話に盛り込められないです。
表紙でみた泉はかわいいですけどね。
二条泉の不安
目の前の少年に対して二条泉はどう接すればいいかわからなかった。
目の前の少年があの原村和が所属している清澄高校の唯一の男子部員なのは、原村和について調べた際に判明はした。
その少年とこんなところで会うなんて予想外にもほどがある。
どうしようか、私は突然の出会いに困惑した。
「どうしました?」
「は?え?」
「コンティニューの時間がもうないですけど。」
「あ、あ~」
私は目の前の画面のカウントダウンがほとんどないことに気づき彼に拾ってもらった硬貨を急いで筐体に投入した。
そう私はあの準決勝の後にあまり褒められたことではないがほんの少しだけの時間、監督から許可をもらってホテル近くの店に入ってガンシューティングをやっていた。
私はFPSが好きだが得意ではない。
しかし、今は体も多少使わなければ気が済まなかった。
あの準決勝において私は大幅に削られてしまった、3年ブーストとかそんなのは関係ない。
私はあの準決勝において麻雀に余計な雑念を多く入れてしまった。
あの時、もう少し立ち回りを変えていればもしかしたら千里山女子が決勝に進んでいたのではないかという考えが消えない。
先輩方は気にしてないと言っているが、不安は消えない。
もしかしたら心の中では私を責めているのではないか、あの人がいい先輩方に限りそうではないと信じてはいるが不安は消えない。
そうでなくとも3年生の先輩方の最後のインターハイ団体の優勝の夢終わらせてしまった私は私を許せそうはない。
考えれば考えるほどネガティブな思考に陥りそうだった。
5位決定戦に向けて対策をしなければならないのはわかっている…わかってはいるが、自分の心の整理をつけるためにここに来てしまった。
監督もわかっているのか私が相談した時間よりも多めの時間を許可した。
準決勝中は大丈夫だったが、結果が出てしまった今、私は先輩方と顔を合わせると先ほどもいったように不安が生じてしまう。
ここにいるのは問題の根本的な解決にはならない逃げでしかないが、今はただ麻雀以外で一人で没頭する時間が必要だった。
そして、あまり得意ではないためすぐにライフをすべてなくしてしまった。
コンティニューをするために硬貨を取り出そうとして落としてしまい、拾おうとして拾ってもらったのが彼だったのだ。
あの原村和に関係しているであろう少年の登場により私の頭は混乱の境地に至ってしまった。
それでも体は目の前の画面に向けて照準を合わせていた。
私は頭の中の混乱を抑えつつ、少年に向かって顔を向けずに言った。
「拾ってくれておおきに、お礼をしたいから少し待っとってくれへん。」
まて、私は何を言っているんやお礼の言葉だけでいいのに図々しく待たせるなんて。
やはり頭の混乱は収まっていないのだろう。
私は少年に向かって謝罪の言葉を言おうとしたとき、少年の方が先に口を開いた。
「わかりました、それでは少し待たせてもらいます。」
私はさらに混乱してしまいそのまま「おおきに」といってしまった。
なんでこんな失礼な言葉にふつうに返しているんや、普通は「大丈夫です」「いえお構いなく」じゃないのか。
そんな心のまま私はゲームを進めていきほどほどに進めたところでやめた。
余談だが混乱してしまったせいなのかわからないが1コンティニューで進められるところとしては最高記録を出してしまった。
私は少年に顔を向け待たせてしまった謝罪をしたが、「お気になさらず」と返ってきて申し訳なく思ってしまった。
時間を確認するとまだ余裕があったので近くのチェーン店に入りおごることにした。
ここで自動販売機のジュースで済ませないあたりまだ混乱しているのだろう。
席に着きお互いに自己紹介をした。
「私は二条泉や、さっきはおおきに。」
「俺は須賀京太郎です。よろしくお願いします。」
「私と同い年だし、敬語やのうてええよ。」
「わかった、よろしく二条さん。」
「泉でええよ、私も京太郎って呼ぶから。」
それにしてもなんで今私は同い年の男子とお茶をしているのだろうか。
これではまるで私がインターハイにかこつけて男あさりをしているように見えるのではないだろうか。
考えがまとまらない、私は何をしているのだろうか。
とりあえず当たり障りのない会話をして切り上げて別れよう。
そう考えて私は口を開こうとしたが、先に彼の方が口を開いた。
「それにしても泉はなんで俺の年齢がわかったんだ。」
「それは…」
私は彼にその理由を話すべきか迷ったが話すことにした。
「原村和を調べる過程で偶然わかっただけや。」
「和を調べた?」
「インターミドルで私は2位だったんや、1位だった原村和を意識するのは当然やろ。」
「そうか。」
「というよりもなんで素直に待ってたんや、そのまま離れてもよかったのに。
なんでなんや?」
「あー、顔を見た際になんていうか気になっちゃって、それでそのまま泉の提案に乗ったんだ。」
「気になった?」
「鬼気迫っているというか思い悩んでいるというかそんな顔をしていたから気になってな。もしよければ話してくれないか。今会ったばかりの俺が言うのは変だけど赤の他人の俺に話せば楽になると思うからどうだ。」
私は京太郎の提案に悩んだ。
確かにあのままゲームをしていても問題の先伸ばしにしかならなかったのは明白だ。
それは京太郎が言ったように顔に出ている時点でわかりきったことだ。
しかし、たった今出会った人にこのようなことを相談するべきだろうか、しかもあの原村和が所属している清澄の男子生徒に。
私は悩みに悩み、最終的には目の前の親切な少年の提案に乗ることにした。
「実は…。」
私は抱えていた不安をすべて話した。
話すつもりの無かった所まで話してしまった。
話し終わってから私は自嘲するように笑ってしまった。
会ったばかりの同い年の男子に縋ってしまうまでに私はここまで弱っていたのか。
あの無駄に自信満々だった私は所詮虚勢を張っていただけで、今の私が本当の自分なのではないか。
ネガティブな考えが浮かんでは消えていく。
大事な麻雀も大切な先輩も何もかも目を背けてここにいる私はなんだろうか。
何が高一最強だ、何がインターミドル2位だ。
私という存在が虚勢を張ることしかできないちっぽけな存在では無いかと思えてくる。
このことを聞いた目の前の少年もきっと私のことを心の中でバカにしているのだろう。
それが何よりも辛かった。
なんで目の前の少年にバカにされるのが辛いのだろうか?
私は心の中の疑問に気がついたとき、京太郎は真剣な顔をしながら口を開いた。
「俺は本当の意味で泉の気持ちを理解することはできない。俺は県予選落ちの言い方が悪いが雑用として付いてきているから、レギュラーであの舞台に立っていた泉の苦悩に対して安易な助言はできない。」
「けど似たような体験をした俺から泉に対して経験談を話すことはできると思う。」
そう言って京太郎は自分の経験談を話し始めた。
京太郎は中学のときはハンドボールをやっていて3年の時には県予選の決勝にまで行けるくらいにはうまかったらしい。
そのとき京太郎はエースのような立場で自分のことを中学でもっともうまい選手だと思い調子に乗っていた、そして決勝の舞台で無茶なスタンドプレイにより負傷、そのままチームは負けてしまった。
負傷自体は後遺症が残るほどのものでは無かったが彼は自分のせいでチームが負けてしまったと思いそのままハンドボールをやめてしまった。
チームのみんなは気にするなと言っていたが彼自身が自分のことを許せなかった。
ハンドボールをやめてそれから目を背け、もらっていた推薦も蹴って清澄に来た。
麻雀を始めたのは清澄の部長の勧誘だけでなく文化部ならばあの出来事を思い出さずにいられるのでは無いかという思いも少なからず存在すること。
しかし泉の話を聞いて自分があの時とった行動はきっと正しくはなかったと思ったこと。
このことを京太郎は話してくれた。
「泉、今お前はあの時の俺と同じような状況にあると思う。あの時俺は誰にも相談せずに全てから目を背けてしまった。」
「泉はまだ取り返しが付くところにいると思う。はっきり言って3年を相手にあそこまで戦えたのは泉の実力があったからこそ戦えたんだ。」
「泉は悩みながらも俺に相談してくれた、あの時家族や咲にさえも相談できなかった俺よりも心が強いと思う。」
「それにあの時の俺と違って泉にはまだ機会があるんだ。」
「俺が保証する、泉は高一最強だって。」
その言葉を聞いたとき、心の中の虚無感が晴れていくような気がした。
そして瞳に涙を堪えながら、私は京太郎に向けて宣誓した。
「そうや、私は高一最強なんや!」
「原村和や大星淡、宮永咲なんて敵や無い!」
「私はもうあきらめない!」
言い切って私は恥ずかしくなってしまった。
店の中で何を言っているのだろうか。
顔を赤くして笑ってごまかしていると京太郎はハンカチを手渡してくれた。
おもわずそのハンカチで目元を拭っていると店の時計が目に入った。
「もうこんな時間や。ハンカチおおきに、洗うて返すから連絡先を教えてくれへん?」
「ああ、わかった。泉の力に多少はなれてよかったよ。ハンカチは返せたら返していいから今はインターハイに集中してくれ。咲や和、優希や先輩方の次に応援しているよ。」
「そこは一番に応援しているって言うところやないんか。」
「はは、一番に応援してほしいなら5位決定戦で活躍してみることだな。」
「それもそうやな。ほなまた会いまひょ、次会うのを楽しみにしとれや。」
「おう、楽しみにしてるぞ。」
そう言葉を交わして、店を後にした。
結局少し遅れてしまい監督に叱られてしまったが、私の悩みが無くなったのを顔を見て判断したしたのか「いつもの泉に戻ったみたいやな。」と言葉を掛けてくれた。
それに対して私は「心配をおかけしました、監督。」と返した。
その後で先輩方にも謝罪したが、先輩方は暖かく迎えてくれた。
本当に私にはもったいない監督や先輩方や。
そんな人たちにできる恩返しは千里山女子を5位にすることだけや。
私はそう決意を新たに5位決定戦に向けて準備を始めた。
そのとき私の瞳に炎が灯った気がした。
それにしても、京太郎と話しているときに何か疑問に思ったことがあったような気がするが、今は5位決定戦に集中や。
私は思考を麻雀に切り替え没頭していった。
**********
同い年の少女が元気に駆けていく。
あの様子なら大丈夫だろう。
しかし、俺も大概お人好しだな。
ゲームをやっていた同い年の少女の様子が気になって足が止まった際に、少女が落とした硬貨を拾うことになるとはホテルを出る前の俺には想像が付かなかっただろうな。
ああ、そうだ彼女こと二条泉が同い年なのは最初から知っていた。
全国の強豪校のデータを調べる際にわかったことだ。
その少女に硬貨を渡した際に見た顔が俺とダブって見えてしまった。
あの中3の県大会決勝の後の俺の顔と。
なぜか少女の方も俺の顔を見たらしばらく硬直していたが、俺の言葉で正気に戻ったのか急いでコンティニューしていた。
それを見届け俺は悩んだ。
確か彼女が所属している千里山女子は今日の準決勝で敗退したはずだ。
そこに所属している彼女があの時の俺と同じ顔でこんなところにいるのはたぶんあの時の俺と同じなのだろう。
自分のミスで全てを終わらせてしまった事に対する申し訳なさや不甲斐なさ、そして自分に対する失望。
なまじ一生懸命に取り組めば取り組むほどそれは大きくのし掛かってくる。
それに押しつぶされかかっている顔だ。
俺はその顔をした少女に対してできることはないかと考えたが、ただ落とした硬貨を拾ってあげただけの赤の他人、しかも異性がいきなり悩んでいることは無いかと聞いたら逆に不審がられる。
どうしようかと考えたとき少女の方からお礼がしたいという提案があったので渡りに船として提案に乗った。
そして、少女がゲームを終えた。
俺はそこら辺の自販機で飲み物を奢るくらいで済むだろうと思っていたところで少女は近くのチェーン店に向かったので俺もついて行くことにした。
そして、注文した飲み物を持ち、席に着いたところでお互いに自己紹介をした。
もちろん、名前は知ってはいたが知っていることにより不審がられるのを避けるため何も知らないふりをしながら自己紹介をした。
そこで泉は同い年だから敬語はいいと言ってきた。
俺は自慢じゃ無いが背が同年代平均よりも高いため年上だと勘違いされているだろうとと思っていた。
さらに強豪校のレギュラーである泉とは違い県大会予選で敗退したから知名度なんてないと思っていたためその提案に疑問を持ち、その疑問を泉にぶつけた。
そして、泉は少し逡巡して理由を話し納得した。
インターミドル2位だったからこそ1位である和にある程度の執着があり、その和を調べる際に同じ1年である俺のこともどこかで見掛けたのだろう。
そして、泉の方からなぜその場で待っていたのか疑問をぶつけてきたので、ある程度言葉を選びそれをそのまま伝え、その悩みを俺に話してくれないかと提案した。
俺の言葉に泉は悩みそして自分の現状や思いをそのまま伝えてきた。
それに対し俺は驚きそして羨んだ。
あの時俺ができなかった事を目の前の少女は実行した。
誰にも言えなかった俺とは違い、目の前の少女は話してくれた。
その事実に俺は決意した。
目の前の少女が勇気を振り絞り全てを話してくれたんだそれに応えなくては俺は俺が許せなくなる。
勇気には勇気で応えよう、家族や咲にさえ話していなかった俺の本心を目の前の少女に伝えよう。
きっと、俺と違い少女は間違えないだろう。
俺は目の前の少女に対してあの時のことを全て伝え、俺が話を聞いて思った本心を伝え、最後にまだ間に合うと背中を押した。
それを聞いた泉は少しだけ止まった後、目に涙を堪えながら宣誓し、恥ずかしくなったのか照れ笑いをしていた。
俺は咲用に多めに持ち歩いているハンカチを泉に手渡した。
泉は受け取ったハンカチで目元を拭っていると時計を確認したのか慌て始めた。
そのまま連絡先を交換した後、俺の軽口に対して泉は好戦的な笑みを浮かべつつ軽口を返してきた。
その笑顔で俺は目の前の少女の悩みを完全に払拭できたと確信できた。
少女が去った後に残された俺はそのまま移動しようとしたとき、電話が掛かってきた。
咲からだ、俺はその電話に出た。
『京ちゃんもうこんな時間だよどこにいるの?』
「ああもうそんな時間か、今咲たちに土産を買おうとして店にいるところだよ。」
『そっか、てっきり遊び歩いているかと思ったよ。京ちゃんも清澄の仲間なんだからちゃんと打ち合わせに参加しないとだめだよ。』
「ああ、わかったわかった。咲はいつものでいいんだよな?」
『え、それでいいよ。』
「わかった。じゃあ買うから切るぞ。」
『あ、まって京ちゃんなんかあった?なんか声が明るいよ。』
「そうだな、抱えていた問題が解決したからかな。じゃあもう切るぞ。」
『それってどうゆう意味…』
咲の言葉の続きを聞かずに俺は携帯を切った。
俺も急いで土産を買って帰らないとな。
俺は注文カウンターに並んで何を買うか選ぶことにした。
**********
全てが終わり後は帰るだけになった私は監督に頼んで少し時間をもらえないか相談した。
監督にはあの日のことを報告していたため、すんなりと許可は出た。
しかしなぜニヤニヤしていたんや?
私は疑問に思いながらも、貸してもらったハンカチを返すために京太郎に連絡をした。
京太郎の方も大丈夫だったのであの時の店の前に来てもらった。
そして急いで向かうと京太郎の方が先に来ていた。
「よう、泉数日ぶり。」
「そうやな、あの時はお世話になったわ。これハンカチ、ちゃんと返したで。」
「おう、受け取ったぞ。それにしても泉はすごかったな。」
「それはイヤミか、団体1位の清澄さん。」
「ひがむな、ひがむな。俺は思ったことを言っただけだ。」
「はは、そう言ってもらうと頑張ったかいがあったわ。」
「実際すごかったよ、完全に立ち直ってたな。見ているときは一番に応援していたよ。」
「よしてや、無我夢中の結果やし。あの時もこうすればよかったって今もよぎるし。完全には立ち直ってないわ。」
「それでもだ、あのときの泉は輝いていたよ。」
「はは、口説き文句としてはありきたりやな。でも素直に受けとっといとくわ。おおきに。」
会話が途切れる。
あとはこのまま帰るだけなのに私の口は勝手に開いた。
「ああ、そうやこれからも連絡をしてもええか?」
「いいけど、どうしてだ。」
「京太郎から受けた恩はまだ返し切れてへんからな。このままにしとくのは気が済まん。」
「あまり力になった気はしないけどな。俺がやったことはただ話をして励ましただけだ。そんなに恩を感じる必要はないと思うぞ。」
「それでもや。」
「そうか。ならこれからもよろしくな泉。」
そう言って彼は私と握手を交わした。
そして別れの挨拶を交わして私は京太郎と別れた。
私はホテルに向かいながらなんであんなことを言ったのか考えていた。
そして、私は一つの結論に思い至った。というよりも思い出した。
一目惚れだったと言うことが。
原村和を調べていた際に京太郎の顔を見た際かっこええなと、ふと思ったことが始まりだったこと。
今に至るまで忘れていたが、それならあの日京太郎と出会ってからの不審な行動に説明が付く。
一目惚れの男子が突然目の前に現れて無意識にテンパっていたのだろう。
しかし、結果的にはなんとか立ち直ることができた。
京太郎に言ったように引きずってはいるがなんとか挽回はできた。
あの出会いは私にとって人生の分岐点だったのだろう。
京太郎には頭が上がらんな。
そう考えながら私はホテルに戻っていった。
余談だが、監督から話を聞いてこっそりと付いてきた先輩方にまるで恋する乙女だったとイジられる羽目になったのは本当に余談だ。
**********
嬉しそうに少女が元いたホテルに戻っていく。
それを見届けながら俺は先ほどのやりとりを思い出して、思わず口を開いた。
「俺の方が泉に救われたよ。」
俺は心の底からそう思っている。
もし、泉と出会ってなければ俺はあの時のことからずっと目を反らしていただろう。
そして、また同じような事を繰り返していただろう。
泉のおかげであの時のことと向き合う勇気をもらった。
時間をかけてゆっくりと向き合っていこう。
俺もまたホテルに戻っていった。
きっと、泉とは長い付き合いになるだろう予感をさせながら。