Fate/Saver The fate~アルトリアが好きな少年が起こす人理修復の旅~   作:空色 輝羅李

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第10話

 

 

...とうとう、やり遂げたんだな。

 

俺たちカルデアの一行は、第一特異点、オルレアンの聖杯を獲得し、問題を解決した。

したのはいいのだが、問題はまだまだ山積みだ。これから先、あと六か所の特異点解決を目指さなければならない。

 

...カルデア関係者としての問題は、これがでかいが、俺個人の問題は、他にある。

 

人間関係。この言葉だけであれば、ただ人づきあいが苦手なように聞こえるし、実際その一面は否定できない。しかし、そうではない。

 

オルレアンから帰るとき、問題が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...あぁ、貴方。待ちなさい。」

 

竜の魔女に、呼び止められる。うん、特異点の、ジルに作られたジャンヌオルタだな。

 

その呼び声に反応して、なんだ、と尋ねる。少し遠く感じる距離だったので、近づいた。

 

すると、胸元をつかまれ、

 

「忘れないことね、私と一緒に地獄へ落ちるのよ、貴方は。」

 

と言われて、唇を奪われた。

 

「...えっあお前退去で逃げるな!」

 

完全に消えきる前に何かを言ったようだが、そこは聞き取れなかった。

 

...なぜだ。なぜいきなり、キスされたんだ。何気初めてだったんだぞ。

別にちゃんとしたシチュエーションでーとか言うような乙女ではないが、それでももう少し、何かあったのではと言いたくなってしまう。

 

こちらに残っているジャンヌは、

 

「み、見るな!燃やすわよ!?」

 

という照れ隠しをしていた。いっそのこと一思いに燃やしてくれないだろうか。今ならいい感じに燃え上がれそうだ。

 

「...マスター、あなたに告げなければならないことがある。」

 

アルトリアが、ものすごく真剣に口を開いた。眼も、見ているだけで委縮してしまいそうなほどに力がある。

俺にこの状況で告げるって...いやまさか。うぬぼれるのも大概にしとくんだな俺。

 

「...これから先、貴方は選ばなければならない。一人を愛するか、それとも全員か。これは必ず、貴方の意思でどちらか選ばなければならないのです。意味はわかりますね、グレン。」

「...立香だけか、全員か。だろ?」

 

彼女は頷く。

俺は俯く。

 

どうしろというのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということがあった。俺個人での、大問題だ。

俺は今回の特異点で、いろんな人物とともに過ごし、わかったことがある。

立香が好きだ。でも...他のみんなも好きになってしまった。

 

なぜこんなにも不誠実なことを確信をもって言えるのか。それは、立香に対して抱く気持ちが好きに変わり、その気持ちを「好き」と言えるのなら。

アルトリアにも、ジャンヌにも...もちろんオルタや、他のサーヴァントたちにも。同じ気持ちを抱いていた。

 

しかし、やはりこれは不誠実だ。一人の女性に告白され、気持ちが曖昧だからと答えを濁した。だというのに今度は、皆が好き?クズかよ。

...他人にならどんなに簡単に言えたことか。

こんなことをずっと考えていたおかげで、特異点から帰った後のロマニがいっていたことは頭に入らなかった。

 

かろうじて聞いていたことと言えば、ひとまず、次の特異点が見つかるまでには時間がかかるらしい。

 

八月を少し経て、残る特異点は、六。今年が終わるまで、四か月と少し。

...間に合う、だろうか。

 

「ねぇ、紅蓮ってば!」

「うわっ!立香!?」

 

しばらく呼ばれていることにすら気づかなかった。

...顔が近い。前までならこの程度で動揺しなかったのに、今では心臓が落ち着かない。

 

「どうしたの...?」

 

だめだ、目を見るのに精いっぱいすぎて、挙動不審になっている。恥ずかしい。

 

...言わなければいけない。しかし、覚悟はしなければならない。嫌われるということに対して。

 

「立香、話がある。これからいうことで、嫌いになってもらっても結構だ。それくらいのことだから先に言っておく。この前の告白に対しては...すまん。だが、俺はお前が好きだ。」

「...えっと?私が好きだけど、付き合うのは嫌なの?」

 

嫌なわけないだろ。でも、こればかりはどうも、立香に判断を委ねなければならない。

 

「俺が好きなのはお前だけじゃない。他の...サーヴァントの皆もなんだ。だから...」

「...紅蓮。誰が、一番好き?」

 

一番...?

 

それは決めづらいな。

だって、皆いいところにあふれているから。

一番長く一緒にいたのは立香だ。それは間違いない。でも、それだけで一番になる、というわけでもない。

 

「よかった。それを聞いて安心したよ。やっぱり紅蓮は紅蓮だね。」

 

どういう意味だ。俺は今馬鹿にされたのか?

 

立香は少し、こちらに近づく。身長が大差の無いせいで、顔が近くなるのが、早い。

 

「私はね、紅蓮。そんな貴方だから好きなんだ。」

 

そんな甘い言葉の後。良い匂いとともに、唇に柔らかい感触が伝わる。

...勝手にキスされるの二回目なんですが。キスってそういうものなんですか。初めて知りました。

 

「えへへ...初めて、だね!」

「え...うん、そう、だね。」

 

ジャンヌオルタにされたことは黙っておこう。うん。これは必要な嘘、だよな?

 

ちなみに。余談なんだが。この場はもちろん。俺がずっとぼーっとしていた、管制室である。つまり、ロマニも、マシュも。アルトリアにジャンヌも。モルガン達だっているし。玉藻が一番ニヤついてるのも見た。

 

...公開告白してたの俺!?

いやまあ告白と言う文字通り打ち明けるという意味合いでは正しい方法かもしれないけどこんな大勢に見守られながらみんなが好きだなんて言っちゃう痛いやつどう考えても痛いだけじゃねえかていうか皆なんで黙って聞いてたんだよロマニにいたってはコーヒーめっちゃ飲んでるしマシュは自分も含まれてるのかめっちゃ考えてるし。

いかん。頭の中でめっちゃオタクしてた。

 

嫌な予感がした。なぜなら目の前の立香は、いつも通り嫌な顔をしている。

嫌な顔と言っても可愛いのに変わりないけどね?

 

「まさか、そこまで頭が回らなくなるなんて、ねぇ?でもま、そんな紅蓮も...大好きだよ?」

「やめろ改めて状況確認したのにそんなちゃんとみんなの前で言うなんてやめてください恥ずかしいです。」

 

...これでよかったのだろうか。本当に、こんな選択で。

うん。これでよかったんだ。少なくとも、これから、あのときこうしてよかったと、思えるようにしていこう。

 

「やるじゃない、色男。」

「やめろモルガン。俺よりマーリンをいじってこい。」

「貴方といる方が面白いわ。言ってること、わかるわよね?」

 

...いつの間にそんなフラグあったんですかねぇ。

 

とにかく、いったん自室にでも戻るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベッドに倒れこみ、しばらく身動きをしない。

じっと、このやさしさに包まれていた。

 

「フォウ?」

「...フォウ、お前はいいなぁ。転身でもしたんだろ?どうせ。楽だよなぁ、過去のしがらみにとらわれず、自由に生きられるんだから。」

「フォウ...」

 

あいにくフォウ語はわからないが、傷つけてしまっただろうか。

 

「すまない、嫌味で言ったわけじゃないんだ。ただ、自由という言葉の響きは、人間にしてみれば、すごく憧れるものなのさ。」

 

うまく伝わったのかどうかわからないが、おれの顔に近づき、眠り始めた。

気は許されているのだな。

キャスパリーグのくせに妙に優しい。暖かくて、つい一緒に寝てしまいそうだ...

 

「マスター、今、いいでしょうか。」

 

アルトリア?このタイミングで?

...まぁ、断る理由もないし、ベッドに座りなおしながら、中に入ってもらうことにした。

 

少し、アルトリアのことを、思い出そう。

 

アーサー王伝説や、それに関連した物語でよく出てくる、ブリテンの王、アーサー王。アルトリアというのはそのアーサーの幼名。

王としてとても有名で、ギルガメッシュという最古の王よりも、日本ではなじみ深い。

アーサーは、もともとは王家の子という自覚はなかった。それでも、偶然の折に、剣を引き抜き、王になった。彼/彼女は、なるべくして王になったとも言える。

円卓の騎士は、たくさんの国から集まって、団結し、たくさんの英雄譚を残していく。

初めて本を読んだときに、王としての姿を残し、王としての在り方を魅せてくれたアーサーに、少なくとも憧れていた。

 

そして、第五次聖杯戦争。俺は彼女が召喚されたということを知った。

...当時の俺はまだ幼かったので、本当にただの興味で、アーサー王の存在を確認したかった。その雄姿をこの目に収めたかった。

だからこそ、驚いた。アーサー王が女性だったことに。

 

まあ性別と言うのはそこまで重要な伝承ではない。神話においても男神だか女神だか決まっていないやつだっている。だから、性別なんて関係ない。

...関係なかった。

彼女の戦う姿は、美しかったのだから。

 

「...どうかしましたか?」

「ああ、ごめん。少し昔のことを思い出していたんだ。」

 

アルトリアは詳細を聞かずにいてくれた。こういう優しさが自然と出せるから尊敬するよな。

そういえば、アルトリアは何の用でここに来たのだろうか。

 

「もう一つ言わなければならないことがありましたので。」

「待ってくれアルトリア。それはとてもじゃないが...心の準備が必要だ。」

「いいえ、待ちません。」

 

アルトリアは、とても強引に。しかしこちらに少し身を委ねるように。抱きしめてきた。

 

どうしよう。臭くないかな。帰ってきてからまだシャワーすら浴びることができていない。

 

どうしよう。今日一日中けたたましく鳴っていた俺の心臓が、とうとうピークを迎えてしまった。こんなにも密接しているアルトリアに、伝わらないわけがない。

 

どうしよう。こんなにも、恋というものは、人を変えてしまうのか。物凄く、胸がキュンとしている。

...まるで乙女ではないか。どうしてこう、抱きしめ返すくらいの余裕も出ないものか。悲しきかな。

 

「...グレン。私は貴方を、愛しています。」

 

愛されてる...

 

待て。落ち着け俺。幸福感に満たされて何も考えないほどの馬鹿になるな。

 

愛だと?この短期間で?少なくともそれは起こりえない感情だ。どれほど愛多き人でも、それなりの期間を過ごさなければ、愛という感情が芽生えるはずが...

 

もしかして、軽い感じの愛...?

 

「自分ではあまり言いたくありませんが、重いと思いますよ。」

 

それは確かに自分では言いたくないな。しかし重い想いか...最高の駄洒落じゃないか。

じゃなくて。

では尚更、短期間で愛という感情が芽生えることに着目しなければならない。

 

「それは、貴方が自分で知ることになる。だから、まだ知らなくていい。」

 

前にも同じようなことを言われ、濁された記憶がある。

...アルトリアに対してなんの疑問も持っていない。むしろ信頼マックスだからこそ、これを受け入れることができる。

しかし...俺は俺についても皆についても、知らないことが多すぎる。

知りたいが、その時ではない...情報開示を待つゲームアプデ情報待機組の気分だな。

 

...いつまで抱き合っているのだろうか。

そりゃまぁ嬉しいのに変わりないんだけどさ。変わりないんだけどさぁ。

 

好きな人とここまで顔が近づくのは、心が少し...大分...世界を揺るがすほど。はさすがに言い過ぎだが、落ち着かない。それに、彼女は今、俺の上に座る形で抱きしめている。

男子高校生には刺激が強いんだが!?

 

と、しばらく悶えていたら、扉が開いた。待って恥ずかしいちゃんとノックしてくれまじで!

 

「マスター、話が...あぁ、そのままで構わない。聞いてもらえるか。」

「...士郎って呼んでもいいんだよな。」

 

少々むず痒い様子で、渋々、嫌々了承してくれた。

というかこの状態で良いってお前どんな鉄人だよ...俺だったら扉開けてすぐ閉めて逃げるな。

 

さて、話があるというからには、それなりに重要なことなのだろう。世間話をするとき、わざわざ話があるということはあまりないはずだ。「聞いて欲しいんだけどさぁ...」と言って始まる話は、大体ノロケか自慢か。それなりにくだらない話が多いからな。

 

「君に話さなければならないことはたくさんあるのだが...すべて話すには人がいないときが好ましい。今は最低限のことを伝えておく。」

 

人に聞かれたくないような話なんて一体どんなスケベなんだ。きっと違うだろうけど。

というより、先ほどから士郎の話し方の方が気になっている。カルデアに来る前の士郎は、もっと砕けた印象で、とても話しやすかったのに。

でもまぁ...エミヤから聞くには、士郎の成長した姿、らしいからな。落ち着いているのは最もな雰囲気だ。

 

「君の魔力の核と、小源(オド)の仕組みについて、壮馬さんから伝えておくよう言われたことがあるんだ。」

 

...親父が、俺ではなく。知り合いの養子に。そうか...それほど士郎は信頼されていたんだな。

 

「君が落胆する必要はない。彼は、君に伝えるのが怖かったのさ。私がもし同じ立場だったなら、同じようなことをしただろう。攻めるなとは言わないとも。しかしその気持ちも、理解してやるんだ。」

 

それは構わない。というか諦めに近いな。

親父が俺に伝えなかったことは今までにたくさんあった。俺のために魔術の世界で奔走していたことさえ、去年知ったことだ。それでも、俺のためだったんだから。

なら、俺は黙って親父を信じて、自分で真実を探していかなければならない。親父の考えを、理解しなければならない。

難題ではあるがな...

 

小源(オド)。自身の中に存在する魔力のこと。それとは対照な場所にあるのが大源(マナ)。自然と言うか世界と言うか。が作り出す魔力。

この二つでどちらが大きいかと聞かれれば、当然マナの方である。

現代ではマナがほとんど枯渇しているため、化け物じみた魔術を発動させるのは難しい...まぁ、霊子ダイブなんていうアホなことしたら、過去にいったりだか別次元行ったりだかで、過去の化け物魔術を扱える。つまり特異点とか...うん。

しかし、正直マナなんてなくても、オドで十分なんだよなぁ...

 

「それが問題なんだ、紅蓮。」

 

問題?それはないだろう。俺の知る限り、オドだけで魔術を行使するのが現代の主流だ。三千年もさかのぼれば、問題になるだろうがな。

...さて、親父の話でも聞こうか、人伝に。

 

 

 

―――――――

 

私は、マスターに真実を伝える。

しかし、壮馬さんのことだ、きっとこれだけでもないと思う。

私の知らない、そして本人も知らないことってのが、たくさんあることだろう。

...あの人に関しては、また今度思い出そう。考えれば考えるほど時間がいる人だったからな。

 

「...待てよ士郎。そんなの、俺の起源が自然でないとおかしいくらいには変なこと言ってるって自覚あるのか!?」

「あるとも。だが、私は言われたことを伝えたまで。」

 

マスターがこうなるのも無理はない。私も初めて聞いたときは食って掛かったとも。

...しかし、彼は嘘をつく人ではなかった。だから、マスターも私も、疑うことはできない。つまりこの、絵空事を信じ、生かすことが必要になる。

 

しかしまさか、自身の魔力の核で、マナに匹敵する魔力を作り出せるとはな。存在するだけでまず命が危ない。マナのなくなった世界で、マナと同じ量を確保できるというのなら、魔術師の毒牙にかかれば搾取される一方だ。

更に問題があるとすれば、その濃さ、だろう。

第五真説要素...真エーテルに届きそうなほどとは。そのほとんどが魔力で構成されている英霊と言う存在においても、ありえないことだ。

 

「...そういえばさ、士郎。俺は、触媒無しで英霊を召喚しているし、使役する英霊はほとんど俺からの魔術供給だけで活動している。これも関係あるのか?もしくは、伝えられているのか?」

「それについては...()()()()()()()()()()()()()な。」

 

しかし、一部を伝えることはいいだろう。それくらいは、許してほしいものだ。

 

太公望の一族は、第一から第五までの全ての魔法を扱える。これを彼に伝えることは簡単だ。でも、それでは意味がない。彼自身がそこまで到達する必要がある。

...そうでなければ、ならないからだ。

 

さて、真実を隠し、されど一部を伝えるにはどうしたものか。と、しばし思案する。不安そうにこちらの様子を伺う姿を見て、笑みが零れてしまった。セイバーには笑われてしまったが...彼女は、私の知る彼女ではないのだろう。世界線が...おっと。これ以上は話の脱線が過ぎるな。こんなことを考えているうちに、いいことを思い出した。

 

「アインツベルンの作り出した聖杯が、どんなものかは知っているか?」

「もちろんだ。第三魔法の一部をひっぱってきた代物だよな。」

 

それならば話が早い。

英霊召喚と言うのは、元は偶然の代物だったのかもしれないが、しっかりとした降霊の儀式として確立したのは、アインツベルン...聖杯の製造者だ。そして、この聖杯の機能と言うのは、第三魔法を発動させること。その準備のために、英霊の魂を降霊する。それが私の(皮肉なことに実際参戦したのだから当然)よく知る聖杯戦争。

つまり、聖杯の力があれば、魔法を使い、英霊を召喚できる。

...聖杯だけで魔法を使えるというのは極論なわけだが。

そして、私は()()()()()()()()()()()。なぜか?頼まれたから。誰に?

 

「...面白いことするじゃねえか。そっから聖杯の中にある術式や、イリヤスフィールというお嬢様に教えてもらった礼装の術式を、組み込んだってわけか。」

 

普通ならば、それを作ることも、読み解くこともできない。だというのに、壮馬さんは、息子のためになると信じて簡単にやってのけた。彼は...根源を拒絶したのに。

 

――――――――

 

まるで意味が分からない。脳が理解を拒んでいるのではない。俺がその領域に達していない。

というか、ホムンクルスを使うとか人間の心ねえだろ発案者。

なんで魔法の領域の術式を使っちゃうの親父。親バカか?親バカだな。

というか...聖杯って...うん。壊れた戦争の勝者はいなかったはずだ。なら、冬木にある術は満たされず、発動しないならば聖杯も顕現しないはずだ。というのに手にしたということは...

 

「...変質者を見るような目で見るな。あぁするしかなかったんだ。」

「...ロリコン...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、親父のおかげで難題がもう一つ増えたところで。

 

「ロマニ。時間あるか。片手間でもいい。」

「もちろん。好きなときに来てくれと言ったのは僕だからね。」

 

そんなわけで、堂々と医務室に入る。

 

「マスター、何か怪我でもされましたか。」

 

...まぁ妥当だな。婦長だし。いてもおかしくはない。うん。

でも貴様だけはユルサン怖くって三メートル以上は離れてもらいたい。

 

「何を言う愚患者め。僕はまだ、なにも手を下していないだろうが。」

 

アスクレピオス。何を隠そう、アスクレピオスなのだ。

彼を召喚できるだろうという予想は、ついてはいた。しかしここまで()()の医者で応じるとは思わなかった。

彼の話を知っている俺としては、もっと...治療することへの狂気じみた執着があってもおかしくないと思うのだ。

それについては、バーサーカーの彼女にも言える。

 

「...私の顔に、何か?」

「いや、バーサーカー特有の、意思疎通の齟齬や、狂気を持った異常なまでの治療に対する行動力が無いのが、不思議でさ。」

 

それに関しての説明を、とロマニが前に出た。医者と看護師は書類を読み漁り始める。

 

ロマニの話を聞くに、俺と契約した英霊のほとんどが、霊基の性質が本来とは違ったものになっているらしい。それは先ほどの二人も例外ではない。しかし、バーサーカーというクラス特有の「狂化」がないわけでもないのだ。

 

...どういうことかといえば、バーサーカーのヘラクレスがずっとまともに会話できるってこと。意味わかんねえ...第五次聖杯戦争の彼を見せて回りたいものだ。

でも、意思疎通を問題なく行えるのならそれに越したことはないが...英霊として失うものもありそうだな。

 

「それについても検証させてもらったさ。サリエリ君を使って、ね。」

 

と、万能の天才が言った。いつの間に現れていつの間に実験したんだ...

 

サリエリ。本来召喚されるべきでない存在だ。そも英霊としての基準を満たしていない...と思う。

それでも、周囲の人間が語り継いだ、モーツァルトを殺した人物という伝承により作り上げられ、無辜の怪物としている。反英雄...だろうか。まあそんな英霊なわけだが。

しかし、彼の存在する理由である「モーツァルトへの憎悪」も、俺との契約により、相対しても発狂せずに済むらしい。だというのに、彼のスキルでもある無辜の怪物も、アヴェンジャーとしての忘却補正も、完全に効果が発揮されていた。

 

...訳が分からない。英霊として存在する原因が、隠れている状態なのに、それでも自信を失わずに存在するなんて。それこそ婦長に診せたいものだ。

 

「さて、本来の目的を忘れそうだから、今のうちに話してもいいか?ロマニ。」

「もちろん。今は人に任せることができないって程でもないからね。」

 

そういって、ロマニは俺に紅茶をくれた。

 

目的。俺が医務室にくるのは、ただ婦長の働く姿を見に来たとかそういうわけではない。当たり前だろ?いくら可愛くってもそんなストーカーじみたことなんて....じゃなくて。

 

「ロマニ。お前は凡人だ。天才のようなことをするためにはどうすればいいと思う?」

「...それは、皆よりも活動する時間を増やすために起きる時間を増やすこと、かな。」

「それが問題なんだ。お前、寝てないだろ。」

「参ったなぁ...君にだけは悟られまいと、通信も最低限にしていたんだけど...」

「あれ、本当にそうだったのか。候補の一つにあったからひっかけただけだったのに。」

「あっれーおっかしーぞー?なんでそんな...まぁ、いいけどね。」

「...凡人は、天才に届くために、無茶をする。でも、今のお前にはそれはしてはいけないことだ。当然だがな。だって人間の体で、魔術も使えないのに、天才と同じことをするために体を壊すなんて...馬鹿かお前は。」

「うぅ...反論の余地もない。全くもってその通りだよ。でも...そうでもしないと、いけないんだ。」

「だろうな。存在証明をし続けなければ、俺も立香も、死ぬ...というか、消えるからな。」

「...怖いを通り越して、関心になってきたね、君の知識には。その通りだよ。だからこそ僕が」

「その必要はもうない。」

「...え?」

 

レイシフトの仕組みってのは単純で、霊子ダイブを使って過去へ飛ぶ。飛ぶだけではその先の時代に存在しない人物を世界が除去しようとするため、存在証明をし続ける必要がある。それがカルデアの役割の一つ。

存在証明とは文字通りで、その時代に富んだ人物が、そこに存在することを証明し続けることだ。この作業は、とんでもなく膨大な情報の中で、作業をしなければならない。だからこそロマニは、不眠で証明し続けた。それも、たった一人で。

凡人だからそうなる?なら、凡人でない者を頼ればいい。たとえ凡人しかいなくとも、誰かを頼ればいいのだから。

 

「...ま、そういうことだとは思ってたよ、グレン君?」

「紹介...はいいよな。ひとまず、俺の召喚したレオナルドだ。それだけでもう十分伝わるよな。」

 

ロマニは茫然としている。理解したはいいものの、もう一人の存在が不思議だったのだろう。

 

「私が呼ばれる理由もわからなくもないですが...その。用途が違うのでは?」

「おいおい悪魔。それでも天才が作り出した理論かよ。」

 

眼鏡をかけた、天才によって作り出された概念からなる英霊は、確かに自分は魔術より科学の方が得意だが...と、反論をしようとする。しかし現状彼が必要なのに変わりないし、彼自身も理解していることだろう。

 

「仕方ない。申し遅れました。私、マックスウェルというものです。」

 

それだけでは足りないだろうがと、ちゃんと最後まで言わせた。

 

マックスウェルの悪魔。いわゆる、無限に供給することができる永久機関の理論の一つ。正確には、熱力学第二法則を否定する理論。まぁ、今の技術では実現できないのだが...

 

「僕は驚く元気をなくしてしまったよ...」

「そうか、急患か。」

「これは重症ですね、ドクター。」

 

勝手に話を進めないでと()()()()が言った。

 

「ところでマスター。私ができることと言えば本当に何もないのですがね?」

「はっ。端から期待なんてしてねえよ。お前にしてほしいのはあくまで補佐。科学に精通しててなおかつ英霊として存在する以上...お前ほど補佐に適した人物はいないからな。」

 

やれやれと言った感じに、彼はレオナルドについていく。

次の特異点を見つけたという知らせが届くのに、十分もかからなかったのはまた次の話だ。

 

 

―――――――

 

 

 

カルデアに来る前に、紅蓮が私にくれたものがある。私は最初、ただ布に包まれた石かと思っていたのだが、それにしては...見た目に対しての重みがふさわしくない。そろそろ不審に思えてきたので、布を取ろう。

 

...なんだこれは...石だ。わかりやすいほどにこれは石の形をしている。

しかし、ただの石にしては醸し出す雰囲気が違う。

 

「あらあら、まさかあなたが持っていたとは...」

「あれ、玉藻。何か知ってるの?」

 

彼女は、少し悲しそうな表情を浮かべ、しかし話してくれた。

曰く。これは殺生石なるものらしい。

...殺生石だと?ならばこれは、前に聞いた、玉藻の最後の石ではないか。

しかしおかしい。三つに分かれた殺生石は、もう少し小さいはずだ。それにもかかわらず、これは...所謂ドラマなどで思わず人を殺すのに使ってしまいそうな大きさだ。

 

「そうですね。この状態はまさに殺生石です。ですので、私がこの姿なのにも少しは説明がつきます。」

 

なるほど...三つに分かれる前の状態だから...?

玉藻の前は、陰陽師によって退治され、一つの石となる。やがて、その石が毒を発して人々や生き物の命を奪い続けたため、打ち砕かれる。

この、打ち砕かれる前の状態が殺生石だ。そして、英霊召喚というのには、その英霊にまつわる聖遺物なるものが必要だと聞いた。

 

しかし。

私は彼女が召喚された現場にいたわけではない。つまりこれを縁として召喚されたわけではないはずなのだ。

 

「...確かに。私は彼自身の縁を頼りに召喚されました。ですが、それでは説明がつかないこともあるのです。」

 

彼女は語る。召喚のシステムと思わしきことを。

...私には少々難しかったが、要するに。

九尾の姿で呼ばれるにはサーヴァントという枠では足りない。だから本来ならば最低でも三、最高でも三。無茶をしたり条件が整って漸く九。つまり。なんの無茶もせずに九本そろっていることが可笑しいのだと。

と、謎に頭を抱えている二人の少女(彼女が少女と言える年齢なのか、また、私の年齢を少女といっていいのかはわからない)が頭を抱えていると、

 

「えっと、ボクで解決できるかもしれないね。それは。」

「...誰だこのショタ!?」

 

と、私がものすごく驚くと、なんか怒られた。

 

...これがあのエルメロイ?なんか姿が...

 

「はぁ...召喚システムが甘いのか何だか知らないけど、自由に姿を変えられるみたいなんだ。自由と言っても、大人か子供かの二つだけどね。」

 

ふーん...正直どうでもいいと思ってしまったが、そこはそれ。問題にはならない。

 

さて、この不思議な問題をこの彼は、どのように説明してくれるのか、楽しみである。

 

「えっと、ボクが思うに、これはカルデアの召喚式...システム・フェイトは関係ない。彼の刻印...そう、魔術師の本命であり命と言っても過言ではない、魔術刻印が関係している。どんな術式が込められているかは流石にボクはわからないし知ろうとも思えない。それでも、召喚に関する魔術式があるはずだ。それこそ、生前の全盛期を最大限生かせるような、ね。そして、二次的な関係だろうけど、彼が作り出す魔力の量だ。これはボクや他のサーヴァントもわかっていることだと思うんだけど、彼は一人で大量のサーヴァントへの魔力供給を行っている。この魔力のおかげで、玉藻の前...さんは、九尾の力をもって、召喚された...かもしれない。そして、もう一つ。これは関係あるかわからないけど...いや、あるだろうね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。多分他のサーヴァントもだ。しかしそれは実際に起きたことではなく、いわゆるシミュレーション。そして、今回の人理修復が本命。つまり、ボクたちサーヴァントは、明らかに経験を積んでいる。だから、力が積もった。つまりこういうことだよ。」

 

...?

理解できない。隣にいる玉藻はものすごく納得している。なぜだ。なぜ納得できる。

 

そして私は、口止めを受けた。

 

()()()()は絶対に、紅蓮に教えてはならないと。




正直玉藻の尻尾の設定は勝手な解釈です...ハイ。
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