咲の誕生日なので京咲を投稿します。
なんとか、完成にこぎ着けることが出来ました。
この場を借りてお礼を申し上げます。
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改めてお礼申し上げます。
時刻は夜。長野県某所、とある一軒家にその少女はいた。
その少女は特徴が無いのが特徴と言えるほどどこにでもいる少女だった。平均的な身長、目立ちすぎない茶色のショートヘア……強いて言えば赤みがかった瞳と小さい角と形容できるくらい横に1カ所跳ねている髪が印象に残るくらいだろうか?
そんな少女が電気スタンドの明かりを頼りに本を読んでいる。それだけなら少女は本が好きなのだろうなと思うくらいでなにもおかしいところはない……が。
「………………」
その瞳に輝きはなく、近寄りがたい気配を漂わせていなければの話だ。
そんな少女の名前は宮永咲、家庭環境が色々とワケありの中学2年生である。
「………………はぁ」
短くため息をつくと咲は乱暴にしおりを挟んで本を閉じ、軽く頭を掻きむしる。その仕草からわかるように今の彼女は普段以上に機嫌が悪かった。
「なんであんなヤツの隣になったんだろう」
咲は自分の巡り合わせにほとほと嫌気がさしていた。
これだけなら咲は嫌なヤツと捉えられるかもしれない。しかし本来の彼女は空気を読めない所もあるが基本的に穏やかな性格だった。……が、今は両親の不仲と最愛の姉との離別と拒絶によりもともと不安定な所もあった精神は著しく悪化していた。ともすれば病院でカウンセリングを受ける必要があるかもしれないほどに。
しかし、もしかしたらまた元の生活に戻れるかもしれない不確かな希望、養ってくれている父へ心配を掛けたくない強がり。それらによって表面上は平静を保っているに過ぎなかった。仮に咲の父が倒れでもしたら最悪に転がり落ちる位には限界の一歩手前の状態で踏みとどまっている危うげな状態が今の咲だった。
そんな危うい咲が頭を悩ませているのは同級生になったとある男子に原因がある。
その男子はことあるごとに咲に話しかけてくるのだ。
これまで同級生はあまり、いや連絡事項以外は話しかけてこなかったのに件の男子……須賀京太郎は気にすることなく踏み込んできた。世界が自分と家族で完結していた咲にはそれがたまらなく鬱陶しかった。
ここで須賀京太郎という人物について説明しておこう。平均を超え今も成長している身長、多少くすんでいるがそれでも目立つ金髪……性格も明るく社交的でクラスの中心かそれに近いところにいるような存在。
それが須賀京太郎という存在だった。そんな咲と正反対の気質の彼がどういうわけか関わってくる……咲には理解ができなかった。
「ただ私は誰とも関わらず静かに暮らしていたいのに」
咲は切実に叶わない願いを口にする。
咲の世界は先述したように彼女と家族で完結していた。そして家族がいなくなったことで崩壊した。しかしそんな崩れた世界を咲は必死になって維持しようとしていた。
普通ならどこかで破綻していたかもしれない。しかし咲には類い希な“とある”才能があった。
……話は変わるが世間では麻雀がメジャーな遊戯である。町にある雀荘は賑わい。インターハイが世間を熱狂させ。プロの試合を固唾を飲んで見守る。そんな麻雀をする人たちの中で不可解な打ち方をする女性が良く話題になるのだ。牌効率などで考えれば絶対にあり得ない打ち方をしてアガる。そんな摩訶不思議な打ち方をオカルトと総称されている。対策や解説ではオカルトを前提に考察をし、時には停電を起こすなどと言った物理的干渉を伴うものもあるという。
話を戻そう。咲には
結果、麻雀をやらない普通の人にまで感じ取れる悪寒となって現れてしまった。人は異物を排除したがる傾向にあるが咲はそれに当てはまらなかった。腫れ物とまでいかないが誰も手を出せない存在となってこれまで過ごしてきた。それはきっと変わらない……はずだった。
「なんであいつは私に話しかけてくるんだろう?」
例外は存在した。そう京太郎だ。彼はそんな気配を纏っている咲に一切気にすることなく接してきたのだ。
咲にはそれがとてつもなく苦痛で……そして安心してしまった。
……人は一人では生きていけない。どこかで何かしら繋がりを求めるものだ。
彼女は自分から人との繋がりを拒絶しながら心の奥底では人との繋がり……救いを求めていた。わかっているのだこのままではいけないと。一種の生存本能と言えるかもしれないそれを心の片隅で抱えながら生きている。
「……めんどくさい」
それに目を反らしながら咲はベッドに身を潜らせる。明日から続くであろう苦痛の日々に憂鬱になりながら目を閉じる。
彼女の心は未だ凍り付いたままだ。
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カーテンの隙間からこぼれる日の光が意識を浮き上がらせる。
寝ぼけまぶたを擦りながら時計を確認すればいつも起きる時刻より1時間ほど早かった。
「……起きようかな」
なんとなく二度寝をする気にもなれずゆるゆるとベッドから立ち上がる。
背伸びをしながらこれからどうするか考える。そして方針を決め椅子に腰掛け机に向かう。そして開くのは本……ではなくノートだ。手慣れた手つきでノートを開けば目に飛び込むのは簡単な調理工程の絵と細かく書き記されているレシピだ。
「この前のは少し出汁が目立ちすぎていたから……」
思い返すように口ずさみながらレシピを書き足していく。
ここ最近作っている肉じゃがのことを思い返しながら自分がここまで料理に凝っている事実に軽く笑みを浮かべる。
一昔前の自分には到底想像もつかないであろう現在はそれなりに充実していた。心に余裕があるだけでここまで変わるものかと驚きもある。
「お姉ちゃんにも……」
それでも今は居ない家族のことを想えば胸は張り裂けそうになるがなんとか持ち直している。心の片隅に絶対に選んではいけない選択肢が浮かぶことはない。
「京太郎くんのおかげかな」
1年前は不躾な侵略者だった彼が今は頼れる隣人だ。彼がいたからこそ今の私がここに居る。何度も拒絶していた私に手を差し伸べてくれた。感謝してもしきれないくらいの恩人だ。
今こうして作成しているレシピも恩返しの一環だ。最初はものを送ることとかも考えたが、彼の家はそれなりに裕福なので絶対に彼はしないが無意識に比較させてしまう可能性があったから除外して。考えに考えてたどり着いたのが料理を振る舞うことだった。彼は運動部に所属しているのもあって食にはそれなりにこだわっていた点から選んだのだ。それもただ振る舞うのではなく多く作りすぎたからお裾分けをするという形式にした。彼が近所に住んでいたからこそ出来る荒技だ。そうすれば彼もこちらに気にせず遠慮無く食べる。
そしてお裾分けという体裁を取るからには多く作らなければいけない。しかしそうすれば料理の味は大味になってしまう。彼は気にせず食べてくれるかもしれないが食べさせるのだからある程度味にこだわりたい。だからこそ研究するのだ。
「ふふっ」
彼が美味しそうに食べる姿を思い出して心が軽やかになる。心を込めて作ったものを家族以外に美味しく食べてもらえる……この楽しみは閉じた世界に居た自分では決して得られないものだ。だからこそより一層のめり込む。
窓から柔らかな光が差し込み部屋に鼻歌が響き渡る。
**********
暖かな昼の日差しを受けながら昼休みに屋外で私は借りている本を読む。室内で読むのも良いけどこうやって外で読むのもなかなかだと思う。そうして本を読みふけっていると誰かが近くを通る気配がしてそちらに顔を向ければ通り過ぎようとしていた女の人が目に入る。
同性の私でも目を奪われるほどキレイな人だ。私と同学年を示す証であるスカーフをなびかせながら出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいるその人はそのまま通り過ぎていった。……なんとなく負けた気がしてほんの少し気分が落ち込む。
(アレで同じ歳か~私も成長すればもう少し近づけないかな~)
少し前に雑誌の表紙で見た
「咲~~!!」
自分を呼ぶ声で先ほど見かけた自分と同学年の子に関する思考を打ち切る。読みかけの本を片手に声のした方に向けば京ちゃんが駆け寄ってくるのが見える。
“京ちゃん”……か。彼とこんな風に気楽にやりとりする関係になるなんて本当に人生ってわからないな。ほんの2年前までは私の世界は暗くひび割れていたのに今は光り輝いてる……は言いすぎかな? それでも彼のおかげで私は前を向けられるようになった。まだお姉ちゃん達との問題は解決してないけど立ち直らせてくれた大切な人の姿を見て気分が上向きになる。
そうして近づいてきた京ちゃんと会話し、心の中でずっこける。京ちゃんは私にレディースランチを注文して欲しいがために私を頼ってきたのだ。そんなことのために私を探してきたことにそれなりに呆れてしまった。……が。
この事実に心が浮き足立ってしまう。けどそれを態度に出せば私が京ちゃんに好意を向けているのがばれてしまうかもしれ────っ!!
「咲?」
「あ、ああ。ごめんね京ちゃん。それよりもそのためだけに食事に誘うってどうなの?」
私の気持ちを隠すように素っ気ない態度で京ちゃんに返事を返しつつ一緒に行くことを伝える。そうして京ちゃんと一緒に食堂に向かうが私の心の中は穏やかじゃなかった。
(ああ、離れてしまう恐怖ってこんなに怖いんだね)
家族が別れてしまったときは突然だったからまだその恐怖だけは感じなかった。しかし、一度それを体験してしまえば……もしかしての“IF”が私を追い詰める。
京ちゃんに馴れ馴れしくしすぎて嫌われたら。
いきなり態度を変えて不気味がられたら。
好意を伝えて拒絶されたら。
京ちゃんも離れてしまうかもしれない。
もう一度、離別を味わえば私はきっと…………
ドン!!
(あ……)
レディースランチを思いっきり置いた衝撃で正気に戻る。どうやら無意識に行動していたようだ。とりあえず京ちゃんに声を掛けて……
「咲ちゃんはイイ嫁さんだなァ」
お嫁さん!? そんな風に見えてる!? 嬉しい!!
さっきまで黒いモヤモヤがかかっていた私の心は一気に晴天になった。が、悲しいかなそれでも心の底の恐怖は消え去ってないから脊髄反射で訂正してしまう。
「中学で同じクラスなだけですから! 嫁さん違います!」
心の中でため息を吐く。
今の私には過去が重くのし掛っている。それが私に二の足を踏ませていた。
(一歩踏み出せればいいのに、たった一歩だ。しかしその一歩がどうしても踏み出せない)
美味しそうに食べている京ちゃんの横で本を読んでいるフリをしながら深く悩む。
過去を清算する機会は昔一度あった、しかし失敗してしまった。だからこそ思いとどまってしまう。そして今年が最後の機会だと確信してしまっている。それが更に私を追い詰める。
(お姉ちゃんは今年卒業しちゃう。卒業してしまえばさらに関係がこじれるかもしれない)
私のお姉ちゃん、宮永照は雑誌の一面を飾るくらいには有名な存在だ。だからこそプロや強豪大学から声が掛かっているはずだ。そしてどこに行ったとしても忙しくなってしまうのは確実だ。それに学生の身分だからこそ周囲もお姉ちゃんを深掘りしようとしないが、卒業してしまえばきっと誰かが調べようとするかもしれない。そうなれば……
(はぁ~~。考えるだけでいやになる)
高確率で実現するかもしれない未来にまた憂鬱になりつつ、心の清涼剤である京ちゃんの方を見て目を丸くした。京ちゃんは携帯を見ながらランチを食べていた。いつもの京ちゃんなら食事に集中しているのに珍しいことだ。
画面を盗み見るのはいくら親しい仲だとしても一線を越えている。だから気になった私は「京ちゃん、行儀悪いよ」と声をかけた。そうしたら京ちゃんは軽い謝罪をしながら私に画面を見せてきた。
「麻雀?」
私の声に肯定しながら、京ちゃんは「最近始めたんだが、これがおもしろくてな」と言ってきた。
その言葉を聞いた私はつい反射的に反応してしまった。
「私……麻雀は嫌い」
ああ、ホントにダメだな私。さすがに頭から趣味を否定するのは嫌われるでしょ。どう謝るべきか悩み始めた私に京ちゃんは予想外の言葉を出してきた。
「え、咲? お前麻雀できるの?」
そこからあれよあれよと質問されて、気がついたら私は京ちゃんに連れられて麻雀部に来ていた。
「ようこそお姫様」
京ちゃんの調子の良い言葉に軽くツッコみながら、私は運命を感じていた。
(ああ、きっとこれが最後のチャンスなんだ)
ここには規模が小さいけど麻雀部があることは入学前から知っていた。私にとって麻雀は鬼門だ。麻雀によって私の人生は変わったと言っても過言じゃない。だから麻雀を避ける意味ではもっと規模が小さいそれこそ同好会レベルのものしかない高校を選ぶことも出来た。もちろん京ちゃんがいるからここを選んだのは否定しない。けど私の中で麻雀が家族を再びつなげるのに最適な手段だと解っているからこそ最低限でも環境が整っていたこの高校を選んだ。
(ありがとう、京ちゃん)
京ちゃんに救われて、寄り添われて、導かれた。
私と京ちゃんの出会いはきっとこのときのためだったのかもしれない。
(次は私の番だね)
お姉ちゃんと仲直りする。そうすることで私は初めて自分の本当の気持ちを京ちゃんに伝えられる。私の決意に呼応して瞳に炎が灯った気がした。
麻雀部の扉をくぐるための一歩を踏み出した。
**********
そうして厳しい冬を越え、暖かな春を過ごし、激闘の夏を制した私は今、穏やかな秋を……未だ得られていなかった。
(ああ、疲れたな)
ほぼ廃部寸前の状態からの無名校が全国制覇、これが世間に及ぼす影響を私は甘く見ていた。ほとんどを部長と副部長が受け持っていたがそれでもインターミドルチャンプの和ちゃんやインハイチャンプの妹である私にもスポットを当てられてしまい、取材を申し込まれることが度々起きてしまった。
京ちゃんのおかげで少しマシになったとはいえ、人付き合いが苦手な私にお姉ちゃんと同じ役割を求めるのは無理な話だ。まあ、その取材攻勢のおかげで仲直りできたお姉ちゃんにアドバイスを求めたりして話の種にできたのだからケガの功名と言え、言え……やっぱり言えないかなぁ? 本当に一時期はとてもキツかった。
「はぁ~~……」
「お? いきなりどうしたんだ?」
「いままでの取材のことを思い出して、ね」
「ああ~……まあ咲にああいうのはキツいのはわかりきってたしな」
「ホントお姉ちゃんの凄さを改めて実感するよ……」
こうやって会話しているように今、私は京ちゃんと一緒に帰っている最中だ。そう、京ちゃんと、二人きりで、帰っている。
つまり、そういうことだ。
本当はインハイ直後に気持ちを伝えようとしたが、先ほど述べた諸々が原因で今日までもつれ込んでしまった。
(本当はもう少し落ち着いてからにしたかったけど……)
私の気持ちが抑えきれなかった。私の周りを取り巻く問題が落ち着いたことで京ちゃんを想う気持ちに歯止めが効かなくなっていた。気を抜けば京ちゃんに抱きついて顔を擦り付けたくなるくらいには私の京ちゃんへの好感度は上がっていた。
だからこそこうして普段どおりに会話をしている私だが、内心はガッチガチに緊張している。というよりも多分顔に多少出ていると思うが夕焼けが隠していることを信じたい。
(後はタイミングを見計らって)
あの時の流れがまだ味方しているのか、周囲には人の気配どころか珍しいことに虫の声すらない。京ちゃんと私の二人だけの世界だ。
京ちゃんに告白されたい乙女心もあるにはあるが、もう耐えられない。覚悟を決めろ私。
(ああ、だめだ。いざ本番になっちゃうと頭が真っ白になっちゃう)
好き、すき、スキ。離れないで、離したくない、離さない。
欲望が頭の中をグルグルと渦を巻く。
(タイミング、タイみんぐ、たいみんぐ……)
「咲?」
様子がおかしい私に気付いた京ちゃんが私に顔を向ける。
やっぱりカッコいいな。普段は三枚目でだらしないのに、こういう時はキリッとするんだから。ダメだよそんな顔、花も恥じらう乙女に向けちゃ、勘違いする子がたくさん出てくるでしょ。そんなイケない京ちゃんはこうだ
「んっ」
「!!??」
ふふ、慌ててる、慌ててる。私の
京ちゃんは目を見開いて固まってしまっている。そりゃそうだ、様子がおかしい同級生を心配したらキスされたんだからそうなるよね。あぁ、ああ、ああ~~~~!!!!???? 。
「ご、ごめん京ちゃん。いきなりこんなことして、けど京ちゃんだって悪いんだよ。どん底にいた私を救って、病んでいた私に付き添ってくれて、私にお姉ちゃんと仲直りする機会を作ってくれたら誰だって惚れちゃうでしょ。京ちゃんは和ちゃんみたいな子がタイプで私みたいなちんちくりんには興味が無くても、私は京ちゃんが一番なの。本当は嫁さん言われたときは京ちゃんにウザがられたくなくて素っ気ない態度取ったんだけど本当は飛び上がるほど嬉しかったんだよ、だから、だから、だからぁ、き、きらいにならないでぇ」
自分への嫌悪感が止められない。最低だ私。こんなことして嫌われないわけないじゃん。……終わった、なにもかも終わった。これまで築きあげた信用も信頼も全て私の手で破壊しちゃった。あは、はははは。
涙が溢れる。泣きたいのは京ちゃんの方なのに嫌なことをした私が泣いていることに自己嫌悪する。
(家に帰ろう)
何も解決しないけど帰ろう。外での居場所を壊した私にはもう家しかない。帰って、閉じこもろう。
目元を隠しながら走ろうとした私の手を京ちゃんが掴む。
「離して」
「離さない」
「離してよぉ」
「離さない、そんな顔をした咲を放っておけるわけないだろ」
京ちゃんの力強い手に私は更に涙を溢れさせる。
私を救ってくれた手、その温かさが私を更に追い詰める。
「いきなりキスしたんだよ」
「そうだな」
「付き合ってもいない人からキスされたんだよ!!」
「……」
「京ちゃんは気持ち悪くないの!!??」
「…………咲」
京ちゃんは私の名前を呼び、力強く私を抱き寄せる。私をつなぎ止めていない方の手で目元に寄せていた私の腕を優しく外し……
私の唇は燃え上がった。
(え?)
涙でグチャグチャの視界には真剣な京ちゃんの顔が広がっている。堅くカサついた感触……
「これが咲の気持ちに対する答えじゃダメか?」
「嘘……」
「嘘じゃない」
「うそ、ウソ、嘘。京ちゃんは和ちゃんみたいな家庭的でスタイルがいい人が好みでしょ!?」
「そうだな」
「私みたいな根暗で京ちゃんがいないとなにも出来ない子を好きになるわけ無いでしょ!!」
そう叫ぶ私の唇を塞ぐように京ちゃんは再び私に口づけをする。私の背中を摩りつつ京ちゃんはこれまで聞いたことのないような優しい声色で語りかけてくる。
「俺が最初に咲に話しかけたのは咲のことを放っておけないヤツだと思ったからだ。張り詰めていて目を離せば消えてしまいそうなお前のことが気になったからな」
「……」
「話してみてこれは一人にしたらダメだと思った俺は必要以上にお前にからんだ。あの時の俺はウザかっただろ」
「……うん」
「最初はそんな義務感で話していたけどな……あの時のことを憶えてるか?」
「?」
「肉じゃがを初めて作ってくれた日だよ」
……忘れられるわけないよ。あの時初めて京ちゃんに私がお返しできた日のことは。
「俺がウマいって言ったとき、咲はどうした?」
「……良かったって言ったと思うけど」
「そう、俺はあの時好きになったんだ」
「そ、それって」
「咲の笑顔に俺は見惚れたんだ。だから、さ……咲、笑ってくれよ、そんな顔俺は見たくないよ」
ああ、そっか。そうだったんだ。通じ合ってたんだ私たち。
涙でグチャグチャになりながら私は精一杯笑う。
「俺は咲のことが好きだ」
「私も京ちゃんが好き」
そうして、私の心に再び花が咲いた。もしかしたらこの先、色々な問題が起きるかもしれない。けど私はもう花を枯らすことはない。
私の隣には京ちゃんがいるのだから。