東横桃子さんの誕生日なので投稿します。
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改めてお礼申し上げます。
「もしもの話?」
想い人が私──東横桃子の問いかけに聞き返す。
「そうっす。もしも私が小さい頃──例えば小学生の頃から京さんと知り合っていたらの話っす。京さんはどう思うっすか?」
「どうって……う~ん」
料理が運ばれるまでの時間。
私は暇つぶしを名目にそんな話題を提供する。くすんだ金髪で幼さが残っている顔立ちの彼──須賀京太郎はその仮定の話を聞いて考え込んでいる。
そして私に前提に対する疑問をぶつけてきた。
「とりあえず、何でそんなことを考えたんだ」
「清澄のリンシャンさんが実はあの団体決勝戦の相手に昔会っていたって話を聞いてなんとなくっす」
「ああ、うん。あれか。……話した俺が言うのもなんだけど、出来すぎだよな?」
「否定はしないっすよ」
私の言葉にどこか腑に落ちない顔をしながら彼は再び私の問いかけに対する答えを求めるために思考の海に潜っていく。
真面目に考え込んでいる彼の顔は好意という色眼鏡を抜きにしてもカッコよかった。
……それはそれとして彼が言った出来すぎている話には正直私も同意しかなかった。世間は案外狭いというのは良く聞くが狭すぎだと思う。まあ……これ以上その話題に突っ込むのも意味はない、か。
この仮定の話は時間つぶし以外の意味はほぼない。
「……今の関係と同じ関係に落ち着くかもな」
「その心は?」
「モモと知り合うきっかけになったのは食べ物だろ。そこが変わらないのなら結果は同じになると思ったから、かな」
「まあ、そうっすよね」
私と彼が出会うきっかけが食べ物に関することだった。趣味と舌が合った彼とそれから一緒に色んなところに食べ歩くようになり、今に至っている。
だから結局の所、この仮定の話は意味がほぼ無いもの。暇つぶしとしてすぐに消費されるだけのものだ。
そう、だから……
「私も同じ結論になるっすね」
「だろ?」
「けど、まあ、……そうなっている私がいたなら少しだけ羨ましいっすね」
今に不満はないけど
「その私は京さんとのこんな楽しい時間を私よりもたくさん共有しているのが羨ましいっす」
その仮定によって生まれるその覆しようのない事実だけは本当に羨ましく思う
「まあ、仮定の話っすね」
「モモ……」
彼が神妙な顔をして私を見つめる。その声色は私に対する思いやりに溢れていた。
それに対して私は朗らかに笑う。
「ただそこだけ羨ましいだけっすよ。今の私は十分幸せっす。先輩達や京さんに出会えたっすから」
それは紛れもない本心だ。きっと一年前の自分に今の自分の状況を伝えても信じないだろう。それぐらい今の状況は恵まれているのだ。そう、例えば──
こちらに近づく足音。視線をそちらに向ければ頼んだ料理がこちらに向かってきているのが見える。
運んできた店員の声と共に頼んでいた料理が目の前に並べられる。
それが発する美味しそうな匂いが食欲をかき立てる。
「おおっ、実物はメニューのよりもさらに美味しそうに見えるっす。京さんもそう思うっすよね?」
「あ、ああ。そうだな」
「じゃあ、早速──いただきます」
「いただきます」
組んでいた腕をほどく。そして手を合わせて挨拶をする。
京さんも色々な言葉を飲み込んで私に続いた。
これでこの話は終わり……のはずだった。
「もしもの話?」
いつかと同じ言葉を今度は私が発する。
あの日からしばらく経って再び京さんと外食に来た私はあの時と同じ待ち時間に京さんから仮定の話を聞かれた。
「もしもモモが俺と出会わなかった場合の話だ。その場合モモはどうなっていると思う?」
「……あまり考えたくない話っすね」
「まあまあ、そうトゲトゲすんなって。──ほら、この前しんみりさせられたお返しみたいなもんさ」
「むぐ」
それを聞いた私はなにも言えなくなる。
私自身は体質に関する悩みは折り合いはつけているが、彼にはまだそれが重いものだということを見誤った。ブラックジョークに昇華するにはまだ早すぎた。それだけの話だ。
「しょうがないっすね」
だからあまり考えたくないが、そのもしもの話を考えるとしよう。
彼と出会わなければ……まずこうやって食べ歩くことはないだろう。
先輩達とは出会っているのだから麻雀はやっているだろうし、それならインハイに参加しているだろうから県大会決勝を囲んだ3校の人とも知り合っている。なら……
「──楽しく過ごしていると思うっすよ」
「その心は?」
「あえて重く表現すれば今の私は奇跡的な出会いの果てに存在しているっす。加治木先輩に手を差し伸べられて蒲原元部長やかおりん先輩やむっちゃん先輩に出会った。麻雀部を通じてリンシャンさん達に出会った。──そして京さんに出会った」
京さんに出会ったことで私の世界はさらに広がった。なら出会ってなければ?
「先輩達に出会って人と関わる楽しさを教わった。リンシャンさん達に出会って競い合う楽しさを教わった。京さんと出会ったことで美味しい料理を分かち合う楽しさを教わった。つまり京さんと出会わなくても二つの楽しさが残るっす。だから楽しく過ごしていると思ったっす」
「そうか」
そう言って彼は私を温かい目で見つめる。
その眼差しに疑問を持った私は彼にそのことを投げかける。そうすると……
「モモが変に拗らせていなくて安心した」
と返ってきた。
それに加えて彼はこの前の会話で私が彼に執着しすぎているんじゃないかと心配になってこの質問をしたようだった。彼としては私との今の関係はとても好ましいが、それに傾倒しすぎて周囲の関係がギクシャクするのは本意じゃないそうだ。
それを聞いた私は彼に抗議するように口を尖らせる。
「そんなに私ってヤバそうに見えるっすか?」
「そうだな……ステルスを悪用して家に不法侵入している様子が鮮明に思い浮かぶくらいには」
「いや、そんなことしないっすよ!? 犯罪っすよ!?」
「気付いたら背後にいるみたいな行動をしてても可笑しくない見た目と経歴だろ」
そう言われると長い黒髪は幽霊のテンプレみたいな髪型だし、高校に入るまで人付き合いをほとんどしてこなかったことによる反動でそんなことをやらかしそうだと言われれば反論は出来ない。
「まあ……こうやって話しているとそんな湿度を感じないけどな。それに俺はモモの髪は似合ってると思うぞ」
「京さん──それだけじゃフォローしきれないっすよ」
「ま、そうだな。じゃあ帰りにケーキ奢るからそれでいいか?」
「いいっすよ」
そんな風にじゃれていると店員さんが注文していた料理を持ってきてくれた。
そしてこの前と同じように一緒に挨拶をする。
「「いただきます」」
そうして今回は前回と違って互いにわだかまりなく食事を終えた。
しかし……この仮定の話はまだまだ終わらなかった