足山九音が幽霊なのは間違っている。 作:仔羊肉
今回のお話の着水点。
八幡くんがやっていたのはペン回しということで決着がついた。そんな言い訳は大半の人が信じず、あんな勢いで飛ぶわけがないと声を大にして言っていたけれど。
再演することでその文句を完全に封じる。はぁー! 私の美技で愚民どもが黙りこくるの最高に気持ちいい!
そんじょそこらのペン回しではなく、エクストリームペン回し。私のポルターガイストによるペン回しはそれは人間離れした代物。舞というよりかは武とか抜かしてきたクラスメイトたちに対してこれでもかとばかりに見事ペンは舞って見せる。
勿論、完全に誤魔化しきれたわけじゃない。クラスの中で成績も優秀な王様が『そんなわけないだろ……』とか言っていたので「なんだァ、てめェ……」とその横顔目掛けてペンを飛ばしてあげた。
頬をかすめて背後の黒板に刺さったのでそれ以上文句を言ってこなかった王様は賢いとも言える。そうそうそんな感じで黙ってろ、雑魚がって感じ。
ちなみにそんな感じで大暴れしていればドンドンと死んでいく八幡くんの目。ドロドロと死んでいくのを見て惚れ直す。しゅてき……しゅきぃ……
ともあれそんな形で不思議を不思議で無くしたのはいいんだけれど、非現実ではなく現実の問題となったのならば犯人はクラス全体から非難轟々。女王様に烈火の如く怒鳴られて、王様には苦言を混じえられて、モブ共からはやいのやいのと野次を飛ばされ晒しあげ。
なんて可哀想なんだろ、うぷぷ、可愛い。
クラスメイトから危険人物のレッテルを貼られた彼は流石に教室に残り続けることなど出来もせずに、微妙な空気のまま退場。その際に雌犬二号がなんか潤んだ瞳で見つめてきていたけど、気の所為。というかその反応何か違うくない? なんでぇ?
教室を出たところで八幡くんの足取りは保健室へ。次の時間が数学なのをいいことにどうやら午後はサボる気満々らしい。まぁ、でも今回のことは可哀想だから認めてあげましょう。
ほんと、私って甘々だよね。もう、こんなに甘やかすなんてどれだけ彼が好きだって言うんだよぉ。いっぱいちゅき。
保健室の方向へ歩いていく途中に八幡くんは雌犬一号と遭遇した。お昼を誘われたが、お断りする。その際に押し切られそうになったことは減点だけど。
雌犬二号の潤んだ瞳に気づかずに、雌犬一号の捨てられた犬のような目を振り切ってたどり着いた保健室。
一号と二号はどうやら一緒にお昼を約束していたようで、教室の騒ぎもそのうち耳に入るだろう。
つまり間接的にあの雌犬一号の耳に入るように仕向けたことになる。ペン回しの話を聞けばあの犬だって八幡くんに対して好感度は下がるだろう。なんてペン回しなのかしら、かっこいい、しゅき……なんてなるわけない。ペン回しが上手いくらいで好感度が上がるのは小学校低学年男子くらい。
私ってほんと策士……えんぼーしんりょにも程がある! ほんとほんと、偶然とかじゃなくて私のちせいの勝利。
そんなわけで数学を無事にサボって放課後。
比企谷くんはいつものように職員室に呼び出されていた。いつも……? 可哀想……。
『それで? 比企谷。そのエクストリームペン回しというのはどういうものなんだ』
こいつ頭の中、小学生男子かよ……。キラッキラとした瞳でペンを渡してくる担任教師。
軽いお説教のあと、そんな危ないことは教室でやるなよと警告してさぁ今からが本題とばかり。
『なんでそんなに興味津津なんですか』
『エクストリームだぞ? エクストリームスポーツと聞いて憧れない人類がいるか? いや、いない』
わざわざ反語を使ってまで強調する女教師。完全に女捨てちゃってる……。
インターネットのアングラやネタサイトで有名なエクストリームスポーツには少年の心に響くものがあるのだろう。いい年なのに。
そんなわけで八幡くんはペンを渡されて職員室内でペン回しをする羽目に。完全に目が死んでる。
やだ……今日の八幡くん、素敵しゅぎない……? まぁいつも素敵なんですけどね!
そんなことを考えながら彼の親指と人差し指に挟まれたペンをポルターガイストの容量でくるくると回し始める。
目の前の女教師は目を輝かせては驚き、職員室に居る他の先生も遠目から『おぉっ……』と驚愕する。
『こ、これが黄金の回転……ッ』
この人の記憶の中には少女時代というものがあったのだろうか。くるくるくる、くるくるくると指先だけではなく腕周辺、ひじ、二の腕を旋回しては戻り最後は元の位置へ。締めに大袈裟に音を鳴らして指で挟めんでキャッチすれば、返答には拍手が。
とりあえず満足したらしい平塚先生は彼が差し出すペンを受け取り、トリックでもないかひっくり返したり、分解したりと忙しい。
八幡くんと私はその光景を呆れながら眺めていた。そんな視線に気づいたのだろう、照れるように咳払い。そこから二度と教室内に人が居るように注意してくるのだから威厳がクソほどもない。
『しかし比企谷、君は本当に職員室によく来るな』
『問題児のつもりなんて無いんですけどね』
『現実から目を背けるな。君は紛うことなき問題児だよ』
いつものように煙草を取り出す不良教師。勿論、喫煙室ではないので火を点けることはない。口寂しさを少し紛らわしながら再び煙草を机に置く。
『君はアレだな。問題を起こし続けるな。一度、その顔に麦わらの髑髏でも描かなければわからんか?』
『流石に顔面を壁に打ち付けるような奇行は頻繁にしてるつもりないですけど』
『頻繁じゃなければするのか……』
ドン引きしている女教師。いやぁ、懐かしい懐かしい。そういえばポルターガイストを覚えた当時は何度かそういう目に合わせたんだけっけ?
とはいえ暗喩された大人しくしろという部分において彼が出来ることなんてほとんど無い。むしろ無い。
というか何で八幡くんって自発的にアレコレするわけじゃないのにこんなに毎回ひどい目に遭ってるんだろう、可哀想。一体、誰の仕業なんだ。
『君だってガミガミ言われるのは好きではないだろう? それも女相手に』
『や、別に女どうこうってあんま関係ないんじゃなんですか? それに平塚先生は美人ですしそういうのがご褒美だって一定数居そうですけどね』
それはそう。ガミガミ言われるのに男女関係ない。むしろ男であろうが女であろうが嫌なモノ。
『よ、余計なことを言うなっ……まったく。しかし、君のその男女平等観というのは好ましいものだがな。まぁ、世の中はそう上手くはないものだ』
ポツリとこぼれた言葉。それは――耳に入るには余りにも小さくて。会話のためではない、まるで愚痴のような言葉を。
この男の子はあろうことか拾ってしまう。
『や、そんなもんでしょ。だって出る杭は打たれるわけですし』
『でる、杭?』
『え? いや、平塚先生の話じゃないんですか? 生活指導とか色々やってみたいですし。そんなの先生が優秀だから打たれてるわけで。男とか女とか以前に仕事を任せれるのはやっぱ先生が凄いからじゃないんですか? それに嫉妬とかも混じってるとか。なるほど、そうなると俺は優秀さを示さないように、もぐらたたきや杭のように頭を出さず、誰かに見つかるような尻を出す真似なんてこともせずに――先生?』
うんうんと頷いている八幡くん。スタップ、すたっぷ、ストーップ! 何、お前、ナチュラルに口説くというかよいしょしてんだよ!
返事やリアクションが無いことに不審に思ったのか彼は目の前の女性の名前を呼んでみる。
『ッ、わかったわかった、君の戯言はもういいよ。お説教はこれくらいにしておく。君も寄り道をせずに奉仕部へ向かうように』
慌てた手付きで煙草をとって喫煙室の方向へ。雑に解放された彼は『なんか不味い地雷踏んじまったかな……』と見当違いの方向へ。違う、バカ、そうじゃない。
私は見ていた……見ていたぞ、と恨みを込めるかのように睨む。ほんと、こいつは……本当に、この男は。
間が悪い。
卑屈めいた言葉で、皮肉めいた自虐で言葉を流すつもりだったのかもしれないけれど。本質は、本音は、本心は――しっかりと届けたい言葉を、相手が欲しがっていた。君にではなく、君以外の誰かに求めていた言葉だとしても。
たったこれだけで、と思うかもしれない。けれども私は見ていたのだ得意気に語る彼の眼前で見る見るうちに顔を惚けさせ、顔を赤らめ、瞳が潤んだ瞬間を。
君みたいな奴がそんなことを言っちゃ駄目だろう! 駄目だってば! むしろ捻くれ者で皮肉屋の君がストレートに褒めたら駄目なんだって。だって、だってだってだってだって。
そんな本心で褒められたのなら嬉しくて仕方なくなるのは私が一番体感している。
ほんと、間が悪い上に性質が悪い。
も、勿論、女教師だし、大人だから大丈夫だよね! 距離感も何もかもが遠く、同い年や年齢の近い男女では無いんだから大丈夫、大丈夫。そ、それに比企谷くんは高校生。高校生は犯罪だし、そんなことないないありえない。
自分で思って薄っすらと冷や汗をかく。
いやいやいやいや、ないないないない。教え子に手を出すなんて三流の官能小説じゃあるまいし。教師として褒められて胸がポカポカしたからといって恋に落ちるだなんてどんだけ恋愛耐性低いんだよって話なんですよ。まったく。どんだけ男に飢えてるわけ? あの見てくれなら男に困ってなんて居ないんだろうし! 大丈夫、きっと大丈夫。
そう言い聞かせてふと今朝のニュースを思い出す。日本の教育現場の闇。小学生教師、出会い系アプリであった少女への強制猥褻で逮捕。
「……」
蘇るのはこの一年で知った様々な噂。教え子との結婚。年の差カップル、在学中のお付き合い、彼女が学生の間は健全なお突き合いをしていまたした。
いや、こ、こんなの噂だし、ごくごく少数のお話……少数とはいえ居るんだよね。
飲み込んだ唾音がやけに自分の中で響く。
「は、八幡くん、ちょっとトイレ」
『……何いってんだ、お前』
呆れたような返答を受けて私は彼の側を離れる。そして喫煙室の中へ。そして目的の女教師はソファーの端で。
喫煙室に飛び込むまでの間、わずか三秒。
その間にボケナス八幡くんに文句を呟く。ほんと、こいつなんで無意識天然で心のスキマお埋めしてるわけ? 敏腕営業マンかよ……喪黒さんだってもうちょい順序立てて行動する。
も、もしもだよ?
例えばの話。働いている女性で今の同僚や周囲の人間に男っ気がなくてどんどんと同性の友人も減っていって、苦楽を分かち合う相手が現状殆ど居なくて、それでいて休日は無為に過ごし、結婚に憧れているような女に優しい言葉をかければ病んじゃうかもしれないんだぞ。ほんとすぐに病むぞ。ストレスと上手に付き合えていない女に優しくするとすぐに依存先に認定されて勝手に依存物にされちゃうんだからな!
彼に対して内心だけでお説教をする。うちの八幡くんがごめんね。わ・た・しの八幡くんが本当にごめん。
とはいえ、多少の危機感はあれどそこまで心配はしてない。ほんとほんと、ここにこうやって見に来たのも一応だし。相手は大人だし、八幡くんのことなんてそういう対象になるわけない。ほんとほんと、社会の闇とか病巣とか遠い世界の出来事。そうそう、そのはず、そう……
私はそう信じながら女教師を見る。瞑目したままタバコを深く吸い込み、そして天井を見上げて紫煙を吐き出す。そして――。
『……比企谷、か』
うっそでしょ、あんた。嘘だよね、教師。働け社会通念、戦え職業倫理。
女の顔とも呼べる表情で彼の名前を呟いていた。いやいや、そういうこととは決まったわけじゃないし。だ、大丈夫、大丈夫、平塚静はきっと強い子! 休日は女友達と楽しくショッピングしたりランチしたり、時々合コンで男を見繕て、コンパで隣の席のやつといい感じになったり。そんな感じで人生を楽しんでいるはず。決して男に飢えているなどきっとない。それにほら見てくれはまぁまぁなんだし! 大丈夫大丈夫、八幡くんは大丈夫……。
無性に不安になったので職員室へ戻る。
「……居ない」
職員室に戻れば彼の姿が見えない。私は頬を膨らませて廊下へ飛び出る。そして特別棟の方向へ歩く猫背の姿。
「居た! どうして置いてくの! こんな可愛い子を置いてくなんて信じられないよ! 甲斐性もって! いますぐ持って! ちゃんと勉強しといて! でもやっぱり持ちすぎないでっ!」
『……いや、お前がわけわかんないこと言って勝手に消えていっただけなんだが』
「わけわかんないことなんて私が言う筈ないでしょ!」
『もう、それでいいか……ハァ』
溜息を吐く彼の背中に乗っかる。相変わらず鬱陶しそうに此方を一瞬だけ見る目に私は微笑む。
これだけ近いのに触れられない。耳たぶを甘噛みできるような距離、彼の髪の毛の匂いを嗅げる距離、ちょっと強引に振り向かせれば唇を奪える距離。それでも永遠に私たちは重なれない。それが酷く悲しい。
ほんと、ままならないな。
彼の背中に取り憑いたまま振り返る。もしも一年前、もっと素直だったら。もしも一年前、もっと君に好意的に接していたら今よりももっと仲良くなれたのだろうか。もっともっと素敵な関係を築けていたのだろうか。
例え、八幡くんがあの時の態度を水に流したとしても。水は決して戻らない。盆から流した水は水として流れることしか出来ず、ナニカがあった痕跡を消すことなどできない。
彼の息遣いが聞こえる、彼の鼓動が聞こえる、彼が――生きていることを感じる。
偶に嘯いて死んでもいい、死んでも一緒に居てあげるなんて私は言うけれど。彼が助けを求めるのなら私は助けてしまう。生きたいと願うのならば助けてしまう。そうやって幾つも私は誤魔化すんだ。誤魔化しきれなくなるその日まで。彼がその秘密に気づくまで。
――自分が死ねないと絶望するまで、私は誤魔化し続ける。
今の彼の状態を振り返る。その時、私はアメリカの宇宙人の話を一緒に思い出してしまう。
キャトルミューティレーション。
動物の死骸が惨殺される事件。血液の中身が全て吸い取られた変死体。アメリカで爆発的に流行った都市伝説。事件現場からは謎の飛行物体に対する目撃証言が相次ぎ宇宙人の仕業であると信じている人もいる。動物の変死体は宇宙人の実験結果による産物だという噂も流布している。そして中には宇宙人に浚われた人間の御話も。攫われて改造された人間も居るらしい。
けれども私は思うのだ。自分を改造されたということを知っているのは何たる幸運なのか、と。もしも知らない間に自分の身体が何か別の物に変えられていたとするならば、それはどれほど怖い話なのだろうか。本人にとってどれほどの恐怖を与えるのか。
それこそ水の化物。水に纏わる化物。魚の化物――人の形をした魚の化物。
今なら理解できる。死ぬと思って目を閉じた彼が目覚めた理由を。能天気にも運が良かったなどと安堵していた自分を殴り倒したくなる。それでいて正体に気づくまでに時間を必要として、気づいた時には既に手遅れで。それでいて教えてあげることも出来ずに。そして今もなお、隠し続けている。
彼は気づいていない。自分の体のことを。
総武高校という不穏な場所、足山九音という幽霊に憑かれている現状、比企谷八幡という数多の依代を意味する名前――そして身体を化け物に侵食されている、いや違う、彼自身が一種の化物となりつつある事実。
ストーカーの時に彼が吹き飛ばされて大した怪我も無く済んだと云う頑強さ。血溜まりを作り上げるほどに神様に殴られても翌日にはピンピンしていたという回復力。僅か一年間の筋トレで現役の陸上部に並ぶ、超える健脚や重い物を軽々ともてる筋肉の成長率。くっきりと霊痕があるにも関わらず不自由なく動ける肉体。
そもそもが山奥で死にかけておいて助けがくるはずも無い場所で腹を貫かれて血を流しておきながら。瞳孔が開き、呼吸が完全に停止しておきながら――それでいて唐突に息を吹き返すなんて、生き永らえるなんてそんな都合のいい話なわけがない。
あの化け物が、あの魚の化け物が残した呪い。死ぬ寸前で、未だに瞼の裏にこびりつく光景は――自分の舌を切り落として、食べさせた。
比企谷八幡を騙そうとペラを回していた二枚舌の一枚を食べさせて、刺身を食べさせた。自らの刺身を。
呪ったのだ、私と彼を。
――水に纏わる御話は誰も救われなかった。私も彼も。
金野龍子はその回復力で私たちを殺せたかも知れないのに関わらず本願を為さなかった。
カップルの片割れは化物に女を差し出して車で逃げる途中に事故にあって気をやった。
差し出された女は水死体となって浮かんでいた。
そして比企谷八幡は――何も知らされずにその身を化物に変えられた。
誰も救われなかった、何も救いがなかった。生き残っている狂った男は精神病院の閉鎖病棟で歌うらしい。耳障りで呪いじみた声で。まるで歌っている時だけ別人が歌っているとばかりに。
あんな不愉快な存在のことはもうどうでもいい。けれどもそれ以上に不愉快な女の姿を思い出して――。
『九音……?』
一階廊下の踊り場、そこで私は唐突に声をかけられる。
「はえっ!? ど、どうかしたのかい、急に? えっ? 何々」
『……なんでもねぇよ』
どこか此方を伺うかのような瞳。心配かけちゃったのだろうか。私にはわからない。
少なくとも一年前に彼があの大女に惚れていたなんて致命的な勘違いをしていた私には自惚れて彼の心を完璧に代弁することなどできやしない。
それでも今なら少しだけわかるのだ、振りかえって、ようやく。
違ったのだろう、あれは恋なんかや好意なんかでなくて。自分にも優しくしてくれる人が居るという可能性を、その可能性を。自分より凄い人が、自分より立派な人が、自分なんかに優しくしてくれる。
自分より優れている人間と話した時に少し嬉しくなってしまう、そんなボッチ特有の感情。多分、そんな感じ。
それを勝手に穿って、勝手に勘違いして、勝手に決め付けて。
だから私は知った風な口で彼の本心を語ることはできないだろう。おどけて口にすることはあったとしても真面目に本気で言葉にするつもりはない。出来る筈もない。
きっと、私と彼は永遠に理解し合えない。そんな両方向の素敵な関係は築けない。
だから、せめて、せめてだ。
彼は私を愛してくれなくてもいい。空っぽの言葉でいい。私はそれで嬉しいから、それで満足だから。私が君を愛するだけでいいんだから。
もしもこの先、彼が自分の身のことに気づいたとして。それで絶望したとしても私だけは傍に居る。ずっと私だけが君の悪霊で在り続けよう。
ただ、君が、君が人であり続けたいと思うのなら。私は祈るしか出来ないけど、祈る言葉くらいしか呟けないけど。
人間として――君は死んでもいいんだって祈り言葉を零すことくらいは。
「ねぇ、八幡くん。そういえば、さ。前に一緒の墓に入ろうって君に言ったことあるじゃん? でもでも、よくよく考えたらさ、一緒の墓に入るって最高にエッチな言葉だよね。ほら棺に中に二人で入って一体何をするんだよぅ、って感じ。というかナニするわけ? ねぇねぇ、一緒にお墓に入ろうよー」
『一人で入ってろ、馬鹿』
呆れた視線に私は頬を膨らませる。今日もつれない君が好きだ。
私は比企谷八幡が好き。君は知らない君の体のことも、私だけが知っている君の秘密も言えはしないけれど。
私は――比企谷八幡を愛している。
※感想ありがとうございます。本当に嬉しいです