明日どうなるのか期待しつつ意識を手放した。
**********
「来ちゃったすね」
「そうだな」
ちょうど日が出始める少し前の時間に京さんが通っている高校にたどり着いた。
「ここが京さんの通っている高校っすか」
「普通の高校だろ」
「まあ、そうっすね」
先輩達に会えた鶴賀に不満は全くないが、もし私がここに通っていたら京さんと一緒に登下校できたのかと少しだけ妄想する。……が。
(先輩達のおかげで今の私がいるっす)
すぐに打ち切る。先輩達も京さんも好きだ。そんな皆と出会った今までを否定したくない。
京さんの麻雀部のこととかを聞いて少し時間を潰してから歩き始めた。そうすると次第に周囲が明るくなってきた。
「じゃ、そろそろ食うか」
そう言って京さんは保温バッグから焼き芋を取り出し半分に割る。事前に取り寄せていた冷凍されたやつを電子レンジで温めたものだ。受け取るとほんのりと温かかった。断面を見れば黄金色のきめ細かい繊維が芋の蜜でコーティングされていた。食べずとも匂いと見た目だけでその美味しさが容易に想像できる。
それを口に運ぶ。そうすれば口に広がるのは上質な甘さとねっとりとした感触だ。噛めば噛むほど口から全身に幸福感が広がる。
「旨い」
「旨いっす」
同じ感想がほぼ同時に出てくる。ただただそれだけしか出てこなかった。
しかし、少しだけ失敗したと思った。
(これは目的が変わっちゃうっす)
本来の目的は学校帰りの食べ歩きをできるだけ再現することだった。しかし、今は焼き芋を味わうことが目的になってしまっていた。奮発していいやつを注文したのが裏目に出た結果だ。本来の目的に戻すためには会話に舵を取らないといけない。けど……
(まだ温かさが残っている内にもっと堪能したいっす)
一口食べてまた一口。後を引く美味しさにただただ夢中になる。
そして気付けば手から焼き芋は消えていた。まだまだ京さんの家には着かないが……それでも貴重な時間を消費してしまった事実に少しだけ後悔する。
「ほれ」
京さんからなにか差し出される。……コロッケだった。
(あれ……?)
今回の計画だと用意したのは焼き芋だけだったはず。しかし目の前のコロッケはキツネ色の衣を輝かせながら存在している。そんな私の疑問を見通していたのか京さんはそのまま説明する。
「焼き芋だけじゃ物足りないだろうと思ってな……作っておいたんだ」
「作って……おいたすか?」
「そう、染谷先輩にレシピを聞いてな。ほら事の発端になった和と一緒に帰っていたときに食っていたものさ」
「……」
「さすがに早朝に揚げていたらバレると思って冷凍したものをオーブンで温め直したやつだけどな」
そう言ってこちらに振り返った──ちょうど良く地平線から顔を出した朝日に照らされた──彼の姿に見惚れてしまった。
キラキラと彼の金色の髪とイタズラが成功したことに喜んでいる笑顔が私の心を掴んで離さない。
(これはこれで)
コロッケを口に運ぶ。温かさはほぼ無くなっていたが私の心には暖かいものが広がっていく。味もタマネギの甘みが目立っているがそれ以外はコロッケといえばこれ!! ……みたいな素朴な味だ。しかし、これがいい。毎日食べても飽きがこないこの味が実にいい。
「美味いっすね」
「そう言ってもらえるなら作ったかいがあるってもんだ」
「次は出来たてが食べたいっす」
「お、おう。そこまで気に入ってもらえるとは思ってなかったな」
「お返しに今度は私が料理を作るっす」
「それはいいな、モモの手料理も楽しみにさせてもらうよ」
「だから……京さん」
「ん?」
とびっきりの笑顔と一緒に想いをぶつける。
「これからもよろしくっす」
「こちらこそよろしくな」
二人して笑い合う。
そしてコロッケをまた口に運ぶ。きっとこの味は一生忘れないだろう。
この輝かしい青春の味を。
なんとか形になりました。