須賀京太郎断片集   作:星の風

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りゅうたんイェイ~
竜華の誕生日なので投稿します。

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清水谷竜華の隣人

 

 備え付けられたテレビには麻雀の対局が映されている。

 そこにいるのは今年のインハイで活躍した少女達。私はその中の一人に注目する。

 そこには儚げな気配を纏いながらもその目はまっすぐ勝利を見据えていると確信させる輝きを少女がいた。その少女の名前は園城寺怜──私の親友だ。怜は昔から病弱で私はそんな怜に世話を焼きながら──ここまで(高校3年生)まで来た。

 

「……」

 

 テレビの画面に映っている怜が眩しく見える。誇らしく……寂しくなった。

 あの夏のインハイから怜の症状は少しずつ本当に少しずつだが良くなっていった。そしてそれに比例するように私の心に……影が差していった。

 

(……高校生活も終わり、か)

 

 近寄る別れの気配に私の心はさらに重くなる。

 あまりにも怜と過ごした時間が多すぎたからか、私の心に占める怜の割合があまりにも多くなってしまった。卒業してしまえば今のように一緒に過ごすことなんて不可能だ。手を尽くしてモラトリアムを得たとしてもそれは先延ばしにしか過ぎない。いずれ訪れる別れは避けられない。

 

「……っ」

 

 心の中でその事実に対する失意の溜め息をしようとするのを抑えるように首を振る。

 怜の人生に私が必要だと決めつけようとしている自分の傲慢さに嫌気がさす。永遠はなく、終わりは必ず来る。私は怜の親友で旅立ちを歓迎しなければいけないのに……それを恐れている。

 

(依存やな)

 

 冷静に自分の状況を把握する。

 把握……するだけだ。

 

(……)

 

 室温は快適に保たれているはずなのに膝と胸がなぜか寒く感じる。胸の中の大切な何かが削れていく。いつも怜を膝枕している膝はそこだけ熱が吸い取られているかのよう。

 

「……さぶいな」

 

 

 

 そして私──清水谷竜華は自分の控え室からふらりと静かに出て行った。

 

 

 

 靴音が廊下に反響する。迷いなく目的地に向かう……その足取りはどこか重かった。

 やがて目的の場所に辿り着き、硬貨を入れボタンを押す。落下音がした取り出し口に手を入れる。

 

「熱っ……」

 

 思っていた以上に指先が冷えていたようで購入した暖かいお茶に触れて驚いてしまう。しかし、その熱さこそ私の求めているものだった。私は暖かいお茶を手に取って、近くの休憩スペースに向かい、そこにある椅子に座わった。

 

「……」

 

 無言のまま虚空を見る。空けてないお茶は両手に熱を伝えていき、その暖かさは心が冷えていた体を少しだけ物理的に温めた。それが少しだけ心地よかった。

 

(これが終わったら……)

 

 この大会が高校生活最後の公式戦だ。私は前の対局を無事に勝ち抜いている。……怜と真剣に打てる最後の機会だ。

 

「──ふふっ」

 

 そう考えて思わず笑ってしまう。怜があの対局を勝たないと私と対局できないのに、私自身は怜の勝利を微塵も疑ってなかった。これまでの怜の努力を身近で見ていたからこその確信だったが、怜に対する依存を証明するものでもある。それがなぜだか可笑しかった。

 

 

 

「……?」

 

 そうして静かに笑っていると歩く音が聞こえた。普段は気にならないソレがなぜか気になる。

 足音は少しずつ近づいていき、止まった。そして──“がこん”と自販機が飲み物を吐き出す音。それを取り出す音と共に再び足音は近づいていき……

 

「……」

 

 金髪の男性が角から現れた。

 男性は私の姿を見るとほんの少しだけ表情を変えたが、すぐに元に戻し軽い会釈と共に私よりも離れた場所に座った。

 なぜだかその男性が気になった私は気付かれないようにこっそりと男性に視線を向ける。

 男性は自販機で買ったお茶を両手で抱えるように持ちながら背を軽く丸めながら視線を上に向けていた。……その姿は先ほどの私とまるっきり同じだった。

 

 ──私と同じ自分の感情を受け入れられない迷い人がそこにいた。

 

「すんまへん」

 

 そのことに気付いた私は……その男性の側に近寄り声を掛けていた。

 

「……? ──っ。……どうかしましたか?」

 

 私に声を掛けられると思っていなかった男性は私の問いかけに一瞬惚けたが、すぐに居住まいを正し、声を掛けた理由を聞いてきた。しかし、どれだけ取り繕ってもにじみ出る暗さだけは隠せていなかった。

 

(そらウチもおなじやけどな)

 

「辛そうに見えたさかい思わず声を掛けてまいました」

「そう、ですか……心配をかけてしまったようですいません。ですが体調が悪いと言うよりも気分の問題ですので大丈夫ですよ」

 

 ニヘラと軽薄に笑いながら首を振る。そう返されながらも私は隣に座った。

 彼の方を見なくても困惑しているであろうことは手に取るようにわかる。私も同じことをされたら困惑するし。

 しかし、それでも私は同じような悩みを持っているであろう彼から話が聞きたかった。それに……他の人に相談する気にはなれなかったそれを初めて会った彼なら気兼ねなく話せる。

 私の気持ちにもしかすれば区切りをつけられるかもしれない。そんな藁にもすがる気持ちだった。

 

「話してみてくれへんか」

「えっ?」

「話したら気ぃ楽になるかもわかりまへんよ」

「さすがに見ず知らずの人に話すには個人的すぎる悩みですし、気持ちだけ貰っておきます」

「……寂しいねんなあ」

「っ!?」

「身近な人に対する接し方で悩んでるのちゃいますか?」

「……どうしてそれを」

「同じやから」

 

 そう言いながら彼を見る。

 私の目を見た彼は目を見開き──そして反らした。そして正面を向いた彼は頭を下げ重々しく息を吐きだす。

 

「……中学からの付き合いのヤツが今日ここで打っているんですよ」

「アイツはよく道に迷ったりするポンコツで気が弱くて俺がいないとダメなやつだと思ってました」

「けど……麻雀に対してとてつもない才能を持っていたんです」

「それで気がついたらこんな大舞台で打つまでになってました」

「アイツは俺の助けがなくても良くなったんだなって思った瞬間」

 

 重々しく息を吐き出す。

 

「嬉しくて、誇らしくて……寂しくなりました」

「それで俺の気持ちがわからなくなったんです。俺はアイツの成長を喜ぶ一方で……寂しく感じている。まるで俺がそれを歓迎していないように」

「俺は……どうすればいいんでしょうね?」

 

 彼の言葉が突き刺さる。

 彼の気持ちが痛いほどわかるのだ。──私もそうなのだから。

 

「ウチも同じようなモンや」

 

 だから互いの現状を共有することしか出来ない。それによって自分の気持ちを改めて把握して互いに区切りをつけられるかもしれない。……或いは傷をなめ合うだけの結果になるかもしれない。

 

「ウチは小学校からの付き合いでな、目ぇ離したらどっかに消えてまいそうで心配になって世話をし続けて……ここまで来た」

「ウチらは今年で3年生や……今日が最後の晴れ舞台で終わったら後は残り少ない高校生活だけが残る」

「それが終わったら晴れて卒業や」

「そうなったらもうこれまでみたいに過ごすことはでけへんようになる……せやけどな」

「全国の強豪と張り合うてるあの子見て、真っ直ぐ突きつけられた気ぃしたんや」

 

 天井を見つめる。

 

「ウチの人生にあの子が大きゅう食い込んでる」

「それこそ依存の域に達してる。そやさかい受け入れられへんのや」

「あの子がおれへんこれからの生活が……」

 

 そして沈黙が訪れる。

 私たちは見つめ合い……言葉が漏れる。

 

「ままなりませんね」

「そうやね」

「自分の性格を呪いたくなりますよ」

「ウチももう少し要領がよかったらなあって思うことようある」

「ですけど……ほんのりと気が楽にはなりましたね」

「まあ、ウチもそこは同じや」

 

 私はくたびれた笑みを浮かべる。彼もまた同じように笑っていた。

 そして……気がつく。

 

「……もうこんな時間やな」

 

 時間が思っていた以上に経っていた。

 

「……きっと対局も佳境に突入してますね」

 

 私は対局を見届けないといけないし、彼も今対局している誰かを迎えなければいけなくなる。

 

「なあ、提案があるんやけど……」

「連絡先の交換ですか?」

「まあ、わかるわな」

「相談するにはちょうどいい関係性ですからね」

「そうやね」

 

 そう言って彼──須賀京太郎君と連絡先を交換した。

 そうして私と彼はそれぞれの場所に戻っていく。その足取りは先ほどに比べれば少しだけ軽かった。

 部屋に入ると付けっぱなしだった画面にはちょうど良く怜が映っていた。少しだけ苦しそうな顔をしながらも卓を真剣に見ている姿がそこにあった。それを見た私は温くなったお茶を飲んで意識を切り替える。私自身思うところはたくさんある。しかし、私がこれから挑む場所にそれを抱えたまま行くのは怜に対する侮辱だ。

 眼を閉じ深呼吸をする。

 

「……よし」

 

 そして、私は最後の舞台に上がる

 

 

 

 

 

 それから私はほぼ毎日彼と連絡を取り合った。

 時間にすれば毎回10分ぐらいの通話だが、それだけでも私の心は大分楽になっていく。同じような悩みを持っているもの同士だからこそ自分の気持ちに向き合うことができる、そして少しずつ昇華することができた。心の中で溜め込めばいずれ決壊するのだから吐き出せる先ができたのは私にとっても彼にとってもあの出会いは幸運だったのだろう。

 

 そして……今私は

 

「待たした?」

「いいえ、俺もついさっき来たところです」

 

 彼と付き合っていた。

 

 えっ? 話が飛んでないかって? 

 まあ、私もそう思う。けど考えると自然な話で……

 

 

 悩みと悩みをぶつけ合う過程で徐々に相手のことを理解していって、他人から知人に変わり。さらに知人から友人、友人から親友、そして……恋人になっていた。

 怜に対する依存のような想いも数ヶ月かけて昇華できて、今も唯一無二の親友の関係は続いている。

 京太郎君もまた想いを昇華して良い関係を続けていると聞いている。

 

「じゃあ、行きましょう」

 

 京太郎君が微笑みながら手を差し伸べる。その笑みはかつて見た軽薄さも暗さもない暖かさを感じさせるものだ。私は差し伸べられたその手を迷いなく重ねる。そこから伝わる熱は瞬く間に私の心を温かくする。

 

「今日はどこに連れてってくれんねん」

「まず──」

 

 彼の言葉を聞きながら、私はこれからの日々に思いを馳せながら笑った。

 




今回の舞台の大会に関しては深く考えないでください。
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