須賀京太郎断片集   作:星の風

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とりあえず仕上がりました。


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この場を借りて改めて皆様にお礼申し上げます。


大星淡と運命

 

「キョータロー!!」

「うお!!」

 

 俺こと須賀京太郎はとある目的で中学からの付き合いのある友人である宮永咲の家に向かっていた。そして咲の家に着くと……黄色い弾丸が俺に抱きついてくる。腹に感じる柔らかい感触に理性にひびが入りそうになるが頑張って耐える。視線を下に向ければ輝くような金色の髪を纏った女子がこちらを見上げている。その瞳はまるで大型犬がかまって欲しいと訴えているときと同じようにキラキラと青い瞳を輝かしていた。

 

「はぁ~……危ないだろ」

「キョータローならこれぐらいヨユーでしょ」

「毎回飽きないのか?」

「ぜーんぜん」

「お前なぁ~……ほら、そろそろ部屋に行くぞ」

「うん!! 今回も頑張ろうね」

「何がお前を駆り立てているか俺にはわからないけどな」

「だからいつも言ってるでしょ、こう……ビビビと感じたんだって」

 

 俺は隣を楽しそうに歩いている女子──大星淡を珍しい生き物を見るような眼差しで見る。

 

 

 

 淡は俺が咲のお姉さん──宮永照との話し合いに付き添いで行ったときに知り合った。俺を見るなり硬直したかと思えば……先ほどのように突進してきた。いきなりのことだったから俺も受け身を取れず尻餅をついたし、咲も照さんも慌ててた様子で近寄ってきた。そしてそんな状況を作り出した淡は……

 

「ビビビと来た!! 一緒に麻雀しよ!!」

 

 そう宣った。

 

 その後は照さんが淡を説教している横で。咲はオロオロと所在なさげにうろつき、俺は未だ現実を飲み込めず尻餅をついたままだった。

 そして、説教を終えた照さんは肩を落としながら俺に申し訳なさそうに謝った後、俺に淡の相手をお願いしてきた。

 

「本来、あの子は私を待っている間は近くの喫茶店で待つ予定だったけど……君と麻雀がしたいの一点張りで話が通じなくなっている。後で埋め合わせをするのであの子の相手をしてやって欲しい。……今会ったばかりの君にこんなことを頼むのは本当に申し訳なく思う。本当に……本当にすまない」

 

 そんな切実な顔で頼む照さんを見て、俺も咲が頑張ってたどり着いたこの機会をふいにしたくないと思い……引き受けた。

 雑誌や対局では全く表情を変えなかった照さんが本当に申し訳なさそうにしながら予め予約していたセンターの部屋に向かっていく、それに続いて咲もどこか釈然としない顔をしながら入っていく。この場には俺と淡が残された。

 淡の方を向けば先ほど叱られたことなど全く感じさせない輝く瞳を俺に向けている。なんで、会ったばかりの俺にここまで好意……いや興味を向けるのか全くわからなかった。麻雀をやろうというのもだ。俺の実力なんて県予選落ちだし、何が目の前の大型犬のような少女の琴線に触れたのかわからなかった。わからないことだらけだが……

 

「あ~とりあえず……自己紹介からするか? 俺の名前は須賀京太郎だ」

「キョータローね!! 私の名前は大星淡!! 淡って呼んでいいよ!!」

 

 う~ん、ここまでグイグイ来られるのはちょっと初めてかもな。優希もこれくらい気安い関係だが、初対面だとさすがにもう少しおとなしかったぞ。

 そんなグイグイ来る淡は早速俺の手を掴んでどこか──多分麻雀ができる場所だと思う──に連れて行こうとしてくる。気分はまるで散歩の時にリードで引きずられる飼い主だ。さすがにこの状態で移動するのは精神的にも世間体にも悪すぎる。

 

「逃げないしちゃんと付き合うから少し落ち着こうぜ」

「ええ~時間は待ってくれないんだよ!!」

「咲や咲のお姉さんの話し合いはすぐ終わらないだろうし、なんなら終わった後もネットとかで付き合うからさ」

「う~ん……わかった!!」

 

 淡はニコニコと笑いながら手を離す。そして、スマホを取り出し連絡先をさっそく交換しようとお願いしてくる。会ったばかりの相手と交換するのもおかしな気分だが、俺から提案したことだからそのまま受け入れる。交換した淡は俺の連絡先をまるで一生の宝を見つけたような眼差しで見ている。……正直、少し怖かったが悪意は全く感じられなかったのでそのまま流した。

 

 その後は近くの雀荘に連れて行かれ、コテンパンにされた。それこそ、幻滅しそうなくらいボロボロにされたのに淡は態度を全く変えなかった。いや……さらに瞳の輝きが増しているように感じた。

 その後は話し合いが終わったという連絡が来たことで俺たちは戻った。そこには疲れ果てた照さんとスッキリした顔をした咲が待っていた。どうやら話し合いは拗れずに終わったようだが淡のことでいくらか小言を言ったようで照さんはそれでシワシワになったようだった。そうして合流した俺たちはそれぞれ別れた。咲からは大変だったねというねぎらいの言葉が贈られた。

 

 

 

 そんな出会いを経て……淡は今も俺にこうやってグイグイと来る。

 出会った日の夜も電話で通話したし、インハイが終わって俺が長野に帰っても淡とは定期的……いやほぼ毎日電話とネット麻雀をしていた。今もコテンパンにやられているがそれでもオーラスまで耐える頻度が多くなってきたから成長している……はずだ。

 さてそんな淡がなんで長野にいるかと言えば……冬休みに照さんの帰省にくっついてきたのだ。学校は休みだから大手を振って行ける大義名分を得た淡は意気揚々と付いてきて毎日のように俺を咲の家に呼んでは麻雀三昧だ。

 

『やっぱりネト麻もいいけど……リアルのほうがいいね!!』

 

 そんな淡を咲はすんごい微妙な顔で見てるし、照さんは輪をかけてシオシオになっていた。スーパールーキーとしてプロでも期待されている照さんも淡と咲の板挟みにはどうやら参っているようだった。

 

「ほら!! キョータロー今日もよろしく!!」

 

 そう言って雀卓がある部屋の扉を開ければ、咲と照さんが座って待っている。その表情はやはり変わらなかった。

 

 **********

 

 対面の席に座るキョータローの姿を見て私はさらに機嫌が良くなる。感じる気配が昨日よりもさらに濃くなっているからだ。あの日の私のカンは正しかった。

 

 

 

 あの時の私はテルがいなくなることに参っていた。もちろん卒業するまでは麻雀部に通うだろうしOBとして来ることもあるだろう……それでも私はその事実に打ちのめされていた。

 もちろん先輩たちは私によくしてくれているし、麻雀の実力も私が認めるくらい上手い。……けどテルと比べてしまうと色あせてしまう。

 私が全力を出しても受け止めてくれる存在がいなくなるのはこんなに寂しいモノだと思い知らされた。

 

(スミレに無理を言っちゃった)

 

 だからサキに会いに行くテルに付いていくことにしたのだ。もし、上手くテルとサキが仲直りすれば、きっとテルはサキのところに帰ることがあるはず。そこに私もサキと友達になっていれば付いていくこともできる。決勝で私を倒したサキなら強さもジューブン!! 大会期間外ならネト麻とかで対局できるかもしれないし!! 

 ……シズノやネリーはツテがないのが最大の壁になって諦めた。その点で言えば今回のサキとの話し合いは本当に運が良かった。

 

「着いたよテル」

「ここに咲が」

「ココで間違いないよ」

 

 スマホのアプリで確認する。うん、おーけー。スミレから無理を言って変わって貰ったんだからちゃんとやらないと。

 テルも普段はキッチリしてるけど、さすがにサキとの話し合いに思うところがあるのかどこか落ち着きがなかった。

 

(上手く行くと思うんだけどなー)

 

 テルとサキの間に何があったのかは詳しくは知らない。けど、決勝戦後の皆で挨拶したときサキはテルのことをまっすぐに見つめていて、そこに悪いものは感じなかった。だからちゃんと話せばイケるはず。

 

 どこか及び腰なテルを連れて私はサキが待っているであろう施設の敷地に入る。

 

 

 

 そして私は……運命に出会った。

 

 

 

 その施設の入り口にはサキと男子が立っていた。

 私と同じ金髪でガッシリとした体格で高身長の男子。サキの近くにいるんだから多分同い年。

 きっと私と同じようにサキの付き添いでいたであろう男子を見て……衝撃が走る。

 

「淡?」

 

 突然立ち止まった私にテルが声を掛けてくる。しかし、今の私にその声は届いてなかった

 少しだけ色あせていた世界と宇宙(ソラ)が一気に色づいていく。先ほどまで考えていた悪だくみが頭からはじき出される。そして目の前にいる男子に頭が埋め尽くされていく。

 

「大丈夫? あわ、ぃぃ?」

 

 私は衝動的に走り出す。

 彼は私の突然の行動に対応できなかった。私は勢いそのままに抱きつく。どうやら見た目通り鍛えていたようで私のタックルをなんとか受け止める。しかし、私がさらに体を押しつけると彼は体のバランスを崩して私が押し倒したような体勢になる。

 目を白黒させている彼に馬乗りになりつつ私は高らかに宣言した。

 

「ビビビと来た!! 一緒に麻雀しよ!!」

 

 そんな私の宣言に彼は目を見開いて何か言おうとしていたがパクパクと開くだけで声は出てこなかった。

 

 その後、私は走ってきたテルによって引き剥がされた。そして表面上はいつもの顔だが言葉の節々に怒りが感じるテルの説教が始まった。

 

 しかし、頭の中が彼一色になった私にはテルの言葉はまったく耳に入らなかった。そんな私の様子にテルは驚いていた。そして説教が全く効き目がないこととサキとの話し合いの時間が削れていくことにテルは一旦私への説教を切り上げた。

 

「そんなに彼と対局したいの?」

「うん!!」

 

 私の回答にテルは思いっきり落ち込んだ。そして重い足取りで彼の方へ行く。そして何かを話したテルは私の方へ戻ってくると。

 

「一応、話は通したから……」

「ありがとうテル!!」

「……うん。そうだね。後でちゃんと私とも話そうか」

「わかった!!」

 

 そんな私の返事にさらに気を落としたテルは施設の入り口に消えていった。サキも微妙な顔をしながら後に続いていく。

 私は彼の元に近づく。近づいた私を見た彼もサキと同じような顔をしていた。そんな彼を見れば見るほど私のカンがビビビと訴えてくる。

 

「あ~とりあえず……自己紹介からするか? 俺の名前は須賀京太郎だ」

「キョータローね!! 私の名前は大星淡!! 淡って呼んでいいよ!!」

 

 自己紹介も済んだし……後は対局だけ!! 

 私はキョータローをグイグイと引っ張りながら来る途中で見かけた雀荘に連れて行こうとする。一刻も早く対局したくてウズウズしている私をキョータローは落ち着かせようとしてくる。しかし、私は待ちきれないのだ。

 そんな私に対してキョータローはテルとサキの話し合いが終わってからも付き合ってくれると言ってきた。それなら、しょうがないか。私は逸る気持ちを無理矢理抑えて並んで雀荘まで行くことにした。

 

 そして、目的の雀荘に入る。お金を払ってちょうど良く空いている卓に座る。

 

「なあ、ここまで来て聞くような話じゃないんだが四人揃って無くても良いのか?」

「ダイジョーブ!! 今はキョータローのことが色々知りたいから二麻で良いの!!」

「淡がそう言うのならいいけどさ……」

 

 釈然としない顔をしたキョータローを見ながら、私は笑みを深くした。

 今の私は決勝戦並みに気分がアガっている、つまり今の私は周囲に強者の気配を撒き散らしているのだ。並の打ち手なら戦慄して震え上がるものだ。実際、この雀荘に元からいたヤツは一切こちらを見ようとしなかった。わざわざ捕食者に目を合わせようとする草食動物なんているわけない。

 しかし、キョータローは違う。私のこれがまるで無いかのように自然体で対応している。これが元からなのかそれともサキの横にいたから得たものなのかは私にはわからない。

 

(サイコーだね)

 

 テルでさえほんの少し緊張する今の私にキョータローは全く緊張してない。

 後は……

 

(打てばわかる)

「じゃ、はじめるね」

「ああ、けど俺は県予選で敗退するくらいの初心者に毛が生えたみたいな腕前だぞ」

「私も始めたときはそんな感じだったし、気にしない気にしない」

「いや、まあ、うん」

 

 そんな微妙な顔をしたキョータローとの対局が始まる。

 確かにキョータローが言っているように打ち筋はめちゃくちゃだし、チョンボもした。普段の私なら視界にすら入れない腕前だ。……しかし

 

 キョータローは不要牌を自分に呼び込んでいる。

 

 

 私の支配を越えて。

 

 

 つまり、私の力よりもキョータローの力はある意味強いのだ。

 

 

 麻雀の腕は磨けば誰でもある程度強くなる。しかし、オカルトは違う。生まれ持ったもので差が付いてしまうのがオカルトだ。

 だから……

 

 

「キョータローは見所あるよ!!」

「そうか? コテンパンにされている俺が?」

「私が太鼓判を押すくらいあるよ!!」

「おおう、言い切ってくるな」

「スーパー……ううん、ウルトラスーパーノヴァ淡ちゃんが断言するんだからキョータローはもっと自信をもっていいよ!!」

「そうかぁ?」

 

 私の言葉にキョータローは納得がいってないようだが、それも当然だろうキョータローはまだ自分の力を自覚していないのだから。

 

 そんな楽しい時間もキョータローのスマホにかかってきた電話で終わってしまった。さっきの場所に戻れば、疲れた顔をしたテルとスッキリしているサキが待っていた。

 キョータロー達に別れを告げて、私とテルも帰った。帰ってからテルと話を聞いたスミレにすごく怒られた。さすがに興奮も収まっていた私は自分がやったことの重大さに帰り道の時点で気付いていたからひたすらに謝った。謝って、謝って、謝って……謝った。

 

「ねえ、淡?」

「テル?」

 

 説教を終えたスミレとテルが部屋を出ていく。スミレが出て行って、テルも出ようとして……立ち止まって声を掛けてきた。

 

「そんなに彼のことが気に入ったの?」

「……うん」

「……ごめんね」

「えっ?」

「短い付き合いでも淡のことはそれなりにわかってる。私がいなくなることに気を落としていたのもすぐにわかった」

「テル……」

「だから、彼に無茶なお願いもした。私がここにいられるのも半年を切ってるからね」

「……本当にごめん、テル」

「きっと私がいなくなったら淡に重いものを背負わせることになる。結果を私は出しすぎたからね」

 

 見たことないくらい真剣な顔で私を見つめるテル。その眼差しは私を思いやる気持ちで溢れている。

 

「淡」

「……」

「私は淡に後継者になって欲しくない。そんな肩書きに淡を縛り付けたくない。淡は自由に楽しそうに麻雀をするのが似合っている。……だから」

「だから?」

「言っても無駄だと思うけど彼にあまり迷惑をかけないようにね」

「それはわからないかな」

 

 即答する私の言葉にテルはうなだれる。テルもわかっているのだキョータローに私が関われば関わるほどサキから色々と言われることを。それでも止められない。

 

 キョータローは私の運命なのだから。

 

「とりあえず、彼にも今日のことは謝っておいてね」

「わかった!!」

 

 テルはそう言って今度こそ部屋の外に出て行く。その背中は心なしかくたびれているように見えた。

 

 さすがに今日の私は色んな人に迷惑を掛けすぎた。テルやスミレには謝ったが、キョータローやサキにはまだだ。スマホの電話帳からキョータローに電話をかける。

 少しのコール音がしてから耳にキョータローの声が聞こえる。

 

「あ!! キョータロー!! 今平気?」

 

 

 

 そんなことがあって……今こうして卓を囲んでいる。

 あれから私が教えたり清澄でも教えて貰っていたようでぐんぐんと腕が上がっているのはネト麻でわかっている。

 だから今回テルが実家に帰るのに便乗して私も付いてきた。テルとサキ、2人同時に相手をするのも楽しかったけど……キョータローと打つのはもっと楽しい。

 

(まさか、不要牌を私にね)

 

 今はまだ一荘に1回あるかないかだけど、それでも私を相手にしてそれを通せるんだから驚きだ。これからどう化けるのか楽しみで仕方ない。

 

 けど、それはそれとして……

 

(お礼した方がいいよね)

 

 初対面のときのあの暴走からキョータローは私に文句一つ言わないで私に付き合ってくれている。迷惑を掛けたあの日に謝ってはいるが、どこか私の心に引っかかりを生んでいた。だから、なにかお礼をしようとして聞いたこともあったが……

 

『別に気にしなくていいぞ。淡が俺に麻雀を教えてくれるだけで十分だ』

 

 って返された。だから、お菓子とか色々と考えたがいまいちしっくりとこない。……一応こっちに来たときにお土産として少し高いお菓子を渡したが、やっぱり引っかかった。

 

(う~ん)

 

 改めて目の前に座るキョータローを見る。会ったときよりも顔から幼さが少し抜けて大分大人っぽくなっている。10人に聞けば7人くらいはイケメンと言うくらいにはいい顔だ。

 

 …………

 

 あ、そうだ!! 

 

「キョータロー!!」

「おわ!! 突然なんだ? 今から始めるんだぞ?」

「この淡ちゃんがキョータローの恋人になってあげる」

「ぶっ!!」

「へぇ」

「うあぁ……」

 

 キョータローもこのウルトラスーパーノヴァ淡ちゃんが恋人なら嬉しいでしょ。私もキョータローのことが好きだし、大手を振って会いに行ける理由になるんだから一石二鳥だよね!! 

 

 

 

 決勝戦よりも圧が増している咲と顔色が青を通り越して真っ白になっている照と固まっている京太郎、そして渾身のどや顔を披露している淡……混沌とした状況で麻雀が始まろうとしていた。

 淡と京太郎がどうなるのか……まだ誰も知らない。ただ一つ、この中の誰かが女子麻雀プロは結婚しにくいというジンクスを破ったことだけは予言しておこう。

 





咲さんが微妙な顔をしていたり威圧している理由は皆さんの想像に任せます。
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