Fate/Saver The fate~アルトリアが好きな少年が起こす人理修復の旅~ 作:空色 輝羅李
皆と一緒に、向こうのジャンヌオルタのいる場所へ向かうため歩く道中。
そういえばモーツァルトに、聞きたいことがあるなと思い、質問をする。
「なぁ。あのときどうして、ついてくるのを嫌がった?」
「あー...うん、いいとも、答えるさ。一瞬。本当に一瞬だけど、マリーが、その。一人で残って死ぬ記憶を見た気がしたんだ。それをもし、目の前で見たらさ、どうにかなるとおもったのさ。君だって、好きな人が目の前で死んだら耐えられないだろう?」
「それはそうだな...でもそれは、俺が信用できなかったということだろうか。」
「そういうわけじゃない。ただ、人間は好きなものを自分で選べる。だから僕もそうしただけだよ。」
なるほど。確かに一理ある。可能性が少しでもあるなら、それを排除しようとするのもまた人間だ。
「あの、質問よろしいでしょうか。」
と、俺たちの話を聞いていたマシュが、モーツァルトに質問をする。
「...私には、選ぶ、ということがわかりません。だって、好意を持つべきものは道徳的に正しいもので、否定するべきものは社会的に悪いものです。わたしはそう教わりました。そして、それが正しいと感じるのです。」
教わった...おそらく、教育的実験もされていたのだろう。カルデアの人間に都合の良い記憶を所持させるのが目的...というわけでもなさそうだな。機械的正しさを教えることに意味は果たして、あるのだろうか。
モーツァルトはマシュの話を聞き、マシュの正しいと思うものが何かを問う。
マシュは返答に詰まりながらも、多くの生命を救い、多くの生命を認めることと答えた。
その意見には賛成だが、それだけではどうしようもないかもしれない。
だって、抽象的だから。
「 大雑把だね。じゃあ仮に、紅蓮君がそういう人でなかったら?」
「それは...それもそれで、正しいのだと、思います。」
え、あの。勝手に俺を使わないでもらえますかクズ作家様。
「ほ~?それは、どうしてだい?」
「私は、先輩と過ごした期間はまだ短いですが、それでも、先輩の特性を知りました。悪意を許し、善意を促す。そんな人間だからこそ、たくさんのサーヴァントの皆さんは、先輩についていくのではないでしょうか。そしてそれは、同時に正しさの証明になると、私は考えます。」
「なるほどね...うん。なかなかいい答えだとおもうよ?でも、それすら正しいかどうかは、僕にはわからないけどね。」
自分が言い出したことに責任持てよ。
...マシュのいう、命を救う。命を認める。そういったものは、うん、とても難しい。だって、単に救助活動をすればいいというものではない。
急な隕石を防ぐためにどうすればいい?みんな知っている、ミサイルを打つ。でも、それは一人ではできない。ミサイルを作るために、多くの人の助けがいるし、そも、ミサイルの作り方を知らなければならない。
多くの命を救うには、多くの人が必要だ。だから、前提が間違っている。
多くの命に、認められることも必要なのだ。
正解なんて、誰も知りえない。選択なんて、失敗することも多いだろう。だって、最初からすべて正解できる問題は、楽しくないから。
さて、そんな変な話に付き合わされた俺たちだが、具体的な戦略を考えていなかったこともあったので、皆で話し合いながら動けるよう場所を整えた。
「...いいか、敵にはファブニールとかいう規格外ドラゴンと、狂化されているサーヴァントが複数、それから、ほかにも戦力が隠れている可能性もある。そんな中で、誰が誰と戦うかってことなんだが...」
「ファブニールは、俺に任せてくれ。」
「何言ってるの、私たちだけで十分よ。」
いやあの、神秘の差とかいう暴力は防御だけで使っていただきたいんですがモルガン様...
とにかく。
ファブニールはジークフリートに任せよう。他にゲオルギウスも挙手したから追加で。あとは竜つながりで清姫と、エリザベートも。あぁ、アルトリアも確か、竜の因子があったな、追加だ。
...過剰戦力だし、正直あまり考えなくても勝てるけど。
「玉藻と、マシュ、それからジャンヌとジャンヌオルタ。四人が打倒ジャンヌ組としようか。」
「そうですね。私は、自分のことは自分でなんとかしたいと考えています。その方がありがたい配役ですので、謹んでお受けします。」
「...過去の自分を殺すのって、なんだか気が引けるわね...」
「ふっふっふ、私の手にかかればサーヴァントなぞ...」
「不肖マシュ、先輩とマスターを全力でお守りします!」
突っ込みは無し、と。ボケたんだけどなぁ...
立香もなんだか、馬鹿にするように笑ってるし。全く...
マリーとモーツァルトは、できれば戦闘要員にしたくはないが、もし俺が対応できないようなサーヴァントが現れたら対峙するよう頼んだ。
とまぁ、そんな話をしているうちにも、俺たちの目的地であるオルレアンには、近づきつつある。そのせいか、ワイバーンを多く目撃する。
「...はぁ、つまらないわ。ティーテン、ティートン。シターンでも聴かせてくれないかしら。」
「喜んで、お姉さま!」
「謹んで、お姉さま!」
...ワイバーンがいるというのに。九人がいるだけで何も近づいてこようとしない。そんなものなのか神秘よ...
「まずい、サーヴァントの反応だ!君たちの方へ真っ直ぐ向かっている!」
「ここでけしかけてくるのか...よし、俺が行こう。」
「グレン、ここは私が...」
と、いいかけるアルトリアの口をふさぐ。
...だってこの後俺戦わないもん。戦わせろよ!
「 ...殺してやる...殺してやるぞ!誰も彼も、この矢の前で散るがいい!」
「おぉ...ここまで強い狂化をかけられるとは...」
「おそらく、本来狂化を受けるような...
本当に?見た感じアタランテだし、アタランテのバーサーカーっていたような...あぁ、バーサーカーといっても、あれは宝具だったか。それに、ここにいるアタランテはオルタではないようだし。
じゃなくて。
「楽にしてやる。せめてこの地での記憶を失ってくれ、アタランテ。」
彼女は、走る。最速の名はだてではなく、文字通りに速い。魔術でなんとか目視しているが、このまま見続ければ、目と脳、どちらかが焼けてしまうだろう。情報の処理が追い付かず、許容できる以上の情報を受け取り続ければ、パンクする。
...それまでにケリをつけろってか?骨が折れるなぁ...
アタランテ。ギリシャ神話に登場する女性英雄で、優れた女狩人である。アルゴナウタイのひとりだ。出生とかの説明は省くが、彼女はいわゆるアルゴナウタイとしての旅を終えて帰還し、数々の伝説..逸話?を残した。まず、アキレウスの父親ペーレウスとの競争で勝利。カリュドーンなる魔猪の討伐。そして最後に...キュベレーの神域で旦那と性行為。そののちライオンに姿をかえられたというのが通説らしい。やべーよな。うん。
そんな彼女は、アルテミスの加護を持つ。つまり、生半可な攻撃は通じない。
...まいったな。近距離武器以外は本当に扱えないぞ...かといって近接をしかけようとしても、彼女は弓の名手。迂闊に近づけない。
とにかく、距離を詰めたい。足が速いこともあり、その場から離れられることも考えると、一撃で仕留められるほど近付かなければ。
こちらに幾度となく飛んでくる矢は、今のところ手持ちにある剣で撃ち落とせるが、このままではよくない。
「いいものをくれてやる、リンゴだ!食え!」
そう。リンゴ。林檎でもいい。
生涯の純潔の誓いをたてたアタランテが、なぜ結婚したのか。それは、競争で負けたからだ。なら、その男はアタランテより速かったのか。否。ただ単純に、アフロディーテに祈りをささげた男が、黄金のリンゴを受け取った。そのリンゴをうまく使い、競争に勝った。
その性質は、裏切らない。
サーヴァントというのは、生前の記録が信じられれば信じられるほど、効果が強くなる。それはマイナスのことでもだ。だからこそ、聖杯戦争では真名を隠すのだが...
うん、リンゴ目掛けて走ってる。かわいそうなことしたかもな...でも。
「捕まえた。」
「...そうか。あぁ、それでいい。まったく、厄介でどうしようもなく損な役回りだった。行け、そしてあの竜を倒せ。ああ、私も次こそは...」
えっこれ殺さなきゃだめか...ならせめて、魔力をなくすということで退去してもらおう。
「サーヴァントの反応消失!それと同時に、極大な生命反応だ!これは...オルレアンからファブニールが出発したようだ!」
いよいよ、か。
それぞれが事前に決めておいた配置につく。
多くの竜が空に飛んでいるのを確認し、動く。
飛翔しているワイバーンに向かって笑うのは九人。それだけで十分牽制できるからおもしろい。それらを着実に倒していくのは清姫達。ファブニールにたどり着くまでの道を作っているんだな。
「こんにちわ、
「...いいえ。私は残骸でもないし、そもそも貴女でもありませんよ、
大ボスの登場のようだ。
とりあえず、介入することはやめておこう。俺の出る幕はない。
立香は念のためマシュの近くにいるよう言っておいたので、安全だろう。
...俺も戦いたいなぁ。
遠くから大きな爆撃音がする。よく見るとフランスの兵と、それを率いるジルの姿がある。
なるほど、百年戦争をもう一度しようというわけか。
両者がつぶれるというのは避けたい。しかし彼らは生きたこの時代の人間。死ぬはずじゃなかった人間を死なすわけにもいかないし...
よし。
「アルトリアとゲオルギウスはフランス兵の近くにワイバーンを近づけるな!それ以外はジークフリートをファブニールに到達させることを最優先に動け!」
「「「「「「了解!」」」」」」
複数人から返事が聞こえた。多分ジャンヌ×3以外の全員は返事してくれただろう。遠いのと声が混ざってるのとで、確認を取れなかったが、ここから全員を視認できる以上、問題はないだろう。
...退屈だな。ジャンヌ達の近くに行くか。
「行かせるわけにはいかないかな。」
「...デオン。それに、ヴラドも。」
「貴公の血、私が頂こう。」
厄介だ。とても、厄介で困った。 サーヴァントを一体ならまだしも、二体とは。
しかし無様に命乞いをするわけにもいかない。向こうではサンソンがいるようだ。
...終わったというのは、話し合いが、だったんだな。マリー。
こうして考えている間にも、二体のサーヴァントは俺との間合いを詰めている。
俺にできるのは時間稼ぎ程度だろうか。
いや、倒してみるか。
いつも通り、というにはまだ場数が足りないが、刻印に魔力を流し、
なんで生身の人間にも容赦ないのかなぁ!?
...手加減されてたらそれはそれで怒り心頭な訳だが。
しかして、そろそろこいつらの本領発揮されたらまずいかもしれない...
「そろそろ終わりにしよう...血に塗れた我が人生をここに捧げようぞ『
「せめてもの餞だ...王家の百合よ、永遠なれ『
「まままままままずいぞ紅蓮君!?な、なんとかしてその場から...!」
「うるせえドルオタ拗らせ天才医!!」
「ひどい言い様だね!?微妙に褒められてるけど貶されてるからあまり変わらないよ!!」
とはいいつつ、どうすればいいのか考えるために時間を遮断するので手一杯だ。
...このまま逃げればいいと思うだろう。でもできない。なぜか。
俺が動けば周りも動き出す。この欠陥結界の性質だ...術者が止まるから時が止まる。単純で扱いやすい反面、危機的状況から脱出できるというものではない。
転移をこのまますればいいとも思うだろうが、それも却下だ。結局は動かなければいけないんだから。
一体どうしたものか...
動かずに盾を作ればいいのか。だったら、元からあるものに頼ろう。
―――――――――
私の周りでは今、マシュ、玉藻、清姫が、ジークフリートが大きな竜にたどり着くまでの道を作っている。
清姫と呼ぶことをためらうような姿だが、それでも恰好いいと思うので、良しとしよう。
竜を見てテンションが上がるとは...今までの人生ならば、考えられなかったな。
「リツカ、ぼうっとしていないで、マシュから離れないようにしなさい。」
同じような指摘をされたことがあるので、私はやはりマシュの後ろにへばりつく。
ごめんよこんな頼りなくて...
事態は混戦を極める。
たくさんの竜に砲撃を続けるフランス軍。
それらを回避し、兵に近づこうとするワイバーンを倒すゲオルギウスとアルトリア。
ファブニールの守りをしているであろうワイバーンは、だんだん減ってきているが、それでも視覚的に多いというのは相違ない。
劣勢か、といわれれば、戦に慣れてない私はイエスと答える。
サーヴァントと呼ばれる存在の多くは、この状況でも怖気付くことなく、立ち向かっている。これを劣勢と、はっきり言うことは少し...お門違いかもしれない。
紅蓮は無茶をしているのか心配をかけまいとしているのか、一人でサーヴァント二人を相手にしている。
...これは明らかに劣勢だろう、モニターで叫ぶロマンの声が聞こえてくるほどだ。
しかし、こちらにいるサーヴァントは、誰も手を離せない。どうしようもないといえるだろう。
...紅蓮なら、なんとかする、そういう不思議な確信が、私にはある。
少し、目が合った。そして、三人の動きが止まった。
...ように見えている、ではなく、止まっているのだ。
周囲の草は舞い上がっている。そこで、固定されているように。
無理な体勢というような仰け反り方を、これはパフォーマンスだと言われれば納得するが、いくら馬鹿な人間でも命の危機に瀕している状況では行わないだろう。
そして、頭に一つの単語が、思い浮かんだ。
―――令呪?
さて、これ以上に状況を整理しなければならない。私はこの状況が初めてで幾分かの緊張と恐怖に蝕まれているというのに、まともな思考をしなければ、この状況を打破できないのだ。
一つ。令呪と言う単語が、急に頭によぎった。おそらく紅蓮が送ったメッセージか。紅蓮の声だったし。
二つ。あと少しで紅蓮は死ぬ状況ともいえる...これを冷静に語れる以上、私の精神は少しバグった、といえるかもしれない。
三つ。なにか守れるものが、あの間に必要となるだろうということ。そうでなくとも、外的要因によってやっと、紅蓮はあの状況から脱することができる。
ならばすることは一つか。
「マシュ!令呪をもって命ずる!紅蓮を守って!!」
すると、マシュは
そして、あたかも最初からそこにいたというように、向こうで紅蓮と共に、戦闘している。
...どういうことだろう。私にはまだ脳が追いつかない。
そして私を守る存在がいなくなったということにいち早く気づいてくれたのはアルトリアだったので、今度はアルトリアの背中にへばりつかせてもらうことになった。
「リツカ。貴女の判断はおそらく、正解の一つだったでしょう。あの状況でよく、判断ができましたね。」
「ありがとうアルトリア。でも、他の選択肢はわからないかな...」
今はそれでいいと、彼女は微笑みながら言う。
わたしにはわからない何かを、彼女はいくつも知っているということはわかった。無知の知、とは違うけど、まぁ。わからないということを知る、というのも大事だね。
―――――――――
戦況は一変した。
目の前に現れた盾を持つ少女、マシュのおかげだ。
正確には、立香の令呪で
「先輩、指示を!」
「ちょっとした準備がしたい。時間稼ぎを頼めるか?」
はい!と、元気のいい返事をいただいたと同時に、さっそくとりかかる。
少しだけ話をして、俺は思い切り走り出す。
「させるか!」
と、宝具を受け止められたにも拘わらず、それでも俺の動きを止めに来るデオン。伊達に狂化されてないな。しかし、俺の走る軌道上で邪魔はできない。
「はぁ!」
「くっ!」
しっかりマシュが弾き飛ばしてくれる。
ヴラドが投げ飛ばした槍も、盾で防いだ。
俺が今していることは簡単なことだ。
足の裏に発火のルーンと複製魔術、その二つを混ぜた術式を描き、それを踏んだ地面に刻みこんでいるだけ。
たかが発火、されど発火。できないことはあんまりない。ごめん、結構ある。
そんなことはどうでもいい!走れ俺!
「マシュ、ありがとう!あとは任せろ!」
マシュが離れる。こちらをチラチラと見ながら、立香の元へ駆ける。心配してくれるのはいいのだが、こけそうになるなら前を見てくれ。
俺めがけてしっかり走ってくれる二体のサーヴァントに照準を合わせる。指先に魔力を集中させ、この間カルデアの車両に打ったものと同等の威力で、いや、それ以上で、ガンドを放つ。
「さよならの時間だ、ガンド!」
以外にもちゃんと足止めできた。まさかサーヴァント相手にちゃんと拘束魔法として機能できるとは...これからも使えるな。じゃなくて。
準備していた魔術を起動させる。デオンとヴラドの足元からは、炎が吹き荒れた。
加えてガンドで身動きが取れない状況。これ以上にチャンスはない。
「聖剣解放、神剣流転。大地を引き裂け。星を打ち砕け。伝説の始まり。世界の終わり。導くは道化。もたらすは安寧。定める崩壊。破られる規則。どれもただ、斬り開く。
――――――――
どうやら遠くで、彼が無茶をしたようですね。
二つの剣から極大な魔力を放つ。魔術師としてはありえない戦闘能力ね...
このときの私の反応も、私が経験したからこそ、知っています。
「な、馬鹿な!あんなの、普通の人間ができる芸当じゃ...!」
「はぁ。アンタ、目の前のこと処理しなさい?じゃなきゃ、死ぬわよ。」
睨まれる。当然である。自分と似た姿の人物がいきなり現れたかと思えば、味方するでもなく、まして敵対するなんて...えぇ。私がもし向こうの私だったなら、燃やすわね。
あぁ、これが自分の黒歴史を覗き見る気持ちなのでしょうか。ここまで自分を恥ずかしく思ったことがかつてあったか、いえ。ないわ。強いていうなら今この瞬間です。
...あぁもう、イラつき過ぎて全部燃やしてやりたいわ。
...この時の私は、もうすぐでジルに連れていかれる。それをわかって、それでも挑発に乗って、戦いを続けた。
全く目を当てられない。このまま燃やしてしまいたいとさえ思う。
...しかし、それではいけない。恥ずかしい思いをしてでも、彼の中に生まなくてはいけない感情があるから。
私が影響で生まれたのは喜ばしい。しかし、それを
早く終わらないかしら。
「お戻りあれ、ジャンヌ!」
「ジル!」
「...ジル?」
あーはいはいこのシーンね知ってる知ってる...白い私が戸惑うのも知ってるし、向こうの私が少し正気に戻るのも知ってる。
「まずはこの監獄城に帰還を!態勢を立て直すところから始めましょう。」
「させるか!!」
「遅い!」
しまったつい本音が...
少し場の緊張の糸が弾けた。今ならジル目掛けて...
「燃えなさい!」
「こ、これは...!あぁ、まさしく聖女の炎!ですが、なぜ聖女が...三人も。」
――――――――
正直に告白しよう。
俺はあのとき、どうやって邪竜を打ち滅ぼしたかわからない。
わからない理由を俺は知っている。いくつもの策を講じ、いくつもの試練を乗り越え、いくつもの可能性の中から、成功と言う一つの光をつかみ取ったにすぎない。
そう。必死過ぎて覚えていないのだ。
...今のこの状況なら、できると踏んでいる。いくつもの戦意が渦巻き、それぞれが目的達成のために必死になっている。
そしてここに、俺がいる。
時代が変わろうと、世界が終ろうと、あいつと俺が同時に存在するのなら、夢物語だったとしても、結果は変わらない。
「黄金の夢から醒め、揺籃から解き放たれよ。邪竜、滅ぶべし!
...これで俺の役目も終わり、か。
カルデアの少年...彼もまた面白い存在だった。目の前のことを的確に処理し、起こりえることを想定して対処する。
ふ、また機会があれば、彼と共に戦おう。彼の前に現れる邪竜は、俺が討つ。
――――――――
不可解な点があった。それが気になって、正直考えすぎたかもしれないほどに。
それはたった一つ。彼女の生まれた理由だ。
...予想としては復讐と言う単語から、処刑されたときの感情から生まれたのではというものだ。それなら炎を使うのもなかなか興味深いものといえる。
「なぜ私の邪魔をする!?私の世界に土足で踏み込み、あらゆるものを踏みにじり、あまつさえジャンヌダルクを殺そうとするなど!」
「その点について、私は一つの質問があります。彼女は本当に、私なのでしょうか。」
今更じゃないかそれ。彼女は間違いなく君だよ...
「...そう、ですね。でも、それなら、彼女にするべき質問があります。貴女は、家族の記憶がありますか?」
「...!それが、それがどうした!」
なるほど。牧歌的な暮らしをし続けたジャンヌという存在には、田舎で暮らしてきたときの記憶が多い。なら、それがジャンヌというサーヴァントの証明になる。その問いは確かに適している。それでも、記憶の有無はあまり関係ない。なにがあろうと、彼女の中にあるジャンヌという根幹は、揺るがないのだから。
「く、紅蓮君、こんな時になんだが、奥の方から大量のサーヴァント反応だ。」
「は?どういうことだ...もしかして、ジル!お前...」
「おぉ!私の術式はついに満たされたのでしょう!」
「...この程度なら、量産できるわ。お前ら、屠れ!」
おいおいそりゃねーぜ。これは...冬木にもいたシャドウサーヴァントというやつか。
でも、この程度の数ならガンドでいいか。
「...なんてこと。全員うごきなさい!マスターの命令ですよ!?」
「動けないんだからなぁ...それともなんだ、令呪でもつかって動かすか?」
殺すと言わんばかりに睨まれる。
「今度こそ決着の刻です!」
「黙れ!ならば勝負だ。絶望が勝つか、希望が勝つか!」
「そこまでだ。二人とも、その必要はない。」
間に入る。この威圧感。今にも押しつぶされて燃やされそうだが、それでも俺は、口を開かなければならない。俺はどうも、争いごとを見るのは嫌いらしい。どうしてかな、こんなにもするのは楽しいのに。
「...ジャンヌ。時代を超え、新たにこのフランスに顕現した、別側面なる君、どうか聞いてくれ。俺たちカルデアは、俺は、この特異点を、この時代を、なにより君を否定しに来たんじゃない。受け入れるためにここにいるんだ。これは一つの在り方で、可能性で、君が望んだ
「...戯言を。そうして、貴方もまた裏切るのでしょう?」
「その時はどうか、遠慮なく燃やしてくれ。それなら安心だろ?そのあとは何したってかまわない。世界を全て火の海にしても、誰も君を止めないさ。」
「...そう。あなた、馬鹿なのね?いい、いいわ。私をその気にさせたんだもの。地獄の果てまで、付き合ってもらうわよ?」
「いいよ。君がそれを望むなら、世界の果てまでもね。」
「いけません、ジャンヌ!!」
「...うるせえ、イカれた道化師。あぁ、この場で最もふさわしい
――――――――――
私たちカルデア一行は、無事に聖杯を獲得し、帰還する。
何があったのかは、彼が教えてくれたので、私の口から語ることにしよう...
まず。あの時いたジャンヌオルタ。彼女はジルが生み出した、ありえない存在だったということ。
聖杯に一度、聖女であるジャンヌをよみがえらせることを願った。しかし、聖杯は、万能の願望器はそれを拒否した。
それに怒りを覚えたジルは、それならば創造するしかないと、自分の思う聖女を造り出した。
それを聞いた白い彼女...ジャンヌダルクは、
「貴方が私をよみがえらせたとしても、竜の魔女にはなりませんでした。」
と言った。
無念の最後だったかもしれない。それでも。祖国を憎むことはできない。そこに彼...ジルがいたから。
それでも、彼女が憎まなかったとしても、ジルはこの国を憎んでしまった。
神が許しても、人々がゆるしても、聖女が例え許しても、ジルが許さなかった。
だからこそ、紅蓮はそれさえ許しながら、燃やした。
...燃やしたって簡単に言うけど結構なことしてるよね。
それでまぁ、うまいこと聖杯を獲得して、皆で合流して。そのあとのことは私もいたので、ここからはその時のことを思い出しながらでも。
「お疲れ様、ジャンヌ。」
「ありがとうございます。手助けいただき、ありがとうございました。」
こちらとしては助けたというつもりはない。むしろ助けてもらってばかりだった。
マリーやモーツァルト、ジャンヌなど、現地で召喚されたサーヴァントは、退去の光を放つ。
「リツカ、素敵な旅を共にできてとても楽しかったわ!またご一緒できる機会があれば、そのときはまたお話をお聞かせ願えるかしら?」
「もちろん、マリーちゃん。私も楽しかったよ!」
「マシュ。君は、君の正しいと思うことを見つけるんだ。きっとそれが、美しい音を出せるきっかけになると思うよ。」
「はい、考えておきます。アマデウスさん。」
そして、二人はともに消えていった。本当に仲良しだな。
「あぁ、旦那様。わあたくし、さみしいです。」
「どうせ会えるので大丈夫です...カルデアにちゃんといらっしゃるので...」
「子犬!また会ったら、とびっきりの歌を聞かせてあげるわ!」
「遠慮する。俺の耳を壊す気か?そうだな...練習なら付き合ってやるさ。」
二人のちいさな竜もまた、退去の光に包まれた。犬猿ではないが、それに等しい二人だった。
「すまない...最後まで一緒にいれなくてすまない...」
「そればっかりだなお前。いいけどさ。まあでも、ファブニール絡みの時は、頼りにするぜ。」
「私は、私の役目を終えた、のでしょうね。ありがとうございました。皆さんのご活躍、忘れることは決して。」
「あはは、そんなたいそうなことはしてないけどね。ジョージおじさんまたね!」
笑顔で消えた...二人とも竜殺しの人には見えないんだよなぁ...
「...私は、特に言うことはありません。さようなら。」
「お、おう...じゃあな、ジャンヌオルタ。」
「グレン、今回の一軒は、本当に感謝しています。もし、貴方に私が必要なときがあれば、いつでも呼んでください。いつでも力になりますから。」
「あぁ、ありがとうジャンヌ。もちろん君のことも頼りにしている。そんときはまた、よろしくな。」
片方のジャンヌはぎこちなく、片方のジャンヌは満ち足りて、退去を終える。
なぜだろう。一回の特異点で、敵がものすごく増えた気がする。味方になってくれるつもりの人が多いはずなのに。
...まぁ、でも。
「私たちが、世界を救うんだね。」
「今更だな。そこまで大層に考える必要もないと思うが。」
「いや、二人ともすごいよ。慣れない環境だったのに、適した対処をして、作戦もそうだ。うん。君たちはすごいんだ。もっと誇っていいよ。」
ロマンがなぜかべた褒めしてくるが、悪い気はしない。
...先ほどからジャンヌオルタと紅蓮は気まずそうにしているが...まぁ放っておこう。アルトリアもなんか笑顔で怒ってるし。玉藻はあきれてるっぽいかな。
...そんなわけで、私たちは一つ目の特異点、オルレアンを無事救えた。
これからさき、こんなにも大変なことが、いや、これ以上に大変なことが待っているかと思うと、少し怖い。でも。
同じくらいに、楽しいこともあるって思うと、私はウキウキしてならない。こんなことを考えるのは不謹慎かもしれないが、この程度浮かれることは許してもらいたい。
...そんなことを思案しているうちに、意識は遠のいていく。おそらくレイシフトを始めたのだろう。
よし。
明日も頑張ろう。