話が薄味になったことをお許しください。
この場を借りてお礼を申し上げます。
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改めてお礼申し上げます。
「もしもの話?」
なぜか今回もいつかと同じ言葉を発していた。
今回の仮定の話は彼が神妙な顔をして珍妙なことを繰り出してきた。
「もしもリンシャンさん達が男だったら?それは……なんでそんなことを?」
「夢で見たとしか言いようがないな」
「え~」
そんな間の抜けた声しか出なかった。
リンシャンさん達――清澄高校の人達が男だったら。さらに話を深掘りしていくと出てくるのはまるで当事者のような情報だった。人物像はあまり変わっていないが。名前は微妙に変わっていること、例えば宮永咲なら宮長咲基のように。髪色も女なら違和感はないが男なら違和感が出てくる色になっていること、例えば原村和の明るいピンク色は暗いピンク色に。
それだけなら変な夢を見たで片付けられる。はっきり憶えている点に目をつぶれば笑い話の類いだ。
しかし、なぜ彼はそんなに神妙な顔をして私の相談しているのだろうか?……!?
ま、まさか!!
「もしかして、京さん……」
「ああ、実は」
「もしかして男の人が好みだったんすか!?」
「へ?」
「だって、そんな夢を見るくらいには周りの人達が男だったらなあって思っていたんじゃ……」
「ちょっ、ちがっ、違う!?」
目を白黒させて彼は慌てて首を振って私の説を否定する。
その首の勢いから見て本心から否定しているのが伺える。
彼は咳払いをして逸れかけた話を修正するかのように再び神妙な顔になる。
「実はな、話の主題は咲達が男になっていることじゃないんだよ」
「言いかけていたっすね」
「その夢の法則で考えると俺は女になっているべきだと思わないか?」
「ああ、確かにっすね」
目の前の彼が女性になっている姿を想像する。……なんか女として負けてそうな気がする。
運動をしていて鍛えられた高身長。優しげで整っている顔。性格もノリが良くて気が利く。そんな私の色眼鏡を抜きにしてもハイスペックな彼が女性に?
高身長で出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる姿が容易に想像できる。それでいて顔が整っていて性格も良いって無敵じゃないっすかね?
!? もしかして!?
「それで……」
「さすがにアブノーマルが過ぎるっすよ!?」
「へ?」
「いくら京さんが大きい胸が大好きにしても夢の自分の胸に惚れ込むのはヤバいっすよ!?」
「ぶっ!?」
「私の胸ならいくらでもいいっすから戻ってきて欲しいっすよ!?」
「ちょ、ちょ、ちょ!?待って、待って!?」
彼は先ほどと同じように首を勢いよく振って私の説を否定する。
その勢いから先ほどと同じように彼が心の底から否定していることが読み取れた。
……あれ?
(私、さっきテンパるあまりヤバいことを口走ってた?)
頭の中に先ほどの自分の言葉がリフレインする。
“私の胸ならいくらでもいい”
その意味を理解すると共に私の顔に一気に熱が灯った。顔を覆って悶絶してしまう。口からは小さく息が漏れていく。
息を整えている彼と羞恥に悶えてる私。ここで頼んでいた料理が来てくれれば仕切り直せるがあいにく来る気配はない。
――先に立ち直った彼が再び折れてしまった話を再開する。
「その夢でも俺は“俺”だったんだ。顔立ちも言動もここにいる俺と同じ、須賀京太郎がそこにいた。……モモ、ここで問題だ。俺が男であれば麻雀部にどんな問題が生じると思う?」
「えっ?え~っと……」
リンシャンさん達が男で京さんはそのまま。麻雀部。問題……あっ!!
「麻雀部の部員っすか?」
「……当たり。男の咲が入部しなくても俺が入部した時点で大会には出場できるんだ」
「けどそれって」
「ああ、きっと全てが完璧に噛み合って奇跡が起きても県大会の決勝までが関の山だろうな。さすがにあの時の気合いが入りまくったモモ達相手に初心者に毛が生えた状況の俺じゃあ天地がひっくり返っても勝てないな」
「……」
言葉で肯定はしないが私もその分析は残酷なまでに正しいと思った。……かおりん先輩は例外で。こう考えると先輩ってなんなんすかね?前世でどんな善行を積めばあそこまで強運になれるっすか。
「……夢の中の京さん達って全国に行けなかったっすか?」
「――いや……男の咲が俺の世界と同じような流れで加入したから行けたと思う。実は県大会の途中で目が覚めたんだ。……けど、それで良かったと起きてから思ってしまったんだ」
そう語る京さんは薄く笑いながらどこか遠くを見ているような目をしていた。
「――咲達が男でも女でも皆の夢の成就に“俺”の存在はほとんど必要ないんだと告げられたように思ってしまったんだ」
「っ!!そんなこと、」
「そんなことはないってわかっているさ、皆にも感謝されたしこうやってモモも否定してくれるからな」
「……ならいいっす」
「ただ、結局のところ皆を性転換させるなら俺もしてくれれば良かったのにって思った話だったわけだ」
「そうっすね」
収まりが悪いって点では私も同意だ。
「なら、その世界の“私”もきっと男の子になっているっすよね?」
「そうだろうな」
「こんな風な仲になるっすかね?」
「なんとも言えないな。けど……夢の世界の“俺”も俺と同じように食にはこだわってそうだったから、もし出会えばきっと親友になるだろうな」
“親友”
私にとってその言葉は非常に重く……そしてその言葉を聞けたことが嬉しかった。
京さんにとって私は親友と呼べるほど仲が深いことが言葉で改めて伝えられたのだから。しかし、同時に不満もある。それ以上の仲ではないからだ。だが、今はこれでいい。この距離感を楽しみつつゆっくりと外堀を埋めていけばいいのだから。
ちょうど注文していた料理が届く。
いつものように挨拶をする。
「「いただきます」」
今日の料理はいつも以上に美味しく感じた。
「もしもの話?」
いつかと同じように想い人が私の問いかけに聞き返す。
「そうっす、もし明日世界が滅びるってなればどうするっすか?」
「う~ん……モモと一緒にタコスを食べながら最後まで過ごすかな」
「なら私はアイスコーヒーを用意するっすよ」
「……もしもの話はこれぐらい緩い方がいいな」
「そうっすよ」
コーヒーを一口飲みながら改めてそう思った。
結局の所もしもの話はどこまでももしもの話でしかない。彼との逢瀬を楽しむ為の話題の一つにするのがちょうどいい。
そんな幸福を噛みしめながら。話に花を咲かせる。
交わった彼と私の道はこれからも続いていくのだから。
とりあえず、前進するだけです。