Fate/Saver The fate~アルトリアが好きな少年が起こす人理修復の旅~   作:空色 輝羅李

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第4話

夢を見ていた気がする。このカルデアにいるジルやジャンヌオルタではない、別の場所で召喚された二人が、おかしな儀式やら拷問やら...

 

ただの悪夢であることを祈る。

キャスターとして召喚されたジルは、確かに危ないが、このカルデアにいる間に何か悪事を働くかと聞けば、きっとそんな気はないという。

もしすれば容赦なく座の記録もろともなくしてやるが。

ジャンヌオルタにしてみれば、記憶がほとんどないらしい。記憶と言っても生前の記憶はある。ただ、別側面(Alternative)として確立された自分の存在する理由が、思い出せないそうだ。まぁ今のところは支障がないので、放置していい問題だ。

 

そうこう思案しているうちに、フォウ君が何やら心配そうに、こちらの様子をうかがう。

 

「心配ないさ、少し夢を見ていた。」

 

毛並みを整えるように撫でる。とても嬉しそうに耳やしっぽを振るのが、愛玩動物らしい。

 

 

が。

 

 

フォウ。このカルデアにおいて、マシュがそう名付けたこの幻想生物は、キャスパリーグだ。

ブリテン島において、豚の出産が災厄を意味する。そして恐れていた出産。そこから生まれたのがキャスパリーグ。こいつが成長すれば望まない災厄がブリテンに降りかかるがまぁ...いろいろあって退治された、というのが物語としてのこいつの終わりだが...

 

 

「この前は助かった。お前の魔力を借りなきゃ、完全な結界の維持はできなかったよ。」

 

膨大な魔力を一部、借りた。だからこそ、冬木から帰るときの結界が安定し、時間の遮断ができた。

 

フォウは誇らしげに胸を張る。その見た目すら可愛いのだが。

でも油断してはいけない。こいつは人の欲望を喰らい魔力を増やす。厄獣なのだ。

...まぁ悪事を働かない限り俺から何かするというのはないけど。

 

ドアが開く。

 

「おはようございます、先輩。そろそろブリーフィングの時間です。」

 

マシュが戦闘服のまま、それを伝えてくれた。

隣には眠そうな立香がいる。

 

そろそろ行かないとと思い、フォウ君を肩に乗せてベッドから立ち上がる。

 

「アルトリア?いつまで霊体化してるのさ。そもそもここでは必要ないだろう?」

「...ですがマスター。あなたへの負担を減らすにはこうでもしなければ...」

 

そうだろうか。俺は今のところ結構な数の英霊に魔力供給を行っているが、そこまで苦ではない。むしろ無駄なものが体になく、軽くなった気がする。

しかしその気遣いが嫌なわけでもないので、

 

「ありがとう、アルトリア。」

「マスター、その...抱擁はとても嬉しいのですが、二人が見ています...」

 

マシュは特に違和感を感じていないようだが、立香はものすごく不機嫌になった。

さっきまで眠そうだったのにそれが理由ではなさそうなのがなんとも。

 

そろそろ管制室へ向かおうか、と足を進める。

途中で、ジャンヌオルタと合流したので、話しながら行くことにした。

 

「...で?次の特異点とやらには、誰がいくのかしら?」

「英霊だけで言うならアルトリアと君は確定かな。すくなくとも俺は、今回の特異点では君が必要だと感じている。」

 

あっそ、と、そっけない返事が返ってくる。少しだけ口角が上がっているので、別に嫌だったわけではなさそうだ。

 

「そういえば、記憶は不鮮明だ、って言ってたけど。それはオルタの理由の記憶に関して、でいいんだよね?」

 

彼女はうなづく。

 

英霊というのは、よほどのイレギュラーでない限りは、生前の記憶と、聖杯から与えられる現代に関する知識とをもって現界する。

そしてそのイレギュラーが、ジャンヌオルタに起きた。

 

「...ま、それでも私の力は、衰えていませんがね。」

「うん、頼りにしてるよジャンヌ。」

 

フン、とまたそっぽを向く。

きっと照れ屋なんだな。

 

「マスター。あなたはもう少し自重した方がいい。」

「そうだぞー紅蓮。そうやってたぶらかしてたらバチがあたるぞー。」

「先輩にもしものことがあっても、私が守ります!」

 

なんかずれてるぞマシュ。

 

 

 

管制室につき、ロマニから説明を受ける。

 

まず一つ目に、特異点の調査及び修復。

人類史における大きなターニングポイントを正しい軌道に戻すことだ。

 

二つ目に、聖杯の調査。

聖杯は万能の願望機。あらゆる願いを、時間や過程を省いて望んだ持ち主に与える最高位の聖遺物。

この聖杯を、レフはどうにかして持ち出し、悪用したと、ロマニは考えているようだ。

...確かに、聖杯クラスのものでしか時間旅行や歴史改変などという夢物語、叶えることはできないだろう。

だから、その時代にあるであろう聖杯を破壊、もしくは持ち帰ると。

 

作戦として重要なのはこの二点らしい。

ある程度想定していたが...言葉にするのは簡単だ。しかし実際に行おうとするのは、はるかに難しいだろう。

 

それでも、この世界に残り、人類最後のマスターになってしまった以上、起こさなくてはならない行動(アクション)だろう。

 

...みんなを見る。アルトリアはいつも通り凛として、前を見据えている。

マシュは、覚悟を決めたといわんばかりに盾を握りしめ、キリっとした顔で堂々としている。

立香は、できるだろうかという不安を浮かべながらも、やり遂げようという意思をこぶしで表す。

ロマニは、表情こそ皆を安心させる笑顔だが、手先が少し震えている。

 

 

俺だって不安だ。本当にできるかわからないから。そんな中で口を開くのは、万能の天才だった。

 

「おい、そこのお調子者。いつまで私を待たせておく気だ。」

「気乗りがしなくて忘れていた。」

 

忘れてたとか抜かしたぞロマニの野郎。

マシュはおかしいと連呼するので、言われて思い出す。

 

確かにレオナルドって男だよな...でもアルトリアのことだってあるし...うーん。

 

そしてレオナルドの説明を受けて、俺は納得する。

本人にとっての美の極地。それがモナ・リザ。なればこそ、その絵画を肉体として現界するのは当然らしい。

 

そして、これから出会う芸術家の英霊も、こんな偏執者ばかりだろうとも。

 

そんな気がする。北斎だってちょっとずれてた...どころか、娘の方が本体として召喚されやがった。恐ろしすぎる。

 

これからの主なバックアップは、レオナルドの指揮になるそうだ。それなら多少楽だろうな...

 

ちなみに。正式な契約はすでに行われています、残念なことに。ただし存在が特殊すぎて...なんというか。()()レオナルドが存在する。

なので、使役するのはそちらのレオナルドになるだろう。連れていくことがあるとは思えないが。

 

そんなこんなで自己紹介を終えた彼女は退出する。

 

「...話の腰が折れたね。本題に戻ろう。」

 

と、やっとのことで、レイシフトの話題に移る。

 

こちら側は準備がすでにできているので、その返事をする。

 

今回行く特異点は、七つのうちで最も揺らぎの小さな時代だそうだ。

 

「特異点につけばこちらからは連絡しかできない。だからまずは霊脈を見つけること。そして、その時代に対応してからやるべきことをやるんだぞ。では―――健闘を祈る。」

 

そうして俺たちは、コフィンへ搭乗する。

 

今回レイシフトを行うのは、俺、立香、マシュ、アルトリア、ジャンヌオルタ。そして俺のコフィンに一緒に入っているフォウ君。

 

...フォウ!?

 

「フォウ?」

 

...まぁキャスパリーグだし何とかなるだろ。

 

「俺のそばから離れんなよ?」

「フォウ!」

 

可愛いな。

 

コフィンの中から、アナウンスが聞こえる。

 

アンサモンプログラム スタート

霊子返還を開始します。

レイシフト完了まであと3,2,1....

全行程完了(クリア)

グランドオーダー、実証を開始します。

 

この感覚はいつまでたっても慣れないな...!―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

どこまでも広がる豊かな草原。吹く風は穏やかで、空気はとても澄んでいる。

 

「無事に転移できましたね、先輩。」

 

マシュは平気そうにしている。

しかし立香は...

 

「紅蓮...袋...」

「あーもーはいはいここに吐け...」

 

少し穴を掘り、嫌がる立香を多少強引であるが抑えながら、嘔吐させる。

背中をさすりながら、終わったと思えば

 

「大丈夫か?ほら、水だ。口でもゆすいどけ。」

「ありがとう...」

 

俺も吐きそうだけど我慢するとしよう。

 

マシュはどうやら何かを計測しているようだ。

 

時間軸を確認?へぇすごい。時代は1431年か。

 

場所がフランスなのはわかっているから、百年戦争の真っ最中だな。

 

「はい。ですが、この時期はちょうど休戦時期のはずです。」

「百年戦争っていうと...ジャンヌが出てくるよね!」

 

立香は少し嬉しそうに言う。

この時代の戦争は比較的穏やかで、捕縛している兵士を保釈金有りでの釈放なんて日常茶飯事、という情報を添えている。

 

しかし俺は、そんな話は知っているので興味がない。興味があるのはこの...上空。

 

「どうしたんですか先輩?空なんて見上げて...」

「見ろマシュ。あれは綺麗だが...どこか不思議だな。」

 

そして一同が空を見上げる。

 

「よし!回線がつながった!」

 

画質の粗い映像越しにロマニが喜んでいる。

その子供をあやすようにマシュが、空の映像を送り、これは何かという説明を求める。

 

空に広がるのは、とてつもなく高いところに、ありえないくらい広範囲に出力される光の環。

1431年にこんなものは観測された記録がない。当然である。

 

「間違いなく未来消失の理由の一端だろう。解析頼んだぞロマニ。」

 

任せてくれという返事を受ける。同時に霊脈の探索を促される。

 

ジャンヌオルタは...どこか不安そうだ。

 

「ジャンヌ?どうかしたのか。」

「いえ、見覚えがあるような気がしたので。それだけです。」

 

全てを説明する気になれないのか、それとも自分の中で整理したいのか。

 

少なくとも詮索するのはやめておいた方がいいだろうな。

 

置いといて。

 

「霊脈を探そう。それから現地の人間との接触も必要だな。」

「はい、その通りです。急ぎましょう、皆さん。」

 

そして歩みを進めるわけだがどうだろう。少し歩いて見えるのは、フランスの兵隊と思わしき集団だ。

 

マシュがコンタクトを試みるが、どうやら失敗したようだ。

 

ロマニはものすごく慌てているが...まぁよほどの行動をしない限りはタイムパラドクスは起きない。世界の修正力というものを取り戻せばの話だが。

 

「ジャンヌ。君はこの世界では多分見えちゃならないと思う。一応隠蔽魔術でも...」

「必要ありません。どうせ私は、一度死んでいるのですから。」

 

自分の身を蔑ろにしている...わけではなさそうだ。

おそらく、実際自分がこの時代には死んですぐだというのがわかるのだろう。

なぜなら彼女が死ぬのは、記録では五月三十日だ。つまりここはその数日から数週間ほど。なのでもし見つかっても、他人の空似とみられる...に違いない。

 

「マスター、戦闘態勢に入ります!」

「マシュ、戦場での君のマスターは基本的に立香だ。あまり俺のことは気にしなくていい。いいな?」

 

わかりましたという返事とともに、前に出る。

 

ジャンヌも足早に前へでる。

アルトリアはというと、

 

「あなたが前線へ出ないよう見張ります。」

 

なんでさ。こんなときに戦えないのは、マスターとしてじゃない。魔術師としてとても不甲斐ない。

マスターとしての自覚を持てと言われても、俺は別にマスターになりたいわけじゃない。だから役割などどうでもいい。

 

「紅蓮君、それでもだ。君がいくら強くたって、もし君が死んだら?立香ちゃんはどうするんだい?」

「...それはそうだけど。」

 

でもやはり、自分がこんなときに戦えないというのはなんとも情けない。

 

ふと前に目をやる。マシュが少し押され気味で、それをかばうようにジャンヌは旗を振り炎を出す。

このままではまずい。ジャンヌはマシュと立香に気をとられ、自分の身に近づく危険を感じ取れていない。

 

「ジャンヌ!危ない!」

 

と、駆け寄ろうとしたとき。

 

「はぁ!」

 

ジャンヌの後ろからきていたフランス兵めがけて、旗を振る白い少女がいた。

 

見覚えはもちろんある。一応カルデアに残ってもらっている方のジャンヌだ。

 

...レイシフトしていないんだから、同一ではないのか。なら...現地のはぐれサーヴァント?

 

「彼らは敵ではありません!そして皆さん!向こうの方を見てください!」

「なんだ、敵じゃ....ないのか?」

 

白いジャンヌの言う向こうの方をみる。

骨...骨!?

 

冬木で見たのとは少し違うが、やはり骨だ。どう見ても骨だ。

そしてその向こうには...飛竜種!

 

「な!?あれはワイバーンじゃないか!これは一筋縄ではいかないぞ...!」

 

うるせえロマニ。お前はそこで指くわえてみてろ!

 

「ジャンヌ、皆を頼む。アルトリア、骸骨の相手は任せた。」

 

二人は口をそろえてもちろんといった。

 

ワイバーン。竜種の中では比較的弱いと分類されるが、それでも強いのに変わりはない。

...実際に戦うのはこれが初めてだが。

実験として魔法を使う相手にはもってこいだな。

 

魔法とは神羅万象に干渉することと言っても過言ではない。

魔法とは自然の摂理に反する行為と言っても過言ではない。

ならば、それに準ずる行為を魔術で行えば?

ならば、それと同等の行為を魔術で行えば?

答えは明白である。明白すぎて明々白々だ。

 

新しい魔法を作ったことになる。

...というのは不可能なのだが。しかし。

俺が今から行うのは、魔法でないにしても、協会に魔法級と言わせることができる代物だろう。

 

 

「すべて遠く、すべて儚く、すべて尊く。人々の安寧を望み。欲望の混沌を嫌う。

 世の理から外れた理想郷で見守る。その理想から動くことは無く。

 されど我の呼び声に呼応せよ。

 九つの守りは今、ここに集う。

 理想郷の番人たち(Nine Guardians)

 

精霊の召喚。使役。つまり幻想種を、だ。

これはもはや、魔法級だな。きっと。

 

「...私たちの安眠を邪魔する坊やはあなた?」

「お姉さま、服が少しずれています。」

「あなたも髪がずれていますよ。」

「面白いこともあるんだね!」

「そうね、その通りだわ!」

「さて、ここはどこかしら...」

「あーもーめちゃくちゃだなおい!」

「...あら、あなたから知っている香りがするわ。早くあのクズを出しなさい?」

「どうやらここにはいないみたいですよ...?」

 

...

 

「う...」

「「「「「「「「「う?」」」」」」」」」

 

 

「うるせええええええええええええ!」

 

 

 

九人が思い思いのことを口にするな!というか呼んでおいて文句言うのはしゃくだからそれはごめん!

 

じゃなくて!

...どうやら成功したようだが。しかし命令をするにしても、彼女らは俺の眷属ではないし隷属でもない。なのでまず、お願いから...

 

「その必要はないわよ。少しくらい協力してあげる。でもお話はやっぱり必要ね。なら...まず私たちの力、そこで黙って見てなさい。」

 

そう言って、一人を先頭にして九人は歩く。ワイバーンを前に、歩みを止めることは無い。

もうすぐで彼女らが襲われる、そう思った――――瞬間。

 

「その程度?知れてるわね。所詮は幻想種の端くれにも満たない雑種。相手にならないわ。」

 

()()()()()()()。いや、たしかに攻撃はされていた。それをよけたとかではなく。

 

当たったという事実がかき消された。

 

干渉されない結界...?

 

「惜しいです。正確には、()()()()です。」

 

神秘の差?

 

それについてロマニが説明してくれる。

 

神秘。簡単に言えば魔術師が最も重視するもので、これは当然だが公開すべきでない情報。秘匿されるべき事項。これがあるから魔術は発動することができるとも。

そして、神秘とは年数も関係する。いろんな神秘が重なることも重要だが、人間が知りえない時代に関する神秘の方が比較的重要である。つまり。

彼女ら精霊は、人間が存在するよりはるか昔から形作り、存在する。つまり。

 

「彼女たちの持つ神秘は、僕たちではわかりえないくらい深い。だからワイバーンは、干渉することすらできないんだ!」

 

だそうです。チートかな?

ようするに神代の神に挑むようなことだろ?無理だわ。俺が精霊を従えるんじゃなくて精霊が俺を従える方がしっくりくる。

 

「あーあ。ちょっとは面白そうだと思ったのにな。いいや、消えちゃえ。」

 

すると、目の前にいたワイバーンは消えた...消えた。

 

「これは...!紅蓮君!何が起きたんだ!」

「何がってワイバーンが消滅した!魔術を行使するでもなく、ただ消えろと命じただけで、さっきのワイバーンの存在が消滅した!」

 

そんな馬鹿な、とモニター越しで、魔力計の異常じゃないのが信じられないといっている。

 

信じられないが、驚いて動かないのでは話が進まない。

 

フランス兵の一人を捕まえ、話をする。

 

「そちらの拠点を案内してもらえるか?」

 

彼は頷く。そして俺たち一同を連れて帰還するようだ。

その間に話をしないとな...

 

「で?とりあえず名前を聞いても?」

「私はモルガン。門番九姉妹の長女よ。」

 

そしてそれに続くように、モロノエ、マゾエ、グリッテン、グリトネア、グリットン、テュロノエ、ティーテン、ティートン、と名乗る。

正直言って、まじで召喚していると思わなかった。

彼女らはいわずもがな、英霊ではない。しかし、似た存在としてここにいる。

 

とりあえず、俺に協力してもらえるかどうかが問題だ。

 

「私はね。誰かに従って動くのは嫌なの。私の意志で、行動するわ。」

「私たちはお姉さまの言うことに従います。すべての決定権は、モルガンお姉さまの御意ですので。」

 

困ったな。それはつまり、俺に対しての協力の意思はないように感じる。

 

「そうは言っていません。もしそうだったなら、そもそもここには来ていませんから。」

 

それはそうか。拒否される可能性を考慮していなかった...

 

「少なくとも私たちは、貴方が悪でないと信じています。なのでそのうちは協力、もとい従って差し上げます。」

 

よし、これでいい。でも俺は、主従はあまり好きではない。

あくまで対等がいい。

 

その旨を伝えると、突然笑いだす。何か面白いことを言っただろうか。

 

「だって、ただでさえ高位な私たちを従属させることでさえありえないことですのに、それを、対等?ふふ、初めてですわ。」

「それは...怒らせてしまっただろうか。」

「逆です。嬉しいのですよ、お姉さまは。」

 

と、マゾエと名乗った彼女が言う。

もう少し素直に教えてもらえませんかね。

 

うん。あんまり深く考えたらいけないな。

 

そろそろ彼らの拠点へ着く。

落ち着いて休憩ができる場所は確かに必要なので、この場に留まることができるのは嬉しい。

 

壁はかなりボロボロだが、まぁ修復する時間や材料も惜しいのだろう。

そういえば、俺たちを一度は敵と思ったんだ。それなりの理由があるはず...

 

「さて、質問だ。まだ戦争が続いているようだが、シャルル七世が休戦協定を結んだりは?」

「シャルル王?あんたら、知らんのか。」

 

驚くべきことを、聞いてしまう。

王は死んだらしい。魔女の炎とやらで。

マシュや立香は、歴史と違うことを聞かされたことで驚く。

 

()()()()()()()()だ。」

 

...?

燃やした、のか?ジャンヌが?

ジャンヌはそもそも、死んだはずだ。それが、魔女になって蘇った、そう言った。

 

もし蘇ったとしても、ジャンヌがそんなことをするのだろうか...

 

「イングランドはとうに撤退した。だが、俺たちはどこへ逃げればいい?」

 

そう、だな。故郷をおいて逃げるというのはとてもつらいことだろう。

 

ジャンヌ・ダルク。彼女は、十七歳という若さにしてフランスのために立ち上がり、一年でオルレアン奪回を達成した。しかし、イングランドにて捕縛された。戦場で痛手を負わされたことにより。そして、当時の常識であった身代金の交渉を、ジャンヌは受けることがなかった。フランスが見捨てたと同義である。そして異端審問をかけられ、処刑に至る。

 

復讐をする理由は確かにある。それでも、彼女がそれをするとは思えない。

 

「...それにしてもあんたら、すごいよな。さっきの骸骨といい竜といい。あいつらを相手にできるなんて。」

「慣れです。それより、一から事情を聞かせてください。」

 

マシュが前のめりになって兵に質問をする。その様子をモルガンらは。

 

「退屈ね。」

 

といって、九人はそれぞれ別に動き出す...訂正。モルガンとマゾエは一緒である。

 

マシュの質問は、本当にジャンヌ・ダルクだったのか。というものだ。

幸いその兵は、オルレアン包囲戦と、式典に出たから顔をよく覚えているそうだ。

...ジャンヌオルタは、俺の後ろに来て顔を隠すしぐさをする。なんか、可愛いな。

 

「髪や肌の色は確かに違ったが、それでもあれは紛れもない、ジャンヌ・ダルクだった。」

 

イングランドに捕縛され、火刑を下されたのを聞いて、彼らは怒りと憤りで震えたそうだ。

 

それでも、あのジャンヌ・ダルクは蘇った。悪魔と契約をして。

 

「悪魔?」

「それは...先ほどの骸骨のような?」

 

立香とマシュが質問をしたが、兵は首を振る。あれだけでは俺達でも対処できるとも。

 

「...!君たちの周囲に大型の生体反応!」

「目視しました!あれは先ほどの...!」

 

ワイバーンか!しかも複数体?

これほど多くのワイバーン...ありえない。

でもまぁ、精霊様に任せますかね...

 

「マシュ、なんだか、別の魔力がこちらへ近づいているような...」

「はい、私も感じています。これはサーヴァントの魔力反応です。」

 

なら、先ほど目視できた、白いジャンヌだろう。

 

「ジャンヌ、戻ってきて問題はないよ。」

 

すると、彼女は足早に近づく。息を整えるように呼吸をして、口を開いた。

 

「ええと、その。」

「大丈夫。君がこの世界で言う、魔女の方でないのはわかっている。な、ムシュー?」

「え、あ、あぁ。彼女は、死んだはずの聖女様だ。俺がみた、竜の魔女、黒いジャンヌじゃない。」

 

ロマニはこの状況で何か食っていやがる。

 

「ドクター。それは私が用意したゴマ饅頭ですね。」

「え、あれ?そうなの?管制室にお茶と一緒にあったから、てっきり...」

 

呆れた。なんでもかんでも食うのかお前は。

 

聞けば()()は、俺たちが帰還できたときに労うために用意していたそうだ。

なんとできた後輩なんだ...

 

「ロマニ。帰ったらお仕置きな。」

「...そ、それにしてもおいしいねこの饅頭。これなら立香ちゃんも紅蓮君も喜ぶよ。」

 

なぜこの状況で食うことを続けるんだマヌケ...

 

しかし弱ったな。兵を前に、ジャンヌが二人。困ったぞ...

よし、入ろう!

 

「せ、先輩?」

「大丈夫、ここの人には普通の人と思われるように、偽装魔術かけとくからさ。」

 

そういうわけで、霊脈を探すのをいったん保留し、中へ進む。ジャンヌはおどおどしながら。ジャンヌオルタは少し苛立ちながら。

 

まぁいいだろ別に?

ロマニだってモニター越しに賛成している。この時代に精通する彼女の話を聞けるし、現地民の話も聞ける。一石二鳥だ。

 

 

彼女の話を聞くにあたり、いくつか疑問点が生じた。

まず、聖杯戦争だと思っていたこと。この地の英霊であるにかかわらず、聖杯による知識がほとんどないこと。知識だけでなくステータスも下がっていること。本来ルーラーが持ち合わせる対サーヴァント用の令呪も真名看破もない。

それは本当に、サーヴァントとしてのジャンヌなのか...?

 

「それはまぁ、のちのちなんとかなるだろ。はぐれサーヴァントってのはどうも性質がわからん。時間が解決するだろうさ。問題はそこじゃない。」

「はい、先ほどの兵士の方が言っていました。ジャンヌ・ダルクは魔女になった、と。」

 

ジャンヌは、つい数時間前に召喚されたばかりで、詳しいことはあまり知らないらしい。それでも、この世界にもう一人、ジャンヌ・ダルクが存在する、そう言った。

 

...少なくとも三人いるんだねジャンヌって。

 

じゃなくて、この世界で言うもう一人のジャンヌ。彼女はシャルル王を焼き殺し、オルレアンでの大虐殺を行った。

ただし、同一のサーヴァントが召喚されたわけではない。うん。後ろにいるジャンヌの同一だろうな。

炎を使うというのは、彼女の特徴だ。そしてジャンヌという名。そこから想起されるのは必然と、ジャンヌオルタの存在だ。

おっと...?ジャンヌを連れてきたのは事をややこしくするだけだったか?

まいっか。

 

「ひとまず、今までの状況や話からして、この場でのフランス国家は事実上崩壊した。それでいいな?」

「はい、先輩の言葉で間違いはありません。」

「でもさ紅蓮。国家が転覆するほどその魔女のジャンヌは強いってことだよね?」

 

立香の不安に思うことは何か、わかりやすい疑問だ。

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「立香。今それは考えることじゃない。その時になって初めて考えることだ。」

 

立香は不服そうに、しかし納得したのか、わかったという。

 

とりあえず。

ジャンヌに俺たちの組織としての説明をする。ロマニを夢見がちといったのはあながち間違いじゃないと思った。

ジャンヌは、説明を瞬時に理解した。

 

「なるほど。まさか世界そのものが焼却されているとは。」

 

それでも、彼女は悩み事がある。

自分自身すら信用できていないそうだ。

 

確かに、この十五世紀に竜種は存在しなかったはずだ。なんらかの召喚であるだろう。

そして、先ほどの兵は、竜の魔女といった。

 

竜の使役を行っているのは、もう一人のジャンヌ...か。

 

「よし!目標は竜の魔女打倒!彼女が聖杯を持っている可能性が高い!」

「勝手に決めないで!僕も同意見だけど!」

 

それに彼女の目的は、もう一人のジャンヌからオルレアンの奪還だといった。その障害であるジャンヌの排除も。

白いジャンヌに協力をするのもまた、目的の一つだな。

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