須賀京太郎断片集   作:星の風

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心のままに作りました。


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この場を借りて改めて皆様にお礼申し上げます。

追記:桃子さんの最新話も編集投稿しています。


宮永咲と山

 

 澄み切った空気、耳を澄ませば虫や鳥の鳴き声に風がそよぐ音だけが響き、目の前には雄大な自然を体現したかのような山がそびえ立っているのが見える平原。

 そんな場所に二人の男女が来ていた。女性は軽装で、男性は大きなリュックを担いでいた。

 

「で、ここが目的の場所か?」

「うん、私の思い出の場所」

「じゃ、とりあえず敷物を広げるぞ」

 

 男はバッグから敷物を取り出し広げた。そして飛ばされないように中心にリュックを置き、男もその横に座った。女は目の前の山を見たままどこか物憂げな表情をしていた。

 

「ここまで歩いてきたんだから少し休んだらいいんじゃないか? 咲」

「もう少しだけ風を浴びていたいから……京ちゃんこそ荷物持ちのような真似をさせてごめんね」

「気にするな、お姫様のこれくらいのワガママなんてかわいいもんだ」

「調子がいいんだから」

 

 そう言って赤みがかった茶髪の女──宮永咲はくすんだ金髪の男──須賀京太郎に微笑んだ。

 

「それにしても、突然ハイキングに行きたいと言ってきたときは驚いたけどな」

「……まあ、ね」

「しかし、俺で良かったのか? 咲の親父さんと一緒の方が……」

「それも考えたんだけど……京ちゃんと一緒がいいなと思ったから」

「ふーん……ま、久々に体を動かしたいと思っていたからちょうど良かったけどな」

 

 季節は秋、そして二人は中学3年生だった。

 そろそろ受験も本番になるであろう季節だが……二人にはどこ吹く風だった。

 二人とも家の近くの高校である清澄を受験する予定だった。その清澄も程々に勉強ができれば入れるようなレベルで、元々真面目な咲と見た目に反してそれなりに真面目な京太郎には余裕で入れる試算だった。それでも万が一に備えて勉強しているが……当の本人達はその勉強に身が入っていなかった。京太郎は夏のハンドボールで燃え尽きていて、咲もとある理由で上の空だった。

 

「京ちゃんはこの景色どう思う?」

「ん~? いいところだと思うぞ」

「私もそう思うよ」

「本音を言えばほんの少しだけ退屈に思うけどな」

「京ちゃんは体を動かすのが好きだからね」

「それは否定しないさ……そう考えると咲の方が不思議だ」

「どんなところが不思議に思ったの?」

「見た目はインドアな文学少女なのに、もっぱら外で本を読んでいるよな」

「そうだね……自然を感じつつ文学の世界に没頭したいからかな?」

「なんで疑問形なんだよ」

「あはは」

 

 咲はごまかすように笑いながら敷物に座る。それから少しの間二人の間に言葉はなかった。暖かな日差しの元、穏やかな風と自然の音が二人を包む。そこに会話のない気まずさなど無くただただ自然の恵みを享受する時間だけがあった。

 

「京ちゃんは……」

 

 おもむろに咲は口を開く。その顔はどこか思い詰めたようにも見える。それを見た京太郎も咲の言葉の続きをじっと待っていた。

 

「京ちゃんは……私の話聞きたい?」

「……」

「私一人で抱え込もうと思っていたんだけどね。なんでだろう……京ちゃんになら話してもいいって思えたんだ」

「……」

「京ちゃんが聞きたくないって言うんだったらそれでもいいし……どうする?」

「……はぁ~」

 

 京太郎は大きく溜め息をすると……咲のほっぺを引っ張った。咲のほっぺが餅のように伸びる。京太郎が突然そんなことをするなんて想定外だった咲は目を白黒させながらなされるがままだった。

 少しして京太郎は手を離す。咲のほっぺはほんのりと赤くなっていた。それに抗議するようなジト目を京太郎に向けた咲だが、京太郎はそれを意に介さず語りかける。

 

「俺にとって咲は世話を焼きたくなる大事な女友達だ。いまさらお前の話くらい重荷にもならねえよ。気兼ねなく話せ」

「……ホント、私にはもったいないくらいの友達だね。京ちゃんは」

「褒めても何も出ないぞ」

「ふふ、なら思う存分話しちゃうね」

 

 先ほどまで浮かべていた暗い影は微塵もなく、晴れやかな笑みを浮かべながら咲は隣にいる友人に語りかけた。

 幼い頃の麻雀の話、家族が冷戦状態になって母と姉と別居状態になっていること、姉に一度会いに行ったが口を聞いてくれなかったこと……等々。そして──

 

「ようやく最近自分のことを考える余裕が出来たんだけど……。私はお姉ちゃんとどうしたいのかわからなくなったんだ」

「どうしてだ?」

「仲直りしたいのかそれとも区切りをつけたいのか、それともこのままでいるのか……」

「咲はどうしたいんだ?」

「仲直りしたいよ……けど、前に会ったときのことが尾を引いていてね。諦めて心に区切りをつけるか時間が解決するのを祈るか……。京ちゃん」

「なんだ?」

「私はどうすればいい?」

「俺に答えを求めるのか」

「うん、京ちゃんが決めるなら私もそれに従うよ」

「依存じゃないのかそれ」

「ううん、このままだときっと私は何も選べないまま潰れると思う。だったら、いっそのこと第三者の京ちゃんの意見を取り入れたいんだ」

「……ふぅ~。わかったよ。けどな、その前に一ついいか」

「なに? 京ちゃん」

 

 京太郎は咲の肩を掴み、咲の瞳を見据えながら言い切る。

 

「さっきも言ったようにお前は大切な友人だ。それは変わらないからな」

「……本当に真面目なときはカッコいいんだから」

「褒めても何も出ないぞ」

「知ってる」

「ならいい。だったら仲直りしろ。これでこの話は決まりだろ」

「へえ、きっぱりと言うんだね」

「友達としてお前が初めて前を向いたんだから後は応援して、時々手助けするだけだ」

「手助けはしてくれるんだ」

「危なっかしいからな」

「言えてる」

「そこは直せ」

「京ちゃんが大きい胸の人が好きって性格を直したら考えるね」

「……直す気無いだろ」

「京ちゃんこそ」

「……ふふ」

「はは」

 

 京太郎と咲は笑いあった。笑う度に二人が抱えていた暗いものが消えていく。

 ひとしきり笑った後、京太郎は咲に仲直りする方法があるのかと聞いた。咲は麻雀ならできると断言する。それを聞いた京太郎は心の内で麻雀に色々と焼かれてんなーとツッコんだがそれをおくびにも出さず今後の計画を話し合う。

 

「問題はどうやって麻雀をやるかだ。お姉さんは前にあったとき一言も話さなかったんだよな?」

「そうだね……あ~!! あの時もう少しやりようがあったんじゃないかって今でも思うよ」

「その時は咲も色々と張り詰めていたんだからしょうがないだろ。……だったらやらざるを得なくするか」

「え?」

「お姉さんってインターハイを連覇してるんだろ」

「う、うん。本屋でそんな見出しで特集されてたね」

「なら咲もインハイに出るんだよ。そうして勝ち進めればお姉さんと麻雀できるだろ」

「え~。こんな私で勝てるかな」

「勝つんだよ……あ~くそ!! こんなことなら高校をもうちょっと真面目に考えれば良かった」

「どうして?」

「強豪校ならチャンスはもっと増えるだろ」

「やだ」

「は?」

「京ちゃんと一緒の高校がいい」

「お前な~決めたんならできる限り最善をつくせよ」

「つくしているよ」

「ああ?」

「京ちゃんとお姉ちゃんどっちも欲しいからそのための最善をつくしているんだよ」

 

 その答えに京太郎は顔に手を当てて天を仰いだ。耳が赤くなっていたのを咲は見逃さなかったが指摘してからかうのはまたの機会にすることにした。

 

「じゃあ、清澄で麻雀部に入るなり、最悪なかったら作るなりしてインハイに出場するって事でいいんだよな」

「そうなるよね」

「後は、咲の頑張り次第だ」

「うん、とりあえず立ち塞がる人は全部倒すから」

「思考が蛮族のソレだ」

「麻雀する人は大概こうだと思うよ」

「う~ん、麻雀している女子のイメージがアマゾネスになっちゃうな」

「闘争心があってなんぼの世界だからね」

「おー怖」

「そんな世界に京ちゃんも参加するんだよ」

「え゛?」

「私に火をつけたんだから当然でしょ」

「そんな!! 麻雀なんて野蛮な競技……俺にはとてもとても」

「返事」

「はい!!」

「うんうん。元気があっていいね」

 

 こんなやりとりをしているが京太郎は元々少しだけ興味があったから始めるのは既定路線だったし、咲は咲で吹っ切れているので言動がいつもよりも過激になっている。

 そんな打てば響く軽口の応酬は二人にとってとても楽しかった。

 

 ぐぅ~~

 

 どちらからか響いたお腹の音が二人のじゃれあいを中断させた。

 

「食うか」

「そうしよう」

 

 大きなリュックからは大きめの弁当箱とおにぎりが入っている袋が取り出される。

 弁当箱をあければ卵焼きやウィンナー、唐揚げのような定番品からキュウリのベーコン巻きに肉じゃがなど色々な種類が入っていた。全体的に茶色気味なのはリクエストした京太郎の意向なのを咲の名誉のためにここに記しておく。

 それを二人はゆったりと味わっていた。持参した水筒からお茶を注ぎ一服する。

 そこで京太郎はぽつりと漏らす。

 

「それにしても咲の料理の腕も最初に比べたら大分上手くなったよな」

「おだてても肉じゃがしか出ないよ」

「それは……うまいからまあいいか」

「その間は何?」

「いや、まあな。作りすぎたときのことを思い出してな。あれはそれなりにきつかった」

「凝りすぎていたのは謝るけど、美味しかったでしょ」

「限度があるんだよ」

「けどきっちり食べてくれたでしょ」

「そりゃあ、もったいないし……咲の手作りだし」

「……ま、今はそんなに作ってないしそれで手打ちにしてよ」

「おう」

 

 そして再び弁当とおにぎりを堪能する。

 それなりにあった弁当はあっという間に空っぽになった。二人のごちそうさまが響き、まったりとした時間がその場に流れる。

 そして咲は京太郎の膝に寝転ぶ。京太郎はそんな咲の行動を全く気にしていなかった。

 

「食ってすぐ寝ると牛になるぞ」

「女の子にその発言はデリカシー無いよ京ちゃん……けど牛になったら京ちゃんは喜ぶでしょ?」

「何言ってんだ」

「牛って大きい胸が……」

「その話題を掘り返すな」

「え~私と京ちゃんの仲じゃん」

「だったらなおさら礼儀が必要だろ」

「そうかな?」

「そうだ」

「ふ~ん」

 

 その後も身のない会話をしていた2人。不意に咲が天に向かって手を伸ばした。

 

「ねえ京ちゃん?」

「どうした」

「咲けるかな私?」

「……」

「お姉ちゃんが言っていたような花を咲かせられるかな?」

「…………」

「森林限界を超えた山の上に咲かせるくらい強くなれるかな?」

「できるさ」

 

 そう言った京太郎は咲の頭を撫でる。それを受け入れながら咲は京太郎の次の言葉を待つ。

 

「咲は道に迷うし、転んだりするドジなやつだ」

「はっきりと言うね」

「事実だろ。……けどな咲は転んでも起き上がるだろ」

「うん」

「何回転んでも、それでも起き上がれるくらい咲は強いんだ。だから山の上で花を咲かせるくらいできて当然だ」

「ふふ……そうだね」

 

 咲は起き上がり空に向けていた手を山に向ける。山の頂に伸ばした手の先に……花は咲いていた。少なくとも京太郎にはそう見えていた。

 

「それくらい信頼してくれているなら私も頑張らなくちゃ……ね」

「焚き付けた責任ぐらいは取るさ」

 

 2人は顔を見合わせ笑い合った。

 

「じゃ、そろそろ帰ろっか」

「そうだな……またここに来るか?」

「う~ん……次は別の場所にしようかな?」

「その心は?」

「思い出の場所がたくさんあるって素敵でしょ」

「それはそうか」

「そうそう」

 

 そう言って2人はテキパキと後片付けをして、その場を去って行った。後には雄大な山々と美しい自然だけが残った。暗いものは一つも残ってはいなかった。

 

 そうして、後にインハイで咲き誇る少女とそれを支えた少年らの第一歩は踏み出された。

 太陽は暖かな光を少女が手を伸ばした山の頂上にひっそりと咲いていた花に注いだ。花は花弁を咲き誇らせ太陽に自分を魅せた。

 きっと彼らの道は大団円に続いている。太陽と花が魅せてくれたのだから。

 






とりあえず咲さんの話だけまとめてみようかな。
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