須賀京太郎断片集   作:星の風

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ゆあたんイェイ~
本日は岩館揺杏さんの誕生日なので投稿します。
…と胸を張って言えれば良かったんですけど、サブタイトルに「上」とあるように前半部分しか完成しませんでした。
本当に申し訳ありません。
もう少しすれば環境が落ち着いて執筆も進められると思いますので今しばらくお待ちください。

そしてこの場を借りてお礼を申し上げます。
お気に入り登録や評価、感想ありがとうございます。
色々と不定期ですがコツコツと頑張っていきますのでこれからもよろしくお願いします。
失礼しました。


有珠山高校
岩館揺杏と存在意義 上


「………っ!」

 

 目が覚める。呼吸が乱れ、汗をかいてベトつく浴衣と肌に不快感を覚える。乱れる呼吸を抑えつつゆったりと体を起こして周囲を見渡しつつ耳を澄ます。規則的な寝息をたてて眠っている友人の顔が見える。どうやら起こさずに済んだようだ。壁に掛けられた時計を見るとまだまだ夜明けまではほど遠い時間だった。明日…いや今日の5位決定戦のことを考えるともう一度寝た方が良いのは解りきっている。…解りきっているのだが。

 

「はぁ…」

 

 小さく溜め息を吐きつつ四人を起こさないように静かに寝床から出る。そしてしっとりとした髪をヘアゴムで軽くまとめつつ浴衣を脱いで服を着る。

この時間に出歩くのは色々と良くないのだが…先ほど見た夢を思い出すともう一度眠る気は起きず、かといってそのまま横になっていてもなにも問題は解決しないし最悪四人を起こしてしまう恐れがあった。それに気持ちを切り替えるために外の風を浴びたかった。財布と携帯、部屋の鍵を持って静かに泊まっていた部屋から出た。

 

「…………………」

 

 扉を閉める瞬間に起き上がった赤い髪の女性の存在に気付かずに。

 

 

 

 

 

「はぁ~」

 

 周囲を気にする必要がなくなったので思いっきり溜め息を吐く。とりあえず歩こう。薄暗い廊下を通り外に出る。確か近くに併設された広場があったはずだ。街灯に照らされた道を通って目的の場所に向かう。そうしてたどり着いた広場にあるベンチに腰を掛けて途中で購入した水を飲む。冷たい水が喉を通って行く感覚が心地よく感じる。いくらか気持ちが落ち着いてきた。上を向くと北海道に比べてぼんやりとしているが星が見える。

 

「はぁ~~」

 

 思いっきり息を吐く。胸に詰まっていた重いナニカが少しだけなくなった気がする。

 

「まさか今日…いや昨日の試合の夢を見るなんてな…」

 

 昨日の準決勝の対局はホントに良いところがなかった。焼き鳥は回避できたけどそれも姫松の愛宕姉妹の胸のない方に誘導された結果だ。…先輩だけど頭の中ではこれくらいのイヤミは許して欲しい。

 

「真剣試合なんだからしょーがない…しょーがないんだけど。…しょーじき堪えるなー」

 

 茶化すように口に出しても準決勝敗退の事実は覆らない。あのときもっと上手く立ち回れば違う結果になったかもしれないというもしもが私を蝕む。…あのメンバーが相手ではきっと何度繰り返しても結果は変わらない確信めいた予感から目を背けながら。

 

「ユキを目立たせるっていう最低限の目標は達成したんだけどなー」

 

 このインターハイもユキのために出場したんだから優勝とかは二の次のはずなのに…

 

「なんでこんなにココロは辛いんだろうな…」

 

 ポツリと口から本音が漏れ出る。そう…たった今、口に出たことが私の本音だ。皆の前では元気に振る舞っていたが準決勝が終わってから虚無感が私を襲っていた。それは時間が経つにほどに大きくなってついには夢にまで浸食してきたのだ。

 

「なんでだろうなー」

 

 茶化すように口に出しても答えは戻ってこない。私のつぶやきは夜空に吸い込まれて消えていく。私の胸に空いた穴も埋まることはない。

 

「…なにやってるんだろ、私」

 

 早く戻って明日に備えて寝ないといけないのに私の体はまるで糸の切れた人形のように動かなかった。これじゃあ皆に迷惑を掛けちゃうな。…ああどこかに…

 

「すいません」

 

心臓が跳ねる。反射的に声がした方向に振り向くとそこには金髪でだいたい180cm位の男が立っていた。顔を見れば幼い…いや女顔で磨けば光りそうな印象が与えられた。きちんと私がコーディネートすれば雑誌の表紙を飾れる自信がある。しかしそんな印象も死んだ魚のような目と重苦しい雰囲気が台無しにしていた。

 

「あ、あ」

 

 口からは意味を成さない音しか出てこなかった。突然現れた存在にどうリアクションすれば良いのか解らなかった。

 

「…隣良いですか?」

「へぁ!?」

 

 私の返事を聞かずに男はベンチの空いたスペースに腰を掛けてきた。そして間髪入れずに口を開き。

 

「なにか悩んでいることがあるんじゃないですか?」

「は!?」

「実は俺も悩んでいることがあって歩いていたんです。赤の他人に話せば少しは気が楽になるかもしれないですよ」

 

 なにを言っているんだコイツは。ナンパにしてもヤバすぎるだろ、誰も寄りつんだろそれじゃ。こんなヤバイやつからは逃げた方が良いに決まっている。決まっているんだけど…

 

「じゃ…じゃあ、お言葉に甘えて相談しちゃおっかなー」

 

 今の私はおおよそまともではなかった。ココロに生じた虚無感が私を焦らしていく。けれどこれを爽やチカセン、成香にユキには相談できなかった。相談が出来ないからさらに悪化していく。だから吐き出したかった。何もかも話して自分の中を整理してこの虚無感の正体をつかみたかった。

それに…この男から目を離せば次の瞬間には消えてしまいそうな感じがして、なんとなく初めて会った時のユキとほんの少しだけ似ていた。

それらが合わさった結果、この変なヤツに相談するというおおよそ正気でない選択肢を私はしたのだった。

 

**********

 

 目を開ける。そしてベッドから上半身を起こして時計を確認する。…眠れない。明日いや今日は大切な清澄の決勝戦だ。きちんと眠って備えなければいけないのに…。しかし俺の頭の中はいろいろなことが巡っていて気が張ってしまう。頭の整理も兼ねてもう一度今日のための確認をしよう。ベッドから出て机に置いてあるレシピを確認する。このレシピはハギヨシさんや様々な人の手を借りて作り上げた今の時点での最高傑作のレシピだ。これなら優希も満足するだろう。次に決勝戦で必要になるであろう物をまとめたメモを見る。これは皆と相談してまとめた物だからきっと大丈夫だろう。

 

「…はは。決勝か」

 

 思わず口から出た言葉が鼓膜を震わす。ああダメだ、これらを見ていると俺の醜い部分が出てきてしまう。何をしているんだろうか俺は。いや、俺はどうしてここにいるのだろうか。俺は…俺は。ああ…ダメだこれ以上は考えてはいけない。考えてしまえば俺は皆に顔向けができなくなってしまう。

 

「…!」

 

 勢いよく立ち上がりつつ腹からこみ上げるモノを抑えようとおもわず口を押さえる。涙が出てきそうになる。俺はこんなに弱い人間だったのだろうか。

 

「~!~!」

 

 叫び声を必死に噛み殺す。頭を掻きむしりたくなる衝動を必死に抑える。

 

「~!………はあ~」

 

 重い、重い溜め息を吐いて椅子に座り込む。背もたれに首を預けて脱力する。きっと今の俺の目は死んでいるのだろうな。…ああそういえば宮守の先鋒に顔が似ているって優希がからかってきたっけ。こうやって脱力して椅子に身を委ねている姿はいい線言っているだろうな。現実逃避するようになんとなくそう思った。

 

「何をしているんだろうな俺は…」

 

 清澄が全国大会一回戦を突破してからこんな風に発作が出るようになり、清澄が勝ち進むごとに重く頻度が増えてきた。皆の前では出さないようにしているがこうやって一人になると抑えられなくなる。普段の咲なら俺の様子がおかしければすぐに気付いただろう。しかし今はインターハイで姉と和解する目的が良くも悪くも咲の中の大部分を占めている。それによって咲は俺の変調に気付くことはない。…けれど咲に気付いてもらっていれば俺はもっと楽になっていたんだろうなとココロのどこかで感じる。

 

「本当に何をしているんだろうな…」

 

 …歩くか。歩いて軽く汗を流せば眠れるだろう。ゆるゆると立ち上がり携帯や財布、鍵を持って部屋から出る。最低限の明かりが灯った廊下を歩き外に出る。夜風が気持ちよく少しだけ気持ちが落ち着いてきた。そしてそのままふらふらと当てもなく歩き気がつけば宿泊している施設に併設されている広場に着いた。

 そうして歩いているとベンチに座っている女性がいることに気付いた。どうやら上を見上げていて俺には気付いてないようだった。こんな時間に出歩いている俺が言えた義理じゃないが女性がこんな時間に出歩いているのは心配になる。声を掛けるか迷ったが…もしかしたら俺と同じように夜風に当たりながら何か考え事をしているかもしれない。それにこんな時間に見知らぬ男に声を掛けられたら相手がどう思うのかは明白だ。最悪皆に迷惑を掛けてしまうかもしれない。気付かれないように静かに元来た道を戻ろう。歩いて気分転換も少しできたのだから最低限の目標は達成したし。静かに振り向いた俺の鼓膜に音が響く。

 

「…なにやってるんだろ、私」

 

 ………

 

「すいません」

 

 声を掛けられた女性はものすごい勢いでこちらを見て口をパクパクとしている。このまま相手の女性の許可を取らずに座っているベンチの横に座り、相手の悩みを聞く姿勢を取る。

 俺を凄い顔で見ていた女性は逃げることなく、少し考えてから軽い口調で悩みを話し始めていった。

 

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