須賀京太郎断片集   作:星の風

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きょうたんイェイ~
京太郎の誕生日なので再び思い入れのあるカプを投稿します。

あけましておめでとうございます。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。あっという間に2024年になってしまいましたが今年もなんとか頑張っていきます。

今回の話は正月に某麻雀ゲームで咲-Saki-が再びコラボした際の衣装に感銘を受けて製作しました。……本当はコラボ期間中に出したかったのですがここまでずれ込んでしまいました。

評価及びお気に入り登録ありがとうございます。
この場を借りて改めて皆様にお礼申し上げます。


宮永咲と花嫁衣装

「う、うーん」

 

 意識が浮き上がる。

 ボーッとする頭でなんとなく目を開く。

 

「……あ?」

 

 目の前に広がるのは知らない天井だった。目を擦る。しかし目の前の光景は変わらない。

 

「!!」

 

 一気に頭は覚醒し勢いよく上半身を起こす。そして目の前に広がったのは……知らない光景だった。

 

「……」

 

 もしこれが漫画やアニメなら何か気の利いた台詞を吐くのだろうが実際にこんな状況に陥ると全く言葉が出なかった。

 状況を整理するために自分のこととこれまでのことを思い返す。

 俺の名前は須賀京太郎。俺は長野県の清澄高校の麻雀部に所属しているもうすぐ2年になる1年生だ。

 昨日は確か正月だからと皆で初詣に行って。それから優希が徹夜で麻雀をやってみたいと言い出したから受験が控えているぶ……久先輩と家業の雀荘を手伝うまこ部長以外のメンバーでやることになったからいったん解散して。大きいからって理由で俺の家に集まって麻雀をしていて……していて……。

 それからどうしたんだ? 

 

(……思い出せない)

 

 部屋以外におかしいところが色々ある。

 まずは姿勢だ。俺たちは大きい掘りごたつの上で手積みの麻雀をしていた。そのまま寝落ちしたなら座ったまま後ろに倒れるように眠るはずだ。しかし俺は仰向けに寝ていた。

 次に服装だ。和達が来るから少しおしゃれな外にも出られる部屋着でいたはずだ。しかし今は……Yシャツ、スーツ、ネクタイ……まるで親の付き合いで行く結婚式の時に着る服装に似たものを着ている。そう似たものだ。ネクタイは蝶ネクタイだし、服のグレートも更に一段階上の印象だ。

 

(わけがわからん)

 

 これが夢ならどんなに良いのだろうか? 

 しかしはっきりしすぎた意識。視界にはないがどこかで稼働している加湿器の静かな稼働音。肌に感じる空調の風。何もかもがリアルすぎた。

 

「う~ん……」

「!」

 

 自分の横から自分以外の声がした。

 その方向に顔を向けると見知った顔がいた。……が。

 

(……は?)

 

 見たことのない服装で眠っていた。…………

 

(起こさないように部屋を見るか)

 

 俺は現実から目を背けるように行動することにした。

 

 **********

 

「はぁ~~~~」

 

 眠り姫を起こさないように注意しながらベッドに腰を掛け、静かに大きくため息を吐く。

 部屋を見回ってわかったことはこの部屋には出口がないことだけだった。

 部屋自体はまるでホテルのような内装だったがテレビや窓はなく、換気口や通気口も人が通れない大きさだ。部屋には二つドアがあったが風呂とトイレに繋がるだけだった。備え付けられていた冷蔵庫には水やお茶が入っていてその横にはお茶請けも揃っていた。

 しばらくは生きていられるかもしれないがそこまでだ。外部に連絡をする手段は全くなかった。……気になるものはあるにはあったが脱出には関係の無いものだったからひとまずそれは置いておく。

 ほぼ手詰まりだった。

 

「……」

「すぅ、すぅ」

 

 暴力的な手段は眠り姫に悪影響があるかもしれないから取れなかったし、無駄だとなんとなく感じていた。

 ならもう目覚めさせるぐらいしか取れる手段は無かったが……気が進まない。

 最近は改善してきたがそれでもどこかビビりな彼女を起こして怯えさせたくなかった。

 しかしもう取れる手段はない。

 意を決し軽く肩を揺すりながら声を掛ける。

 

「起きろ…………咲」

 

 そうして俺は寝ぼけている眠り姫にして中学からの付き合いの宮永咲を起こした。

 

 **********

 

 元々朝に弱かった咲だったが今回に限って輪にかけてひどく起こすのに時間が掛かってしまった。目を覚ました咲は俺の服装を見て目を丸くし、自分の服装を見て更に丸くしていた。そうした咲に簡単に今の状況を伝えたが……思っていた以上に混乱したり怯えていなかった。何でだと問いかければ「京ちゃんがいるなら大丈夫でしょ」というなんとも脳天気な答えが返ってきて思わず脱力してしまった。

 そして今俺たちは部屋に備え付けられていたテーブルに座りながら寝る前までの状況の確認をしていたが……

 

「なあ咲?」

「ん? どうしたの京ちゃん?」

「なんでそんなにまったりしているんだ?」

「え?」

 

 咲は冷蔵庫に入っていた水を備え付けられていた電気ケトルで沸かしてお茶を淹れ、お茶請けを頬張っていた。全く緊張感のない姿に思わず苦言を呈してしまったが、咲はどこ吹く風で受け流していた。

 

「だって京ちゃんとこうやってゆったりまったり話をするのって久々でしょ」

「それは……まあ、な」

 

 俺たちを取り巻く環境は咲達が全国大会を優勝してから一気に変わってしまった。

 全国の高校との練習試合や交流。麻雀雑誌のインタビューから撮影……。最近は落ち着いてきたがそれでも普通の高校生と比べれば忙しいのは事実だった。

 

「和ちゃん達と遊ぶのもいいけど京ちゃんと話したりするのも私は楽しいんだよね」

「こんな異様な状況じゃなければな」

「まあまあ」

 

 それにしては落ち着きすぎているな。

 

 ………………

 …………

 ……

 

 まさか

 

「もしかして咲、お前この状況に心当たりあるのか」

「ううん心当たり“は”ないよ」

「なら「でもなんとなく脱出方法は解るよ」……は?」

「なんとなく脱出方法は解るよ」

 

 咲の言っていることを数秒掛けて飲み込み……声を荒らげる。

 

「だったら!」

「わわっ! もう! 慌てすぎだよ京ちゃん。ほらお茶を飲んでいったん落ち着いて」

「お、お前なぁ!」

 

 さらに声をあげようとした俺の唇に咲は人差し指を添えて「京ちゃん落ち着いて」とささやく。そんな普段と違うどこか艶っぽい咲の姿に毒気が抜かれた俺は咲が淹れてくれたお茶を一気に飲み干し一息吐く。……うまいなこのお茶。

 

「はあ~~~~~~~~~~~~。…………で? どうやって出られるんだ?」

「ん~多分私が満足したら出られると思うよ」

「その根拠は?」

「なんとなくの直感かな。こうピキーンと」

「そうか」

 慌てていた俺がまるでバカみたいだ。けどまあよくよく考えてみればこんな非現実的なことは夢だな夢。そう割り切って行こう。

 

「どうやってお前は満足するんだ?」

「う~ん……こうして話していれば満足するかな? あっ! そうだ! 藪から棒になんだけどさ京ちゃん、私のこの姿どう思う?」

「え?」

「綺麗だと思わない?」

「それはまあ、そうだな」

 

 咲は立ち上がり、少し動いてからくるりと一回転をした。ふわりとドレスが舞う。

 変に意識してしまうからあえて言及してこなかったが。今の咲はドレス……ウェディングドレスを着ていた。薄緑の色合いのドレスと二の腕まで覆っている手袋、いやグローブだったか? それを付けていて。そして頭の飾りからドレスの全身に花をあしらわれている。この花は……百合か? 俺には花の種類は本当に最低限しか知らないが多分百合だろう。

 お世辞抜きに咲は綺麗だった。普段の咲はどちらかと言えば中性的な印象を受けていたが今の咲は非常に愛らしく、そして女性らしさを感じさせられた。

 

(誰だか知らないけど良いセンスしてるよな。特に花をあしらっているところがグッとくるな、咲と花の組み合わせは良く映えるし。やっぱ嶺上開花で花のイメージが咲に付いてるからか?)

 

 そう考えて不意に心臓がドクンと高鳴る。

 ……何かまずい気がする。これは俺の夢、夢だから現実に影響しないはずだ。起きてしまえば少しの間は記憶に残るかもしれないがすぐに忘れる……はずだ。

 けどこの咲を忘れるのは……嫌、だな。

 

「……本当に綺麗だ」

「ありがとう、京ちゃん」

 

 そして無意識に口を開いていた。

 本当に綺麗だ。インハイに付き添って色々なタイプの女子を見てきた。規格外のおもちに目が移ったりもした。けど目を奪われたのは……はじめてだった。今の咲は誰よりも綺麗で愛おしく感じる。花が咲いたような笑顔が眩しい。

 

「ふふ、いろんな服を着る機会はあったけど京ちゃんに生で見せられるのは今回が初めてだから嬉しいな」

 

 咲の言葉に俺は自分を取り戻した。落ち着け、俺と咲はそんな関係じゃないだろ。ただの中学からの付き合いなだけだ。動揺する心を抑えながら返答する。

 

「あ! ああ、あ~それって麻雀雑誌の企画の話か?」

「そうそう、和ちゃんや優希ちゃんと一緒に巫女服着たり企業のコラボユニフォーム着たりしたやつだね」

「ま~いくら俺が関係者だとしても普通は中に入れないだろ」

「だから京ちゃんには掲載される雑誌の見本が届いたらすぐに見せてたんだよ」

 

 本当に嬉しそうに告げてくる咲に俺も釣られて笑顔になる。

 咲もこうしていると1人の女の子だな。今は忙しくてしなくなったけど前まではこうやって俺におすすめの本を紹介していたっけ。楽しげに紹介する咲を見ていると俺も楽しくなるんだよな。

 ……これって友人同士なら当然の掛け合いだよな? それとも近すぎるのか? この夢の非日常の雰囲気に呑まれて解らなくなってきた。…………。

 

「満足したか?」

「う~ん、もう少し話をしよっか」

「そうか」

 

 取るべき手段がない以上咲に付き合うしかない。何かが変わりそうな気配に焦りが生まれるが……

 

「~♪」

 

 目の前で鼻歌を歌いながらお茶を淹れる咲をみると何も言えなくなった。

 

 **********

 

 そうして咲と話をした。例えば、最近作るようになった料理、咲のお姉さんとの近況、雑誌の撮影を機に話すようになった他校の選手の話……

 話していく内に俺も少しずつリラックスをしていき、それに比例するように咲のことがさらに気になり始めていた。

 日常と異なる空気にあてられたのか、それとも俺の服装と咲の服装がそうさせるのか元々持っていた好意と愛情の境界が曖昧になる。俺は咲をどうしたいのだろうか? 咲は俺をどう思っているのか? 

 

「……っ」

「?」

 

 暴走しかけた思考を咲が淹れてくれたお茶の苦みで修正する。これは夢だ。俺の好みはおもちが大きくて家庭的な女の子……のはずだ。

 いきなりお茶を飲み干した俺を不思議がりながら咲はおかわりを聞いてきたのでお願いする。咲は楽しそうに湯飲みにお茶を注ぐ。

 何かわからないが限界だ。これ以上はもたない。

 

「なあそろそろ満足したんじゃないか?」

「え? ……そうだね。もう大分満足したかな」

「なら「でも」……おう」

「最後に一つ私のお願いを聞いてくれない?」

 

 咲は両手を合わせて俺に頼む。これで最後ならと俺は受け入れて……

 

「京ちゃん重くない?」

「気にするな」

 

 俺はお姫様抱っこをしていた。この服装で行えばまるで結婚するカッ……

 考えるな今はただ無心で耐えろ。

 

「昔見た白○姫で憧れてたから一度この格好でやってみたかったんだよね」

「そうか」

「ほら今なら私って服装も合わさって本当のお姫様じゃない?」

「そうだな」

 

 咲は楽しそうにはしゃぎながら話しかけてくる。それに対してぶっきらぼうに返しているが気にした様子はない。

 

「それにしてもタキシード姿の京ちゃんっていつにも増してカッコいいね」

「……」

「絵本から出てきた王子様みたい。あっ! 王子様とお姫様って例えちゃうとそのまんま○雪姫だね。久々に見たくなったな~」

「……そろそろ良いか?」

「後もう少しだけお願い。この光景を目に焼き付けたいし……それに普段はこうやって甘えられないからね

 

 咲の言葉は全て聞こえていた。

 そして、俺の中で何かがちぎれる音がした。走馬灯のように流れる今までの記憶。

 

 ああそうか。

 

 俺は咲のことを手の掛かる妹のように思っていたけど本当は……

 

「京ちゃん?」

 

 俺は優しく咲をベッドの縁に降ろす。

 咲は少し戸惑ったように俺を見るが、俺は気にせず咲の左手のグローブを外した。

 

「え?」

 

 そして先ほど咲を起こす前に見つけた小さい小箱(もの)を取り出す。箱を開け中に入っていた花を象った指輪……ピンク色の宝石が中央に配置されている……を取り出し薬指にはめた。

 咲は俺の突然の行動に目を白黒させていた。嫌われたかもしれないもしかしたら絶交されるかもしれない。それでも止まれなかった。

 

「俺と付き合ってくれないか咲?」

「っっ!」

「突然こんなこと言ってすまん。そんな風に俺を見ていなかったかもしれない。それでも俺は、俺は咲のことが好きなんだ」

「……」

「はは、こんな夢を見るくらいお前のことが気になっていたのに、ここまでお膳立てされてようやく気付くなんてダメだよなおれ、っ」

「んっ」

「!」

 

 俺の自嘲は咲の唇によって閉じられる。目の前に広がる咲の顔。瑞々しい感触と先ほどまで飲んでいたお茶のかすかな苦み。頭が真っ白になる。

 

「これが答えで良いかな」

「あ、ああ」

「京ちゃんはいつも私を明るく導いてくれたよね。それが本当に嬉しかった」

「そう、か」

「昔の私は人を好きになることが怖かった……いなくなるかもしれないから」

「……」

「京ちゃんがいたから私は立ち直れた、京ちゃんが私を信じてくれたから私も京ちゃんを信じられた。だからそんな風に自分を悪く言わないでよ。いつもみたいに和ちゃんとかに鼻の下を伸ばしているみたいにして」

「言い方があるだろ。けど、まあ……ありがとうな咲」

「どういたしまして」

「しかしな」

「え?」

「咲っていうかわいい彼女がいるんだから鼻の下を伸ばすことなんてもうしないかもしれないな」

「あはは、それはあり得ないよ京ちゃんのおもち好きは筋金入りなんだから」

「そこは信じてくれよ」

「これまでの行いが悪かったね…………でも」

「え?」

 

 咲は再び俺に口づけをして。

 

「これからは私が京ちゃんの太陽になって京ちゃんを釘付けにするね」

 

 そして視界が光に塗りつぶされる。

 

 **********

 

「……きろ」

「うう、太陽に釘付けされたら失明するだろ……」

「起きろ! 京太郎!!」

「うわ!」

 

 聞き慣れた大声でたたき起こされる。ここは……家? 

 

「ようやく起きたか、京太郎が最後だじぇ」

「お、れは」

「ほらこたつから出た出た台所でお汁粉が待ってるんだからな」

「ゆうき?」

「まだ寝ぼけてるのか、ダメダメだじょ」

 

 そうか夢、夢だよな。あんな風に咲に告白するなんて……

 

「熱でもあるのか? 顔が真っ赤っかだじょ」

「あ、ああこたつで寝るもんじゃないな。体じゅうバキバキだ」

 

 ああ、思い出してきた。優希が最初に脱落して次に和が、そして……

 

「優希ちゃん? 京ちゃん起きた?」

「ああ! 少し寝ぼけてるがバッチリだじょ」

 

 更に思い出そうとした思考を聞き慣れた声が遮る。扉に目を向けるとお盆に湯飲みを乗せた咲がいた。その姿を見た俺は先ほどの夢を思い出してかすかにしかし確実に心拍数が増えていく。

 

「なら優希ちゃんは先に行っててよ」

「咲ちゃんはどうするんだじぇ?」

「京ちゃんってこたつで寝ていたから喉を痛めてると思ってはちみつしょうが湯もってきたからこれをあげてから戻るよ」

「わかったじぇ。じゃあ京太郎早く来ないと食べちゃうからな~」

「へいへい」

 

 咲と入れ替わるようにバタバタと優希が出て行く。咲は持ってきた湯飲みを俺の前に置いて俺の反対側に座った。二人きりになってしまった。夢を夢として消化するまでもう少し猶予が欲しかったがどうやら許されなさそうだ。気を落ち着かせるために深呼吸をして喉の違和感にようやく気付く。こたつに入ったまま寝たことで少し喉を痛めているようだった。どうやら先ほどまで見ていた夢でやたらとお茶を飲んでいたのはこれが原因なのだろう。咲の気遣いには頭が上がらないな。

 

「はい、京ちゃん。温めにしたからすぐ飲めるよ」

「ああ、ありがとな」

「どっちかと言えば罪滅ぼしみたいなものだから気にしないで」

「罪滅ぼし?」

 

 咲曰く和が眠ってから俺も割とすぐに落ちたみたいで起こそうとしても起きなかったからこたつの電源を落としてから毛布をかけて自分も寝たとのこと。

 それだったらしょうがないな。優希の時は俺がいたから運べたが、咲に俺を運ぶのは無理だな。

 

「だったら気兼ねなく貰うか」

「うん、それを飲んだら皆の所に行こうよ」

 

 相づちを打ちつつ湯飲みを持てばじんわりとした温かさが手に伝わって心地良い。ゆっくりと口に運ぶ。僅かにとろみをつけられているそれはほどよい甘辛さを感じさせながら喉を伝っていく。飲むほど体に活気が伝わるようだ。

 

「うまいな」

「ふふ、どういたしまして。……ねえ京ちゃん?」

「ん?」

「こうしているとまるで……夫婦みたいだね」

「ごほ!」

「え?」

 

 落ち着いてきた感情が一気に揺さぶられ思いっきりむせてしまった。頭によぎるのはドレス姿の咲とのキス。夢なのにリアルすぎた感触が鮮明に思い起こされる。

 そんな俺の姿を見た咲はなぜだか大きく目を見開いて俺のリアクションに驚いている。まるで想定していた回答とは違う反応に困惑しているようだった。

 

「京ちゃん大丈夫!?」

「いや、すまん。変な夢を見て少し、な」

「! ……そうなの?」

「ああ、気にするな」

 

 その回答で満足したのか咲はすんなりと引き下がる。……おかしい。普段ならもう少しツッコむはずだ。

 俺の疑問を知ってか知らずか咲は微笑みながらなぜだか俺の横に移動してきた。

 

「さ、咲?」

「ねえ、京ちゃん?」

「え?」

 

 唇に再びあの感触が広がる。夢と変わらない瑞々しさ。唯一違うのは味だ。夢では苦かったのに今は甘酸っぱく感じた。

 

「本番はもっと情熱的な告白がいいかな」

「え? え! え!?」

「じゃあ、私は皆の所に戻るね。京ちゃんもなるべく早く来てね」

 

 スッと立ち上がった咲はそのまま扉に向かう。

 

「さっ!」

「しーっ」

 

 思わず呼び止めようとした俺を咲は左手で静かにしてというジェスチャーをして制する。

 その姿は夢で俺を制した姿と重なる。

 

「これからもよろしくね京ちゃん」

 

 気付けばさっきまでなにも付いてなかったのにいつのまにか夢で俺がつけた指輪が薬指に収まっている。が、瞬きをした瞬間には消え去っていた。

 夢と同じ鼻歌を歌いながら部屋を出て行く咲。そんな姿を見送った俺は一言だけなんとか絞り出した。

 

「嫁さん、か」

 

 かつて友人にからかわれたことが現実になる日まであと……

 





夢の中の咲さんは夢であることを自覚していてなおかついつでも目が覚められる余裕からあのように積極的でした。
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