それでは平和です。
「おはよう、指揮官くん! 寝癖も可愛いけど、これから代表会議があるからぼくが整えてあげよう!」
ぼんやりした眠気眼をこすり、目覚ましにしては豪華なフルボイスの方を向く。アッシュグレイをベースにパープルなどのカラフルなメッシュが入った髪の主はフォッシュさんだ。母港着任の日のハプニングから救ってくれたKAN-SEN。とてもお世話好きというのが近い表現だろう。秘書艦ってホテルのルームサービスみたいな事までやるの?? それはそれとして……。
「僕、鍵をかけた筈なんだけど……」
「え、そうなのかい? 鍵掛かってなかったよ?」
まさかの自分のミスでした。いきなり疑うなんて申し訳ない。あれ、でも昨日鍵掛けたような……確か鉄血の代表さんから『鍵は掛けとけ』と念を押されたのでしっかり掛けた気が──────そういえば夜に物音がしたから一度部屋を出たんだっけ。その時に再び掛け忘れたか。
「別に掛かっててもぼくは問題ないけどね♪」
起きたての鈍い頭で昨日の出来事をぼんやり思い出して、探偵並みの推理を働かせている間にフォッシュさんが何かを言っていた。
「ん? どうかした?」
「ううん、指揮官くんはどんなに見ても飽きないなって」
「そ、そんなことはっ」
フォッシュさんのまるで恋人のようなセリフに僕は顔が熱くなるのが分かった。恋人みてーなセリフだろ? でも恋人同士じゃないんだぜ? 『フォッシュさんの方が可愛いよ』なんてモテ男のような気の利いたセリフは喉元で止まってしまう。その代わりにお互い見つめ合ってしまう。
「指揮官くん……」
「フォッシュさん……?」
フォッシュさんの瞳がとろんとしながら、僕の方へと近付いてくる。えっ、まさかっ、ケッコンしちゃうの!? おじいちゃん、おばあちゃん、徳を積むとはこういう──────【【【【ドンッ!!!!!!!】】】】
「「!?」」
フォッシュさんの手が僕の肩に触れた瞬間に、ドアと左右の壁、天井と四方向からド突くようなデカい音が立てられる。今度は何だ!? また爆発!?
「ね、寝癖も整ったし朝食を食べに行こうよ?」
「そ、そうだね」
フォッシュさんに手を引かれて目的の場所に向かう。その際にフォッシュさんの表情が険しく見えたのは気のせいだろうか。
「母港の食堂ってこんなに広いんだ〜」
その広さは、会社のお偉いさん達が会食するような何十人も入れるくらいだろう。フォッシュさん曰く、同じくらいの規模の食堂が複数あるらしい。
「じゃあ入ろうっと」
食べるメニューが決まったので食堂に足を踏み入れると、
「「「「…………」」」」」
それまで賑やかだった食堂は箸の音さえも消え去った。何が起きたの!? サバの味噌煮を食べようとしたのはNGだったのかな!?
「指揮官くん? どうしたの? 席はここだよー」
ニコニコとブンブンと手を振るフォッシュさんに周囲からの冷たい視線が刺さりまくる。ここの母港ってこんな険悪だったの!?
「ねえ、朝から雰囲気な穏やかじゃないんだけど……」
「指揮官くん落ち着いて。雰囲気と穏やかが逆さまだよ? ふふっ」
「おはようございます、指揮官様ぁ〜……と【秘書艦】フォッシュ」
ゆらゆらと狐の耳と尻尾を揺らしながら来る、茶色と白い髪の女性が二人、僕に挨拶をしてくれたのは茶色の髪の方だ。
やたら秘書艦の部分を強調している。みんな、そんなに秘書艦やりたいのか。いくらか金額は分からないけど、秘書艦手当出るみたいだし当然かな?
冷たい視線の一人はこの人だったか。そんな片割れの様子に白い髪の方は頭を抱えている。
「おはようございます」
「今日も素敵……すぐにでも赤城のモノにしたいわぁ……うふふ……!」
「興奮は抑えてください、姉様」
高揚気味の女性を白い髪の人が宥め、一歩前に出た。
「私は重桜の空母、加賀だ。こちらの病み「加ァ賀ァ?」……お前に挨拶した方は赤城。同じく重桜の空母だ」
魔物のような邪気を放つのが赤城さん、苦労人になりそうなのは加賀さんということか。
「おはよう。赤城、加賀。今日は何食べたの?」
フォッシュさんは二人に問いた。
「私は【指揮官様と同じ】サバの味噌煮よ。指揮官様と同じ物を食べていると思うと胸が熱くなりますわぁ〜!」
赤城さんはフォッシュさんを睨み、僕と同じ物を食べているところに重きを置く。
「それって胃もた──────モゴッ!?」
「それ以上言うとお前も死ぬぞ。ただえさえ姉様は朝から機嫌が悪い──────お前達のせいでな」
赤城さんにとってNGワードだったのか、加賀さんに口を塞がれる。機嫌が悪いのはともかく、僕らのせいで? どういう事だろう。
「そうなの? ぼくは調子が良いよ! 指揮官くんの寝顔を1時間も見れたし!」
確かにフォッシュさんは調子が良さそうだ。なんだかキラキラしてるし……って1時間も!?
「こんの小娘ぇ……!! 指揮官様の寝顔を拝めるなんて世界遺産なのに!!」
赤城さんの歯軋りが食堂中に広まり、ますます穏やかとは遠ざかっていく。
「世界遺産!?」
「何かしていると思ったらそういう事だったのね……!! おまけにイイ雰囲気にまで持ち込むなんて!!」
今朝の部屋のことがバレてる!? ひょっとして僕の部屋の壁って薄いのかな?
「姉様、それ以上は」
「───! 過剰な接近は慎みなさい。秘書艦だからといって指揮官様を困らせてはいけないわよ」
「そういうことだ。寝首を刈られたくなければ気をつけろ」
起きたら横に首が落ちてるのは怖すぎる! ここの母港、修羅すぎるよ!?
「ちなみに私の朝食は───」
加賀さんは首だけこちらを向く。
「サバの蒲焼きだ」
「んー、今日は調子が良いなぁ! 指揮官くん、ぼくに何でも頼ってよ!」
朝食を終えた僕たちは、陣営代表会議に出るために会議室に向かう。
「秘書艦になると調子が良くなるの?」
「そうだね、指揮官くんのそばにいられるからね!」
むぎゅーっと抱きしめられるが、フォッシュさんは辺りをキョロキョロしている。まるで索敵をしているかのような目つきだ。
「どうしたの?」
「ここら辺には無いのか……ううん、なんでもないよ!」
僕は違和感を抱きつつ会議室へと入っていった。
「みんな揃ったわね? 朝礼会議を始めるわよ」
ロイヤル陣営のウェールズさんの音頭で始まった。
「早速だけど指揮官、私の言った通り昨日はちゃんと鍵を閉めたか?」
「ん? もちろん、指差し確認で掛けたのも確かめたよ」
鉄血代表───ビスマルクさんによって、取り上げられた要件は僕の自室の施錠確認だった。僕に母港の事についてかと思ったけど、僕の予想は外れた。何故僕の自室の事?
「……その後は部屋から出た?」
「うん、部屋の外で物音がしたから確認しに。でも部屋に戻るまでほんの10秒くらいだよ」
「「「「その間に誰かが……」」」」」
「えっ、僕の知らない間に何が起きたの!?」
リシュリューさんやウェールズさん、天城さん、ヴィットリオさんまでもが深刻な顔で思慮している。まさか叛逆!?
「ご主人様、落ち着いて聞きなさい」
メイド隊の教育係───グロスターさんは言う。絶対落ち着けない話だよ、これ……。
「ご主人様は、盗撮されています」
僕は驚きの声を隠せなかった。
「着任二日目でそんな事ある!? 僕の盗撮にメリットなんてあるの!?」
「指揮官、貴方は自分を過小評価しすぎだ。私達は指揮官を拝むだけで英気を養える」
「英気を!? 燃料じゃないの!?」
軽くパニックになりかけた僕に更に拍車をかけたのは、ユニオン代表───エンタープライズさんだ。
「九割は同意しますが、このままでは指揮官の生活に支障が出ます」
「指揮官の指揮が執れないのは、我々KAN-SENには致命傷だ。指揮官と会えないのは瀕死になるが」
「重桜もアイリスとロイヤルの意見に乗ります。指揮官様と添い遂げるまでは死にきれません」
「皆で盗撮カメラを探し出しましょう。指揮官さまのためならば、何でもできますわ」
こうしてカメラ探しが始まった。半分くらい欲望が出てますよ?
「あまり大事にしたくはないから、なるべく少数で行くぞ」
「分かったよ、ビスマルクさん」
彼女曰く、あまり数が多いと犯人に怪しまれやすくなるので、少人数で捜索することになった。秘密保持性が高いと言われているKAN-SENが派遣され、探索メンバーはアルジェリーさん、ビスマルクさん、チャパエフさん、神通さん、秘書艦のフォッシュさんだ。
「指揮官と初仕事がカメラの捜索なんてねぇ……」
「そんなに怯えなくても良いわよ、指揮官」
チャパエフさんは【ぽすっ】っと軽く僕の背を押す。指揮官の僕が怯えていては格好が付かないな。
「カメラ如きで指揮官の能力が測れるとは思わない事ですね」
神通さんの扇子はどこか分からないカメラに向けられている。
「指揮官くん、ぼく達はこの辺で立ってたよね?」
フォッシュさんの指差した先は、僕のベッド付近だ。
「ちょっと待て。何故、貴方が指揮官の部屋にいた?」
「早朝に指揮官くんを起こしにね。鍵は掛かってなかったよ」
「早速、容疑者が出たわね」
「一番怪しいけど、早計でないかしら? アルジェリー」
「どういうこと?」
「フォッシュは何時頃、指揮官の部屋へ?」
「朝4時くらいだよ、神通」
「フォッシュさん、朝4時からいたの!?」
「うん。指揮官くんの寝顔は何時間見ても癒されるからね」
さも当然のように言うけど、もしかしてその間にずっと寝顔を見られてたって……コト!? 恥ずかしいよか怖いよ!?
「ふぅ〜ん……ならば指揮官。ちょっと来て」
アルジェリーさんに手招きをされて近寄ると、肩を掴まれて、
「はい、盗撮魔さんへのプレゼントよ」
彼女の片手には黒いコンセントのような物があり、それに向かって僕らはツーショットのように密着した。
「指揮官、次はこっちよ」
「指揮官、私に抱きついてくれますか?」
「あなた達、やり放題だな……」
続け様にチャパエフさん、神通さんに似たような事を要求された。その反面、ビスマルクさんは呆れていた。
「ざっとこのくらいかな?」
「ええ……」
みんなが見つけてくれた物をフォッシュさんが一箇所に集めてくれた。何か10個以上あるように見えるんだけど。あの数秒でこんなに設置できるもんなの!?
「これだけ設置できるとなると、指揮官の部屋に詳しい者か【そっち】の道に詳しい者だな」
「そっち?」
「【蛇の道は蛇】と言う事さ、指揮官くん」
ビスマルクさんの考察にいまいちピンと来ないでいると、フォッシュさんが解説を入れてくれた。その道に詳しい人に聞くということか……ん?
「でもそれって「先手必勝。早速、行きましょう」「「そうね」」───あ、うん」
神通さんの鶴の一声で他の子達も動く。みんなどこに行くのか分かっている感じだけど、僕はただそれに付いていくしかできなかった。
「この軍団は何かにゃ?」
「ねえ【これ】、貴方は見覚え無い?」
ビスマルクさんは、回収した盗撮カメラを明石さんの前に置く。明石さんは工作艦だから疑われはしやすいだろうけども……。
「ちょっと見してにゃ……これ、明石のじゃないにゃ〜」
「なに?」
「明石はそもそも、こんな安っぽい素材で作らないのにゃ〜」
「「「……」」」
アルジェリーさん、チャパエフさん、神通さんは警戒を解かない【ように見える】。
「確かに素人にしてはよく出来てるけど、市販の素材だけじゃステルス製が薄いにゃ〜。明石が作るなら、もっと小型で───見つかってもバレない物を作るにゃ」
ダイヤは取るけどにゃ、と警戒を解かない3人にお金の目を光らせる。
「確かにあっさりと見つかったよね。まあ設置した子が素人なのもあるかもしれないけどね」
フォッシュさんの意見に僕も同意した。盗撮カメラというくらいだから、カモフラしてたりして見つけにくいと思ってたけど、案外すぐに見つかった。
「……今回の件、明石は無関係で?」
「そうにゃ。明石はこんなちゃっちいモノ作らないにゃ!」
明石さんは、ふんす! と胸を張る。
「……そうか。疑うような真似して悪かった」
「しょうがないにゃ〜100ダイヤ払えば許してやるにゃ〜───指揮官が」
「僕!? まあ良いけどさ」
「どうせ物事の中心は指揮官だにゃ? ここの母港は指揮官大好きだからにゃ〜」
「「「「「まぁ、そうね……」」」」」
皆んなして目をそらすので、なんだか照れ臭い。
「ダイヤをくれたお礼にいい情報をサービスするにゃ」
「いい情報?」
「昨日の購買部ではデジカメ、集音器、ピッキング材料の売上が過去1で最高だったにゃ!」
「ふ〜ん…………は?」
購買部に何売ってんの!?
「購買部は実質、無法地帯だと聞いていたけど……こんななのね」
ビスマルクさんは感心しているのか、呆れているのかどちらとも取れる反応だった。呆れてて欲しい。
「流石に誰でも買えるって訳じゃ───」
「買えるわよ」
「一人一点までよ」
「あるいは物々交換です」
「3人とも何でそんなに詳しいの!?」
まさか買ってたりする? 前者二つは問題ないけど、最後のはちょっとなぁ……開かずの金庫でも開けるのかな?(目逸らし)
「ぼくも買いたかったなぁ」
「フォッシュさん!?」
「鉄血の技術で作れるだろうか……」
「鉄血の技術を無駄遣いしないで!?」
「「「「「無駄なんかじゃない!」」」」」
「あれ!? 僕が悪いの!?」
「悪いからツーショット一枚撮らせて!」
「贅沢言わないから産まれたままの状態も撮らせて貰えるかしら?」
「どっちが悪いのか分からなくなってきたよ!?」
──────
───
「みなさん、一つ私から提案があります」
アルジェリーさんとチャパエフさんの悪ノリに付き合った後、ひと息ついた神通さんが提案した。
「あくまでも可能性なのですが、盗撮カメラの販売元が分かれば、犯人が分かる材料になるのではないでしょうか」
「確かに……でも販売元なんてすんなりと分かるかなぁ───」
「闇市ね」「あぁ、確かに闇市ならありそうね」「あそこは何でもありますからね」「闇市か……私も一度指揮官の───」
「じゃあ闇市に行こうよ、指揮官くん!」
「え? え?」
僕以外の人間は目星が付いているらしく、フォッシュさんに手を引かれて連れて行かれる。話が置いてけぼりだから一緒に連れてって欲しいんだけど……ビスマルクさんは僕のナニを買ったの!? 僕の私物、何も何も取られてないよね!? ……ないよね?
「いらっしゃいませ……」
「ここが闇市か……」
闇市と呼ばれるお店は、名前に反して日の当たる───演習場の建物の横にあった。ぱっと見じゃ分からない点は闇市だけど、普通に分かりやすいところにあった。
「店員さんは不知火さんがやってるんだね……」
「指揮官が装備箱を買ってくれないので、経営が苦しいのです……」
「完全に闇堕ちしてるね……」
今度何か買わないと……でも割高すぎてね……。
「ねえ、盗撮カメラってここで売ってる?」
アルジェリーさん直球すぎない!?
「全部売り切れました」
「誰が買った?」
「いくらビスマルクさんでも、そこはプライバシーなので……」
「そこにプライバシーはあるの!?」
「「「「ありまぁす!」」」」
「それちょっとマズいヤツだよ!?」
ここですら分からないともなるとどうしたものか……アレをするしかなさそうだ。
「しょうがない、皆んな手伝ってくれてありがとね」
「指揮官?」
「今から母港全員で持ち物検査をするよ」
「みんな、急に講堂に集めて申し訳ない」
ざわざわ、と集められたKAN-SENの子達は戸惑いをあらわしている。
「今から持ち物検査をします───」
「え!? なんで!?」「うそー!?」「丸裸にされちゃう!」「アドーニスなら構わないわ!」「指揮官さまの歯ブラシはセーフかしら!?」
これ全員ざわめいているな。ちょくちょく不憫な単語が聞こえたり、僕の私物が聞こえたりしたけど気のせいだよね!?
「えっとね、僕の部屋に盗撮カメラが仕掛けられたんだ」
「「「「「あっ(察し)」」」」
「え?」
あれだけ騒がしかった講堂が一気に静かになる。あっ、て何!? これもしや……。
「みんな……───」
「盗撮カメラ没収!」
盗撮、ダメ絶対。
☆KAN-SENサイド
「ちょっと! 隠しカメラに気づかせる小娘はどいつよ!?」
「大鳳は抜かりありませんわ〜赤城さんではなくて?」
「私メイド長がそのようなミスは致しません」
「ご主人様自身は気づいていません。勘づかれたのは陣営の代表方です」
「中々厄介ね。オサナナジミとハグしただけなのに剥がされちゃったわ」
「それは残当では?」
「貴方たち、昨日の夜ちゃんとピッキングしたかしら?」
「ええ。私たち3人で外で物音を立てて、その間に設置部隊が入る作戦でしょ?」
「まさかその後、隠しカメラの捜索に駆り出されるなんて思わなかったけど」
「指揮官が陽動から帰った後に鍵を掛けなかったのも、想定外の事態でしたね」
「あの秘書艦は中々鋭い感してるわね」
「陣営代表が味方につくと厄介ね。何とかして【こちら側】に引き込めないかしら?」
「闇市利用してる時点でもうこちら側でしょ」
「まぁ本当のブツは、あの店から地下に潜らないと買えないんだけどね」
「カメラは取り除かれちゃったけど、指揮官の動画が貰えたからいいわ! クッキー食べながら観ましょ♡」
「指揮官様とツーショットしてるのはアレですが、まあ陽動作戦の報酬として差し上げますわ」
「そんなことしなくても……」
「どうしたウェールズ」
「普通に指揮官と写真を撮ってもらえばいいじゃないか」
「「「「「私たちにそれが出来ると思うかしら?」」」」
ここの母港のKAN-SENは隠密に積極的な割に恋愛クソ雑魚だった事を忘れていたウェールズであった。
☆KAN-SENサイド 終
隠しカメラ騒動から翌日。あれから監視されている感覚は無くなった【ように思える】。隠しカメラ全部取り除いたビスマルクさんも気配は無くなった、と言っていたしね。
「指揮官くん、おはよう! 今日もぼくに頼って良いんだよ!」
今日も明るくフォッシュさんの挨拶を受ける。午前5時に。果たしても僕は寝顔を凝視されていたのだろうか。
「指揮官くん、着替えさせてあげるね!」
「え!? いや、いいよ!?」
さすがに恥ずかしいから全力で拒否した。それなのにも関わらずフォッシュさんは僕のワイシャツのボタンを留めてくる。
「よし! ボタン留め終わり──────あっ……」
ふと顔を上げると目が合ってしまい、お互いの息が顔に掛かるほど近づいて……
「指揮官くん……」
「ふぉ、フォッシュさん……?」
「指揮官くんなら「「「「ドンドンドン!!!!!!」」」」───「うわぁっ!?」」
艶かしい表情のフォッシュさんが僕の手を取って、彼女の唇との距離が無くなる直前──────四方の壁と床、天井の全方位から壁ドンを喰らい、二人ともびっくりしてしまった。あれ? そんなにうるさかったかな……?
「ふふっ……」
「どうしたのフォッシュさん?」
「さっきの指揮官くんの声が可愛くて、ね?」
「そ、それならフォッシュさんだって同じようにびっくりしてたじゃないか!」
あんな間抜けな声を改めて言われると恥ずかしい思いに巻かれる。
「ふふ、それなら一緒だね。指揮官くんっ♡」
「ふぁっ!? ……ん?」
フォッシュさんにギュッと抱きしめられて再び驚くも、【あること】に気づいた。
「どうしたの───あらら……?」
二人が気づいた事──────それは僕の部屋のドアが開いていた事。そして、その隙間から幾つもの瞳がこちらを覗いていた事。瞳の数24で足りるかなぁ……。
「指揮官さまぁ? 赤城ともイチャイチャして下さりますよねぇ……?」「この大鳳がその先もお相手差し上げますわぁ〜ふふふ!!!」「お姉さんイベントよりもボーイッシュ娘との攻略なんてお仕置きしちゃうわよ!」「メイドとのイベントがお待ちですよ、ご主人様」「私ともよろしく頼む」
これBAD ENDでは?
─────────
「指揮官くんの可愛い声、撮れちゃった♫」
『フォッシュさん……』『うわぁっ!』
「闇市は何でも売ってて助かった。もっとお世話したら、もっと良い声が聴けるかな? うふふ……」
フォッシュの枕元には指揮官ボイス用のレコーダーがある事は誰も知る由は無い。