くろたんイェイ~
玄の誕生日なので投稿します。
大変お待たせして申し訳ございません。1年越しですが続きを投稿します。
以前に宣言したように絶対にエタる気はありません。
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この場を借りて改めてお礼申し上げます。
そうして、俺の気持ちとは裏腹に皆は勝ち抜いていき……
「それじゃあ……乾杯!」
部長の音頭と共にジュースの入ったコップを掲げる。
「「「かんぱ~い!」」」
グラスを傾ける。甘い液体が喉を潤していく。
……今、俺がいるのは清澄の団体戦優勝記念パーティの会場だ。まあ、パ-ティといっても俺たちが宿泊している所の部屋を借りて行っている規模が小さい内輪向けのものだ。
団体戦が終わっても咲と和は個人戦が控えている。本来ならパーティはすべて終わってからのほうが色々と都合が良いかもしれない……
けれど三つの要素が絡み合った結果、こうしてパーティは行われている。
まず一つが目標達成による気の緩みだ。俺たちの目標は全国優勝だった。それを達成した今、個人戦に対するモチベーションは低くなっている。和は本人の性格もあってそこまで露骨じゃないが咲はわかりやすいくらい緊張の糸が切れている。いや、どちらかと言えば燃え尽きたか。咲から今回の全国大会で咲のお姉さんと向き合いたいと聞いていたから当然と言えば当然だな。こうやってパーティをすることで英気を養って個人戦を
次に部長の意思だ。一つ目の要素の時にも挙げたが、俺たちの目標は全国優勝だった。その目標を掲げ、実現まで一番努力してきたのは部長だ。それが実現した今、一番感情を爆発させているのは部長だ。決勝戦が終わった後の部長は、部長にしては珍しいくらいのハイテンション*1、でパーティを決行しようとした。本来なら染谷先輩や和がストッパーになったかもしれない。けど染谷先輩も部長の努力を間近に見ていたからか賛成側に回り。和は……。
視線を和側に向ける。そこには4人の少女がいる。和と優希、そしてポニーテールの少女*2とツーサイドアップの少女*3がいる。ツーサイドアップの少女は優希を見て苦笑いしながらも4人は楽しそうに話している。……これが三つ目の要素だ。
「京ちゃん? 和ちゃんの方を見てどうしたの?」
「いや。楽しそうに話しているな~って思ってな」
「そうだね、和ちゃんも阿知賀の人たちとは話したい話題もいっぱいあるみたい」
事の始まりは決勝戦が終わった後、彼女ら……阿知賀の人たちが和と空いた時間に改めて話をしたいと言ってきたことだ。宿泊所に戻った和は後に控えている個人戦のことを考えてどのくらいの時間を割くか考えていると、話を聞きつけた部長が
『だったら明日やるパーティに阿知賀の人たちも呼びましょう。和の旧交を温めつつ阿知賀との繋がりも強くなる良い機会よ』
と言い出して、そこからあっという間に阿知賀の顧問にも話を通してこうして実現した訳だ。そこまで回想して俺はつい口から本音が漏れてしまいそうになった。
「俺は……」
「ん? どうかしたの?」
咲が首をかしげながらこちらを見てくる。取り繕うように俺は言葉を続ける。
「ああ、なんというか、……居心地が悪いと思ってな」
「京ちゃんだって麻雀部の一員だから気にしなくてもいいじゃないかな?」
「それもそうなんだが……こう、タイプの違う美少女たちに囲まれていると……な」
「京ちゃんでもそんなウブな一面があるんだ」
「よく考えてみろ、11人の内5人は見知った仲でも男子と女子が1対11だぞ。どんな人間でも緊張するだろう?」
「え~。京ちゃんなら鼻の下を伸ばしながら喜びそうだけど……」
「さすがに俺も場所を弁えるぞ……」
なんとかごまかせたか? もちろんさっき話した事も事実だ。けど実際は、
俺は……ここにいるべきじゃないよな
と口から漏れそうになったんだ。
だってそうだろう? ここにいるのは俺以外決勝までひたむきに頑張ってきたやつばかりだ。ここに至るまで泣いて笑って苦労してたどり着いた果ての喜びを分かち合う場だ。ほとんど傍観者だった俺がいて良い場所じゃない。
だからこそ阿知賀の人と一緒にパーティを開くと聞いたとき俺はやんわりと辞退しようとしたんだ。“阿知賀は女子校だから男である俺がいても緊張させてしまうんじゃないか”ってな。ダメ押しに“長野に戻ったら改めてパーティを開くでしょう? そっちで出席しますよ“とも言ったさ。
そしたら部長は
『須賀くんもうちの部員なんだから遠慮しなくてもいいわよ。本来は優勝を祝うパーティなんだから須賀くんも主役でしょう? 主役がいないと盛り上がらないじゃない? 阿知賀の人たちにはきちんと話しておくから気にせず楽しみましょう』
と言われてしまい。俺は参加せざるを得なくなってしまった。
俺は……
「京ちゃん?」
「……ん? どうした咲?」
「やっぱり今日の京ちゃんは少し変だよ。体調が悪いの?」
まいったな……それなりに付き合いが長いせいか咲に勘ぐられているな。団体戦中は勘づかれないように気を張っていたが優勝して俺も気が抜けたか。
「ああ……いや、今でも優勝したのが信じられなくてな。今ここにいるのが夢じゃないかって思って少しな。これじゃ咲のことをからかえないな」
「そうだね、私もお姉ちゃんときちんと話せたのが信じられないよ」
「頬でも抓るか?」
「あはは、そんな古典的な……え? なんで私のほっぺに──っっ! ……もう京ちゃん! 私のほっぺにやっても意味ないじゃない!」
「どうやら夢じゃないな」
咲が頬を膨らましながら抗議する目線を俺に向ける。ごまかせたようで心の中でほっとため息を吐く。けどこのまま咲と一緒にいると俺の汚い部分が暴かれるかもしれないな。ようやくお姉さんと和解できた咲にこんな汚い部分を見せたくない……いや正確には清澄の皆に見せたくない、だな。
「そんなに元気なら部長たちの所に行って気合いを入れるためのアドバイスをもらってきたらどうだ?」
「えぇ!?」
部長のいる方に目を向ける。部長は染谷先輩と一緒に、阿知賀の顧問(赤土晴絵)と阿知賀の部長(鷺森灼)と話している。
「阿知賀もウチと同じように強豪を下して県の代表になって決勝まで進んできたし、もしかしたら気合いを入れる秘訣とかあるかもしれないだろ? なくてもここまで引っ張ってきた顧問の話を聞く機会も早々ないし良い機会だと思うぞ」
「で、でもぉ……」
「……お姉さんと話をする目標を達成して気が抜けたのもなんとなくわかるし、咲がこれからどうしたいのかわからないのもなんとなくわかる。俺もハンドボールで燃え尽きたとき同じような状態になったしな」
「う、うん。あのときの京ちゃんはまさに燃え尽きたって感じだったね」
「俺は俺のやり方で新しい目標を見つけたから立ち直ったんだ。咲にも咲に合ったやり方があると思うんだ」
「そうかな?」
「そう思うさ。それを見つけるためにも話を聞いてくるのは役に立つと思う。それに……」
「それに?」
「あのいつもおどおどしていた咲がここまで来たんだ。これくらい行けるんじゃないか?」
「……そうだね。皆のおかげでここまで来られたんだから、これくらいなんてことないんだろうね。ありがとう京ちゃん、行ってくるね」
「おう」
俺の言葉に感銘を受けた咲は部長たちの方に向かっていった。大分クサい言葉を言ったがなんとか咲を説得できたな。
こうやって話していると咲も変わったんだな。前までは俺が引っ張っていたのに今は……。ああ……ダメだダメだ。こんな祝いの場で暗いことを考えれば雰囲気に水を差しちまう。自分の気持ちに蓋をしないと、な。
こんな時は食べるのが一番だ。食べて気を紛らわそう。
テーブルに並べられたオードブルから唐揚げやエビフライなどの茶色いものを少しずつ取り皿に取っていき、いざ食べようとして……
「あのー……」
声を掛けられた。
麻雀部に所属していても雑用で尚且つこの空間では唯一の男である自分に積極的に声を掛けてくるとは思ってもいなかったので軽く動揺しながら、声が掛けられた方へ目を向けるとそこには……阿知賀の姉妹がいた。
「須賀さんでしたよね? 今大丈夫ですか?」
「あっ、はい。大丈夫です。え~と改めまして須賀京太郎です、そちらは松実玄さんと宥さんで間違いないでしたよね」
「ええ間違いありません。私が松実玄でこちらが姉の松実宥です」
改めて声を掛けてきた2人をそれとなく観察する。妹さんは明るく活発で、お姉さんはどこか儚く感じる。あとお姉さんの真夏にマフラーという独特な格好が印象的だな。そしてどこともいわないが2人とも良いモノを持っている。
けど……どことなく緊張しているように感じる。妹さんは上手く隠しているがお姉さんの方は表情に微かに堅さが現れている。これは……接し方に一層気をつけた方がいいな。咲と付き合っていく上で養われた経験がそう告げていた。
それはとにかく俺に何の用だろうか? この場所の俺にできる話題なんてタコスくらいしか思いつかないぞ。
俺の動揺をよそに妹さんが口を開いていく。
「事前に聞いていたんですけど須賀さんがその肩に掛けているデジカメで写真撮影をするんですか?」
「え? ええ、そうですね」
んん??
報告書用に写真撮影をする事を部長から阿知賀の人たちに伝えていたはずだ。だから俺もデジカメをこの場に持ち込んでいる。もしかして撮影した写真の確認か? たしかに撮影した写真を阿知賀の人が確認することになっていた、が。ここで疑問が生まれる。
まだ撮影していないんだけど。
ならこの質問の意図は……いやまて、動揺して気になってなかったが妹さんは小さめのポシェットを肩掛けしている。思い返すと阿知賀の他の人は何も持ち込んでなかった。もしかして……
俺の中で疑問の答えが導き出される直前に、お姉さんの方から答えを提示された。
「すいません、玄ち……、んん、私の妹も写真を撮っているのですが、須賀さんがどのような方法で撮影しているのか妹が気になっておりまして声をお掛けしました」
「そう……ですか。ですが私は素人ですしあまり参考にならないと思いますよ」
「いえいえ、こちらも素人ですからお気になさらないでください。ただ純粋に他の方がどのようにして撮影しているのか拝見したいと思いましたのでこのような場を設けさせていただきました。もし須賀さんの方で何か不都合があるのでしたらこの話はなかったことにしても構いません。本当に気になっただけですので」
「……それでしたらこちらとしてはなにも問題はないので撮影しているところをどうぞご覧ください。あとこちらが年下ですので敬語は大丈夫です。せっかくのパーティ兼交流会ですので気楽に行きましょう」
俺の言葉に姉妹は少しだが緊張が解けたようだった。
「気を遣わしてごめんね。須賀くん」
「須賀くんもそんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。私たちのことも下の名前で良いから」
「……わかりました。宥さん、玄さんよろしくお願いします」
なんか変なことになったがまあ写真を撮るだけだし大丈夫か。
それに……正直に言えば清澄の皆と関わるよりも阿知賀の人たちと関わる方が気が楽に感じる。
そう感じる時点で俺はもうダメかもしれないな。