玄の誕生日なので投稿します。
せっかくの誕生日なのに続き物だけなのは寂しかったので新作を投下します。
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この場を借りて改めてお礼申し上げます。
それは運命的な出会いだった。
一目見てこの人こそ私/俺の運命の人だと確信した。
周りの訝しむ視線なんて気にならなかった。
示し合わせたかのように同時に動き出し相対した。
「おもちに」
「貴賤なし」
「おもちを」
「称えよ」
「おもちとは」
「人生」
二人の男女は熱い握手をした。
周りの人達はなんだこいつらと引いた目をした。
この日、男―須賀京太郎と女―松実玄は運命的な出会いをした。
────と、こんな感じの出会い方をした二人だった。
そんな二人は今……
「玄さん!! 無事全国に行けます!!」
「おめでと~京太郎君」
「ありがとうございます!!」
「けど……これでまた東京で会えるね」
「はい、俺も玄さんと会えるのを楽しみにしてます」
電話越しで互いの勝利を祝い合っていた。
一年前のインハイで共通の
玄は自分のことを先輩として敬ってくれるだけでなく身近な人に話しづらい内容を気軽に話せる異性として大切に想っている。
京太郎は頼れる先輩としてだけでなく、家庭的なお姉さんという京太郎の好みど真ん中の異性として好いていた。
「玄さんは今年も団体でしたっけ?」
「うん。……おねーちゃんと赤土先生がいなくて寂しく感じるけどね」
最初は共通の趣味で会話していたが、さすがに話題が話題だけにしばらくすれば会話の引き出しが大分少なくなっていった。そこで世間話を挟み始めた。そうすると次第にそれの比率が大きくなり京太郎は麻雀の悩みを話したことでそれの比率も大きくなった。今では趣味3,麻雀3、世間話4の割合になった。……それでも3割残っているのはさすがとしか言い様がないが。
「だったらインハイに来るのは団体戦が始まる前日になるんですか?」
「そうなるかな? ……そういえば京太郎君は女子の日程の間はどうするの?」
「そうなんですよねぇ……後輩ができたので雑用はやらなくても良くなりましたし、ああタコスは作りますよ」
「前聞いた優希ちゃんのゲン担ぎだっけ?」
「そんなもんですね。やっぱりレシピを後輩に教えても作る人が練習しないと良いのは出来ないですし……そもそも麻雀の為に入部してきた部員にタコスを作らせるのはどうか?って話になるんですよね……」
「あはは……」
「だからまあ、卒業するまでは作り続けるしかないって諦めました。幸い……幸い? ここ一番に手作りを食べるようにしているので普段はお店のものか別のタコにしてもらってます」
「それが良いと思うよ。私もしずちゃんに山を抑えてって言えないし。……けど、すこしだけ優希ちゃんが羨ましく思っちゃうな」
「え?」
「京太郎君の手料理をいつでも食べられるんだからね」
「……でしたらインハイで一緒に作って食べませんか?」
「いいの?」
「減るものではないですし、俺も玄さんの料理がまた食べたいです」
「おまかせあれ!!」
「俺も楽しみにしてますよ」
そんな会話をして、しばらく経ってインハイ本番。団体戦が終わり……個人戦が始まる前日、京太郎と玄は京太郎達が泊まっている施設の調理場に来ていた。
昨日もタコスの為に利用した調理場は京太郎にとっては勝手知ったる場所だったが、玄にとっては未知の場所なので物珍しそうに周りを見渡している。
「へ~こんな風になっていたんだ~」
「まあ、玄さんの実家の厨房に比べれば規模は小さいと思いますけど自分たちで食べる用ならこれくらいで十分ですよ」
「それもそうだね、じゃあ早速始める?」
「そうですね」
そう言ってエプロンを着けて三角巾をした二人が持ち込んだ食材を使って調理を始める。京太郎はタコスの生地を作り始め、玄は土鍋を使って米を炊き始めた。
そうしてできあがったのは京太郎はタコス。玄はおにぎりに卵焼き、味噌汁を作った。玄の料理が旅館の娘として色々な料理を作れるはずなのに簡素なものだったが、玄曰く
「もう少し凝ったものを作ろうかと思ったけど……京太郎君が気後れするかな~って思ってね。簡単でそれでいて独自の味が出せる卵焼きと味噌汁にしようって決めたんだ。あとはそれにおにぎりを付けてごちそうの完成だよ」
とのこと。
そうして調理を終えた二人は出来たての互いの料理を食べ合う。そして二人はその美味しさに目を瞬かせて感想を言い合った。
「うん……うん。なんというかホッとする味ですね。それでいて後を引いていくらでも食べられそうです」
「松実館秘伝のレシピだからね。京太郎君のタコスだってレタスがシャキシャキでソースの辛めの味付けが味を引き締めてこっちもいくらでも食べられそうだよ」
「ありがとうございます。一応そっちはチリコンカーンでこっちは豚肉の細切りが入っているタコスです」
「へ~タコスの具にも色々と種類があるんだ」
「後はチョリソーやサイコロステーキにソースも何種類かあるみたいですけどね」
「そう聞くと興味が沸いてくるね……それにしてもよくできてるね。お店に出せる品質だと思うよ」
「はは、お世辞でもありがとうございます」
「お世辞じゃないんだけどね」
そんな風に会話しながら食べていき、あっという間に平らげてしまった二人。お茶を飲みながらまったりとしていると玄がおもむろに口を開く。
「京太郎君は将来どうするか考えている?」
玄の問いかけに京太郎は顎に手を添えて考える。
「そうですね……意識し始めていますけどまだ朧気にしか考えてません」
「そっか……。まあ、そうだよね。京太郎君はまだ2年生だからそこまで意識しないよね。けど考えられるときに考えた方がいいと思うよ」
「アドバイスありがとうございます。……玄さんはやはりそのまま継ぐんですか?」
「うん、そのつもりだけど……」
物憂げな表情で京太郎の質問に答える玄。その表情を見て京太郎は疑問に思う。
玄が電話越しで実家のことを話すときはいつも楽しげでこんな風に悩ましい雰囲気はまったく無かったはずだと疑問に思った。京太郎の疑問を知ってか知らずか玄は京太郎の方を向いてそのまま自分の気持ちを話し始めた。
「別に継ぐこと自体は嫌じゃないの。お母さんとの思い出もある大切な場所だからね。それでも……」
「それでも?」
「……少し、ほんの少しだけね」
「……」
「時間が欲しいと思ったの」
「時間ですか?」
「うん。もう少しだけ皆と一緒に……いたいなって」
「それは……」
「言わなくてもわかってるよ。今生の別れじゃないしいつでも会おうと思えば会えるよ。……けどね、阿知賀女子学院の松実玄としてもう少しだけ皆と一緒に過ごしていたいの」
「玄さん……」
「贅沢な願いだってわかっているよ。それでもこうして未練が生まれちゃった」
あははと玄はわらったが。その笑みはどこか自虐が見え隠れしていた。組まれた両手はどこか懺悔しているようにも見える。
京太郎はそれを聞いてなんて声を掛ければ良いかわからなかった。
「大学も考えたけどそんな後ろ向きな考えで通うのは皆に申し訳ないし、私もきっと後悔すると思うの」
「……」
「お母さんはきちんと選んだんだけどね……私はまだ迷ってるんだ」
「…………玄さん」
「……えっ!? 京太郎君!?」
玄が次の言葉を紡ごうとした瞬間、京太郎は玄の両手を自分の両手で包んだ。玄の少し冷たくなった手に京太郎の手の熱が少しずつ伝わる。同年代の男の子にこんな風に触れられたことのない玄は目を白黒にさせた。京太郎は玄の手の平を包んだまま玄の目を見て話し始める。玄は京太郎の手を振りほどくことなくそれに耳を傾ける。
「自分を卑下しないでください玄さん」
「で、でも」
「以前に話してくれましたよね?」
「え?」
「『私のお母さんは私に願いを託してくれた』って」
「……うん」
「玄さんがそう思うのも玄さんのお母さんの願いが玄さんに届いている証拠です」
「……そうかな」
「そうです。玄さんが色んなことを学んだからこそ阿知賀女子学院の玄が形作られたでしょう?」
「……」
「だからこそ、こう考えましょう……まだこれだけ猶予があるって」
「それは……」
「残りの時間、後悔がないよう本気で過ごしましょう。過ごして、過ごして……たくさんの思い出を作りましょう。そうして……」
「そうして?」
「改めて振り返りましょう。きっとその時見える景色は違って見えるはずです」
京太郎の発言に困惑した眼差しを向ける玄。そんな玄の視線を気にすることなく京太郎は言葉を続ける。
「未練はどうして生まれると思います?」
「え? ……え~と、自分の行動に納得してないから、かな?」
「ええ。今の玄さんは自分の行動に納得してませんよね」
「そっ!! それ、は」
「妥協に妥協を重ねればきっと今は楽になります。けど後になればなるほど心には影が残ります」
「……」
「俺は中学でハンドボールをやっていました。県大会の決勝で負けて全国に行けませんでした。けど俺はその結果に未練はありません!! 何で未練がないかわかりますか?」
「……どうして?」
「全力を出し尽くしたからです。俺はあの時、あの場所、あの瞬間、全力を出して、出して、絞り尽くして……負けました。確かに負けて悔しかったです、けどそれ以上にスッキリしました。自分の出せる限りの力を引き出した結果がそれならば受け入れられるからです。だから玄さん」
「うん……」
「俺も手伝いますし、きっと阿知賀の皆さんも付き合ってくれます。だから一緒に残りの日々を本気で過ごしませんか?」
京太郎の言葉を受けて玄は顔を下げた。それを見た京太郎はそっと包んでいた手を離した。
それから少しの時間が流れた。京太郎はじっと玄を見つめていた。
「うん……うん、そうだよね。きっとお母さんも応援してくれるよね」
玄がそう呟き顔を上げた。その瞳には先ほどまでの暗い影はなかった。
「ありがとう、京太郎君。それとごめんねこんな愚痴に付き合わせちゃって」
「玄さんと俺の仲じゃないですか」
「ふふ、それもそうだね。……でね、京太郎君お願いがあるんだけどいいかな?」
「お願いですか? いいですけど……俺が出来ることはあまりないと思いますよ」
「ううん、そんな難しいことじゃないから」
そう言って玄は京太郎に抱きついた。玄のいきなりの行動に京太郎は硬直しなされるがままだった。そんな京太郎に抱きついた玄はそのまま話し続ける。
「く、玄さん!?」
「ね、京太郎君……私のことどう思ってる?」
「そ、それは……同じ趣味を持っている親しい友人だと思ってます」
「私のこと好き?」
「……好きですよ」
「誰よりも?」
そう言って玄は京太郎の目を見つめる。その瞳の力強さに京太郎は少しだけたじろいたが、すぐに見つめ返した。静寂な空間に二人の息づかいだけが響く。玄は自分の心臓が凄まじい勢いで鼓動を刻んでいるのを感じている。京太郎もその鼓動が体に響いているのを感じていた。そして京太郎はゆっくりと玄の唇に自分の唇を触れさせた。
「これが答えじゃダメですか?」
「……京太郎君の言葉でも聞きたいかな」
それを聞いた京太郎は頬をさらに赤く染めながら目を反らした。しかし、すぐに意を決して玄の目を見つめながら言葉を紡いだ。
「好きですよ、誰よりも」
「和ちゃんや咲ちゃん、優希ちゃんよりも?」
「玄さんが一番好きです」
それを聞いた玄は満面の笑みを浮かべ抱きつく力を強くした。玄本人がおねーちゃんより劣ると言っているが京太郎からすれば誰よりも魅力的な玄のおもちがさらに力強く押しつけられ背中の冷や汗をさらに増やしている京太郎のことを知ってか知らずか玄はさらに力強く告白する。
「私も京太郎君のことが好き!!」
今度は玄が京太郎に口づけをした。京太郎は玄を抱きしめ返しながら口づけを受け入れた。息の続く限り口づけをしていた二人だったが限界が訪れたのか名残惜しそうに離れた。二人ともまるで全力疾走をした後のように荒い呼吸をしている。体は離れたが交換し合った熱は今もなお二人を暖めていた。
「玄さん、少し良いですか?」
「どうしたの京太郎君?」
「なんでこんな告白をしたんですか?」
息が整った京太郎は疑問を玄にぶつけた。それを聞いた玄は頬をかきながら目を反らした。そして、ぽつりぽつりと口を開いた。
「京太郎君が言ったでしょ後悔がないように過ごそうって……だから心に秘めていた気持ちを全てさらけ出したの」
「……いつからか聞いても?」
「明確に自覚したのはこの前かな、ほら今回の手料理の発端になった会話憶えてる? あの電話を終えてからどうしてあんなことを言ったのか考えて京太郎君への好意を自覚したんだ。けど私って卒業したら女将になるから京太郎君の負担になるんじゃないかって思って秘めたままにしておこうって決めていたんだ」
そんな玄の告白を聞いて京太郎は何かに気付いたように目を見開いた。
「もしかして今回の悩みってそれが発端だったんじゃ……」
「え? ────そう言われると……そうかも。あれから燻っていた未練を自覚するようになった……皆との最後のインハイだからそれが原因だと思ったけど、それだけじゃなかったみたい。あはは……ごめんね振り回して」
「別に良いですよ、俺も玄さんのことが好きでしたし」
京太郎は自分が小っ恥ずかしいことを言っている自覚があるのか玄と同じように目を反らした。
「で? これからどうするんですか」
「どうって?」
「俺たちの関係ですよ。まだ学生だし長野と奈良は遠すぎて頻繁に会えることは出来ないですよ」
「それはしょうがないよ、私だって家を継ぐって決意したのにすぐにおろそかになんてしたくないからね。京太郎君に色々と負担をかけたくないから、今までみたいにしばらくは電話とかで我慢するしかないよ」
「……本当に我慢できますか」
「一途に待つのは慣れてるからね、それに」
玄は再び京太郎に口づけをする。3度目ともなれば少しは慣れるかもしれないがそれでも二人の頬は赤く染まる。
「京太郎君は私を離したりしないでしょ?」
「はぁ~ほんと玄さんは……」
京太郎はそんな玄の発言を聞いて頭を少しかいた。そして今度は京太郎の方から玄を抱きしめた。まるでどこにも行かせないような力強い抱擁だった。
「京太郎君?」
「どうしてそんなに男心をくすぐるのが上手いんですか? 俺だって男ですよ」
そんな京太郎の発言に玄はドキリと心臓が跳ねる。男女の営みは知識として知っている、しかし実際にその場面になると頭は真っ白になってなされるがままになることを玄は初めて知った。
しかし、玄が期待したようなことにはならなかった。京太郎は抱きしめたまま玄の目を見つめた。
「毎月一回」
「え?」
「毎月一回必ず会いに行きます。玄さんが寂しくないように会いに行きます」
京太郎の発言にうれしさ半分困惑半分の玄は疑問をぶつける。
「お金とか大丈夫なの?」
「元々食にしかお金を使ってなかったので大丈夫です。だから玄さん」
京太郎は玄に口づけをしながら宣言する。
「これからは玄さんを寂しくなんてさせません。そばにいます。離れていてもいつでも想っています」
「京太郎君……」
そして二人で力強く抱き合った。
二人が付き合ったのはすぐに清澄や阿知賀に広まったが、皆はまだ付き合ってなかったのかと呆れながらも祝福した。
ついでに男子個人戦を京太郎は圧倒的な差を見せつけて優勝した。どこかの誰かさんのようなドラ麻雀が相手を焼き尽くしたのだ。
そして数年後、奈良の松実館に二人の姿があった。若女将として板に付いてきた玄と若旦那とプロ雀士と若旦那の二足のわらじを履いた京太郎が二人で笑っていた。
玄の部屋には阿知賀の写真や家族の写真そして京太郎の写真が飾ってあった。その中の玄の母親──松実露子が映った写真が笑ったように見えた。
話の組み立てがワンパターンになるのが悩みです。
あんなに魅力的なキャラがたくさんいるのに自分の力では全く引きだせれないことが悔しい。