京太郎の誕生日なので思い入れのある京咲を投稿します。
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評価バーに色が付いていて驚きました。
これからも模索しながら投稿していきますのでよろしくお願いします。
この場を借りてお礼申し上げます。
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一人の少女がそう書かれた張り紙を見ながら何かを考えている。
そんな考え込んでいる少女に眼鏡を掛けたウェーブのかかった緑髪の少女が話しかけた。
そう、ここから少女達の様々な思いが交差する熱い夏が始まったのだ。
**********
それは麻雀部の強化合宿での就寝時間での一幕だった。
女三人寄れば姦しいと言うが、5人集まれば言わずもがなである。
宴もたけなわ、明日に響くからそろそろ寝ましょうという言葉が誰かから出てきそうな頃に爆弾は投下された。
茶髪の少女が他の四人に好奇心からある質問を問いかけていた。
「皆は初恋の人とか付き合っている人とかいるの?」
その質問に他の3人は少し動揺した。
「私はその…小学校の頃には胸がこのようになる前兆が出ていて、それで好奇の視線が多くて異性をそういう対象に見られなくて…。それに中学の前半は奈良の女子学院で出会いもなくて、後半は長野でゆーき達と一緒に麻雀に打ち込んでて…」
「私は小さい頃からクラスのマスコットみたいに扱われてて異性からは恋愛対象には見られてなかったじぇ…。まあ、タコスと麻雀があったから気にはならなかったじょ。あはは…」
「わしは小さい頃から実家の雀荘を手伝ってて出会いがのう…。お客さんからは看板娘のように扱われて悪い気はせんのじゃが…。というか久はわしのこと知ってて聞いたじゃろう!」
「ごめんごめん。私も皆と似たようなものよ。いろいろとあって異性に気にかける余裕はなかったし…。あれ、宮永さんどうしたの?」
「い、いや。何でもないです、部長。」
「ふぅーん、どうやら他の三人とは事情が違うみたいね。今、白状すれば情状酌量の余地はあるわよ。それでどうなの?」
「あはは…。そんな浮かれた話、私にはあ、ありませんよ。ほ、ほら明日に響くから皆寝ましょうよ。」
「語るに落ちてるじぇ、咲ちゃん…」
「そうじゃそうじゃ。皆話したんじゃけぇ白状しんさい。」
「宮永さん…。一緒に全国を目指すと約束したじゃないですか、隠し事はなしですよ…」
「そうそう、さっさと白状した方が楽になるわよ~」
他の4人が咲と呼ばれた少女を取り囲み始めていた。
取り囲まれている咲と呼ばれた少女は涙目でぷるぷると震え始めた。
その直後に響き渡った
「きょ、京~ちゃ~ん」
という、声が咲という少女に対する疑問の答えと末路を表していた。
**********
さて、ここで咲という少女と京ちゃんの出会いを説明していこう。
咲という少女、本名宮永咲と京ちゃん、本名須賀京太郎が出会ったのは
その頃の宮永咲は様々な家庭の事情から周囲に壁を作っていた。
その壁というのは心と物理両方の壁だった、物理の壁と比喩はしたが実態は咲という少女から発せられる言いようのない威圧感が周囲を威圧していた。
結果、宮永咲という少女は2年になるまで人と関わらないでいるはずだった。
しかし、なにかの歯車が狂ったのか少女と少年は出会った。
須賀京太郎という少年は、同じクラスになった宮永咲が気になっていた。
それは一目惚れのような類いでなく、まるで小動物が傷つきたくないから周囲を威嚇しているように見えたからだ。
少年は飼っているカピバラが始めて家に来たときのことを思い出し、なんとなく少女に声を掛けていた。
「よう、俺は須賀京太郎。宮永だっけ、何してんの?」
「…見ればわかるでしょう…本を読んでいるの。」
「へえ~、何の本を読んでいるんだ?」
「…海外ミステリー…」
ファーストコンタクトはこんなものだ。
それからも少年は少女に声を掛けては会話をすることを繰り返した。
最初はウザがっていた少女も次第に少年との会話を楽しむようになっていった。
そして、1年経つ頃にはお互いにタメ口で話す仲になった。
その頃には帰る方角が一緒なのもあり、少女は少年の部活終わりまで図書室などで時間を潰してから一緒に帰るようになっていた。
ある日の帰り道、少女の歩幅に合わせながら歩く少年と少女はとある会話をしていた。
「京ちゃんは今の部活楽しい?」
「ん、そうだな~。キツいことや苦しいことはあるけど、上手くなっている実感や仲間と一緒にやること自体が楽しいかな。」
「そっか…」
「咲も部活をやりたくなったのか?」
「うーん、どうだろう?やりたい気持ちはあるけど、京ちゃん以外の人と話すのはまだ苦手かな。」
「大丈夫だって、最近はクラスのヤツや俺の友人とも話せるようになってきたんだし。」
「そうかな、けどやりたい部活がないのもね。」
「本を読んでいるんだから文芸部とかは?」
「無理無理、読むのが好きなだけで読ませるのは恥ずかしいよ。」
「だったらなんか、得意なことや他に趣味とかないのか?」
「趣味や特技か。…まーじゃ…」
「まーじゃ?」
「イヤイヤ、今のなし。もうそろそろ家だからじゃあね!京ちゃん。」
「お、おう。また明日な咲。」
「うん!また明日!」
そして、そんな関係がさらに続いていき3年になったある日転換点が訪れた。
少年が部活の県大会決勝で負けたのだ。
しかも、エースだった少年が途中負傷で退場した結果だ。
その翌日、少年は自室のベットで横になりながらただ天井を見つめていた。
近くには飼っているカピバラがいて少年に寄り添っている。
そんな時間がしばらく流れていた時、少年の母親が少女が来たことを教えてくれた。
少年はなんとなく会いたくない気がしたが、口はいつものように許可を出していた。
少女が部屋に入りカピバラしばらく撫でた後、少年に向き合った。
「京ちゃん、昨日はその…」
「いいよ咲、単純に運がなかっただけだった。」
「京ちゃんはそう思ってないよね、その涙が証拠だよ。」
「こ、これはただゴミが目に入っただけだ。」
「ううん、ちがうよ。京ちゃんがどこか心に引っかかっているものがあるから涙が出るんだよ。」
「う、うるさい。咲に俺の気持ちがわかるのか。」
「わからないよ。人を怖がって部活にも入れなかった臆病者の私には京ちゃんの気持ちはわかりようがないよ。」
「だったら…」
「でも、隣に寄り添うことはできるよ。これまでの京ちゃんの頑張りを私はずっと見ていたから知っているよ。」
「京ちゃんはこれまでがむしゃらに頑張ってきたんだから転ぶときもあると思う。そんなとき私は京ちゃんの隣にいて一緒に前を向いて歩きたいな。」
「あはは…まるで告白みたいだね。でも京ちゃんと一緒に前を向いて歩きたい気持ちは本当だよ。」
「だから、今だけは泣いていいんだよ。京ちゃん。」
その言葉に少年は堰をきったように泣き始めた。
少女は少年の隣に座って寄り添っていた。
カピバラは空気を読んだのか二人の視界から消えていた。
しばらくしてから落ち着いた少年は少女にお礼を言った。
「ありがとう咲、なんとなく心の整理が付いたよ。」
「どういたしまして、それで京ちゃんはどうするの?」
「もう一回、リベンジしようと思う。高校でもハンドボールを続けてみるよ。」
「そっか、私は京ちゃんについて行こうかな。」
「いいのか咲、俺が行く所はスポーツ以外は話を聞かないぞ。」
「いいんだ、京ちゃんにあれだけ言ったんだから私もどんなところでも勇気を出して頑張ってみるよ。」
「そうか、咲が決意したのなら俺は何も言わないよ。」
それから少しの時間が経った後、少年は意を決したように口を開いた。
「咲…」
「なに?京ちゃん。」
「さっき、告白みたいって言っていたが、改めて言うよ。俺と付き合ってくれないか咲。」
少女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに花が咲いたような笑顔で返事をした。
「よろこんで。これからもよろしくね、京ちゃん。」
**********
時は現代に戻り、麻雀部の合宿の場面に帰ってくる。
「…ということがあって。付き合っているんですけど、私が恥ずかしくて付き合っているのは周りに秘密ということにしていたんです…。」
少女は涙目になりながら少年との出会いを説明し終わった。
聞き終えた4人はなんとも言えない顔をしていた。
「思った以上に青春でなんともいえないわね…」
「なんか苦いものが食べたくなったじぇ…」
「そうじゃのぉ、コーヒーを飲みとうなったわ…」
「羨ましいような、恥ずかしいような…なんともいえない話ですね…」
「なんですか!この空気!」
少女の悲鳴のような絶叫が木霊する。
「いや~、もっと俗っぽい話かと思ったら、こうピュアと言うか甘酸っぱいというかなんとも表現ができない青春真っ盛りの話を聞かされて…ねえ?」
「咲ちゃんからは想像のできない青春話だったじぇ。」
「今日日こがいにまっとうな青春の話を聞かされるたぁ…」
「それで勇気を出して麻雀部に入ったんですか…」
「そうだよ!京ちゃんも頑張っているんだから私ももう一回向き合おうと思ったから麻雀部に入ったんだよ!」
もはや、少女はやけくそなのか普段のキャラを投げ捨ててピンクの髪の女の子の質問に答えていた。
「ごめんね、宮永さん。思った以上に青春してたから羨ましくてね。良ければその京ちゃんの写真があるなら見せて欲しいんだけど…」
「え、ええ。いいですけど…」
少女は携帯を操作して画面に二人で写った写真を表示させた。
「へえ~。二人で並ぶとまさに青春恋愛漫画のワンシーンみたいで映えているわね。」
「写真からでもわかるカップル感がすごいじぇ。」
「そうじゃのぉ、こがいな見てわかるなぁ芸術的じゃ。」
「二人で手をたどたどしく繋いでるのが芸術点高いですね。」
「う、うわぁ~」
少女が他の4人の褒め言葉に悶えていた。
「と、とにかく。これが私の話です。もういいですよね!」
少女が携帯をしまいながら早口で捲し立ててきた。
「そうね、もう夜も遅いし寝ましょうか。」
「そうですね、明日も合宿がありますからね。」
その言葉で少女達は明かりを消して寝床に着いた。
(京ちゃん、私頑張るからね。)
先ほどまで話の中心だった少女はそう決意を新たに夢の世界に落ちていく。
**********
それから、時がさらに流れて10月27日。
その日も二人の少年と少女は歩いていた。
端から見ると初々しいカップルだが、少女は男友達と帰っているようにしているつもりだ。
こんなバレバレなので入学してからしばらくすると、周囲は温かい目で見守るようになった。
少年の方はその状況を全て把握しているが、そんな少女も愛おしいから自力で気づくまで放置するようにしていた。
「京ちゃん、今日は何日だっけ?」
少女はソワソワしながら少年に聞いていた。
「んー、10月27日だろ。」
少年は内心ニヤニヤしながら、素知らぬ顔で答えた。
「そうそう、10月27日だったね。」
少女はチラチラ少年を見ながら答えた。
焦らしすぎるのはかわいそうだなと少年は思い、鞄に手を入れながら少女に話しかけた。
「はは、すまんすまん。今日は咲の誕生日だよな。ほれ、誕生日プレゼント。」
少年は鞄から取り出した、包装紙に包まれたかわいくラッピングされた箱を少女に手渡した。
「もう~、京ちゃんのイジワル。でもありがと。」
少女は隠しきれない喜びを顔に表しつつ、包みを丁寧に開けた。
「これは…櫛?」
「ああ、高校生になったから少し背伸びをしてそれなりの物を…と思ったとき、それが目に入って、咲のきれいな髪に合うと思ってな。」
「ふーん。」
少女は心底嬉しそうに返事をした。
「ありがと、京ちゃん。」
「どういたしましてお姫様。」
「も~、茶化さないで。」
「そういえば、今日は家にお姉さんがいるんだっけ。」
「うん、インターハイで仲直りしてから定期的に来るようになったからね。」
「インターハイか…。それにしてもまだ信じられないよ咲達が全国優勝して、さらに咲が全国1位になるなんてな…。」
「それを言うなら京ちゃんもでしょ、ベスト4まで行ったんだから。私達の方は色々と噛み合って行けただけだし…」
「咲…。全国1位が言ってもイヤミにしか聞こえないぞ。」
「あの日からもう一回色々と学び直しての結果だからね!」
少女が薄い胸を張って誇っている。
「その割にはお姉さんが先鋒なのがわからなくて、後でわかった際に声を震わしながら『こ、個人戦もがんばるから。』と強がっていたくせに。」
「あ、あれは皆のために大将を引き受けてあげただけだし…」
「まあ、お姉さんともう一度麻雀で話し合うために立ちはだかった人たちを全て倒した結果が個人1位だからな…。しかも。お姉さん倒しているし。」
「結果良ければ全て良し!だよ。おかげでお姉ちゃんと和解できたし。」
「結果が『大魔王の妹は超魔王だった』って記事が特集されたけどな。」
「インターハイの話はおしまい!プレゼントありがとう、京ちゃんの誕生日楽しみにしてね。」
少女が慌てたように話の方向を転換したので、少年もあえて乗っかった。
「そうだな、咲のプレゼントを楽しみにさせてもらうぜ。」
「うん、期待してね京ちゃん。」
「お、そろそろ咲の家だな。」
「あ、そうだね。じゃあ、また明日京ちゃん。」
少女の横顔を見ていると少年はいたずらをしたくなった。
「あ、咲もう一つプレゼントがあったんだった。」
「え、なに…」
少女が疑問を言い切る前に、少年は少女の額にキスをした。
「じゃあ、また明日!」
少年が元気に駆けていく。
少女はしばし固まった後、顔を真っ赤にして少年の後ろ姿を見つめていた。
「もうちょっとムードを考えてよね!もう!」
口から出た悪口とは正反対に少女の顔と口は緩みに緩んでいた。
それを出迎えようと外で待っていた姉に目撃されイジり倒されるのは別の話。
**********
そこから、時は流れて2月2日に少年は少女の家に呼ばれた。
「ふふ、私はイジワルな京ちゃんと違ってプレゼントを焦らしたりはしないよ。」
「まだ根に持っていたのか…」
「さあ、私からのプレゼントだよ京ちゃん!」
少女が綺麗に包装された箱を少年に渡した。
少年はそれを綺麗に開けようとして少し手間取ったが無事開封した。
その中には少し高価そうな時計が入っていた。
「時計?」
「そう、最初は鎖の付いた懐中時計にしようかと思ったけど実用性を考えて腕時計にしたよ。」
「へー、結構高そうな時計だけど大丈夫なのか?」
「見た目の割にお手頃な値段だから気にしなくてもいいよ。」
「そうか…。そういえば、話は変わるけど咲の髪が伸びてきたな。」
「ふふん。京ちゃんのプレゼントを満喫するために誕生日から伸ばし始めたんだ~。どう?似合ってる?」
「正直に言えばすげー良い。なんていうか色っぽくていいな。」
「そう?京ちゃんに褒められると悪い気はしないな~。」
少女がくるりと1回転して伸ばした髪をアピールした。
そんな光景に少年はイケナイ感情が芽生えそうになったのを振り切ってプレゼントの意味を少女に聞いた。
「それにしても時計か…。なんか意味でもあるのか?」
「プレゼントは何が良いかなと物色して、ピンときたのがそれだっただけだよ。」
(ホントは少し違うけどね。)
(実際は京ちゃんに櫛をプレゼントされて、クリスマスの有名な話が書かれた本を思い出して決めたんだけどね。)
(それに女性に“櫛”をプレゼントしたんだから、こっちもそれなりに思いを込めてプレゼントしたかったのもあるし。)
(“これからも同じ時を歩みたい“なーんてね。)
「これからもよろしくね!京ちゃん。」
満面の笑顔で少女は少年の胸に飛び込んだ。
**********
さらに時は流れて…
「おかーさん、これ大切な物?」
特徴的な髪型をした少女が櫛を片手に長い髪の女性に問いかけていた。
「それは、京ちゃ…お父さんが高校の時にプレゼントしてくれた物だよ。」
「へ~、おとーさんがプレゼントした物なんだ。」
「そうそう、それからだねお母さんが髪を伸ばし始めたのは。昔はもっと短かったんだよ。」
「そうなの?」
「“櫛”をプレゼントなんてするから一層お父さんを愛おしくなってね、プレゼントを十分に活用したいと思い立って伸ばしたんだ。」
「櫛をプレゼントされたから?」
「そうだね、お母さんは本全般、特に海外ミステリーが好きだけど、昔の日本の文化の本も読んだことがあってね…。その中で男性が女性に“櫛”を送るのは特別な意味があったんだ。」
「特別な意味?」
「それはね…」
平穏な昼下がり、母親は子供に父親の無意識のプロポーズの話をしていた。
少女は少年から数え切れない贈り物を受け取った。
少女はその贈り物のお礼を少年に返そうとした。
しかし、少年はすでに少女から数え切れない贈り物を受け取っていた。
少年と少女は幸せだった。