須賀京太郎断片集   作:星の風

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皆様こんにちは。
なんとか生きてます。
リハビリも兼ねてパパッと書いたものを投稿します。

お気に入り登録ありがとうございます。
この場を借りて改めて皆様にお礼申し上げます。


須賀京太郎の述懐或いは宮永姉妹の勝利

 

「……」

 

 不意に最後の作業の手が止まる。

 唐突に自分の人生を振り返りたくなった。現実逃避でもなく、作業に飽きたわけでもなかった。ただただ不意に思ったのだ俺──須賀京太郎の人生とは数奇な巡り合わせによって成り立っていることに。

 俺の家はカピバラを飼えるくらいには裕福だがそれだけだ。親父もお袋もどこにでもいるような普通の親だ。会社を経営しているがそれも半分道楽みたいなもので、俺が中学生の頃に会社を継げばいいか聞いて返ってきた答えが“継ぎたいなら継いでいいし、継がなければそれはそれで問題はない”だった。

 会社の社長という響きには少しだけ惹かれたがそれだけだった。中学の時の俺はハンドボールに夢中で、プロの選手が将来の夢だった。そして、最高の仲間にも恵まれた俺が挑んだ中学最後の全国大会。結果は……県大会決勝で負けた。

 

(考えてみればあの時が初めての挫折だったな)

 

 家庭環境にも恵まれ、身体能力や体格にも恵まれていた俺は今にして思うが天狗になっていたのだろう。あの敗北を今は苦い思い出として昇華しているが、あの直後は大分参っていた。それこそ推薦を辞退してハンドボール部がない清澄に入学を決めるくらいにはトラウマになっていた。

 そうして夢を見失った俺は──運命の出逢いを果たした。

 

『はややっ☆』

 

 なんとなく流していたテレビに映っていたのは麻雀のプロの対局だった。麻雀の世界人口が1億を突破している現代で俺は麻雀をほとんど知らない少数に属していた。名前や牌を使うこと、同じ絵柄を揃えれば上がれるというフワフワな知識しか持っていなかった。

 そんな俺だがテレビに流れている映像に気付けば釘付けになっていた。淀みなく切られる牌、画面越しでも感じられる熱────そして豊満な山。新しい夢ができた瞬間だった。

 

 麻雀のプロ選手になる。そして、あのお姉さんと直に会って話をする。

 

 そんな純粋*1な夢に向かって俺は動き始めた。

 麻雀初心者の本*2を買い、麻雀のアプリ*3をダウンロードして、雀卓*4も購入した。

 そうして環境だけは整えた俺は……そこで停滞した。

 本を読んで最低限のルールを把握したが、そこから先で躓いた。牌効率や河を読むことに苦戦し、なによりここぞの状況でヒキが弱かったのだ。このヒキの弱さは大分マシになったが今でも健在で、とある姉曰く“生まれ持ったものだから完全にはなくならない”とのことだ。

 

(あの時はよく投げ出さなかったなぁ)

 

 人間思い通りにならなければ嫌になるものだ。しかし、あの時の俺には燃えさかる情熱があった。純粋な想い*5はそれほどに強かったのだ。

 そして清澄に入学した俺はそこで初めて麻雀部が存在していることを知った。初心者に毛が生えた程度の状況だったが湧き出る情熱に突き動かされるまま麻雀部のある部室に行って──二度目の運命の出逢いをした。

 

「麻雀部に入部希望ですか?」

 

 ほんの一瞬だけ惚けたが、俺は瞬時に意識を切り替えた。その変わり身の早さはとある妹が見ていれば無言でローキックするくらいには露骨だったが、相手はその手の機微に疎かったのが幸いして話が拗れることはなかった。*6

 そうして俺は華々しい高校デビューを果たして、そこから色々あって今に至っている。

 色々は色々だ。別に話したくないわけじゃないが……

 

「「京ちゃん?」」

 

 声を掛けられ我に返る。視線の先には2つの顔。その顔つきは似通っていて2人の関係性を容易に想像させる。違いと言えば纏っている気配が挙げられるだろう。片方はクールでもう片方はキュートだろうか。

 

(実際には2人ともポンコツなんだけどな)

 

 走馬灯のように流れる2人のポンコツエピソード。しかしすぐにそれを振り払い返事をする。

 

「ああ、済まん。ボーッとしていた」

「体調が悪いなら言ってね、いつでも膝枕してあげるから」

「私は添い寝する」

「あ!? ずるい。じゃあ、私も!!」

「咲じゃ私のような包容力ある大人な振る舞いはできない」

 

 赤髪の姉は胸を張って誇らしげに微笑む。

 確かに彼女は妹よりもそこら辺は優れている。インタビューなどはそつなくこなすし、本を読んでいる姿は様になっている。彼女の素を知らない人には彼女はクールな美女に見えるだろう。

 

(俺は知っている)

 

 実際の彼女はこうやって妹相手にマウントを取りに行くくらいには大人げがないこと、俺が作る手作りお菓子を食べ過ぎて家に置いてあるエアロバイクを半泣きで漕いでいること、そんなことがあったのにお高い材料を買ってきてお菓子をお願いしてくること、一縷の望みを懸けて特定の部位を大きくする運動をしては爆散して半泣きしていること……思い返すだけでホロリと涙が出てきそうになる。

 

 そして──

 

「────そう、だね。確かに私にはお姉ちゃんみたいにスマートに振る舞えない」

「気に病むことはないよ咲。咲には咲の良いところが──」

「代わりにお姉ちゃんにはないこの大きな胸があるからね」

「……ふーん?」

「京ちゃんと添い寝をするのはこの母性溢れる胸を持っている私がするからお姉ちゃんは思う存分お菓子を食べてれば良いよ」

「へー」

 

 茶髪の妹は姉よりもさらに胸を張ってムフーと得意げな顔をする。

 確かに彼女の方が姉よりも胸部は大きい。それは数値上でも証明されている。……俺から見ればどんぐりの背比べだが歴然たる事実としてそれは存在している。

 そしてこの言い回しは彼女から姉への明確な挑戦状だった。普段の彼女はこうまで好戦的ではない。いつもはおっとりしていて、インタビューも最近は少し良くなったがまだまだ萎縮している。こうやって好戦的になるのは対局時とこんな風に姉と張り合う時だ。

 

(ある意味健全と言えるか?)

 

 少し前──高校1年生の頃は咲にとって姉は尊敬と畏怖の対象だった。麻雀の腕も自分より上で弱気な自分と違って凜とした性格の姉は自慢の存在だった。

 しかし今は麻雀の戦績は五分五分で胸部という明確に勝っている点があるという事実が姉との距離を和らげていた。和らげていたが……

 

「……宣戦布告と受け取るよ」

「それ以外にあるの?」

 

 姉──須賀照は目元と唇の端をピクつかせながら薄く笑う。妹──須賀咲は大星淡がいつも浮かべているような挑戦的な笑みを浮かべ余裕の態度を崩さない。2人の間に火花が散っているように感じられる。

 

 その様子を見て目に光を失った俺は再び作業──食後のお菓子作りを再び中断してスマホを手に取る。電話帳を開き見慣れた名前をタップする。相手はすぐに出た。

 

『いつもの?』

 

 開口一番がこれだった。電話越しでも辟易とした感情が容易に読み取れる。

 いくら相手のことが好きだとしても何度も不毛な争いに巻き込まれればこうなるのも当然と言えるだろう。

 普段の快活さが微塵も感じられない声色の相手──大星淡は言葉を絞り出す。

 

『10から15分後に行くね』

「すまん」

『キョータローは悪くないよ。……私もテルーやサキがここまでとは思ってなかったけど』

「じゃあまた後で」

『うん、また後で』

 

 地獄への道連れを用意した俺は手早くお菓子を完成させ、それを持ってゲストルーム*7に向かう。ゲストルームは毎日手入れをしているので片付ける必要はなくすぐに準備は完了した。

 居間に戻れば2人は未だに対峙したままだった。

 

「準備できたぞー」

「はーい。いつもありがとうね京ちゃん。大好きだよ」

「へいへい」

「ん、私の方が京ちゃんを愛しているし感謝している」

「わかってますよ」

「今日もカッコいい私を京ちゃんに魅せるから」

 

 2人は視線をバチバチとぶつけながらゲストルームに向かう。2人が部屋に入ると共にタイミング良く玄関から鍵を開ける音が響く。視線を向ければそこには光り輝く金髪がトレードマークの大星淡が入ってくる。いちいち電話で到着の連絡をして開けるのも馬鹿らしくなった俺は合鍵を渡していた。

 

「こんばんは~」

「いらっしゃい~……いや済まんな」

「気にしなくて良いよー。ホントに都合が悪い時はちゃんと断るし」

 

 淡は玄関にあるコート掛けに上着を掛け、靴を揃えて並べる。その動作は滑らかでこうやって我が家に来るのが一度や二度ではないことを伺わせるものだった。

 

「今回はどんな理由?」

「いつもの」

「2人とも飽きないね~。ケンカするほど仲が良いって言うし今のテルはすごい楽しそうだから何も言うことはないかな」

「本音は?」

「もう少し抑えて欲しい」

 

 そう言って淡は引きつった笑みを浮かべる。

 俺もそう思う。

 

「じゃあ先に向かってるね」

「俺も飲み物を準備して向かうよ」

 

 は~いと返事をして淡はゲストルームに入っていく。

 暖めた急須にほうじ茶の茶葉を入れ蒸らす。そこでふと思い至る。

 

「そういえば夢叶っていたな」

 

 2人のマネージャーとしてはやりんと話していた事実に。仕事の付き合いとして接していたからか叶っていたという実感がなかったのだ。

 苦笑しながら呟く。

 

「本当に人生ってわからないものだな」

 

 ほうじ茶の香しい香りを嗅ぎながら俺は心の底からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 須賀京太郎

 高校2年の夏にポンコツ姉妹に外堀を埋められ、告白された。高校時代に彼と交友を持っていた女子雀士は強制的に目を肥やされた。かわいそう。夜のグランドマスター。

 

 須賀咲

 旧姓宮永。中学の頃から京太郎を好いていたからか奇跡的に宮永の遺伝子を乗り越え姉越えの胸を手に入れた。和達のことは知っていてまあいいんじゃないかと思ってる。

 

 須賀照

 旧姓宮永。妹と同じ人を好きになって悩んでいたが咲と腹を割って話す(宮永家火の七日間)ことで無事2人でゴールインした。淡達のことは知っていてまあいいんじゃないかと思っている。

 

 はやりん

 瑞原はやり。さすがに色々と焦っている。オチ担当。かわいそう。

 

 

 

 

 

 

 

 原村和

 のどっち。今回は淡だったが和や優希の時もある。同じマンションに住んでいる。和も優希も京太郎のことが今でも好き。

 

 大星淡

 あわあわ。照に一緒のマンションに住まないかと誘われてホイホイ付いていった結果不毛の争いに巻き込まれる。かわいそう。照や咲のことが大好き。けど京太郎はもっと好き。

 

 宮永家火の七日間

 詳細不明。

 

 須賀家の乱

 須賀性がさらに3人増えた。

 

 重婚制度

 ご都合主義。IPSとかあるならまあいいんじゃないかな? 

 

 

 

*1
下心マシマシ

*2
題名:瑞原はやりの麻雀入門

*3
過去に瑞原はやりや戒能良子とコラボしたことがある

*4
さすがに普通の雀卓

*5
三大欲求

*6
なお、その時一緒にいたタコス娘は気付いたがいつものことだと流した。身近にいるからこその理解力だった

*7
という名の対局室




色々あって疲弊してますが元気です。

あとあまり動かしてないですがFANBOXを開設してます。ユーザーページから飛べますので支援していただければ嬉しいです。
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