登場人物を増やすと口調やキャラが合っているか不安になります。
口調やキャラが違っていたら申し訳ありません。
また、今回色々と無理のある文通の設定がありますが、そこにも
目を瞑っていただけるとありがたいです。
この場を借りて、評価及びお気に入り、感想のお礼を申し上げます。
皆様のアドバイスに基づいて日々精進していきます。
失礼しました。
松実玄は語り合いたい
それはただなんとなくだった。
再び皆で麻雀ができるように願って週一回部室の掃除をしていたが……しばらく経つと寂しく感じていた。
始めたときはいつも通りにしていればきっと帰ってくる確信があったが今ではそれも少し揺らいでいる。
綺麗にした部室を眺めながらふと持っている雑誌を思い出した。
先日、瑞原プロの表紙に惹かれてしまい思わず買ってしまった物だ。
いかがわしい物ではないので家で見ても問題なかったのだがなんとなく見る気が起きず鞄の中に眠らせていた。
なんで見る気が起きなかったのか先ほどまで解らなかったが今なら解る。
きっと麻雀に関連することを無意識に避けていたのだろう。
私は溜め息を吐きながら椅子に座った。
思っていたよりも弱っていたことを自覚したことにより思わず溜め息をしてしまった自分に活を入れるために両頬を叩いた。
力を入れすぎてしまい頬がジンジンするが気合いは入った。
時計を確認するとまだ余裕があったので雑誌を見ることにした。
そのまま鞄から件の雑誌を取り出し瑞原プロの特集に目を通していった。
雑誌を堪能して仕舞おうとしたとき巻末が目に入った……文通の募集ページだった。
私はおもちが好きだ。しかし、それを語り合う同好の士は今のところいない。
その時の私はきっとまだ完全に立ち直れてなかったと今なら言い切れる。
普段なら気にも留めないページを私は凝視した。
そして、雑誌に付いていた募集応募はがきにペンネームやおもちに対する愛を書き込んだ後切手を帰りがけに購入して貼り付けてからポストに投函した。
家に帰ってから旅館の手伝い等をして、布団に入ってから正気になった。そして、顔を覆いながら悶絶した。
私は何をやっているんだろうか……私のおもち愛が全国デビューしてしまった。
しばらく悶絶した後、あんな文章を載せる人と文通したがる人はきっといないはずと自分に言い聞かせて就寝した。
そんな若気の至りから1週間後、件の雑誌の最新号が目に入った。
それを見た瞬間顔を赤くして見なかったことにした。
それからさらに1週間後家のポストに雑誌の名義で封筒が入っていた。
イヤな予感がしたが見ないわけにも行かないので開封したら中には手紙が入っていた。
それを読むと送り主のペンネームと私のおもち愛に対する感動とこれからも文通を行いませんか?というお願いが書かれていた。
私は悩んだ……思いっきり悩んだ。
私の若気の至りが回り回って自分の身に帰ってきただけなのだが……それでも悩んだ。
悩みに悩んで……文通することに決めた。
私の方から募集して拒否するのは相手に悪いし、何よりおもちに関して語り合える貴重な同志が得られるのは何よりも魅力的だった。
それから私は月に一回文通している。
相手のペンネームはカピ太郎でどうやら男性のようだが性別は関係なかった。
最初は警戒したが文通するに連れて相手のおもち愛は本物だと確信したからだ。
それからは本当に楽しい文通が続いた。
おもちに関すること以外に相手のことも知ることができた。
カピ太郎さんはペンネームにも使われているカピバラを飼っていてハンドボールをやっているようだった。
そして、私と文通するに連れて私の影響で料理や麻雀に目覚めたことも手紙に書かれていた。そして、今年高校で本格的に麻雀を始めたことを教えてくれた。
そんなことを思い返しながら今月の手紙を書き終えた。
こんなことになるなんてあの時は想像もつかなかったが、結果的に同志を得られたのだから世の中わからないものだ。
また皆で麻雀ができることになったことを報告した手紙を丁寧に封筒に詰めた。
「けど……カピ太郎さんに実際に会ってみたいな」
そう口に出しながら同志に思いを馳せた。
**********
それはなんとなくだった。
部活帰りに寄った本屋の雑誌コーナーで目を惹かれた雑誌があった。
その雑誌はどうやら麻雀を中心に取り扱っている雑誌だった。
その表紙に“はやりん“と呼ばれる麻雀のプロがポーズを取っていて見出しに”2週連続特集 2週目“と書かれていた。
麻雀に興味はなかったが表紙のはやりんに惹かれてしまいつい買ってしまった。
そのまま、家に帰りカピーのお世話をした後購入した雑誌を開いた。
突然だが俺は胸が好きだ。大きい胸が好きだ。そこに家庭的な要素が加わればさらに最高だ。だからこそはやりんは俺の理想を体現している存在と言えた。
そのままはやりんの特集ページを堪能してもう一周してから他の部分を流し読みした。
麻雀自体に興味はなく体を動かしている方が性に合っているから特に目を惹かれる物はなく巻末まで進めていった。
その巻末の文通相手募集欄のある文が目に入った瞬間、俺の目は釘付けになった。
そこには『私は女性の胸、すなわちおもちに心を奪われた存在です。女性のおもちにこの世の全てが詰まっています。おもちは大きければ大きいほど夢が詰まっています。私と一緒に夢を語り合いませんか』と書かれていた。
直接触らない限りセクハラにならないとはいえおおっぴらにここまで胸……いやおもちへの愛を語っていることに俺は深く感動した。
そして、このひといや“グランドおもちマスター”さんと夢を語り合いたいと思った。
この感動に突き動かされるまま応募欄を確認すると、どうやらプライバシー保護の観点で雑誌社を経由して相手に送られるようだった。
親から封筒と手紙を分けてもらって封筒に雑誌社の宛名と“グランドおもちマスターさんへ”と書き込んでから、本命の便せんにできる限り字が汚くならないように気を配りながら俺のおもちに対する思いを全て詰め込んだ。
そんな俺の思いが通じたのかグランドおもちマスターさんは返事を返してくれた。
そこからは元々楽しかった生活がさらに輝いて感じられるようになった。
グランドおもちマスターさんは同年代の女性のようだった。
はじめは女性だとわかったときは少し戸惑ったがおもちを愛するのには性別は関係ないとすぐに思い直しより一層敬意を抱いた。
グランドおもちマスターさんとの文通ではもっぱら至高のおもち対究極のおもち討論やおもち黄金比の探求といったおもちの話題に互いの近況を報告していた。
グランドおもちマスターさんは料理上手で写真が趣味だったので手紙にその月の傑作の写真がいくつか送ってきてくれたので俺の食欲が刺激されてしまい最初は親に頼んで作ってもらっていたが親に負担を掛けすぎるのはどうかと思い、次第に自分で調理するようになり料理の楽しさに目覚めていった。
また、麻雀誌で募集していたこともありグランドおもちマスターさんは皆とやる麻雀が好きでおもちに対する愛と同じぐらい麻雀のドラを大切にしているようだった。最初は話題について行くために麻雀を勉強していたが次第に麻雀の魅力に取り憑かれていき、今では麻雀もネト麻だが空き時間にやるようになった。グランドおもちマスターさんは今は皆で麻雀ができず少し寂しいがきっと皆でできるようになることを確信していると語っていて、そこで俺も願掛けとしてネト麻でやる際にドラをなるべく大切にするようにした。
そんなことを思い返しながら、高校では麻雀部に入ることにしたと記した手紙を書き終えた。あのとき書店であの雑誌を見つけたことでおもち同志を得られたのだから人生ってわからないもんだな。それにしても……
「グランドおもちマスターさんと直接語り合いたいな……」
そう口に出しながら同志に思いを馳せていた。
**********
「須賀君ってドラを捨てないんですね……」
清澄女子は団体及び個人で全国に行ったが、男子……いや部員が一人しかいないので須賀京太郎個人は惜しくも県予選で4位とギリギリ滑り込めず全国に行くことはできなかった。しかし、それなり以上の腕があるので雑用だけではなく期間中の練習相手としても女子と一緒に行くことになっていた。
そして、息抜きの1年同士の東風戦後に上述した言葉を原村和が零したのだ。
「ん?ああ。捨てないようにしているからな」
「それなのにここまで防御がうまいのが不思議です」
「ドラを捨てないようにするための立ち回りを徹底的に研究したからな」
「けど、京ちゃん不要牌が来やすいから和了りが遠いんだよね」
「そうなんだよな~ドラがほんのり来やすい気がするんだけどそれ以上に不要牌が、な」
「それで徹底的にマークされて4位になったんだから世話ないじぇ」
「ぐぅ、返す言葉もないな……」
(ドラを捨てない……玄さんを思い起こさせますね。私の胸に対する興味も含めて)
阿知賀時代の先輩との初対面を思い出しながら会話は続いていく。
「そういえば、聞きそびれてたんだけど何で京ちゃんはドラを捨てないの?」
「あ~、中学のときの文通相手とちょっとな」
「文通なんて京太郎には似合わないじょ」
「俺も似合わないのをわかっているよ。けどまあ悪くないもんだよ」
「ねえ、文通相手ってどんな人なの?」
「プライバシーもあるから言えるのは同年代の女性で姉がいるくらいだな」
(姉……玄さんも姉がいましたね……)
「もう少し教えてくれても良いんだじょ」
「……まあ、ここまではいいか。写真が趣味だ。これ以上はホントに教えられないからな」
(玄さん、たしか写真が趣味だったような……)
「あれ、和ちゃん微妙な顔をしてどうしたの?」
「いえ、昔の友人を思い出してただけです。皆さんそろそろ練習を再開しましょう」
既視感を感じながら原村和は練習に没頭していった。
(そういえば、グランドおもちマスターさんもインターハイに団体で出るって報告していたな……もしかしたら会えるかな)
**********
松実玄は部活前の空き時間に部室で文通に使う写真を選んでいた。
「うーん、この写真もいいけどこっちのもいいな。どうしよう」
写真を両手に持ちながら決めきれないようで悩んでいるようだった。
少しの時間が流れた後、部室の扉が勢いよく開かれた。
そこにはやる気十分の高鴨穏乃がいた。そして、少し遅れてその後ろに息を切らせた新子憧が現れた。
「お疲れ様です!あれ、玄さんしかいないんですか?」
「あ、穏乃ちゃんお疲れ様。今私しか来てないよ」
「はぁ…はぁ…シズ、速すぎ。あれ?玄しか来てないんだ」
「憧ちゃんもお疲れ様。今穏乃ちゃんにも話したんだけどまだ皆来てないよ」
「あっ!玄さん何しているんですか?」
「文通に使う写真を選んでいたんだよ」
「玄……文通していたんだ」
「そうだよ。こども麻雀クラブの活動が終了した後から始めたからおねーちゃん以外皆知らないはずだよ」
「どんな写真を使おうとしてたんですか?」
「うーん、見ればわかるかな?……そうだ!二人とも見て良いからどっちが良いか意見を出してくれないかな?」
「どれどれ……。うわ!どっちも美味しそう」
「これ、玄さんが作った料理の写真ですか?」
「うん。ここ1ヶ月の料理の中で見栄えや味がよかったものを印刷した写真だよ」
「どんな文通なのよ……」
「あ、玄さん文通相手のことを教えてくれれば写真を選ぶ基準になると思うんですけど大丈夫ですか?」
「いいよ~。えーと、私と同年代の元運動部の男の子だね」
「ふきゅ!?お、男!?」
「そうだね。あ、後は今年麻雀部に入ったって言ってたね」
「うーん、じゃああまり捻らずにガッツリ系の肉料理の写真がいいと思います」
「穏乃ちゃんありがとう。そうするね」
「シズもスルーしないでよ!男よ!お・と・こ!」
「え、別に文通相手の性別が男でなんか問題あるの、憧?」
「い、いや。まだ早いというか……もっと順序があるっていうか……」
「あはは、憧ちゃん気にしすぎだよ。彼と私は気が合う文通相手なだけだから。ほら、彼の飼っているカピバラの写真でも見て落ち着いて」
「あ、かわいい」
「珍しいよね、カピバラを飼っているなんて」
「うわ~。動物園以外でカピバラを飼っているのは珍しいですね」
二人がカピバラの写真に夢中になっている間に玄は選んでもらった写真を封筒に入れて封をした。そのまま、カピバラで盛り上がっていると、部室の扉が再び開いた。
「あ、玄ちゃんたち。もう来てたんだね」
「おっ、皆そろっているな」
「ハルちゃん、これどこにおけばいい?」
「あ、そこら辺でお願い」
扉を開けた松実宥の後から何かを抱えた赤土晴絵と鷺森灼が入ってきた。
カピバラに熱中していた3人も残りのメンバーが来たので練習に意識を切り替え始めた。
「宥さん、灼さん、赤土先生、お疲れ様です」
「じゃあ、おねーちゃん達も来たからそろそろこの写真も仕舞うね」
「あっ!く、玄!その写真スマホで撮影しても良い?」
「うん、いいよ~」
「あ、玄ちゃん達カピーちゃんの話題してたんだね」
「カピー……?」
「玄ちゃんの文通相手が飼っているカピバラの名前だよ」
「へぇ~、文通ねぇ。今の時代珍しいね。ま、気になるけどとりあえず部活を始めるよ」
玄の文通に興味津々な晴絵だったが、部活の休憩時間辺りに聞けば良いかと考えたのか部活を始めるように切り出した。
(カピ太郎さんも選手じゃなくて雑用兼練習相手でインターハイについて行くって書いてあったからもしかしたら会えるかな?)
**********
時は流れてインターハイの全日程が終了した。
阿知賀女子と清澄はそれぞれが帰る前に原村和の縁でちょっとした交流会をしていた。
ホテルの小さい会議室を借りて軽食や飲み物を摘まみながら和やかな雰囲気で進んでいた。しかし、そんな中で須賀京太郎はなんとも言えない居心地の悪さを感じているようで、人の良い笑みを浮かべているが体を微妙にソワソワさせているのがその証拠だった。
そんな、彼に対して声を掛けたのは赤土晴絵だった。
「やあ、須賀くん。楽しんでいるかい?」
「赤土さん……ええ楽しんでますよ」
「そうかい?その割には所在なさげなように見えるけどね」
「あ、はは……鋭いですね……。咲達は実際に対局しているから顔合わせはある程度済んでいたと言えるんですけど……俺は対局をしていないのでほんの少し疎外感を感じているだけです」
「へぇ……てっきり私は女の園にいることによる気後れが原因だと思っていたんだけどな」
「そこは咲達と打っていると自然と感じなくなっていました」
「その割には最初この交流会に参加することを辞退していたって聞いたけどね」
「赤土さんの高校は女子校だから男が参加したら余計な気を使わせて和達の交流の邪魔になると思ったから辞退しようとしていたんですが、和が『須賀君も清澄の一員ですから気にしなくて良いですよ』と言ってくれて……」
「和は頑固だからそのまま押し切られたと」
「そうですね、和がそう口に出してくれたのも嬉しかったのでなんとか場の雰囲気を壊さないようにしていたんですが赤土さんには見抜かれてしまいましたね……」
「ま、私は見抜くのが得意だから気付けただけで須賀くんはきちんとしていたよ」
「ありがとうございます」
「まあ、私が話しかけたのはそれを指摘するのが目的じゃなくて須賀くんの麻雀に関して聞きたいことがあったから話しかけたんだ」
「俺の麻雀……?」
「そう!さっき和から聞いたんだけど須賀くんは対局の際ドラを捨てないようにしてるんだって?」
「そうですね。ドラを捨てないように立ち回ってますね」
「それも文通相手が関係してるとか」
「ええ、文通相手の話を知って俺の方が勝手に願掛けでドラを大切にするようにして、そのまま今に至りますね」
「それで文通相手は姉がいて写真が趣味と」
「?そうですね」
晴絵が何か面白い物を見つけた表情になって京太郎は疑問を感じているとふと自分に対して生温かい視線が向けられているのに気付いたようだった。正確には京太郎と松実玄に向けられる生温かい視線だった。京太郎は頭に疑問を浮かべていると顔を赤くした玄が近づいてきた。そして、か細い声で京太郎に話しかけた。
「カ……カピ太郎さんですか?」
それを聞いた瞬間京太郎は一気に混乱の境地に陥った。
(え?え?咲達にはペンネーム教えてないはず。いやいやいや。インターハイ出場校は俺たちを除いて51校あるんだからそんなピンポイントに知り合えるはずがない……はず。だけど実際にこのペンネームを知っているのはグランドおもちマスターさんだけだから……。え、マジで。松実玄さんがグランドおもちマスター?ウソだろ……)
「松実さんが……」
「おねーちゃんと被るから玄で良いですよ……」
「えー、えーと……玄さんが……あの……えーと……グランドお、お…おもちマスターですか……」
京太郎はさすがに他の阿知賀の女性達の前でおもちという単語を言うのは恥ずかしかったのか後半は玄にしか聞こえないボリュームで問いかけた。顔をさらに赤くして玄はコクンと頷いた。京太郎はそれを見て何を言えば良いのかわからなくなっているようだった。
そこで助け船を出したのが晴絵と竹井久だった。
「じゃあ、積もる話もあるだろうから二人きりで話してくれば良いんじゃない?」
「須賀君もインターハイ頑張ってくれたんだから少しくらいハメを外しても良いわよ~」
そう言いながら二人は固まっている玄と京太郎を入り口の扉まで押していった。
「赤土先生!?」
「部長!?」
「ごゆっくり~」
バタンと扉が閉められ二人は強制的に二人っきりにさせられた。少しの間固まっていた二人だったがおもむろに京太郎が口を開いた。
「……場所を変えますか?」
「うん……」
二人は無言で少し歩いて自販機やベンチがある簡単な休憩スペースに着いた。幸いにも人気はなく落ち着いて話ができる環境が整っていた。京太郎は玄に座るように促して、玄が座ったらその隣に腰掛けた。そのまま、無言の時間が流れていたが意を決したように京太郎が口を開いた。
「……会いたいと思っていたのにいざ会ってみると何を言えば良いのかわからないですね……」
「……私も手紙に書ききれなかった話とか色々あったのに何を言えば良いのかわからないね……」
「でも、実際に会えて嬉しいです」
「私もカピ……ううん京太郎君に会えて嬉しいよ」
「だから、俺たちは最初に立ち返ってみようと思うんですよ」
「?」
「……久しぶりに会った和のおもちはどうでしたか?」
「阿知賀にいた頃も素敵だったけど今の和ちゃんはまさに至高のおもちと言って過言じゃないよ!成長過程を撮影できなかったのが非常に残念だね……ぁ」
「グラ……玄さんはおもちについて語っているのが一番らしいですよ」
「う~、文字で書き起こすのはいいんだけど実際に語る……しかも男の子に語るのは恥ずかしいよ」
「俺もおもちについて語るんでそれでおあいこにしません?」
「……うん!そうだね、手紙では語りきれなかったこともあるから連絡先を交換する?」
「いいですよ。でも文通も続けませんか?会えたから止めるのは……こう言葉にし難いんですが違うような気がして」
「うん。私も京太郎君と知り合えた繋がりを簡単に止めたくないからいいよ」
「これからもよろしくお願いします、玄さん」
「こちらからもよろしくお願いするね京太郎君!」
二人は改めて挨拶をして握手をした。
**********
それからも二人の文通が続いたが、文通の内容が出会う前と後で少し変化していた。これまではおもちが7で近況が3だったのに対して、おもち9の近況が1になった。これは主に二人が学生だったことに起因している。話しすぎたのだ。おもち討論に熱中しすぎで日常生活に影響が出てきそうになったのである。二人はこれではいけないと思いおもちの話題を話すのを文通が届いた週の二人がまとまった時間をとれる日に限定した。文通には話す話題を便せん一枚にまとまるようにして、通話ではそれを元に討論する形式である。おもちに関していくらでも話せる二人だったがそれを限られた時間を生かすためにこのような形式になった。……その副次効果で二人の文章をまとめる力などの国語力が上がったのは余談だが。
まあ、長々と説明してきたが二人は月一度の討論以外の連絡が全て近況報告だということが重要なのである。二人がおもちで繋がっているのが恥ずかしくて文通内容などを周りに秘密にしてきたのも原因だが、漏れ聞こえる会話の内容と雰囲気から周りは勘違いし始めたのである。そう、二人が付き合っていると思われるようになったのだ。二人は単純に同志と友好を暖めているだけなのだが……
そして、さらに勘違いを加速させたのが清澄と阿知賀の交流戦だった。全国1位になった清澄は練習試合を全国から受ける立場になったことで阿知賀女子もその流れに乗って練習試合を申請するようになった。ここで全国1位と練習試合するのが重要なのである。これが無名の高校なら周囲はよく思わないかもしれないが、全国1位なら向上心があると思われるのである。そんなこんなで遊びに行くが主目的の1泊2日の練習試合はたびたび開かれた。そこで二人は泊まりがけの討論を行ったのである。年若い二人が一つ屋根の下で過ごすのは周りに想像の余地を与えていた。……実態はパワポなどを駆使したガチ討論だったのだが。
このまま行けば二人の関係は恋人に進むことはなかったのだが、次の年のインターハイ少し前練習試合の際の討論であることが起きたのである。その日はおもちの黄金比に関する討論をするために参考資料を配付しようとして玄が転びそうになり京太郎が抱き留めた際に玄のおもちに触れたのだ。すぐに二人は離れたのだがその日の討論はほとんど進まなかった。
その翌日二人は上の空で麻雀にも身が入っておらずチョンボする始末だった。
(玄さんのおもちやわらかかったな……)
(京太郎君の体、ガッシリしていたな……)
その二人を心配して原因を聞き出そうとする人が現れた。和と憧である。二人を別の場所に連れ出して、そこで無理矢理原因を聞き出して二人は仰天した。
「まだ付き合っていなかったの!?」
「須賀くんと玄さんはお付き合いしているのではないのですか!?」
玄は憧の言葉を聞いて首を傾げた。
「いや、京太郎君はただの文通仲間で……」
「普通の文通仲間はそこまで距離が近くないわよ!」
「そうかな?」
「その距離感は恋人の距離感よ!!」
「こ、恋人なんて……」
それを見て憧はどこかに電話をし始めた。
京太郎は和の言葉を理解できてないようだった。
「いやいや、玄さんとはただの文通仲間で……」
「文通仲間だからといって普通は一緒に宿泊しません!」
「そうか?」
「端から見ると須賀くんと玄さんは恋人に見えます!」
「こ、恋人……」
和はさらに論破しようとした瞬間、自分のスマホが鳴ったのに気づいて京太郎に断ってから通話に出た。
『もしもし、和?』
「なんですか、憧?今須賀くんを説教しようとしていたのですが」
『え、一体どうしたの?』
「玄さんとの関係が恋人じゃないってふざけたことを言い出したので」
『そっちもそうなの!?』
「そっちって……まさか!」
『玄も須賀とはそんな関係じゃないって……』
和は目眩を感じていた。
「なにも知らないのは本人だけだったのですね……」
『そうね、横から見ると遠距離熱愛カップルみたいな感じだったからね……』
「しかも、今になってお互いを意識し始めたと……」
『もう行けるとこまで行ってると思ってたわ……』
「……憧、焚き付けましょう」
『の、和?』
「今のままならインターハイにも影響が出ます。そうなる前に二人が今抱えている思いを整理させてぶつけ合わせましょう」
その後、一言二言話してから通話を終了させた。
「須賀くん」
「は、はい」
「あなたが抱いている感情は単純明快です。それは恋です」
「こ、恋!?」
「そうです、友人なら多少のボディタッチでそこまで動揺しません。そこまで動揺しているのは須賀くんが玄さんのことを心の底では異性として意識していたことに他なりません。もう一度玄さんのことを思ってください」
「思う?」
「そうです、もし玄さんが他の男の人と話していたらどう思いますか?」
「……少しモヤモヤするな……」
「それこそが須賀くんの本心です」
「本心……」
「須賀くんは玄さんのことを好きだからそう思うのです。今、玄さんがここに来ますので思いを伝えてください。私は部室に戻ってます」
「あ、和……好きか……」
京太郎は目を閉じてこれまでのことを思い返していた。しばらく目を閉じていたが気配を感じて目を開けた。そこには顔を赤くした玄が立っていた。
「きょ、京太郎君」
「玄さん……」
「憧ちゃんは私たちの関係を恋人だと思っていたんだって、和ちゃんもそうだったの?」
「そうですね、和も俺たちの関係を恋人だと思っていましたね。真面目な和や新子さんがそう思っていたのならば他の人もそう思っていたんでしょうね……」
「京太郎君は私のことをどう思っているの?」
「大切な文通相手でおもちのことを思いっきり語り合える同志……でした。けれど、昨日玄さんを抱き留めたときわからなくなりました。おもちが好きなのかおもちを語っている玄さんが好きなのかを……」
「京太郎君……」
「玄さん」
「!」
「和に指摘されて玄さんが来るまでこれまでのことを思い返していました。そして一つの答えにたどり着きました」
「……」
「俺は玄さんが好きです!おもちを語る玄さんも、麻雀をする玄さんも、料理をする玄さんも好きです!!!玄さんの全てが大好きです!!!付き合ってください!!!!」
「…………………………」
「玄さん?」
顔を伏せたまま固まった玄に京太郎が声を掛けた瞬間、玄は京太郎に飛びつき京太郎の唇に自分の唇を重ね合わせた。
「これが答えだよ、京太郎」
「く、玄さん……」
「付き合うなら玄って呼んで欲しいな、京太郎」
「玄……」
「私も京太郎のことが大好き。京太郎の告白を聞いて私も自分の気持ちに気づいたんだ」
「和や新子さん達に迷惑を掛けましたね」
「そうだね、憧ちゃん達が私の背中を押してくれなかったらきっと空回りしていたね」
「後で謝らないといけないですね」
「うん。けど……今はもう少し京太郎と密着していたい」
「そうですね……」
しばらく抱き合っていた二人は着信音で現実に戻された。玄のスマホからその音は鳴っていて確認すると憧からの着信だった。玄は応答するともうそろそろ帰る時間だということを教える電話だった。最後に邪魔して悪いわねという謝罪と共に通話は終了した。
「京太郎、そろそろ帰る時間だって」
「もうそんな時間なのか……」
「名残惜しいけどそろそろ戻らないとね」
「次に直接会えるのはいつになりますかね?」
「インターハイが始まると出場校同士試合ができなくなるからね……」
「全国に行けることを確信してるんですね」
「皆を信じてるからね。もちろん和ちゃん達のこともねっ」
「じゃあ、次に会えるのは全国大会ですね」
「次に会えるのを楽しみにしているね」
「そうですね、でもその前に……」
「きょうたろ、んっ!?」
「……先ほどのお返しです。これからもよろしく、玄」
「えへへ、こちらこそよろしく、京太郎」
あの日、一人誰も来ない部室を掃除していた少女は語り合う同志を得て、一緒に全国に行った仲間を得て、そして人生を分かち合う大切な人を得た。
少女の輝く笑顔は二人の未来の明るさを表しているようだった。
「あ、究極と至高のおもち討論は前みたいな熱意でできないかもしれないな」
「え~?」
「俺の究極のおもちは玄さんのおもちになったからです」
「!そ、それなら仕方ないな~」
「ですが、玄さんの至高のおもちはまだまだ見つからないですよね」
「そうだね、これからもおもちを探求していこうね!」
「はい!」
おもち討論もこれからも続きそうだった。