須賀京太郎断片集   作:星の風

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大変お待たせしました。
こちらようやく完結です。


お気に入り登録ありがとうございます。
この場を借りて改めて皆様にお礼申し上げます。


松実玄と写真 下

 

 純粋な興味だった。

 あれよあれよと決まった交流会。清澄では学校に報告するための撮影をしていること。そしてその撮影者は異性の麻雀部の部員がする話。私とは目的も用途も性別さえも違う撮影者。唯一同じ点は同じ麻雀部の仲間を撮影していること。だから私はその人の撮影が気になった。

 もし相手側の男性が断ったならしょうがないと諦めたかもしれないけど幸いにも話は通った。人柄もおねーちゃんのおもちに最初だけ少し目線がいっていたけどそれ以降はまったくそんな素振りは見せなかったことから好印象だ。

 そうして撮影は終わりこれまで撮ってきた写真も見せてくれた。

 

 その写真たちを見ていくにつれて私は疑問を覚えた。

 撮影の技術が上手くなるにつれて彼の存在が薄くなっていっているのだ。彼が一緒に写っていないわけじゃない、セルフタイマーや自撮りの要領で彼も一緒に撮影された写真も存在している。矛盾しているかもしれないけど彼はそこにいてそこにいないように感じた。

 もちろん報告用だから彼個人の色を極力入れないようにするのは当然と言えば当然だ。だがそれにしては徹底的にされすぎているように思える。

 

 だから……

 

 

 

 

 

 宿泊しているホテルの部屋。一緒に泊まっているおねーちゃんは私のお願いで席は外している。今、わたしの手には電話が収まっている。これを操作すれば彼に繋がる。

 どうして私はここまでしているのかわからない。彼とは今日初めて会ったそれだけの仲だ。

 私は自分の中に生じている衝動の意味が理解できないまま彼と連絡をとる。

 あらかじめ約束していたからか彼はすぐに出てくれた。

 

「……須賀です」

「須賀くん、こんばんは。何度も変なお願いをしてごめんね、清澄の個人戦が控えていて忙しいのにこんな風に連絡して」

「いえ、気にしないでください。ですが、俺から玄さんに話せることなんてあまりないと思いますよ?」

 

 彼が困惑していることが声色から感じ取れる。それはそうだ今日知り合った人からいきなりもう少し話がしたいからという名目で連絡先を渡されればそうなるだろう。

 それでも私は彼から話を聞きたかった。

 

 そうしないと多分、きっと、後悔するかもしれない。

 

「……須賀君、少し聞いてもいいかな?」

「ええ、俺が答えられることでしたら」

「須賀君は……清澄の人のことをどう思っているの?」

「っ!!」

 

 息を呑む音がした。

 ここまで来たのなら何らかのドラマ(積み重ね)を経ているだろう。通っている高校が違う私には知り得ないけど。少しだけなら推し量れる。

 清澄と阿知賀。無名校とほぼ無名校*1という前提条件が少しだけ違うけど……。それでも私たちと彼らは似た境遇だ。並み居る強豪を打ち倒して彼らは優勝し、私たちは準優勝をした。きっとそこに彼らしか知り得ないドラマがあったはずだ。

 そのドラマの中に彼がこうなった理由があるはずだ。

 

「────質問の意味がわからないのですが」

「うん、私も今日知り合ったばかりの人にこんなことを聞くのは少し変だと思うよ。けど私が知りたいことに関係しているから教えて欲しいな」

「……かけがえの無い仲間ですよ。部長は俺をここまで連れてくるのに尽力してくれたし、染谷先輩はよく俺に声を掛けてくれたりして気を遣ってくれてます。優希は俺をよくイジりますけど一番大事なタコスをまかせてきたし、和は空いた時間に軽い指導してくれました。咲は、皆の悲願の優勝の最後の一押しをしてくれた自慢の友人です」

 

 最後の宮永さんの話の時だけ少しつっかえた? 

 この話題を突き詰めれば写真の違和感の真相にたどり着くかもしれない。しかしそこは多分須賀君の逆鱗……は言い過ぎかもしれないけど触れて欲しくないところのはずだ。無遠慮に踏み込むのは私には許されないことなのかもしれない。

 ……それでも私は。何が私を突き動かしているのか私にもわからずに口は開いていく。

 

「そっか。話してくれてありがとう」

「いえ、……玄さんはどうしてこんなことを?」

「須賀君の写真を見て疑問に思ったから、かな」

「疑問?」

「須賀君の写真に須賀君を感じられなかったことだね」

「それは「より正確に言えば須賀君が清澄の人に一線を引いているって言えばいいかな」っっ!」

「だから須賀君にさっきの質問をしたんだ。もしかして須賀君って清澄の人が苦手なんじゃないかって思って」

それは!!……それは

 

 否定しようとしてそれでもどこか認めている部分があったのだろう。須賀君はそれから言葉を続けずにいた。私からわざわざ電話をして切り出したのだから話を切り上げることは出来なかった。痛いほどの沈黙が続き、そうしてどれくらい時間が経ったのだろうか? 

 

「────────なんで」

「……」

「なんで玄さんはこんな……こんなことを聞くんですか!! ほとんど関わりがない関係じゃないですか!! なんで、どうして、こ、こんなことを

 

 須賀君の慟哭が頭に響く。それを聞いた私は暴れる心臓とは裏腹に頭は徐々に澄み渡っていった。ああ、そうか、そうだった。私がなんで彼のことが気になったのか……

 自分でも驚くほどの落ち着いた声で言葉が出る。

 

「須賀君。私ね小さい頃にお母さんをなくしているんだ」

「っ!!」

「お母さんとの思い出はちゃんと覚えているし、写真も残っているんだよ」

「……」

「でも、ね……写真を見返せば見返すほど懐かしい気持ちと一緒に悔しくなるんだ。もっと一緒に撮りたかった、もっともっと一緒に話したかった、もっともっともっと……一緒にいたかったって」

「……それは」

「うん、ワガママだよね。けどそれでも……そう思っちゃうんだよね。あはは、ごめんね突然変な話をして」

「いえ、玄さんのその想いはきっと誰もが考えることだと思います。……ですが、なぜその話を?」

 

 こうして言葉にすることで自分に生じていた衝動の正体がようやく掴めてきた。

 

「私が写真を撮るようになったのってこれが理由なんだ。家族や阿知賀の皆との思い出を残していって、そして後で見返したときに後悔が生まれないようにしようってね。だから須賀君、話してもらえないかな」

「……」

「須賀君が写真に関わったのはきっと私と違って軽いものかもしれない、けど関わったならせめて写真を嫌いになって欲しくないかな。写真って今と昔をつなげられる素敵なものだから」

 

 再び沈黙が流れたが先ほどとは違いどこか穏やかな気配を感じる。そして……

 

「玄さん……俺は」

 

 そして須賀君の口から語られる本音。

 自分は県予選落ちの中で皆は順調に勝ち進んでいった事実が次第に心に重くのしかかってきた。そんな中で写真を撮っていると次第に自分と皆の間に壁があるように感じてきた。皆に勧められて対局しても成績は奮わないし、清澄の皆は同じ部活の一員として変わらず扱ってくれている。けどその優しさがとてつもなく辛い。一番間近で皆の努力を見ていたからこそ結果(優勝)があるのはわかっているが、それにひがんでいる自分がとてつもなく嫌になる。

 聞けば聞くほど彼がどれほど苦しんだのか思い知らされる。

 彼の苦しみは選手としてインハイに向き合ってきた私には癒やせないかもしれないけど、それでも私も穏乃ちゃん達のように手を差し伸べてみよう。

 

「話してくれてありがとう須賀君。今日会ったばかりで須賀君のことは話してくれたこと以外はほとんどわからないけど……ほんの少しの助言はできると思うから話して良いかな?」

「……お願いしても良いですか」

「おまかせあれ!!」

「ふふ、なんですかそれ」

「……気合いを入れるかけ声みたいなものだから気にしないで」

 

 ……少し滑ってしまったが須賀君の気を少しでも紛らわせたからまあいいよね。

 うん。……うん。やっぱり少し恥ずかしい。

 

「まず、須賀君は麻雀の強さって何で決まると思う?」

「──練習と運と……才能(オカルト)じゃないですか」

「うん。大体あってるね。じゃあ、才能って何だと思う?」

「……才能は生まれ持ったものでどうあがいても差が出るものだと思います」

「言葉のイメージとしては正しいけど」

 

 頭に思い浮かぶのは身近な人達。おねーちゃんや穏乃ちゃん、灼ちゃんの姿。皆や私のこれまでを考えると答えは出てくる。

 

「私は何かを大切にする気持ちを対局で表現できるのが麻雀の才能だと思う」

「気持ち……ですか」

「言い換えるとその人の根幹になるものかな。おねーちゃんがあったかいもの、穏乃ちゃんは山、灼ちゃんはボーリングで私はドラみたいにね」

「なんというかふわふわしてますね」

「あはは、私もそう思うよ。でもそんな気持ちに牌は応えてくれているし、それに須賀君も心当たりがあると思うよ」

「そんなこと」

「さっき話してくれたよね。なぜか不要牌が多く来て成績が奮わないって。それってつまり須賀君の気持ちを牌が応えてるってことになるんじゃないかな?」

「それ、は」

 

 須賀君の話を聞いて思ったことはこれだった。いくら初心者でもそんなに頻繁に不要牌が来るのは運が悪いだけじゃ片付けられない。そういう意味では須賀君も才能がある側に入るのだ。

 

清澄の皆(有効牌)須賀君(不要牌)。牌はきっと正しい気持ちも悪い気持ちも区別しないで応えてくれているんだよ」

「じゃあ、俺はどうすれば」

「簡単だよ、もっと大きい気持ちを抱えればいいよ。例えば須賀君は何が好き?」

「……好き、好きなもの? 好きなもの……」

「すぐに思いつかないかな? だったら男の子ならおもちは好きだよね」

「お、おもち? 食べ物の?」

「ううん、違うよ。初めて私たちが会ったとき見たでしょ?」

「え?」

「おねーちゃんのおもち」

「ま、まさかおもちってむ、む、む……ですか?」

 

 須賀君が恥ずかしがっているのが電話越しにも伝わる。

 私の顔も少し赤いが、須賀君を元気づけるための必要経費だと割り切って話を進めよう。

 

「ふふ、冗談はこれくらいにして……少し気が紛れたよね?」

「そう、ですね」

「けどこれで須賀君も練習すれば全国に行ける才能があるってわかったよね?」

「釈然としないですけど……まあ、そうなるんですかね? はい」

「それじゃ勝てるものも勝てないよ。麻雀はさっきの三つ以外に実はもう一つ大切なものがあるんだから」

「それは何ですか」

「ちょっとさっきの才能と被るけど想いだよ。絶対に負けないとか、ね」

 

 根性論のように聞こえるがこれが侮れないものだ。私たちが破ってきた高校に想いがなかったとは言えないけど私たちがそれ以上の想いを持っていたからここまでの結果にこぎ着けたと私は思っている。

 

「……何というか麻雀って不思議ですね」

「そうかな? ……そうかも」

「ですが、ありがとうございます。玄さんのおかげで大分楽になりました」

「須賀君が少しでも楽になったなら私も嬉しいかな」

「けど、今日会った人にここまで親身になってもらうのも少し可笑しな話ですけどね」

「あはは……うん、私もそう……思うよ」

 

 須賀君の言葉がグサリと刺さる。須賀君と話して冷静になった今……自分の行動がどれだけ破天荒なのか改めて実感した。

 

「……玄さんは明日以降どうするんですか?」

「え? ……私たちは個人戦に参加していないから個人戦を観戦してから帰るけど……」

「明日の朝会えませんか?」

 

 須賀君の提案に思わず硬直する。

 

「玄さんと一緒に写真を撮りたいです」

 

 そして、すぐに変な方向に行きそうになっていた思考は正常になる。

 

「玄さんのおかげで改めて皆に向き合えることが出来るようになりました。けどもしかしたらまた挫けそうになるかもしれません……だからこの気持ちを忘れないために玄さんと一緒に写真を撮りたいです」

「……うん。少し恥ずかしいけどいいよ」

「ありがとうございます!!」

 

 そして軽く打ち合わせをして須賀君との通話は終わった。

 彼と話して私の気持ちも整理できた。これからも写真を撮るけどきっと後ろ向きな気持ちにはもうならないと思う。大事な皆との思い出をプレゼントしてくれたカメラでこれからも撮っていこう。そしてそれを振り返るときは笑顔で振り返ろう。

 

 なら、明日に備えて早く寝よう。

 外して貰ったおねーちゃんを呼びに私は部屋を出て行った。おねーちゃんは私の顔を見て安心したような笑顔になった。その理由を聞いてもふんわりと微笑んだままはぐらかされてしまった。

 心の中で首を傾げながら私の濃密な一日は幕を下ろした。

 

 

 

 インハイが終わってからも清澄との交流は続いた。

 もちろん須賀君との交流も続いた。そうした交流の中で須賀君に色々と相談するようになった。例えば男の子の目線で旅館用の写真のアドバイスとかだ。同年代の男の子と関わることがほぼ無かったからすごく参考になった。

 

「ふふ」

 

 写真を見る。お母さんの写真や阿知賀の皆の写真がある。そしてとある写真が目に入る。

 それは須賀君と一緒に撮った写真だ。そこに暗い想いは全く存在しなかった。映っている私も須賀君も笑っていた。

 

「楽しみだな、須賀君に会えるの」

 

 彼が私たちの旅館に泊まってくれる予定日を楽しみにしながら私は今を過ごしている。

 

 

 

 

*1
赤土晴絵による名声の有無





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