Fate/Saver The fate~アルトリアが好きな少年が起こす人理修復の旅~ 作:空色 輝羅李
町の西側の門まで辿り着いた。統率のメインはここから行われているのだろう。町の人らは、西に近づくにつれて減っている。つまり避難の支持を受けているということだ。そしてこういうことは、慣れている人物でないとできないだろう。
「ゲオルギウスというのは、貴方か。」
「いかにも。そちらは...えぇ。わかりますとも、カルデアの方よ。」
そうか...だったら話は早い。
と言いたいところだが...
「...ワイバーンの襲撃か?ここのところ激しいな。」
「いや、それだけじゃない。
ワイバーンの群れ。その奥にワイバーンを使役する彼女。
「流石にこの数はきついか...!」
「せめて貴方方達だけでも!」
「それはいけないわ。」
マリーが、前に出る。
「...私はきっと、こういうときのために
よくない。この流れはよくない。こいつはきっと...俺の望まない選択をする。
「敵を憎んだり倒したりするんじゃなくて。人々を守る命として喚ばれたのです。マリー・アントワネットの名にかけて。この街は、わたしが必ず守りますから。」
「マリー、それは許さない。君が俺のサーヴァントでないとしても...一人だけ先にさよなら、なんて許さない。」
逃げることは簡単だ。見捨てることも。それでも守りたいから、彼女は一人で残るといった。でも、その気持ちは俺も同じで、守りたいからここにいる。それなのに、一人を捨てて大勢を救うのは、それは守れていない。
一人の犠牲も出さないなんてのは難しいだろう。それでも...一人も犠牲にしたくない。
「...準備はいいかアルトリア、清姫。」
「ここに、マスター。」
「もちろんです、旦那様。」
「いつの間に!?」
嫌な予感がしていたのに変わりはなかったので、向こうには玉藻、こちらにアルトリアと清姫となるよう頼んでおいた。
実際嫌がっていたのはモーツァルトだけだったし...かといってあいつにも理由はあっただろう、あとで聞いてやるともさ。
大軍を相手にするとは思っていなかったが、好都合だ。
アルトリアの宝具は対城宝具。言わずもがな、最大火力ならば星をも砕ける。流石神造兵器。
清姫は、安珍を追って鐘に閉じ込め、炙り殺したという逸話から、その身を真の竜に変える。そのとき吐く火は...数えきれないほど焼けるだろう。
「令呪を持って命ずる、宝具に
カルデアの令呪は、本格的な令呪としての機能を持ち合わせていない。魔術的な補助はできるが...絶対的な命令に関しては三画つかわなければ意味をなさないだろう。正直、ここで二画失うのは惜しいが...仕方ない、後のことは後で考えよう。
そんなわけで...アルトリアと清姫の宝具がワイバーンを消し去ったところで、本命のおでまし、か。
「...これで五人。見込んだ者ほど早く脱落するとは、皮肉ですね。」
「人は美しい花ほど早く摘むからな。」
彼女は表情をゆがめる。その花を摘んだのは俺だと睨んでいる。
...まぁ。間違いではないだろうけどさ。
「決まっているじゃない、この国を愛しているからです。」
「...わかりませんね、その愛した国に、人々に殺されたというのに。」
「えぇ、そうね。確かに私は、この国に殺されました。ですが、それは貴女も同じでしょう?」
奥歯をかみしめる音が伝わってくるのではと思うほど、強く歯噛みをしている。
否定はできないだろう。その事実を最もわかっているのは、ほかでもない彼女なのだから。
「...かまいません、貴方方にはもう、どうにもできないことはわかっています。ですから、私は見逃します。ですが、次に会えば必ず―――殺します。」
そう言って、ジャンヌは帰っていく。
...あの雰囲気は、本当に怖いな...これから先も、あんな恐怖に向き合わなきゃいけないのか。
「それでも、俺が選んだ道だ、やって見せるさ。」
「グレン?何か言いましたか。」
「ううん、なんでもない。さ、立香たちのところへ戻ろう。」
道中はもちろんワイバーン狩りだったわけだが...
うん、結界は安定している。やっぱ神秘が関係してるんだろうか...
「あ、紅蓮!おかえり!」
「先輩、お疲れ様です。」
二人が小走りでやってきた。犬か...?
「ところでグレン君。聞きたい事があるんだ」
「なんだロマニ。」
「どうして九人もサーヴァントがいるんだい!?」
「皆聞いて欲しい。今日はもうじき夜だからもう一日ここで過ごし、明日。ジャンヌオルタのところへ行こう。」
「質問に答えて!あとその意見には同意だ!」
うるさいやつだな全く。マシュ含めて十人だろいい加減にしろ。
して、結界の中はやはり安全すぎるし、向こうももう手出しをしてくるとは考えずらい。なので安心して雑談が行われていた。
俺は...あまり得意ではないので、久しぶりに魔術の研究でもしておくか。
――――――――
「ほう、聖女マルタが...そうでしたか。」
ゲオルギウス、というサーヴァントが、少し悲しそうにつぶやいた。
紅蓮たちが現地のサーヴァントを探しに行っていた間に、敵であるライダーのマルタが攻めてきた。
マシュと二人のジャンヌのおかげで、何事もなかったけれど...
狂化されている?状態にしてはどこか、こちら側の意思を感じていた。
でも、サーヴァントというのは主には逆らってはいけないのだろう。私にはその辺があまり理解できていないが、普通の人間同士の主従関係で考えれば、そういうことなのかな。
紅蓮は明日、とうとう敵陣を責めると言ったが、私はどうにかして和解できないかと考えている。
...甘いかもなとは、自分でも思う。それでも、どちらかが勝つということは、どちらかから死人が出る。戦争とはそういうもの。
それだけは嫌だ。わがままかもしれないし、できないことはわかっている。でも...
「立香。心配するな。お前はその責任を背負う必要はないんだから。」
「でも...紅蓮だけにおしつけるなんてできない。私は...紅蓮と一緒なら、大丈夫だから。」
私は一生懸命笑顔を作る。
紅蓮だけに世界の命運を背負わせるなんて、そんな卑怯な逃げ方はしたくない。
だって、最初に話を聞いた時から決めていた。紅蓮と一緒に世界を守るんだって。
「...紅蓮、絶対成功させよう。失敗しても、責任は一人だけじゃないから、無理せず頑張ろう。」
「その言い方はあまりに不格好だ。俺が訂正してやるよ...成功させる、絶対に。責任なんてどこぞの知らないやつにでも擦り付けろ。俺たちの未来は、今を生きる俺たちが決める。」
...やはり、紅蓮は格好いい。私が言えないことを、言葉にして。私だけじゃないほかの誰かも、一緒に導く。でも、先頭に立つんじゃない。横に並んで一緒に進むべき道へ進む。
「...あーもう!やっぱり好き!」
「わかったから飛びつくな!」
よし。
頑張ろう。
ジャンヌとジャンヌオルタの二人は、相変わらずの様子だが、少しは会話が成立しているようだ。これもマシュが一生懸命いろんな話題を頑張って振っているからだろう。流石ですマシュちゃん...
「ハッ、やっぱり田舎でぬくぬく育ってきた貴女には理解できないでしょうね!」
「な、そんなことは...貴女だって、人のことを馬鹿にして、楽しいんですか!」
「お、お二人とも落ち着いてください!」
うん。最初よりはましだね!
っといけない。私はこれから起こりえることを想定し、備えなければならないんだから...とはいっても、自分ではなにもできないわけで。
カルデアによって作られた魔術礼装。私が今着ているものは、サーヴァントを治療させたり、攻撃力を上げたり、普通では回避できないような攻撃を、無理やり回避させるという、この三つの魔術が編みこまれたものを着ている。この礼装がなくてはやはりなにもできない。だからこそ、紅蓮をすごいと思う。魔術礼装の補助なしで魔術を使って、自分で戦ったりサーヴァントを強化したり。
私も、戦えるほどでなくともいいから、自分で魔術を...あれ?そういえばマーリンが
「君の魔術回路は無意識のうちに開かれている。」
と言っていた。多分、魔術とやらを使うのに必要なことなのかな。だったら...
「玉藻ちゃん!」
「なんでしょう?」
「魔術を教えてほしいんだけど...いいかな。」
彼女は笑顔でこちらを見て、了承してくれた。
「ですが...私が使う魔術は、あまり貴女向きではありませんよ?」
「というと...?」
「そうですね...貴女にお教えするとすれば、治療に関するもの、でしょうか。」
なぜかを聞いてみれば
「貴女が直接戦闘することは旦那様が望んでいません。かといって、何の役にも立たない術をお伝えしても、貴女は満足がいきません。でしたら。ご自身に使えて、ほかの方にも使える、そんなものがいいと思いました。」
なるほど納得がいく。
確かに私が戦闘することになれば、紅蓮が更に前に出ることになりかねない。それは余計危険だから良い判断とは思えない。
他にも、敵に対して行使するタイプのものを教えてもらったとしても、私がまともに発動させることができるか、発動できたとしても、効果が低ければ余計にひどい事態になる。だからこれもよくない。
「それに、もし貴女が治療を覚えて、もし旦那様が手当てを必要とする際...少しでも近づけますでしょう?」
なん...だと...
「玉藻ちゃんは良妻です...」
「そうでしょうとも!」
なんか...みこーんっていいながら尻尾フリフリしてる...可愛い...狐でも飼おうか。
「フォウ!」
あれ、フォウ君じゃん。紅蓮がかまってくれなくてこちらへ来たか。
そういえば紅蓮は、さっきから何しているんだろう。
「おそらく、精神世界で魔術の訓練でもしているのでしょう。」
「精神世界...?」
アルトリアが答えてくれた。
魔術にも詳しいなんて騎士様はさすがだなぁ...
「彼は昔から、集中するときはあぁしていましたから。真似できる人物はおそらく、いないでしょうね。」
...昔から?
おかしい。私は小さいときから紅蓮と一緒にいるが、紅蓮の周りでアルトリアのような人物を見たことがないし、紅蓮もおそらくは初対面のはずだ。だというのに、昔から...?
「騎士様、迂闊なことは言わない方がよろしいかと。」
「...そうですね、ご忠告感謝する、玉藻の前。」
「二人とも何か知ってるの?」
二人に聞いても、何も答えない。貴女は知らなくていいと、ごまかされてしまう。
令呪とやらを使おうにも、彼女らのマスターは飽く迄紅蓮だ。つまり意味がない。
...そのうち知ることになるだろう。その時まで知らなくていいなんてことは、世の中に沢山ある。だったら今はほかのことを考えておこうか。
「アルトリアも紅蓮のこと好きなの?」
「いえ、愛しています。」
「えっどういう」
反応に困ってしまう...真面目な顔で愛してるなんて...
もしかしてすでに二人はできている?まさかそれが理由で私の告白を...
「誤解しないでほしい。私たちはまだそういった関係ではないのです。そして貴女からの申し出を留めたのには他に理由があります。」
「なんで知ってるのかな!?」
あとまだって何!?聞きたいことはあとからどんどん出てくる...
でも、ほかに理由って...
「...それは、彼に聞くと言い。この特異点から帰ったあとでなら、答えてくれるでしょう。」
なるほど。それまではずっと不安でいなければならないのか...
まぁ、待つと言ったのも私だ。言葉に責任は持たなければ。
モーツァルトとマリーは、話こそしていないけれど、でも。ピアノを弾いていた。ピアノを聴いていた。これもまた、二人の英霊としての在り方なのかもしれない。
ところであのピアノ誰が出した?
「いや、あったらいいかなと思って...」
「...なんでも作れるのね紅蓮。」
「このピアノすごいよ!僕の時代のものでは出せないくらいいい音が出てる!」
意外な才能を見つけたな...そのうち一軒家建ててそうだ。
そろそろ夜も更ける。皆が寝静まったころ、私は少し目が覚めた。
...普段はあまりこういうことがないので、知らず、私も精神的に疲れていたのだろう。
人影が見え、まだ起きている人物が誰か確認するため近づく。
「...なんだ紅蓮か。」
「なんだとは失礼だな...どうした、眠れないのか?」
そういう紅蓮も眠れないのか、尋ねると
「...まあな。やっぱり慣れない環境っていうのは、寝心地が悪い。」
「そうだよね。いつかは慣れなきゃなんだろうけど...」
同意の返事が返ってくる。少なくとも紅蓮は、私と似たような考え方をしているようだ。
...正直少し嬉しい。好きな人が自分と同じことを考えているというのは、こんなにも嬉しいことなのか。
今までなんとも思わなかったのに、いつからかな。気づいたら目で追って、気づいたら考えてて、いつの間にかずっと横にいたいと、思っていた。
なんとも言い難いが、うん。これもまた心地いい。
紅蓮は沈黙が嫌だったのか、もどかしそうに話題を振る。
「そういえばさ、お前。玉藻に何の魔術教わってたんだ?」
「なんか...回復?の魔術!」
紅蓮は驚くかと思ったが、少し考え事をして、
「
「え?何してるの!」
取り出したナイフのようなもので、紅蓮は自身の腕に傷をつけた。
いわく、どれほどの効果なのか見たいのだそう。
「馬鹿なんじゃないの?全く...いいけど、二度としないでね?」
「わかってるよ、ほら早く。」
「はぁ...」
えっと、魔力を流すときのイメージは...水道の蛇口だっけ?まぁそれでいいか。それを捻ったら勢いが増すのを思い浮かべろっていわれたし。
...よし、手の感覚が変になった。次に、自分の思う動きをすればいいんだよね。じゃあ、それっぽいので行こう!
「...え、もう
「それが何かはわからないけど、うん!」
紅蓮はため息交じりに、
「やるじゃん。これからもその調子でな。」
と、褒めてくれたし、次も促してくれた。
「でも、調子乗っていろんなことに手を出しすぎるなよ?」
と、釘も刺してきた。
肝に銘じます...
心配をかけるためにやるんじゃないもんね。
「...ほら、そろそろ寝ろよ。明日は早朝から行こうと思ってる。体力はできるだけ温存しとくんだな。」
「うん。紅蓮も、無理はしないでね。」
「あぁ、おやすみ。」
おやすみと、返事をして、私は寝ころび、目を閉じる。
...うん、今なら寝れる。近くに紅蓮がいるから。
――――――――
立香が眠ったのを確認し、少し周りを見渡す。
一人いない。暗いところなんで目が
探すか...
俺の張った結界とモルガンの張った結界の外側に出るというのは、サーヴァントにしてみればどうということもないのだろう。それでも心配なのに変わりはないのでこうして探すわけだが。
「...あら、あなたもこんな時間に散歩かしら。」
声がして、そちらの方へ近づく。確かにジャンヌオルタなら、ひとりでもどうということがなさすぎるな。
戦力として視れば、アルトリアよりも力になる。性格的には...あまり聖杯戦争には向かないだろう。それでもこういう、いろんな英霊に力を借りなければならない時だからこそ、ジャンヌオルタの存在は必要だろう。
「...ジャンヌ、誰もいないところに来て、俺を待っていた理由は、そうだな。種明かしは誰もいないときがよかったんだろ?」
「フッ、何を言い出すかと思えば。まぁ、あなたがそう思うならそうなんじゃないかしら?それでも、あなたの自信過剰な推理は的外れでしょうけどね。」
それで俺を煽ったつもりか。それは意味がない。煽りに関しては、中学の友達に鍛えられた。並大抵の煽りじゃ俺は動かない。
さて、探偵の職務は探偵に任せたいといえるほど、俺の推理力は低いわけではないので、淡々と語ることにしよう。
ジャンヌが、記憶を失っているという虚偽の進言をしたことについて、だな。
まず想定されることは、記憶が無いということで、自分に関する情報を提示しなくていいということを考慮し、言わなかったこと。もう一つは、自分の中にある記憶を相手に知られることで、自分が不利になる可能性があるということ。
そして、ジャンヌと関わったことでわかるのは、おそらく後者であろうということ。彼女は自分が不利になることを嫌う傾向がある。常に相手を見下した態度になってしまうのはそういう性格からだろう。もしくは、ただ素直になれないだけか。どちらにせよ他人に本心を語ることは滅多にないと考えよう。
そして、嘘の理由は、いつだって真実を裏に隠すためのものだ。真実。本人から語られるものほど信憑性のないものはなくなる。嘘をついたという前科があるからだ。しかし。
「それでも君の口からお聞かせ願おうか、ジャンヌ。」
「...仕方ないですね。驚き過ぎてうっかり...死なないでね?」
...その程度で死ねるのなら、喜んで命を差し出そう。もっとも、命は一つしかないが。
驚いた。確かにこれは、死んでもおかしくはない。
「なんていうと思ったか馬鹿聖女。」
「な、誰が馬鹿聖女よ!」
そこまで驚くことではない。少しは驚いたが、心臓は止まりもしない。あたりまえだ。
未来で結んだ契約の記憶を保持したままの召喚なんて、うん。ありえなくはない。
ここまで引っ張ったことはむしろ謝るべきだろう。
...誰に?まぁいいか。
ジャンヌが言うには、ほかのサーヴァントにも同様に記憶があるとのこと。そして、座にもおそらく俺との交流が記録されているらしい。
たくさんの英霊を呼べたのは、遠くない未来で俺が結んだ縁のおかげというわけか。
「それだけじゃありません。あなたがこれから先、関わる可能性があるというだけでも、召喚は成功できます。」
「可能性か...なるほど。」
俺がこれから先、出会うかもしれない、そして信じてもらえるかもしれない。それだけでも召喚がかなうということか。
それは...正直すごいな。聖遺物が無くても召喚ができるというだけで驚きのシステムフェイト。そこに加えて可能性で呼べる縁。
俺は一体前世でどんな善行を積んだんだろうか。
「...私の感情は知られていないわよね...?」
「何か言ったか、ジャンヌ?」
ジャンヌは首を横に振り、何もないといった。
...いやまあ難聴系主人公ではないのでばっちり聞こえてます。でも素直じゃないのは好きになれないので、彼女がはっきり言えたらそのときまた考えよう。
考えること山ほどあるな。
例えば立香についてなんだよな...
「...あんた、まだ決めてなかったの?」
「てことはお前の知ってる俺は決めれたのか...」
どうやらそういうことらしい。早く決めないと...
めんどくさいので、その問題は明日の俺に任せることにしよう。明日には明日のなんとやらだ。
今は明日に備えて寝よう。それがきっといいことだ。
「ほらジャンヌ、戻ろう。」
「えぇ。」
...自然に手を握らないで。恥ずかしい。
「クハハハハ!」
「帰れ。」
「共犯者よ。オレ達の召喚される理由を知ったようだな。」
勝手に夢の中入るのやめてもらえます?めっちゃ自然に人の夢入ってるけどさ...
巌窟王が俺の夢に入るのには、きっと理由があるだろう。闇から救い出す手を差し伸べる。彼はそういう性質だ。生前に助けてもらった経験が影響しているのもあるだろう。
「フッ、よくわかっているじゃないか。そんなお前に、アドバイスしてやろう。」
「頼む。正直どのことについて言ってくれるのかわからないけど。」
「愛は一つじゃない。」
...え、日本語でしかも自分の考え言っちゃう?ありがたいのに変わりないけど大丈夫かそれ。
「...オレは、かつて恋人であった者に裏切られた。そこに間違いはない。それでも、オレの物語が始まるまで。確かに彼女を愛していた。だからこそ愛は、一つじゃない。お前もお前なりの答えを見つけるのだな、共犯者よ。」
そういって、身を靄で隠し、闇へと消えていった。
確かに、エドモン・ダンテスとしての彼は、フェルナンという女性を愛していただろう。フェルナンもまた、彼を愛したとも。でも、それでも。
ちょっとしたきっかけで、愛とは憎しみへと変化する。憎しみはやがて、復讐心へとなる。でもそれは、裏を返せばそれほどまで興味を持ち、関心を持ち、気持ちの果ての行動をする。それもまた愛だと、彼は言っているのだろう...そうだよな?
でも、それなら一つではなく、一種類、でもよさそうだな。なぜ一つといったのかも考えることにしよう...あれ、余計考えること増やされた?
――――――――――――――――
朝が、来た。
サーヴァントとして、この地に呼ばれてから、こうして朝日を見れるとは思わなかった。
ちゃんとした休息を取り、万全の状態とまではいかなくとも、それなりに体調を整えられる環境とは、とても大事なことだと改めて知る。
体を起こし、伸びをする。目覚めの良い朝ではないが、朝日を浴びるのはとても気持ちがいい。私が子供のころに、野で走りまわっていたころを思い出す。
「あれ、おはようジャンヌ。まだ寝ててもよかったけど...」
「いえ、私は大丈夫です。」
いけない、人に心配をかけるなんて、私はまだまだ未熟であることの証拠だ。もっとしっかりしなければ。
「そこまで気を張る必要はないよ。ジャンヌはそのままでも十分しっかりしている。頼りにしてるさ。」
「あ、ありがとう、ございます...」
そこまで面と向かって真面目に褒められると、少し恥ずかしく思う。それでも、人の善意は素直に受け取ろう。その方が私のためになることもある。
他の面々も、徐々に起床を始める。最後の一人はグレンによって目覚めさせられた立香だった。
軽めの朝食(ワイバーンの肉。朝から食べるには少々つらかったので少しだけいただいた)をとり、少し休憩をはさんだ。
「...さて、そろそろ行こうか。」
「はい、先輩。予定通り、敵の根城をたたきましょう!」
...とうとう、
本音を言えば、怖い。あれは、私の派生からできた、気持ちの一端だから。それを何かはわからないけれど、わからないからこそ、知りたくないと思ってしまう。
「わからないことほど追求したくないか?自分のことならなおさら。」
「...そうでしょうか。私には、わかりません。」
「まぁジャンヌ。貴女は悩んでいるのね...でも、きっと大丈夫よ。」
グレン...マリー...
そんなことを言われてもなお、私にはやはり、知りたくないという気持ちがある。
そんな中でも、私のもう一つの感情は。
皆さんがいるから、未来へ果てしなく歩み続ける彼らがいるから、共に歩みたい。共に知っていきたい。共に美しい世界を、汚い世界も、知りたい。
「それでこそジャンヌよ!フランスを救ってくれた、私たちの聖女様!」
そんなやりとりを済ませた後。私たちは歩を進めた。
「...あの、もう一人の、私。」
「何よ。あまり話しかけないでくれる?生娘が移ります。」
グレンと共にきたというもう一人の
本当はもっとたくさんあるのですが、今は一つで十分です。
「あなたがグレンの元に召喚された理由は、彼を好きだからですか?」
「はぁっ!?なな、なにをバカな!これだから馬鹿聖女様は...!」
そんな動揺しなくても...
どうやら図星をついてしまったようだ。だったら、カルデアには、私もいるのでしょうか。
「...まさかアンタも...」
私は私を無視して、歩き続ける。後ろからは、燃やすという脅しが聞こえてくるが、それは彼女なりの照れ隠しだということを知っている。それに、今の私の顔は人に見せられるものではない。
生涯で初めて...すでに私は死んでいるのだから、生前から初めてといった方がいいだろうか。まぁどちらでも良い。私は、初めてのことで、それを自覚して。そんな顔を誰かに見せてしまっては、私が正気を保てない...
「ジャンヌ。貴女、いい顔しているわ。」
「マリー...その、言わないで...」
「あら、フフフ、ごめんなさい。でもね?同じ相手に恋するなら、敵だもの。」
ここまで堂々と告白めいたことをされると、益々彼の顔を見るのを憚られる。
というか彼女、なぜ...
「私は恋多き人間よ、ジャンヌ?」
「恐れ入ります...」
流石は、国をも愛した人だ、といったところか。私には、国を愛する気持ちが、あったでしょうか。
...あったの、でしょうね。私の霊基には、おそらく、深く刻まれている。でも、その自信が私にはない。愛していたものを、失ってしまったからでしょうか。
「...えぇ。そうね。失うことはとても、つらいことだわ。」
でもね、と、マリーはつづけた。
「本当に欲しいものだったなら、本当に愛しているなら、もう一度手に入れたらいいのよ。」
全ての愛を手に入れるのもいいかもしれないわね、と。彼女は語った。
流石にそこまでのことはできませんが、その通りかもしれません。いえ、その通りなのでしょう。私は今から、フランスというかつて愛したものを、正しいものにする。それはかつてのフランスを、取り戻すということ。
だから私はこの地に呼ばれた。
――――行きましょう。今度こそ、救うために。