木偶に息   作:百合に 

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傀儡使い達の噺なので、これはあくまで番外です。
短い。



閑話
父と子


「ォエッ……!」

 

 吐いて、吐いて、吐いて。胃の中身が空になって尚、カンクロウは吐いた。生理的に受け入れられない香りが幾つも混じり合い、もう訳がわからなかった。

 

「おやじ、」

 

 カンクロウが見たこともない、気が抜けたようなあの笑顔。或いは彼の人が生きていたなら、父は未だそんな人であったかもしれない。

 

 後悔すると分かっていたのに。言い訳をつけて、オレはまだあの人を尊敬している。父の師を殺し、その亡骸を辱めた人を、ああ、あれはなんて素晴らしい傀儡だっただろう。

 

「ごめんなさい」

 

 謝らなければ。冗談でなく殺されるかもしれない。それでも。

 

 

 

 

 

 風影塔からは、更に人が少なくなっていた。第四倉庫のあまりに凄惨な有様に、調査や片付けの為の人員が送られているのだ。

 

 どう駄々を捏ねたのか、カンクロウは父と二人きりだった。執務用の机を挟み、椅子に座った無言の父。カンクロウは辿々しく口を開く。

 

 脱走していたこと。

 第四倉庫に潜り込んだこと。

 青年に出会ったこと。

 青年が怪しいと思っていたのに、それを告げなかったこと。

 青年が作り上げた人傀儡のこと。

 ……カンクロウがそれを、この上なく美しいと思ってしまったこと。

 

「そうか」

 

 父の言葉は無感情だった。カンクロウはギュウと手を握り締め、カタカタと震えながら目を瞑る。

 

 父の怒りでもサソリの所業でもなく、カンクロウは己の欲望が恐ろしかった。犯した罪の重さに、世界がひっくり返るような心地がした。

 カンクロウは、きっと誰かに罰して欲しかった。

 

「…………」

 

 ……衣擦れの音。次いで、乾いた足音がした。父は何も言わない。足音が止まる。

 

 カンクロウは恐る恐る目を開けた。……目の前に、父が立っていた。

 

「カンクロウ」

 

「ぇ……」

 

 ゴシと、髪がかき混ぜられる。頭を撫でられた、と認識するまでに、カンクロウは暫しの時間を要した。

 

 なんで。どうして。なにが。ただひたすらに、困惑する。

 

「……罪は消えない。贖うことしか出来ない。……カンクロウ」

 

 頭を撫でる腕に遮られて、父の表情は伺えない。ただ、父の声には怒りはなく、寧ろそれとは真逆の慈しみのようなものさえ介在していた。

 

「里に尽くせ」

 

「おやじ、」

 

 ああ、この人は。カンクロウは直感的に感じ取る。

 

 この人はもう、止まれないのだ。ずっとずっと後悔をして、だから里に尽くせと、己自身にも言い聞かせているのだ。

 

 グ、と肩を抱き寄せられる。カンクロウはされるがままに、ぎこちなく体を縮込めた。

 

 がっしりとした父の手は子供のように震えていて、まるで赦しを乞うているようだ。

 妻は死んだ。師も死んだ。義弟は遠ざけてしまった。そんな父の罪を叱ってくれる人は、もう誰もいない。叱られたいのは、きっと父の方なのだ。

 

 姉は、この手に撫でられたことはないだろう。弟は、この腕に抱かれたことはないだろう。

 そんな日は来ない。父はきっと、それを己に許さない。

 泣けないくらいに苦しくて、カンクロウは唇を戦慄かせた。

 

「おやじ」

 

 掠れた声で、カンクロウは言った。贖わなければと、心からそう思った。

 

「里に、尽くすよ………」

 

 子供のカンクロウには、難しいことは何も分からない。けれども二度とされないだろうその抱擁が、漠然と哀しくなった。

 カンクロウは生まれて初めて、父がどうしようもなく愛しくなった。

 

 

 

 

 三代目風影が死亡したことが通達され、父・羅砂は正式に四代目を襲名した。

 

 三代目殺しの『容疑』がかかった凶悪犯罪者【赤砂のサソリ】は、己が傀儡のみで小国を落としたことで、S級犯罪者へと繰り上がり。

 

 夜叉丸が死んだのは、それから程なくしてのこと。カンクロウが我愛羅の世話役を命じられたのも、その時のことだった。




続!

案外かけるっぽいのでもうちと書く。やりたいことあるので、カンクロウちょっと強化です。

エドテンは分からんけど……

どうしよ…少年編は書くべきか…?
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